ナタリー PowerPush - MiChi
1stフルアルバム「UP TO YOU」完成 ポジティブに世界を変えるポップな魔法
ただのフィーチャリングではなく一緒に作り上げたかった
──このアルバムの大きなポイントとして、ボーカル曲を始めとした他のアーティストとの共演があると思います。まずは椎名林檎さんとの「MY FOOLISH HEART ~crazy on earth~ × 椎名林檎」ができた経緯について教えてください。
社長 林檎さんとは以前から常に密に関係を作ってきていて、彼女も僕らのやりたいこととか6人のキャラクターを充分に理解してくれていて。「カリソメ乙女」で初めて一緒に録音して、この間も僕らが林檎さんのアルバムに2曲参加したという流れもあったし。だから僕らの中で、今後ボーカリストを入れることがあるならば、その1曲目は間違いなく椎名林檎だという話は昔からずっとしていたんです。「PLANET PIMP」までひたすら6人でできることを追求してきたんですが、ここに来て今がそのタイミングじゃないかなって。そこで「MY FOOLISH HEART ~crazy on earth~」という林檎さんに歌ってもらいたい曲もできて、今回の共作に至りました。
──林檎さんにしか歌えない、ハイレベルな楽曲ですよね。
社長 もともとインストの「MY FOOLISH HEART ~crazy in mind~」が先にできていて、丈青が作った段階で林檎さんに歌ってもらえたらいいなというイメージはあったんです。元晴のサックスのソロのラインが美しいから、それを歌メロの主旋律にしたらすごくいいんじゃないかというアイデアが出て。林檎さんのスキルだったら間違いなくそれを歌えるということで、この曲を提案したんです。
秋田 まさに真剣勝負ですよね。林檎さんに歌ってもらうときに、この構成をどうしようかと3回リハーサルスタジオに入りましたから。最初僕らから「こういう感じはどう?」って持っていったんですけど、林檎さんも自分のアイデアがあって逆に「こういうのはどう?」って提案してくれて。
社長 ただのフィーチャリングはイヤだった。やはり一緒に作り上げたかったから。林檎さんは曲がどんどんブラッシュアップしていく過程で、ものすごく僕らを引っ張ってくれたんですよ。最初から十分にかっこよかったんだけれど「もっと良くなるから」ってもう一度スタジオに入って。やっぱり生半可な気持ちでぶつかれないところがある。だから今回のアルバムはタイトルこそ「6」だけれど、1曲目を「SEVEN」としたのは、そういうプラスワンが僕らに力を加えてくれたという気持ちがすごく大きいからなんです。
──SOILにとってのコラボレーションの意味合いが変わってきたということなんでしょうか?
社長 ジェイミー・カラムにしても、彼が来日したときにライブに招待してくれたのが最初の出会いだったんだけど、その後ロンドンで一緒にBBCのイベントで共演したんです。そのときのセッションがすごく強烈に印象に残っていて。その翌年に東京で再び共演したときに演奏したときにやることになったのが、この「STOLEN MOMENTS」で、そのときにジェイミーが歌うことをイメージしてアレンジしたものなんです。ジェイミーとリハーサルを繰り返しながらアレンジを詰めて。彼もすごく気に入ってくれて「録ろうぜ」って言ってくれた。そういう過程があるから、記録に残したんです。
──コラボレーションをする必然がある人と、じっくり時間をかけて関係性を築いていっているんですね。
社長 DJKENTAROくんについても同じで。彼は間違いなく世界に誇るDJだとリスペクトしていて、以前から同じイベントに出たりして交流はあったんだけれど、今回このイントロを作るにあたって、サウンドコラージュをしてもらうなら、彼しかいないでしょうと。僕たちが何をやりたいかを理解してくれて、ほぼおまかせであれを仕上げてくれたんです。
クラブカルチャーは僕らの一部として常にある
──「MIRROR BOY」や「QUARTZ AND CHRONOMETER」は、ダンスミュージックのビート感が色濃いですよね。もちろんこれまでもそうした要素はあったと思うんですが、よりそれが強調されている印象があります。
社長 「MIRROR BOY」は僕のイメージがほぼ具現化できた曲なんです。最近DJでディスコやブギーやファンクを好んでかけてるんですが、そういうハッピーな世界観のものを僕らがやったらどうなるんだろうって思って。だから今までのSOILに比べたら構成もすごくシンプルだし、ライブでもオーディエンスがすごく踊ってくれる曲になってます。
──「QUARTZ AND CHRONOMETER」はどうですか?
社長 この曲は、最初はすごくテンポの速いジャズから始まるんだけれど、だんだんシンセの音が増えて機械の音に浸食されていって、最終的に全く違う曲になるようなイメージでした。アレンジにはメンバー全員のアイデアが入っているんです。シンセベースの音を入れたり、途中のラテンなピアノソロだったり。
──トランス感も感じられる、めくるめく展開になっていますよね。
社長 出来上がりの印象は新しいんだけれど、やっている内容は極めて本来のSOILに近いと思うんです。純粋にホーンの迫力とグルーヴ感で引っ張っていくというスタイルがベースにあるので。それに加えて、空間への意識とかシンセの音の使い方が新しかったと思う。今の6人の状態を一番明確に表している曲かもしれないですね、っていうのはちょっと言いすぎかな(笑)。
──では、ここにきてクラブミュージックへの興味がことさら強まってきたというわけではないと。
社長 意識しなくても、クラブカルチャーというのは僕らの一部として常にあるものですからね。
秋田 僕はどの曲もダンスミュージックだと思って演奏してるわけではないんですよ。ただダンスできるかっこいい音楽を演奏しているだけで。
社長 そうだね、それが結果的にダンスミュージックとして機能しているということかもしれない。
──今回の「6」は、SOILの音の凶暴さのなかに、楽曲のキャラクターの強さが加わってメリハリが強まっていて。それは解りやすさ、と言ってもいいのかもしれませんが、SOILの音楽性をよりダイレクトに堪能できる作品だと思います。
社長 そう聴いてもらえたらうれしいですね。
──さらに80年代ニューウェーブの古典であり、ダンスクラシックでもあるPIGBAGの「PAPA'S GOT A BRAND NEW PIGBAG」のカバーも見事にSOILのカラーにはまっていますね。
社長 これも実はプラスワンの曲で、「この曲をやったら?」と提案してくれたのはジャイルス・ピーターソンなんです。最初はあまりピンとこなかったんだけれど、たまたま昔一緒にイベントをやっていたCHAKIがやっているTHE LOWBROWSが同じこの曲をカバーすることになって、タブゾンビと元晴に参加のオファーがあったという偶然があるんです。そんなふうに、自分たち以外のところでこの曲にSOILの持っている要素を感じてくれている人がいたということを知って。THE LOWBROWSのバージョンもすごくかっこよかったので、元晴がそれにヤラれて、すぐに我々なりのアレンジを考えてきた。もともとあの曲ってちょっとヘタクソでいなたい感じが良かったりするじゃないですか。それであの雰囲気をどう料理するかと悩んだときに、よりジャジーでより攻めてるアレンジが出てきたんです。
自分たち6人だけでやっているという感じはない
──現在のSOILは、外からの意見も取り込んで自分たちのものにできる、そういう自信が強まっているんでしょうか?
社長 うーん、どうなんだろうな。別に今までが周りの意見に聞く耳持たなかったということではなかったんですけれど。
秋田 もともと最初の頃から、いろんな人の影響というのは受けていると思うんですよ。cro-magnonや犬式といったバンドと一緒にやってきて、彼らに感化されて俺らももっとがんばらなきゃってやってきたところもあるし。だからもともとプラスワンがあったのかもしれない。
社長 バンドが成長していく過程は、自分たちの力だけでは作れないですからね。同じ志を持つ仲間たちや、サポートしてくれるスタッフがいて初めて成長していけると思うから。
秋田 取材の方がおっしゃったことから、自分たちが見えることもあるし、ライブにきてくれるお客さんももちろんそうだし。自分たち6人だけでやっているという感じはないですね。
──今後についてはどんな風に考えていますか?
秋田 「6」の仕上がりに満足しているからこそ、よりがんばろうという気持ちになってます。SOILの場合、ライブを重ねていくとアレンジも構成もいろいろ変わるので、この曲たちがどういう成長をしていくのか、楽しみですね。
CD収録曲
- SEVEN (Intro Sound Collage by DJKENTARO)
- KEIZOKU
- PAPA’S GOT A BRAND NEW PIGBAG
- MY FOOLISH HEART ~crazy in mind~
- DOUBLE TROUBLE
- POP KORN
- QUARTZ AND CHRONOMETER
- PARAISO
- MY FOOLISH HEART ~crazy on earth~ × 椎名林檎
- MIRROR BOY
- “STOLEN MOMENTS” featuring Jamie Cullum
- AFTER THE PARTY
- 殺戮と平和
SOIL&"PIMP"SESSIONS
(そいるあんどぴんぷせっしょんず)
社長(アジテーター)、タブゾンビ(Tp)、元晴(Sax)、丈青(Pf)、秋田ゴールドマン(B)、みどりん(Dr)から成る6人組バンド。 東京・六本木のクラブで知り合った仲間で2001年に結成。当初は「SOIL&HEMP SESSIONS」名義で活動し、クラブシーンを中心に話題を集める。2003年に「FUJI ROCK FESTIVAL ’03」に出演して以来、数々のフェスに登場。その圧倒的なライブパフォーマンスで飛躍的にその名を広めた。2004年に1stアルバム「PIMPIN’」でメジャーデビュー。2005年には英BBC RADIO1主の“WORLDWIDE AWARDS 2005”で「John Peel Play More Jazz Award」を受賞。以降、ヨーロッパではジャイルス・ピーターソンのレーベルBrownswoodから、USはインディペンデント最大手のE1 Entertainmentからとグローバルに作品をリリース。また、海外からのライブオファーは後を絶たず、イギリスの国民的ロックフェスティバル「GLASTONBURY FESTIVAL」をはじめ、「MONTREUX JAZZ FESTIVAL」や「NORTH SEA JAZZ FESTIVAL」などの数々の大型フェスティバルに出演するなど、海外においても確かな足跡を残し続けている。