ナタリー PowerPush - SISTER JET
夢見てガムシャラに生きるみんなに贈る「YOUNG BLUE」
これまでブリティッシュビートに乗せてゴキゲンなパーティミュージックを奏で続けてきたSISTER JETだが、ニューアルバム「YOUNG BLUE」はそのタイトルに象徴されるように、切なく甘酸っぱい「青春」というテーマにより一歩踏み込んだ意欲作。持ち前のポップでエバーグリーンなメロディはそのままに、若者たちが普遍的に抱える叫び出したいほどの苦悩や葛藤、焦燥感、そしてキラキラした輝きをリアルに描いている。ナタリーではメンバー3人に、今作が完成するまでにどのような気持ちを抱いていたのかインタビューを行った。
取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 佐藤類
もっと音楽で遊べるはずだし、まだまだ冒険していかないと
──前作「LONELY PLANET BOY」でそれまでのSISTER JETが完成した印象があったので、次の一手がどうなるのか楽しみにしていました。今作はサウンド的には芯が1本通ってるのに、今までと少し雰囲気が違いますよね。
ワタルS(Vo, G) 「LONELY PLANET BOY」はまとまった内容のアルバムだったからそう見られがちだけど、まだこれも自分たちの一面にすぎないと思ってて。3人ともいろんな音楽聴いてるし、もっともっといろいろできる。今回のアルバムではいろんな遊びをしてるんだけど、いろんな音楽を吸収して吐き出したいって願望がすごくあるから、この次はもっと全然違うことに挑戦してみたいと思う。もちろんポップソングを作るんだけど、ギターポップだけを続けていくつもりはないし。
──そうなんですか。「ギターポップ」というのがバンドの守るべき幹なのかなと思ってました。
ワタルS 守るべきなのはメロディと言葉だけ。だからこの3人の演奏でそこだけを通しておけば、何をやってもSISTER JETの音になるって自信がある。前にライブの特典として遊びで作った「カレーの神様」っていう曲を、昨日久々に聴いたんですよ。ケンスケが1人で作ったトラックに、俺ら2人が入ってラップみたいなことしてて。でも、ちゃんとSISTER JETのポップソングになってるんだよね。
ケンスケアオキ(Dr) BEASTIE BOYSのMCAが亡くなられたって聞いたときに「カレーの神様」のことを思い出したので、今リミックス中なんです。もう一度きれいに歌を入れ直して、YouTubeとかに上げちゃおうかなって企んでます(笑)。
──ああ確かに、今のSISTER JETのサウンドから思い浮かぶルーツはTHE BEATLESやTHE KINKSですけど、今後BEASTIE BOYSみたいな音楽性に変わるとしても、この3人ならそれほど違和感はないかもしれませんね。
ワタルS だよね(笑)。そういう意味では「LONELY PLANET BOY」はそれまでのSISTER JETの集大成だったのかもしれない。だからあれを作り終わって、殻を1つ突き破って、さらにバラエティに富んだ曲をやりたくなった。もっと音楽で遊べるはずだし、まだまだ冒険していかないとやってても面白くないような気がするし。
ケツの青いありのままの自分たちを初めて出した
──SISTER JETといえば勢い重視のパーティミュージックで、ラブソングが中心というイメージがあったんですが、今回のアルバムはハイティーンの焦燥感だったり、切実な感情を歌にしていますよね。
ワタルS 「YOUNG BLUE」の邦題は「ケツが青い」ですからね(笑)。ラブソングもあるけど、「(Almost) Young Blue」とか結構ヘビーだもんな。
──その曲もラブソングではあるんだけど、現在進行中のハッピーな歌じゃなくて終わった恋の歌ですからね。過去作と違うことをやろうとしてるのかなって感じました。
ワタルS カッコ悪い自分を素直に歌おうと思って。今までやっぱカッコつけてたんですよ。でも今回のアルバムで、ケツの青いありのままの自分たちを初めて出してるんじゃないかな。
──その感覚は3人とも共通して感じているんですか?
ケンスケ 自分の中ではあんまり今までと変わってないんじゃないかな。
ショウサカベ(B) カッコつけ続けてます。
ワタルS うん、サウンドはむしろ今回こそカッコつけまくってますね。「もっと聴き心地を良くしよう」とか全くなく、カッコいいことだけを追求。不親切なサウンドだと思うよ。
──ただ自分としては、以前まではそれぞれが好きなようにカッコつけていた印象だったのが、今回は3人が同じ方向を向いて演奏してるようなイメージを感じたんです。
ワタルS それは、このアルバム作ったときに歌詞の内容を「だいたいこんな感じ」って伝えてから作ったからかもしんない。今までは完全に曲を作りこんでから歌詞を乗っけてたんだよ。それぞれがそれぞれのカッコつけ方をしてるのは変わってないんだけど、イメージが共有されたんだね。
サカベ 役割分担がハッキリしてきたんだと思います。今までよりも演奏することが楽しいですね。
人生というパーティはずっとは続かない
──カッコつけていない歌詞にした結果なのか、今作は今までになく真摯で“伝わる”作品になったと思います。
ワタルS でも「伝えたい!」みたいには書いてないんだよな。それが良かったのかもしれない。もちろん聴く人に届いてほしいって気持ちはあるけど、それよりは自分の個人的なことを歌いたかったというか。
──そうなんですか。キャラクターを作って第三者の視点で歌っているんだとばかり思っていました。
ワタルS このアルバムではそれはほとんどないかな。今までは曲の主役を人に託すことが多かったんですけど。
──「MR.LONELY」の「おいらスラム育ちの名もなきボクサー」って歌詞とか。
ワタルS そうそうそう(笑)。だけど今回の曲は全部一人称じゃない? 自分に素直に歌ったら結果そうなったんです。多分、俺らも歳を取ったんでしょうね、ケツが青いまま(笑)。
──なるほど。
ワタルS でもまあ、基本的にはチャラい奴らだって言われながら活動してますけどね。少なくとも硬派なバンドではないでしょう?
ケンスケ 確かにそう。なんて言ったらいいんだろうね、この感じ。
ワタルS きっと今まで、楽しいところばっかり見ようとして、嫌なところからは目をそらして生きてきたから。でも人生というパーティはずっとは続かない。誰だってそう。だからこそ、つらいときや悲しいときにどう楽しんでいくかみたいなことを考えるようになって。
──それ、昔のSISTER JETだったら絶対に出てこない発言なんじゃないでしょうか。
ワタルS そうだね(笑)。去年いろんなことがあったから、そんな俺の状態がそのまま出てるんだと思う。そういう気持ちを表に出すのってカッコ悪いと思ってたんだけど、あえてカッコ悪いことを歌おうって思ったんだよね。今までもそういうことは考えてたんだけど、シニカルすぎて伝わりづらかったという(笑)。
──2月にやっていたツアーのタイトルは「運命なんて変えろ!ツアー」でしたけど、昔はそんなことは……。
ワタルS 言わない人たちでしたよね!(笑)
ケンスケ わはは(笑)。なんだろうね。
ワタルS それに、今までは「悩み」みたいなものは別に歌にしようと思わなかった。昔はそういう気持ちを自分の中だけで完結して、それを忘れるために楽しい曲を書いてたのかもしれないな。
CD収録曲
- Dear My Friends
- 17 (SEVENTEEN)
- I Wonder
- Young Pretender
- トーキョーミッドナイトブレイクダウン
- (Almost) Young Blue
- 「南風」
- しろくま
- ヘヴン
- ダーティ・プリティ・ドッグス
- JETCOASTER LAG
- 30
SISTER JET(しすたーじぇっと)
東京・福生界隈に住むワタルS(Vo, G)、ショウサカベ(B)、ケンスケアオキ(Dr)からなるロックバンド。老舗ロックパブ・福生uzuでバンドの基礎体力を養い、2005年頃から下北沢、渋谷のライブハウスに進出する。2006年には「FUJI ROCK FESTIVAL '06」のROOKIE A GO-GOステージに出演。知名度を着実に高め、2008年6月に1stミニアルバム「our first love EP」を発表する。ラブソングに徹底的にこだわり、思春期特有の普遍的な思いをポップでキャッチーなサウンド&メロディに乗せた楽曲が魅力。2009年5月には初のフルアルバム「三次元ダンスLP」を発表し、2012年には3枚目のフルアルバム「YOUNG BLUE」をリリースした。