いわゆるゲームの“主題歌”ではなく
RED RICE 何が驚いたって、中田くんが手を加えたバージョンの変わり方だよね。こちらの想像を絶するほどパワーアップしてて。中田くんと曲のデータをキャッチボールすることは湘南乃風にとっても新しい風が吹いたような感覚だった。本当に楽しかったし、僕らだけでは出てこないメロディで歌うのも勉強になった。
名越 僕は2019年、心臓の手術があって入院していたんですけど、みんなそれぞれ病室にお見舞いに来てくれて。そこで曲について簡単な打ち合わせをして、今回の曲は熱いけど、汗でべっとり張り付くような感じじゃなく、お祭りみたいにカラッとした熱さがいいねと話しました。祭りと言っても昔ながらの感じじゃなくて、クラブノリの今っぽい感じ。しかも湘南乃風のヴァースもちゃんと生きるというか。どっちかに寄りすぎても違うなと思ってたんです。できあがった曲を聴いたら、あのとき病室でみんなと話してたことも見事に反映されていて驚きました。
RED RICE 名越さんは基本的にキーワードを与えてくれるだけで、制作は俺らに任せてくれたんですけど、俺らが最初に書いた歌詞を聴いて「ただの主題歌にしないで」って言ってくれたんですよ。
HAN-KUN そうだったね。決まったビートとメロディに物語を当てはめていく作業は初めての経験だったから、歌詞に関しても最初は本当に感覚がつかめなかった。
RED RICE 俺らが「龍が如く7」の情報を拾いすぎちゃってた。だからむしろ名越さんが、いわゆる“ゲームの主題歌”ではなくて、独立したストーリーがある楽曲として成立する方向に導いてくれたんです。
話題を作るためにただビッグネームを並べただけじゃない
RED RICE ここまで話をしてて思ったんだけど、さっき名越さんが言っていた「何を捨てて、何を残し、新しくするか」というのは僕らミュージシャンにも言えることだよね。僕らなんかは、その葛藤を常に強く抱えてますし。15年も活動してると、メンバーそれぞれにいろんな考え方があって。新しいことしたいと思う人もいれば、これまでの活動を踏まえたいという人もいる。その中間がいいとかね。同時にファンの期待を裏切ることも大事。正直去年はそういったメンバー間の話し合いやぶつかり合いを重ねて自分たちを見つめ直す1年間でした。そして今回の「一番歌」は湘南乃風にとってはUNIVERSAL Jへレコード会社を移籍して初の楽曲なんです。その意味でも、中田くんと一緒に作曲する今回の座組みは、まさに僕らが欲しかった答えになったような気もするんですよね。名越さんがおっしゃってたように、あくまでバックボーンを大事にしつつ、新しい血を入れ新境地に向かうという。
HAN-KUN そうだね。俺らはもっとレゲエを日本に広めたいと思ってて、そのためには俺らが開けなきゃいけない扉や壊さなきゃいけない壁がたくさんある。でも自分たちのバックボーンであるレゲエへの感謝と愛を忘れずにこれからも突っ走っていきたいよね。
中田 「変えちゃいけないところ」というのは新しいことをやる際にすごく重要だと思う。さらに言うと変化にもいろんな種類があって。トレンドを貪欲に取り入れれば新しくなるかというと、決してそんなことはない。変化のための変化もあるけど、「変わってない」と思ってもらうためにあえて新しいことするという逆説的な場合もあるんですよね。僕はずっと音楽を作っていますけど、“新しさ”はそのときどきでどんどん変わっていくものなんですよ。だからこそ作り手やプロデューサーは、自分がこれから作るものが自身の延長線上にあるかどうかを意識することが大事なんだと思います。
名越 そういうところで言うと、湘南乃風と中田くんを組み合わせた一番大きなポイントは僕がこの2組の大ファンだからなんですよね。世の中的には意外なコラボかもしれないけど、僕の中ではつながっているんです。僕が作った「龍」の世界を媒介とすることで、湘南乃風と中田くんがつながったのは本当にうれしいですね。使ったことない素材で料理を作ってみたらおいしかった、みたいな(笑)。でもおいしい料理にはちゃんと理由があって、今回のコラボレーションもそう。話題を作るためにただビッグネームを並べただけじゃない。それぞれがリスペクトしあってるからこそ、この「一番歌」が生まれたんだと思います。
新しいフィールドに行きたい
RED RICE そういう思いでいつも誘っていただいてるからか、僕らがこれまで関わった「龍」の楽曲は、ライブのセットリストですごく重要な存在に育っているんです。「一番歌」も間違いなくそうなると思う。湘南乃風にとっても移籍第1弾となる楽曲なので、帯を締め直すような気持ちがありますね。
HAN-KUN あと「一番歌」をきっかけにいろんな人たちと文化交流したいと思ってて。湘南乃風として新しいフィールドに行きたいムードなんですよ。
中田 実際、僕も湘南乃風と組むことで、普段できないことができましたしね。それにゲームの一ファンの視点から考えると、どう転んでも僕は「龍」の世界に登場しない存在だったじゃないですか。でも湘南乃風の存在があったからこそ、そこに加わることができた。今回はそういう部分も含めて楽しい気持ちしかなかったです。それは曲にも表れてると思う。こんな楽しいことに交ぜていただいて本当にありがとうございます(笑)。
名越 今回の楽曲には僕も満足しかないですよ。例えばですけど、今度は中田くんを軸に「龍」の新しい広がりが作れたら面白いですよね。湘南乃風ともまたいずれどこかで一緒に仕事をすることになると思いますし。けどそのときはスキル的なものなのか、座組み的なものなのかはわからないけど、彼らにフレッシュさを求めると思います。本当に大好きだからこそ、一緒に仕事するときは今回のワンランク上を行きたい。メンバーからは「名越がまためんどくさいこと言ってるよ」と思われるかもしれないけど(笑)。ただ曲をもらうってだけじゃなくて、リレーションシップの中で新しい何かを作っていきたいですね。