Shing02×SPIN MASTER A-1|“アメリカ文化を吸収した侍”たちが考える「日本人らしさとは何か」

Shing02がSPIN MASTER A-1のプロデュースにより、2008年6月発表の「歪曲」以来となる日本語詞アルバム「246911」(ニシムクサムライ)をリリースした。アルバムタイトルは、1カ月の日数が少ない小の月である2月、4月、6月、9月、11月を並べて覚えるための語呂合わせ“西向く士”が由来。トラックはどの曲も和楽器を素材に構築されており、リリックも日本の伝統を感じさせる世界観で物語が紡がれている。

音楽ナタリーでは今回、ツアーでアメリカに滞在しているShing02とSPIN MASTER A-1にそれぞれSkypeで連絡を取り、インタビューを実施。日本をテーマにしたこのアルバムを今このタイミングで制作した理由や、アメリカに住む日本人として感じることなどについて話してもらった。

取材・文 / 小野島大 ヘッダ写真撮影 / 関真理菜 ライブ写真撮影 / 三枝富一

Skypeでのインタビューに応じるSPIN MASTER A-1(左)とShing02(右)。

サンプリングに改めてアプローチした、極めてオーソドックスなヒップホップ

──ついに新作「246911」の完成です。手応えはいかがですか。

Shing02 去年の年末に集中してA-1くんとタッグで作ったんですけど、短期間で作ったわりにはけっこう濃密なものができたと思います。作り終えたあと配信ですぐ公開したんですけど、その反応も聞けますし、完成して自分の中ですごくテンションが上がっているときにすぐ出せて高揚感を味わうことができたのはよかったと思いますね。

──ご自身のTwitterでも、配信開始直前まで作業していたとツイートされてましたね。

Shing02

Shing02 はい、ギリのギリまでやってました。

──前作「歪曲」は2008年のリリースです。その後さまざまなアーティストとのコラボ作品などはいくつかありましたが、日本語詞によるオリジナルフルアルバムは約11年ぶりということになります。なぜこれほど間が空いてしまったのでしょう。

Shing02 例えばNujabesくん(プロデューサーとしてShing02といくつもの作品を共同制作)が2010年に亡くなったり、2011年には3.11があったりと、大きな事件がいくつかあって、自分の中にいろんな責任が生まれたんです。アーティストとして終わらせなきゃいけないことが山積みになった状態で、核問題に関するレポート「僕と核」(2006年、2007年、2012年に自身のサイトで公開)を出したり、そこから派生して日本国憲法のプロジェクト(参照:Shing02、憲法史つづる22分超の大作「日本国憲法」無料配信)を時間をかけて作ったりしていた。個人的にはアルバム級の仕事はずっとしてきたつもりなんです。

──確かに。今作の構想はいつごろから湧き上がってきたんでしょうか。

Shing02 もともとA-1くんは和モノの音をたくさん作っていたんです。和モノテイストの映像作品を作ったり、ミックスCDを出したり。去年彼がハワイに来たときに録音を手伝ったんで、気にはなってたんです。

──じゃあA-1さんの作った和モノの素材が先にありきという感じだった?

A-1 そうですね。最初にまずスケッチレベルのビートを作ってて、そこから選んでもらったのと去年の年末ぐらいから作ったビートを加えた感じです。

──今回の制作工程は、Shing02さんとA-1さんの完全なマンツーマンの作業だったんですね。

Shing02 そうですね。やりとり自体はすごくシンプルなんですよ。A-1くんがラフを投げてくれるとき、だいたいタイトルが付いてるんです。自分がそこから膨らませていく場合もけっこうあったんですけど、やりとりは「このビートいいね」「あ、そう」「じゃこれで書くわ」という感じで、すごく簡潔でシンプルだから作業が速かった。

──Shing02さんは「400」(2002年リリース)の頃から和楽器や日本の伝統音楽のテイストを取り入れた音楽にアプローチされてましたね。今回のプロジェクトと、今までやってきたものとの違いはあるんでしょうか。

Shing02 サンプリングという手法に改めてアプローチしたことですね。ヒップホップは、他者の曲の一部分を切り取ってそれをアレンジし直すという作業じゃないですか。日本の音楽のレコードを切り刻んでドラムを重ねてラップするっていう今回の手法は、テイスト的には和モノなんですけど、ヒップホップ的にはオーソドックスなやり方だと思うんです。個人的には1MC & 1DJの、コテコテのヒップホップをしたかったんですよね。だからほかにゲストミュージシャンも呼んでないんです。

──たまたまネタが日本の伝統音楽だっただけで、手法的には極めてオーソドックスなヒップホップであると。

Shing02 そうですね。

「オリジナルにはどうしても歯が立たない部分がある」と気付かされる

──「歪曲」は30人ほどの音楽家が参加して、彼らが奏でる楽器の音からサウンドを作っていったわけですが、それとは違う考え方だったわけですね。

Shing02 真逆ですね。「歪曲」はサンプリングゼロでやったんですけど、その前の「400」はレコードを100枚ぐらいサンプリングして構築したんです。つまり2つのやり方を行ったり来たりしているという。

──なるほど。今回の作品には和楽器の音や、お囃子のような声ネタとか、和モノの音がいっぱい入ってますが、あれは全部サンプリングということですね。

A-1 そうですね。

──単なるヒップホップのビートに和モノの音を取り入れたというだけでなく、リリックも含め、もっと深いところで日本の伝統音楽 / 伝統芸能とヒップホップが融合しているという印象でした。A-1さんが和モノ、日本の伝統音楽に興味を持たれたきっかけや、それをヒップホップにつなげようと思った理由は?

A-1 以前から日本語のラップをミックスしたミックスCDだったり、いろいろ作ってたんですけど、Shing02と一緒に海外でプレイしたりすればするほど、自分が日本人だなって意識がすごく強くなってきたんです。その中で、昔の楽器に向き合うことで、もっと先に行けるかなって考えるようになって。あとはやっぱり、しっくりくるというのが一番ですね。自分が日本人ということもあって。

──日本人であることを自覚するのって、例えばどういう瞬間ですか。

SPIN MASTER A-1

A-1 うーん、それはいろんな場面であるんですけど、例えば……自分の彼女はヒップホップ発祥の地であるニューヨークのブロンクスから日本に来てるんですけど、いろいろ話してると、音楽の背景に「人種的マイノリティの置かれてる問題や歴史+もともと備わってる感性を合わせた物にはどうしても歯が立たない部分がある」と気付かされるんです。じゃあ何が自分の武器なのかなと思うと、無意識のうちにDNAに刻み込まれた、日本のメロディラインや音色が、違和感なくポジティブに出せる音かなと。自分のルーツやアイデンティティに近いところで表現していくほうがいい。実際のリアクションもいいし。Shing02とアメリカをツアーしていても、そういうところがあるのとないのとでは、リアクションも含めてプロップスが違ってくるかなと思いますね。

──アメリカにおいても、和モノや日本の伝統音楽のテイストは好意的に受け取られているわけですね。

A-1 はい。そういう音を使うことによって得られるエクストラのリアクションは絶対あると思います。

Shing02 具体的に言うと、僕らのライブの最後のほうで、A-1くんがソロで「246911」のアルバムの1曲を打ち込むセクションがあるんですね。琴のサンプルから始めて。それがお客さんにウケたりしてる。サンプリングで使うネタって、一瞬で伝わるものだと思うんですよ。そんなに深く考えることでもなく。それは海外のものが日本に入ってくる場合も一緒。一瞬の感覚だと思いますし、このドラムとこのループが合うとか、そういうセレクトをしていくセンスは瞬発力だと思うんです。一瞬で伝わるすごさがヒップホップのよさだと思いますし、A-1くんが作るビートも、僕は聴いてすぐにいいなって感じることができる。想像力を刺激されて。