音楽ナタリー Power Push - She,in the haze

生きづらさを抱える人間に与えられた音楽という使命

She,in the hazeがミニアルバム「Mama said」を10月5日にリリースする。

2012年にyu-ki(Vo, G)を中心に結成されたShe,in the hazeは、楽曲制作やレコーディングはもちろん、ミュージックビデオや衣装の制作にいたるまで自分たちで手がける3人組だ。初の全国流通盤となる今作は全6曲収録のミニアルバム。エレクトロニックなバンドサウンドと、儚さを帯びた透明感のあるボーカルで独自の世界観を紡いでいる。

音楽ナタリー初登場となる今回は、バンドのフロントマンであるyu-kiにインタビューを実施した。「音楽で伝えたいことは何もない」という彼がどのような思いで本作を完成させたのか、話を聞いた。

取材・文 / 大橋千夏 インタビュー撮影 / 上山陽介 レタッチ / KUN

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メタル好きの少年だった

──まずはyu-kiさんと音楽の出会いから教えていただけますか?

きっかけは中学生のときに始めたギターですね。その頃は人前で演奏するわけでもなく、ずっと趣味で作曲してました。

──中学生くらいなら、仲間とコピーバンドを組んだりする人が多い気がしますが。

コピーはやらずに、最初からオリジナルを歌っていましたね。作曲は自分の中に溜まっていくものを消化していく作業というか……夢中になれたのが音楽だけだったとも言えるんですけど。

──ちなみに、その頃はどんなジャンルの音楽を聴いていたんですか?

yu-ki

僕、海外のヘヴィメタルがすごい好きで。

──ちょっと意外です。今yu-kiさんがやっている、シンセサイザーを用いたエレクトロニックで浮遊感のある音楽とはまったく違いますよね?

そうですね。なぜメタルが好きだったかというと、僕はコンセプトや世界観がはっきりした音楽が好きなんです。例えばすごく凶暴なテーマを歌っているデスメタルバンドの楽曲を聴いていると、何を言っているのかわからないのに音だけで情景が頭に浮かぶんですよ。あとから和訳を読んで、想像と違ってがっかりすることもあったんですけど(笑)、自分の中で勝手に物語を作れるのが楽しかったんです。

──なるほど。聴き手の想像を膨らませるような楽曲という意味では、She,in the hazeの楽曲と重なるかもしれませんね。最初にバンドを組まれたのは?

20歳の頃です。その頃には自分の頭の中にあるビジョンを1人で表現することに限界を感じていて。それから何回かのメンバーチェンジを経て今のギター、キーボード、ドラムの3人体制に落ち着きました。

靄の中をさまよう感覚を音楽に

──バンドのオフィシャルサイトや衣装など、楽曲以外も皆さんが制作を行っていると聞きました。それぞれの役割について詳しく教えてもらえますか?

an(Key)は僕らのオフィシャルサイトやCDジャケット、ミュージックビデオなどのディレクション全般を担当してくれています。akihiro(Dr)は言わばマーケティング担当かな。常に先頭を切ってバンドを動かす存在というか。僕は全楽曲の作詞作曲、アレンジを行っています。バンドは集団行動だと思うんですけど、2人共楽曲制作に関しては全信頼を僕に置いてくれているし、自分の欲ではなく「いかに楽曲をよくするか」を第一に考えてくれているのですごくいいバランスで活動できています。

──yu-kiさんの描きたい世界を一緒に作っていく理想的なチームなんですね。バンド名の「haze」にはどういう意味が?

「haze」は霧、靄といった意味があって。靄の中をさまようような感覚……人間の陰の部分というか、退廃的な部分を音楽で描くというコンセプトでバンド名を考えました。

──She,in the hazeの楽曲は幻想的でどこかメランコリックで、歌詞もストーリー性がある独特の世界観ですよね。曲を通して描かれる人物はみんな、何かしらの苦しみを抱えたキャラクターです。

yu-ki

小説のようにフィクションで物語を作っていく歌詞のスタイルは、僕の中に「自分の表現で誰かを救いたい」とか「思いを伝えたい」って気持ちがないことに気付いて行き着いた方法です。最初はいわゆる一般受けしそうな……「勇気」みたいな言葉を無理して選んだりしてたんですけど(笑)。そこに自分の素直な感情はないから、バンドの世界観も楽曲への愛情も生まれなくて。それを打破するために考えたのがこのやり方だったんです。

──そうだったんですね。

まず頭の中で楽曲のコンセプトや物語を作って。その物語の主人公はどんな境遇でどんな感情なのかを考えて、そこに鳴っているBGMを考えて作曲していくのがいつものプロセスですね。

──本当に音を使って物語を作るような感覚なんですね。

そうですね。もともと妄想は好きだし(笑)、映画や小説は昔からよく観たり読んだりしていたので。

「やべえなこのバンド」って思わないですか?

──では、「Mama said」収録曲のストーリーについてもう少し詳しく聞かせてください。まずは作品の1曲目を飾る「Stars」。ビート感が気持ちいいナンバーですが、歌詞はひたすら絶望的で。

これは「当たり前のようにそばにいる大切な人や愛する人が、ある日突然いなくなってしまったら」というテーマで作った曲です。この曲の主人公は愛する人を失って、とにかく後悔の念に駆られている。今ある環境を当たり前だと思わなければ、未来が少し変わるかもしれないという気持ちで書きました。

──2曲目でアルバムのタイトルトラックでもある「Mama said」は、「どうして僕はこうなっちゃったんだろう」という歌詞が印象的でした。

アルバムの中でも特に思い入れのある楽曲ですね。この曲のモデルになったのは、ヘンリー・リー・ルーカスという実在する連続殺人犯です。彼は幼少期に受けた母親からの虐待がきっかけで人格が壊れてしまった人物で。その生い立ちを知ったとき、どんな凶悪な殺人鬼も突然変異的に生まれるわけではなくて、人間が作り出すものなんだと気付いてハッとしたんです。

──誰もがそうなってしまう可能性を持っていると。

はい。もっと身近なところに話を移すと、例えば3曲目の「Freezing」の主人公は言ってしまえばストーカーなんですよ。でも、相手を自分だけのものにしたいとか、自分が愛しているんだから同じように愛されたいとか……嫉妬や束縛って多かれ少なかれ誰もが持っている感情じゃないですか。多くの人は理性や道徳というものが働くから行動には移さないだけで。

──確かにそうかもしれません。

愛したい、愛されたいと願っていてもその方法がわからなければ、誰にだってこの曲の主人公のようになってしまう可能性はあると思うんです。僕は「生まれながらの悪人はいない」と考えているから、歌の中では否定も肯定もしていない。人間が持つ強欲な部分を膨らませることで「どうしてそうなってしまったのか」を紐解いた楽曲です。

──なるほど。だから歌詞は全編を通して淡々としているんですね。ミニアルバムの最後を飾る「Teddy」はどんなコンセプトで作ったんでしょうか? 歪んだギターの音色とyu-kiさんの浮遊感のあるボーカルが切なく、聴いたあとに余韻が漂う楽曲ですよね。

ライブのセットリストでも最後に演奏することが多い曲です。心がきれいで純粋な人ほど、この世の中って生きづらいんじゃないかと思うことが多々あって。この曲の主人公は結果的に自ら死を選ぶんですけど、それはあくまでもこの人物の選択で、そこに悲しみや苦しみはもうないんですね。だからこの曲も決して「自殺はだめだ」とか言いたいわけじゃなくて……なんか改めて作品を振り返ってみると、やばいですよね。これ、普通に聴いてて「やべえなこのバンド」って思わないですか?

──(笑)。確かに全編を通して暗いテーマが多いんですが、その残酷で悲しい物語を美しく浄化しているのが、yu-kiさんの少年性を感じるささやくようなボーカルとエレクトロニックなサウンドなのではないでしょうか。

ああ、そうかもしれないですね。音楽をやるにあたって自分の声と向き合ったとき、ウイスパーボイスが一番の武器なのかなって気付いて。例えば誰かに怒られるとき、怒鳴られるより優しい声で怒られる方が怖かったりするじゃないですか。自分の声質がどうしたら生きるか考えた結果、今のサウンドになったんです。

──あとは英語詞で歌われているから、聴き手のイメージを固定しすぎないと思いました。

それは僕がメタルを聴いているとき、自由にイマジネーションを広げられる楽しさを知ったことが大きいですね。リスナーには自由に受け取ってもらえたらと思っています。

She,in the haze ライブスケジュール
2016年10月9日(日)大阪府 OSAKA MUSE
(「FM802 MINAMI WHEEL 2016」への出演)
2016年10月10日(月・祝)愛知県 池下CLUB UPSET
<出演者> She,in the haze / and more
2016年10月29日(土)東京都 下北沢ERA
<出演者> She,in the haze / cruyff in the bedroom / The Florist
2016年12月3日(土)東京都 新宿MARZ
<出演者> She,in the haze / She Her Her Hers / Junk Robot / 中島孝
She,in the haze(シーインザヘイズ)

yu-ki(Vo, G)、akihiro(Dr)、an(key)からなるロックバンド。作詞作曲を手がけるyu-kiを中心に結成される。「漂う音に浸る幻想的な空間を作り出す」をコンセプトに活動をスタートし、2014年8月に自主制作盤ミニアルバム「ATMOSPHERE」を発表。ライブ活動を積極的に行い、2016年6月には東海地区最大規模のライブサーキット「SAKAE SP-RING 2016」にトリで出演を果たす。10月5日に初の全国流通盤ミニアルバム「Mama said」をリリースし、12月には自主企画を開催する。