音楽ナタリー Power Push - Schroeder-Headz × ADAM at

2人のピアノマンが語る現在のインストシーン

ロックイベントにインストバンドが出る時代

──最初にタマスケさんがシュンスケさんに渡した署名にはたくさんの鍵盤奏者の名前が書かれていましたが、今ってピアノを軸にしたインストバンドが盛り上がってきてると思うんですね。途中で名前の出たソイルやスペアザが出てきた頃のようなムードがまた感じられるというか。

タマスケ 今って世の中がすごくインストに温かいんですよね。ヴィレッジヴァンガードさんとかタワーレコードさんとか、いろんなところでインストコーナーが前よりも大きく展開されていて、ホントにありがたいなって。

左から渡辺シュンスケ、タマスケアット。

渡辺 インストを聴く人が増えてるんでしょうね。あとはやってる側も、今まではジャズとかフュージョンっていうカテゴリーでやってたのが、今はどこでも関係なく、ロックのイベントにも出るし、お客さんもそれを違和感なく楽しんでる気がしますね。日本人はピアノの音色になじみがあって、昔からずっと好きだと思うんですけど、イージーリスニングやクラシックだけじゃなくバンドサウンドの中でピアノを聴かせるっていうのが増えたことで「こういうのもありだね」って盛り上がってるのかなって。

──フェスが文化的に浸透して「ライブの時代」と呼ばれるようになった昨今、インストバンドが再発見されたように思います。なので、ADAM atのようなライブ感のあるインストバンドは、今を象徴していると思うんですよね。

タマスケ うれしいです。今は聴きたいと思った音楽をネットで大体試聴できるようになったから、僕らのようなバンドまでたどり着いてくれるようになったのかなって。「こんなバンドいるんだ」っていうのを、お客さんに教えてもらうことも増えましたからね。

Ramonesの曲を譜面に書いてもよさはまったくわからない

──では、それぞれの新作について聞かせてください。まずSchroeder-Headzの「特異点」はどんなテーマで作られたのでしょうか?

渡辺 サウンド的なところで言うと、ピアノトリオでベースがシンセベースっていうアルバムを作りたいと思って、moogのシンセを使いました。シンセベースのピアノトリオってあんまりいないと思ったので、それを自分が聴いてみたいと思ったんです。前にピアノとドラムだけのライブをやったときに、ベースアンプにシンセをつないで、自分でベースラインを弾いたらすごく面白くて、こういうのもありだなって思ってて。あと今「特異点」っていう言葉が自分の中で引っかかってて。ブラックホールの中心にある点っていう物理用語なんですけど、この言葉をヒントにして曲を作っていきました。

──ロジックでは解明できない神秘性に惹かれたということでしょうか?

左から渡辺シュンスケ、タマスケアット。

渡辺 詳しいことは僕もよくわかってないんですけど、科学者が宇宙を数式にできそうでできないみたいなことと、音楽というものがすごい似てる気がしたんですよ。音楽も楽譜に書けるんだけど、例えば、Ramonesの曲を譜面に書いたところで、Ramonesのよさはまったくわからないじゃないですか。それと同じように、科学者が呼ぶ「特異点」に対して、「音楽的特異点」もある気がして、それをテーマにしました。謎があるからこそ音楽って楽しいし、その謎を追求したいなって。

──前作にも「共感覚」っていうテーマがありましたし。

渡辺 なんかちょっと中二病っぽいですけどね(笑)。あと今回はタイトルを漢字にしたかったっていうのもあるんですよ。最近は日本以外のアジア諸国でライブをする機会が増えて、インドネシアのジャズフェスに出させてもらったりしていて。ジャズは欧米のものっていうイメージが強いし、Schroeder-Headzって名前からして、欧米のスタンダードに合わせちゃってるけど、もっと自由に、漢字を使ったり、曲の中に和のテイストを入れたり、自分のルーツを出してもいいんじゃないかと思ったんです。だからといって民謡をやるとかではないと思うんですけど、アジアとか日本っていうオリジナリティをちゃんと出していきたいなって。

──ある種の郷愁みたいなものは、これまでもSchroeder-Headzの作品から感じられた要素だと思います。

渡辺 原風景っていうかね。やっぱり、言葉のない音楽の最大のよさはイマジネーションが湧くっていうことだから、そこにいっぱい毒を盛り込みたい。ただ聴き触りがいいだけじゃなくて、新しいものを作りたいんです。トラディショナルなものもいいけど、新しい機材もどんどん試して、今の時代だからやれることを常に探している感じはありますね。

ADAM at ニューアルバム「スウィートホーム」 / 2016年1月20日発売 / 2376円 / Victor Entertainment / VICL-64513
ADAM at ニューアルバム「スウィートホーム」
収録曲
  1. スウィートホーム
  2. 六三四
  3. Karakusa Trick
  4. 残響6/8センチメンタル
  5. Cuba Libre
  6. はなちるさと
  7. 半丁猫屋敷
  8. Re:Ppin
  9. More Better Words
  10. ヤマネコア
Schroeder-Headz(シュローダーヘッズ)
Schroeder-Headz

数多くのアーティストのサポートでも活躍するキーボーディスト・渡辺シュンスケによるソロプロジェクト。2010年にアルバム「NEWDAYS」をリリースしたことをきっかけに活動を開始した。2013年12月にはリミックスプロジェクトの一環としてミニアルバム「Sleepin' Bird」を発表し、2014年2月にメジャー移籍第1弾アルバム「Synesthesia」をリリース。2016年1月に3枚目のアルバム「特異点」を発表する。また、土岐麻子とのユニット「土岐麻子 meets Schroeder-Headz」としても精力的にさまざまなイベントに出演している。

ADAM at(アダムアット)
ADAM at

タマスケアットを中心とした、固定メンバーのいないピアノセッションバンド。疾走感あふれるピアノサウンドとダンサブルなリズムを持ったインストゥルメンタルを得意とし、2015年1月に発表した1stフルアルバム「CLOCK TOWER」はiTunes Storeジャズ部門のダウンロードランキングおよびタワーレコードのジャズチャートで1位を獲得した。2016年1月に2ndフルアルバム「スウィートホーム」を発表した。