澤野弘之(SawanoHiroyuki[nZk])×岡崎体育|リスペクトし合う2人が満を持してコラボ、[nZk]プロジェクトに新風吹き込む「膏」誕生背景を語る

劇伴作家・澤野弘之のボーカルプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]の4枚目となるアルバム「iv」がリリースされた。

自らの欲求に抗わず、今鳴らしたいサウンドを追求したという本作。「Chaos Drifters」(テレビアニメ「ノー・ガンズ・ライフ」第2期オープニングテーマ)や「Tranquility」(テレビアニメ「銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱」エンディングテーマ)、「time」(テレビアニメ「七つの大罪 憤怒の審判」エンディングテーマ)といった既発曲に、アイナ・ジ・エンド(BiSH)や優里、岡崎体育といった新たなボーカリストを迎えた新曲群、さらに3編のボーナストラックを含めた全16曲が収録されている。

アルバムの完成を記念し、音楽ナタリーでは澤野弘之と、アルバム収録曲「膏」で作詞とボーカルを担当している岡崎体育との対談をセッティング。リスペクトし合う2人がお互いのセンスをぶつけ合ったという制作エピソードについて語り合ってもらった。

取材・文 / もりひでゆき

澤野弘之の音楽的欲求を詰め込んだ「iv」

──前作から約2年ぶりとなるニューアルバム「iv」が完成しました。まずは澤野さんにその仕上がりについての手応えから伺えればと。

澤野弘之 前作の「R∃/MEMBER」(2019年3月リリース)は、活動の中でご縁のあったさまざまなアーティストの方々とコラボすることをコンセプトにしたアルバムでしたけど、今回は素直に自分のやりたいことを突き詰めた作品になったなと思っていて。サウンド面はもちろん、岡崎体育さんをはじめとする素晴らしいボーカリストの方たちに参加していただいた歌声という部分に関しても一切の妥協をせずに追求していくことができたので、改めて音楽作りの楽しさを実感することができましたね。

──それはある意味、音楽家としての初心に立ち返った感じでもありますか?

澤野 そうかもしれないです。CDをリリースするからにはどうしてもチャートを気にしてしまうものですけど、[nZk]としての活動はそうではなく、やっぱり自分が楽しいと思えるものを突き詰めていくことのほうが大事なんですよね。新しいことをもちろんしっかり取り入れながらも、年齢的に40歳になったことで、昔からずっとある自分のやりたいことを、信頼やリスペクトを感じられる方々と一緒に作っていきたいという思いがより強くなったんだと思います。振り返れば[nZk]プロジェクト自体、そういったコンセプトで始めたものだったので、そこにまた戻ってもいいんじゃないかなって。

──澤野さんのピュアな音楽愛が詰め込まれた本作には、今回もさまざまなボーカリストの方々が参加されています。その中のお一人が岡崎体育さんですね。

SawanoHiroyuki[nZk]:okazakitaiiku「膏」ミュージックビデオのワンシーン。

澤野 はい。以前からライブ映像やミュージックビデオなどで楽曲はよく聴かせていただいていて。岡崎さんの場合、ジョークを交えながらやってる部分の面白さをフィーチャーされることが多かったりしますけど、僕としてはその面白さ以上に、クリエイティブな部分への興味がすごく強かったんです。キャッチーなメロディやサウンド面に関してものすごく追及されている方だなって。歌のパフォーマンスも素直にカッコいいと思えるものですしね。なので今回お声がけさせていただいたんですけど。

岡崎体育 僕がデビューした2016年にレコード会社のオフィスでご挨拶させていただいたのが澤野さんとの初めての出会いでしたね。で、澤野さんの音楽を聴かせていただいたところ、「めちゃめちゃすごい人だ!」と思いました。だってね、「世界の澤野」ですし。

澤野 あははは(笑)。

岡崎体育 僕としてはそんなすごい方とせっかく同じグループのレーベルに所属しているわけなので、将来的に何か一緒にできたらいいなとぼんやり思ってはいたんですよね。で、今回、僕のクリエイティブな面を評価していただいたうえで、こうやってお声がけいただけたことは本当にうれしいことでした。アルバムを盛り上げていく一役を担えればなっていう思いで参加させてもらいました。

SawanoHiroyuki[nZk]:okazakitaiiku「膏」ミュージックビデオのワンシーン。

岡崎体育が劣等感すら感じる「世界の澤野」のすごさ

──岡崎体育さんが感じた“澤野さんのすごさ”って、具体的にはどんな部分なんですか?

岡崎体育 “完成”という言葉をさらに超えた段階まで作り込まれた楽曲自体のすごさはもう言うまでもないんですけど、僕が澤野さんに対して一番リスペクトしてる点は、年間にすさまじい数の楽曲を書き上げられて、しかもクオリティを落としているものは1つもないし、さらにクライアントやタイアップ作品の意図を汲んで100%以上のもので応えてらっしゃる部分なんです。そこに大きな尊敬を感じ、なおかつ劣等感も抱かざるを得ないという。

澤野 いやいや(笑)。先方の要望に応えつつ、クオリティを保つことはもちろん常に大事にはしていますけど、ペースに関してはけっこう“慣れ”な部分があったりするんですよ。自宅での作業が中心になっているときはだいたい1日に1曲作るみたいなスタンスなので。

岡崎体育 それがもうすごすぎますよね。競馬で言ったらゲート開いた瞬間、思いきり突っ走ってて、「うわ、後半に失速するやろうな、この馬」と思ってたら最後まで20馬身差保ちながらゴールしてる感覚というか。しかもそれが何レースも続いていて。「G1何個獲んねん」みたいな。競馬やったら僕、澤野さんの馬券5万くらい買いますよ。

澤野 あはははは(笑)。

岡崎体育 僕もデビュー前は曲を生み出すペースが速い自負はあったんですけど、デビューしてからはいろんなタイアップやクライアントさんの意見を汲みながら作ることが増えたので、すごく悩むようになったんですよ。結局、納期ギリギリちょっと過ぎるみたいなことが多くなってしまって。そこをどんなマインドでクリアしているかというのは、たぶん全ミュージシャンが知りたいことだと思いますけどね。

SawanoHiroyuki[nZk]:okazakitaiiku「膏」ミュージックビデオのワンシーン。

澤野 よく「曲作りで行き詰まることはないですか?」と質問されることがあるんですけど、そこで僕はいつも「基本ないんですよ」と答えていて。それは別に天才ぶりたいとかってことではなく(笑)、単純に自分の中に甘い部分もあるってことで。曲作りの最中に「この先どうしようかな」って一瞬ストップしそうになることはあるんですけど、性格的にせっかちなので、そこで止まるのが性に合っていないんです。だから納得いかない状態であっても、とりあえず最後まで作り切ってみる。最後まで作ってみると案外、悩んでいた部分が気にならなくなったりするし、もしどうしても気に入らない部分があればあとで直せばいいし。

岡崎体育 なるほど。めちゃくちゃ肝に銘じます。僕は作ってる段階で「ダメだな」って思うことが多いんですよ。で、そうなったらイチから書き直したりすることもあって。でも今度からは1回全部完成させてみてから考えるというのを実践してみようと思います。

澤野 岡崎さんはかなりストイックなんでしょうね。僕なんか作った曲を翌日に聴いて「いまいちだな」って思うことがあっても、「いや昨日いいと思ったんだからこれでいいじゃないか」みたいな感じで押し切ることもありますから(笑)。