ナタリー PowerPush - SALU×tofubeats
メジャーフィールドで躍る、2人の地方在住者
外の人の感性で東京で通じるものを作りたい
──tofuさんは東京ではトラックを作らないんですよね?
tofubeats 作らないですね。でも、東京に来て思うことはいっぱいありますよね。トレンドは東京のほうが早いし、さすがにずっと神戸にいて分断されすぎてはいけないなと思ってます。音楽を聴いてる人が日本で一番多いのも東京なので。東京の人に受け入れられないってことは音楽の市場でほとんどやっていけないということなので。でも、完全に東京の中の人になると新鮮味がなくなるから、あくまでトレンドは意識しつつ、東京の外の人間として音楽を作りたいんですよね。東京の人も東京でできたものばかり聴きたいわけじゃないと思うし。東京の人に「これは神戸でできた音楽らしいぞ」って思ってもらうだけでも違うし、僕のアドバンテージになるので。
──SALUさんは歌詞を書く上で東京とどう向き合ってますか?
SALU それこそ「COMEDY」に「東京ゾンビ」という曲があるんですけど。あの曲もあくまで東京の人じゃない、厚木から来てる者として東京の人を見て書いたんですけど。tofuくんと話の内容が被るかもしれないけど、僕も外の人の感性で東京で通じるものを作りたいというか。ときに東京の中の人の仮面を付けてるんですけど、その奥には外の人としての素顔があるからみんなが驚く曲を作れるんじゃないかなと思うんです。そういう意味でも週に3、4回東京に来る今のペースはすごく自分に合ってるなって思いますね。仕事的にはずっと東京にいたほうが早く進むからトイズファクトリーのスタッフには申し訳ないと思うんですけど(苦笑)。
tofubeats ホントそうなんですよね。僕もワーナーの人たちには申し訳ないと思ってます(苦笑)。
──でも、東京の中の人になることはこれからもないんですよね?
tofubeats 神戸を離れることになっても永遠に地方に住んでたいですね。やらしい話、「家賃2倍じゃん!」って思うから。「なんで家賃のために働かなアカンねん!」ってなるんですよ(笑)。曲作りに関してもストイックになりすぎたくないので。上京したらどうしてもストイックにやらなくちゃいけないってなると思うんですよね。なので、自分が作りたい曲を作るなら地方にいたほうがいいなと思います。
SALU うんうん。
アーティストへの挨拶が苦手
──コラボレーション相手やプロデュースするアーティストとの距離感も独特なんじゃないですか?
tofubeats 東京にいないからめっちゃ仲良くなることがないですね。「ごはん食べに行きましょう」ってならないんで。だからこそ僕は相手をずっと尊敬していられるという部分もあるんですよ。僕は曲で誰かと交わるときにその人をアーティストとして好きになる、好きなままでいることが重要で。あんまり深くその人の人間性を知っちゃうといい曲を作れなくなると思うんですよね。だからちょっとくらい距離があったほうがいいんです。アイドルのプロデュース仕事も、その子たちが僕に対して外面でいてくれるくらいの関係で留めておきたいですね。
──SALUさんの「COMEDY」は客演なしですけど、これは意識的に?
SALU いろんな人とやりたいとも思ったんですけど、結果的にこうなりましたね。このアルバムはこういうふうになるべきだったし、心のどこかでそうしようと思ってたんだなって。僕の場合は客演相手と直接的な関係性がないといけないと思うんですよ。まずは尊敬していたり好きなアーティストのライブに行って、「SALUと言います」って挨拶することから始まって。そこで「今、アルバムを作っているのでよかったら……」という話をしなきゃいけないんだけど、僕はそれが苦手で。
tofubeats わかります! 僕も自分から挨拶したりするのは苦手で。
SALU しかも、そういうことをしたくないと思ってる自分がいて。自分がすごく尊敬してたら、ただのヘッズでいたいと思ってしまう。自分が自分じゃなきゃもっと器用にできるのになって思うんですけど。でも、それでも交われる人はいると思うから、この性格は自分の定めとして受け入れようと思って。いつかその人と対等の立場でやれるくらい大きくなろうとも思うし。
tofubeats とりあえずオファーしてから考えよう派の僕としては今のSALUさんの話を聞いて反省しました(笑)。
SALU いや、それで実現できちゃうのがtofuくんのすごさだと思いますよ。
──ラッパーは基本的にトラックメーカーにも「ビートをください」っていう立場でもあるし。
tofubeats ああ、ラッパーはそうか。確かにそういう部分では僕とSALUさんは違いますよね。
ひょっとしたら共演実現?
──でも、なかなか自分から声をかけないSALUさんがtofuさんには会いたいと思って今日この対談が実現したわけで。
SALU そうなんですよ。
tofubeats 僕が声をかけやすい人でよかった(笑)。なんでもやるんで遠慮なく言ってください。最近ね、MPCを買い直そうと思っていて。
SALU どのMPCですか?
tofubeats 昔はずっとMPC1000でトラックを作ってたんですけど、だいぶ前にもうあんまりヒップホップのトラックは作らないしなと思って手放しちゃったんですよ。でも、オムス(OMSB / SIMI LAB)くんのトラックを聴いたりすると手放したことを後悔するんですよ。
SALU オムスくんはMPC1000で作ってますもんね。
tofubeats そう。だからもう一度ハードサンプラーを買い直したいと思ってるんです。でも、メジャーでヒップホップをやってる人はみんな同じ悩みを持ってると思うんですけど、メジャーでは基本的にサンプリングができないので。サンプリングをやらないでどうがんばるかってヒップホップの人にとっては大きな壁じゃないですか。クリアランスの申請を一度経験すると二度とやりたくないって思うから。それくらいめんどくさいし、お金もかかるので。
SALU そうですよね。そこはかなりデカい壁ですよね。
tofubeats うん。正直、それもあって僕も今後サンプリングでヒップホップをやるのは難しいなと思ってJ-POPに振り切ったというのはあるんですよ。昔はメジャーに行くとなんでヒップホップの人がポップになるのかっていう理由がわからなかったんですけど、実際メジャーに来るとなるほどなって思う。レーベルの先輩のRIP SLYMEがそのあたりをどうしてるのかすごく聞きたいんですよね。
──網の目をかいくぐるようなやり方を見つけるのも戦い方として必要になってくるのかなと。
tofubeats そう、だからそこは知恵を絞ってやっていきたいなって。あ、実は今日、この対談の前に別件の打ち合わせがあって。この仕事はひょっとしたらSALUさんに合うかもと思ったものがあったりして。
SALU ヨッシャー!
tofubeats どうなるかわからないですけどね。うまくいけばよろしくお願いします(笑)。
SALU いや、もう、こちらこそです!
- SALU ニューアルバム「COMEDY」 / 2014年5月21日発売 / 2916円 / TOY'S FACTORY / LEXINGTON / One Year War Music / TFCC-86472
- 「COMEDY」
収録曲
- 100th Monkey
- New Balance
- 東京ゾンビ
- Comedy
- BMS
- Goodtime
- Weekend
- ムーンチャイルド
- Spaceboy
- 堕天使パジャマ
- Sphere
- Painkiller(Bonus Track)
- tofubeats ミニアルバム「ディスコの神様」 / 2014年4月30日発売 / unBORDE
- 初回限定盤 [CD+カセットテープ] 2160円 / WPZL-30807~8
- 通常盤 [CD] 1620円 / WPCL-11708
CD収録曲
- ディスコの神様 feat. 藤井隆
- Her Favorite feat. okadada
- 衣替え
- HANERO
- ディスコの神様 feat. 藤井隆(tofubeats remix)
- ディスコの神様 feat. 藤井隆(Carpainter remix)
- ディスコの神様 feat. 藤井隆(Instrumental)
- Her Favorite feat. okadada(Instrumental)
- 衣替え(Instrumental)
初回限定盤カセットテープ収録曲
- ディスコの神様 feat. 藤井隆 カセットver.
- ディスコの神様 feat. 藤井隆 カセットver.(remix)
SALU(サル)
1988年、北海道生まれのラッパー。2010年に当時はまだ無名の存在だったにもかかわらず、SEEDAが所属するSCARSの「CASH & THE CASHER」で客演ラッパーとしてフィーチャーされる。翌2011年にはSEEDA「黙る時代は終わり」、JAY'ED「ブレイブ・ハート」、SIMON「Change My Life」といった楽曲に次々とフィーチャーされ、話題の存在となった。2012年3月、BACHLOGICが立ち上げたレーベル「One Year War Music」から1stアルバム「In My Shoes」を発売。翌年6月にはミニアルバム「In My Life」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビューし、2014年5月に2ndアルバム「COMEDY」をリリースする。
tofubeats(トーフビーツ)
1990年11月26日生まれ。神戸在住のトラックメーカー / DJ。中学時代からWEB上で自作の音源を発表し、高校時代には自作のCD-R作品をリリースする。2010年3月発表の「Big Shout It Out」、2012年6月発表の「水星 feat. オノマトペ大臣」がそれぞれiTunes Storeチャートを中心に話題を集める。2013年4月に初のオリジナルCDアルバム「lost decade」をリリース。同年11月には森高千里やの子(神聖かまってちゃん)をボーカリストに起用したミニアルバム「Don't Stop The Music」でワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEからメジャーデビューを果たした。2014年4月には藤井隆をフィーチャリングした新作ミニアルバム「ディスコの神様」を発表した。