ナタリー PowerPush - SALU×tofubeats

メジャーフィールドで躍る、2人の地方在住者

一生懸命生きれば生きるほどコメディになる

──SALUさんはtofuさんの新譜は聴きましたか?

SALU まだ全部は聴けてないんですけど、この前ラジオで新曲を聴いて。「今度は藤井隆さんとやってるのか、マジかよ!」って思ってすぐにネットで調べました。こういう動きをできるのがtofuくんの面白さだよなと思ったし。ディスコという意味では種類がちょっと違うかもしれないですけど、ヨーロッパのギャングスタラッパーたちがディスコチューンでラップする曲とか昔から大好きで。高校生の頃はそういうインストのトラックを使ってラップしてたんですよね。それも含めてtofuくんの作るトラックには勝手にシンパシーを感じてるんですけど。

tofubeats ありがとうございます。うれしいです。

──SALUさんのニューアルバムのタイトルが「COMEDY」で。こじつけだけど、新曲で藤井さんをゲストボーカルに迎えたtofuさんと思わぬところでリンクしたなと思って。

tofubeats そうなんですよね! アルバムの音はまだ聴けてないのが申し訳ないんですけど、なんでそのタイトルにしたのか聞きたかったんですよ。

SALU

SALU 最初は「COMEDY」というタイトルではなかったんです。もともとは角度によって物事は多面的に見えるという意味で“アングル”をコンセプトに作っていて。完成間近のときにアルバムを通して聴いてみたら、これめっちゃコメディだなと思ったんですよね。こいつ──僕のことですけど──こいつは超一生懸命生きていて、それが笑えるなって。

tofubeats なるほど。

SALU 一生懸命生きれば生きるほどコメディになるんだなって。だから、このアルバムを聴いて真剣に受け止めるというよりは、笑ってほしいんですよね。「こういうやつもいるのか。こいつよりはマシな人生だしがんばろう」って思えてもらえたらと。

──一方、tofuさんは以前取材したときに「切なくて薄っぺらいものにひとつの正解があると思う」と言っていて。「だから芸人さんが歌う曲が好きなんです」と。その言葉がすごく印象的だったんですけど。

tofubeats 例えば戦争が起きてるときに反戦歌を歌うのか、ジェンガをやって遊ぶのかみたいなことだと思うんですよね。僕は戦争中にジェンガとかやって遊ぶのってすごく切ない行為だと思うし、それって実は反戦的なんじゃないかと思っていて。

SALU ああ、面白い発想っすね。

tofubeats って言うと、ジェンガが反戦の道具にも見えちゃうからこんなこと言っちゃダメなんですけどね。でも、自分のやり方としてはジェンガのほうにあるなと思ってるんです。ユーモアのあるものを作ることに本気になりたいというか。

厚木と神戸という活動拠点

──今日は活動拠点の話もできたらなと思っていて。SALUさんは札幌で生まれて、途中、シンガポールでラーメン屋の店長として働いた過去などを経て、厚木にたどり着いて今に至るじゃないですか。そのバックグラウンドが自分の音楽表現にもたらしている最大の影響ってなんだと思いますか?

SALU やっぱり適応能力ですかね。それが伸びたというか、その場その場になじんでいくしか生きる術がなかったので。だから、よくも悪くも常にいろんな立場から物事を見てしまうんですよね。

tofubeats

──tofuさんはずっと生まれ育った神戸を拠点にしていて。神戸のニュータウンが、インターネット、J-POPと並んで音楽活動における大きなアイデンティティにもなってますよね。

tofubeats そうですね。東京に来ると「なんでずっと神戸にいるんですか?」って聞かれすぎて、だんだん「俺はなんで神戸にずっといるんだろう?」って考えるようになって。なんで神戸にずっといるかを考えることで、必然的に自分を客観的に見るようになったんですよね。だからいつも「自分はなんでこういうことをやってるんだろう?」って考えながら物事を進めていて。厚木も都内に比べたらそうだと思うんですけど、神戸にいるとのびのび曲を作れるのは大きいですね。

SALU それはすごくありますね。ここまで流転の人生を送ってきた僕が言うと説得力はないかもしれないけど、今のところ厚木をずっと大事にしたいなと思ってます。あと、今の僕にとっては厚木でもがき苦しんでるラッパー仲間をどれだけ闇から連れ出せるかが音楽をやる大きなモチベーションでもあって。厚木を大事にすることが大事というか。みんなをアルバムのゲストに呼んだり、作品をプロデュースすることはできないけど、僕がどこまでいけるかを見せることでポジティブな影響をもたらせたらいいなと思うし。

──自分なりのフックアップ精神はtofuさんも持ってますよね。

tofubeats そうですね。「ディスコの神様」もコーラスをラブリーサマーちゃんっていう東京の女子高生宅録アーティストにやってもらったり。でも、神戸のヒップホップの人たちとは交流が全然ないんですよね。だからずっと地元のクルーみたいなのはなくて。そういうときに大阪とか京都の人たちが「インターネットばかりやってないでイベントにも出てみなよ」って僕を現場に引っ張り上げてくれたんです。そのおかげで今の自分があるので。自分が彼らにしてもらったのと同じように、音楽が好きだけどどう動いていいかわからない、でも僕はカッコいいなと思う人たちをできる範囲で作品に呼んだりできたらいいなと思っていて。メジャーでやる意味もそういうところに見出してるし。と言ってもまず自分が成功しないといけないんですけどね。

自分で偶然を作りに行ってる

SALU tofuくんはどういうときに曲を作ってるんですか?

tofubeats それこそBLさんなんて四六時中トラックを作ってるんじゃないですか?

SALU いや、僕もあの人がどんなときにトラックを作ってるのか知らなくて(笑)。

tofubeats ああ、でも僕も1人じゃないとダメなんですよね。

SALU やっぱり1人のときのほうが集中できますか?

tofubeats 人がいると作れないですね。だから家にいるときにやってます。起きたらまず机に座ってYouTubeを観るか制作するか、みたいな。

左からSALU、tofubeats。

SALU 起きてから制作するまでにモチベーションを自分で上げなきゃいけないじゃないですか。

tofubeats 早いときは起きて5分くらいで制作に取りかかりますね。

SALU それはすごい!

tofubeats でも、モチベーションを無理に上げるとだいたいうまくいかないんですよ。今日は絶対にうまくいくなって思ったときに限ってうまくいかない。何気なく始めたときのほうがうまくいくんですよね。あと、締め切りがあるとがんばりますけど、うまくいかないときはすぐあきらめますね。

SALU なんにもビジョンがない状態でポッと出たもののほうが結果的にいいというのは僕もあります。

──tofuさんは新幹線で神戸・東京間を往復する時間も遊びでトラックを作ったりしてるんですよね。

tofubeats そう、リリースを目的にしたものではなくて「最近はこういうビートがはやってるのか、打ち込んでみよう」みたいなレクリエーション的なトラック作りは移動中や喫茶店でやることが多いですね。

SALU 景色が動いてたり、周りに人がいるとそれがインプットになったりしますよね。

tofubeats そうそう。僕は地元に友達がいないから、家に1人でいても何も情報が入ってこないので。たまにファミレスとかに入って女子大生の話に聞き耳を立ててやる気を得たりしてますね。アイドルのプロデュース仕事もやってるので、「これも仕事なんだ」って自分に言い聞かせてます(笑)。

SALU わかるなあ。僕も似たようなことをやっていて。スタバとかサイゼリヤにいる若い子たちの話を聞くだけでエネルギーになるというか。あとは、厚木から新宿まで行く電車の中で歌詞が書けることもよくあって。

tofubeats 突然アイデアが思いつくための準備をいつもしてるというか。本を読んだり公園に行ってすぐにアイデアが浮かぶわけじゃないけど、何かはチャージできてるんだろうなって皮膚感覚ではわかるから。

SALU 自分で偶然を作りに行ってるみたいな感じですよね。

tofubeats そう、偶然を作りに行ってるんだと思います。

SALU ニューアルバム「COMEDY」 / 2014年5月21日発売 / 2916円 / TOY'S FACTORY / LEXINGTON / One Year War Music / TFCC-86472
「COMEDY」
収録曲
  1. 100th Monkey
  2. New Balance
  3. 東京ゾンビ
  4. Comedy
  5. BMS
  6. Goodtime
  7. Weekend
  8. ムーンチャイルド
  9. Spaceboy
  10. 堕天使パジャマ
  11. Sphere
  12. Painkiller(Bonus Track)
tofubeats ミニアルバム「ディスコの神様」 / 2014年4月30日発売 / unBORDE
初回限定盤 [CD+カセットテープ] 2160円 / WPZL-30807~8
通常盤 [CD] 1620円 / WPCL-11708
CD収録曲
  1. ディスコの神様 feat. 藤井隆
  2. Her Favorite feat. okadada
  3. 衣替え
  4. HANERO
  5. ディスコの神様 feat. 藤井隆(tofubeats remix)
  6. ディスコの神様 feat. 藤井隆(Carpainter remix)
  7. ディスコの神様 feat. 藤井隆(Instrumental)
  8. Her Favorite feat. okadada(Instrumental)
  9. 衣替え(Instrumental)
初回限定盤カセットテープ収録曲
  1. ディスコの神様 feat. 藤井隆 カセットver.
  2. ディスコの神様 feat. 藤井隆 カセットver.(remix)
SALU(サル)
SALU

1988年、北海道生まれのラッパー。2010年に当時はまだ無名の存在だったにもかかわらず、SEEDAが所属するSCARSの「CASH & THE CASHER」で客演ラッパーとしてフィーチャーされる。翌2011年にはSEEDA「黙る時代は終わり」、JAY'ED「ブレイブ・ハート」、SIMON「Change My Life」といった楽曲に次々とフィーチャーされ、話題の存在となった。2012年3月、BACHLOGICが立ち上げたレーベル「One Year War Music」から1stアルバム「In My Shoes」を発売。翌年6月にはミニアルバム「In My Life」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビューし、2014年5月に2ndアルバム「COMEDY」をリリースする。

tofubeats(トーフビーツ)
tofubeats

1990年11月26日生まれ。神戸在住のトラックメーカー / DJ。中学時代からWEB上で自作の音源を発表し、高校時代には自作のCD-R作品をリリースする。2010年3月発表の「Big Shout It Out」、2012年6月発表の「水星 feat. オノマトペ大臣」がそれぞれiTunes Storeチャートを中心に話題を集める。2013年4月に初のオリジナルCDアルバム「lost decade」をリリース。同年11月には森高千里やの子(神聖かまってちゃん)をボーカリストに起用したミニアルバム「Don't Stop The Music」でワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEからメジャーデビューを果たした。2014年4月には藤井隆をフィーチャリングした新作ミニアルバム「ディスコの神様」を発表した。