ナタリー PowerPush - さかいゆう

一人多重奏で完全ハンドメイド 「ONLY YU」の核心に迫る

太い幹のように立ちたい

──それでは収録曲についてお訊きします。すべて1人だけで作ったとは思えないぐらい、見事にそれぞれが異なる方向で、バリエーションに富んだ内容になりましたね。

こういうふうになっちゃいましたね。入れたい曲を入れると。イイ奴の僕もいれば、ひん曲がってる部分もあるし、そういうのも全部アルバムにパッケージしたかったんですね。パーソナルな意味で。

──実際こうやって1人で作ってみて、1人だからこそ見えてきた自分の特性というか、自分の中で「俺、こんなだったんだ」みたいな新たな発見はありませんでしたか?

なんだろう、確かにいろんな部分が見えてきましたよね。「自分の大切な人がこれを聴いて元気になったらいいな」とか寒気が立つほど嫌いなんですけど……言葉を選んでるとき、意外にそういうことを考えて書いてることもあったりして。俺って偽善者なのかなって思ったりもしたけど、書き上げると必ず、それは偽善的なものじゃなくて全部が本当で。今まで「自分のために書いてる」って言ってたのはちょっとカッコつけてたのかなって思ったり、本当の“素”ってなんだろなって自分でわかんなくなる瞬間はありましたね、うん。

──後世に残る、美しい極上のポップスを作ってきた先人たちも、失礼な言い方かもしれませんが、一筋縄ではいかない性格だったりしますよね。さかいさんの音ににじみ出るヒネた感じには、その先人たちと同じものを感じるんですよ。どこか堂々としたたたずまいも含めて。自分の作品に対するゆるぎない自信を感じるというか。

うん。僕自身、自分に自信を持っている人に憧れますから。僕、いばってる奴は大嫌いなんですよ。自信がある人のことを指して「いばってる」っていう人は、その人自身がひん曲がってるんだと思いますね。昔、大瀧詠一さんが「僕は自分に自信があるだけですよ。僕のことを嫌いな人は、そいつが嫌な奴なだけだ」みたいなことをおっしゃってたんですけど「まったくそのとおりですよ! よくぞ言ってくれました!」って思いましたもん。俺もなんでその言葉思いつかなかったんだって思っちゃうぐらい、ホンット正しいって思った。

──まさに今名前が出た大瀧詠一さんしかり、日本でもそういった「奇才の系譜」みたいなのがあると思うんですね。それで、さかいさんはそのピープルツリーの一番新しい枝の1本だと思っていて。

アハハハハ。僕も60歳ぐらいになったらああいう言葉を発することができるようになるのかな。どんなロックシンガーよりもロックだと感じたし、精神的にえぐられましたね。太い幹のように立ちたいし、鴨長明じゃないですけど、川の流れのように生きていきたいな、というのは考えますね。ミュージシャンとしてだけでなく……僕、19歳のときにフェンス職人をやってたんですけど、親方はみんな自分の仕事に誇りを持って、毎日毎日充実してるんですよ。でもその頃に会った親方って、今の俺より年下ですからね。堂々とした、太い幹のような存在感を持った職人たちはカッコよかったなぁ。

尊敬しているからこそ、まったく違う解釈で歌いたかった

──初回限定盤に収録されるカバー2曲も、洋邦のそういった先人たちの楽曲がセレクトされていますね。この選曲はどのような基準で?

曲が好きだからというのが一番。マイケル・ジャクソンの「Rock With You」はメロディが好きなんです。歌詞は「ほら、力を抜きな? 戦わなくていいんだよ」「僕とロックしよう」っていうなんでもない歌詞、とか言うと怒られちゃいそうだけど(笑)。それがマイケルの声とメロディで歌われるとすごくいい。そのメロディの良さを表現するならば、と考えたら、全部ケミカルな音で、テンポも上げてガシャガシャなのに、どこかメロウな感じがあるというのが良いなぁと。逆に歌はすごくソフトに歌って。僕のバージョンを聴いて「あれ? この曲ってこんなにメロディ良かったっけ?」って思ってもらえたら一番うれしいです。

──マイケルの場合は、ゆるぎない個性にまず耳や目を持っていかれるから、メロディだけに特化して論じられることはあまりないですよね。

山下達郎さんの曲(「FUTARI」)もそうですよ。達郎さんもすべてが“山下達郎”ですもんね。歌も演奏も何もかも。カバーでは曲そのものにリスペクトを込めて作っているので、改めて原曲に舞い戻って聴いてもらえると、より深みが増すかもしれません。

──達郎さんも、まさに先ほど話した「奇才の系譜」の根っこにいらっしゃる方ですよね。数ある名曲の中から、あえてこの曲を選んだ理由は?

この曲はね、メロディと歌詞と雰囲気がすごい好きで、昔からよく聴いてたんです。何回もこの曲に助けられたし、だから恩返ししたいなぁって。でも、ただサウンドが新しくなったぐらいではあんまり恩返しにならないなと思うんですよ。オリジナルにはないポツリ感とか孤独感とか、原曲にはない未完成な感じが表現できたかなとは思います。

──マイケル同様、楽曲の中にある大きな大きな“山下達郎”の存在を取り除いて、それを自分のものにするという作業は大変ですよね。

あぁー、そうっスね。やっぱり、ずっぷり影響受けてずっぷり尊敬した人だからこそ、まったく違う解釈で2人の曲を歌いたかったんですね。だから本人には聴かせたくない(笑)。

ミニアルバム「ONLY YU」 / 2011年3月9日発売 / アリオラジャパン

  • 初回限定盤 [CD] / 2000円(税込) / AUCL-55 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤 [CD] / 1890円(税込) / AUCL-56 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. music
  2. AHEAD
  3. ケセラセLife
  4. ソングライダー
  5. It's YOU
  6. 夏のラフマニノフ

<初回限定盤ボーナストラック>

  1. Rock With You(オリジナル:マイケル・ジャクソン)
  2. FUTARI(オリジナル:山下達郎)
さかいゆう

アーティスト写真

高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながら、ピアノを習得。同時期より作曲活動も始める。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化。2006年に発表したミニアルバム「ZAMANNA」がFMチャートの上位を記録したほか、収録曲の「Midnight U…」がiTunes Storeの「今週のシングル」に選出され好評を博す。2008年1月にフルアルバム「YU, SAKAI」を発表し、2009年10月にシングル「ストーリー」で満を持してメジャーデビュー。胸に打ち響く歌詞、透明感あるハイトーンボイスが年齢や性別を超え熱く支持されている。また客演も多く、これまでにPUSHIM、マボロシ、KREVAなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。