清竜人×谷口鮪(KANA-BOON)|スタイルは違うが恋愛観は同じ?大阪出身・同世代の初顔合わせ対談 (3/3)

ラブコメの“ラブ”を担う、竜人くんの「トリック・アート」

──そして一方の清さんによるエンディングテーマ「トリック・アート」ですが、昨年リリースのアルバム「FEMALE」のムードからまた一変して、25にも通じる“竜人くん♡”路線というか……。

 去年の秋に「FEMALE」を出して、このあと出すシングルは「清竜人はここからこういう流れになるのかな」と次のアルバムに向けての流れを示唆するポジションになるから難しいなと考えていたんですが、とりあえず先のことは考えず、このアニメ作品のことだけを考えて作ることにしました。……だから今ちょっと悩んでますね。こういう曲になっちゃったし、ミュージックビデオでは踊っちゃったし(笑)。こっからどうしようかなと。

 あはははは。

──女子と戯れているときの竜人くんはホントに生き生きしてますよね(笑)。

 生き生きしてますか? 抑えてるつもりなんだけど(笑)。

 めちゃくちゃ漏れ出てますよ(笑)。心底楽しいんだろうなあと。

 まあ、楽しいのは楽しいですよ。

 すごくいい曲ですよね。アニメと音楽は乖離したものではなく、オープニングがあって本編があってエンディングがある、という30分の流れを1つのものとして僕は捉えていて。その感覚で「トリック・アート」を聴いたとき、しっかりアニメの一部になっていて、毎回飽きない。終わりで飽きない、ちゃんと次が楽しみになる終わり方をするような楽曲だなと。

 ああ、それはうれしいな。よかった。

 「山田くん」はラブコメの中でも“コメ”の部分が多めな作品だと思っていて。僕らの「ぐらでーしょん」はだいぶコメをはらんだ楽曲になりましたけど、竜人さんの「トリック・アート」は“ラブ”のほうを思い切り担っていて、お話を締める、少し大人な……誤解があるかもしれないですけど、あえてドライな感じを出しているのかなと思いました。

 今のお話を聞いて……少し手前味噌ですけど、オープニングとエンディングの相性、本編との相性、全部のバランスがいい形になっているかもしれないですね。どこにも違和感がなく、曲も分離していない。

街を歩けば「好き」がいっぱい、恋愛体質な2人

──KANA-BOONと清竜人の音楽性はまったくの別物だと思っていましたけど、89秒に凝縮されたアニソンのキャッチーさを通して、共通する部分も多かったんだなと感じました。例えば「恋愛至上主義」の収録曲「ボーダーライン」なんかは清 竜人25が歌っても違和感がないほど接近しているなと思いましたし。

 はいはい。ちょっとスウィングしている曲で。実は「ボーダーライン」は今回のオープニングテーマのもう1つの候補曲だったんですよ。2曲提出したうちの1つで。

──「恋愛至上主義」は「ぐらでーしょん feat. 北澤ゆうほ」や「ボーダーライン」を含む“ラブソング集”として作られたコンセプトアルバムで、デビュー10周年記念盤“10th Anniversary Edition”には失恋を描いたラブソングのみ計17曲を収めたベストCD「失恋のすゝめ」も付属します。ラブソングは洋邦ジャンル問わず音楽、歌モノの中心にあるものだと思いますが、お二人が考える“ラブソング観”を聞いてみたいです。

 ラブソングは体験をもとに書いてますか?

 昔はそういう曲もありましたけど、最近はもうホント、仏みたいな顔でタバコをぷわーっと吸いながら酒飲んで「好きだよ」とか書いてますね。

 あはははは。

 無表情でなんの感情もなくラブソングを書くマシーンになってしまいました。

──「痛いよ」なんて名バラードを持っている人が(笑)。

 最近は自分の曲もですけど、特に提供モノ、女の子のアイドルとかだとラブっぽい描写を求められることがままあるのと、それこそ25をやってた頃は、基本的に男と女のグループだから男女の感情のやりとりみたいな描写が多かったから……麻痺してきますよね。それも恋愛と似てるんじゃないですか? しすぎると麻痺する(笑)。書きすぎると麻痺して、最近は何が恋なのかよくわかんない。はっはっは。

 ラブソング集なんて作りましたけど、僕はまだ仏にはなってないです(笑)。フィクションで書いた曲もあるけど、やっぱり体験したことや感覚から出てくるものが多いですね、僕は。ここ最近は、ちゃんと人間力を持って生きないとなという気持ちが強くなっているので、人間として恋にいちいち振り回されている自分を素直に曲に落とし込んでみようと。ラブソングを書くのが難しいと思ったことはないですね。恋自体は難しいけど、恋の歌を作るのは……逆にその難しい恋愛の答えを示してくれるものなので。ありがたいです、ラブソングって(笑)。

左から清竜人、谷口鮪(KANA-BOON)。

左から清竜人、谷口鮪(KANA-BOON)。

左から清竜人、谷口鮪(KANA-BOON)。

左から清竜人、谷口鮪(KANA-BOON)。

──歴代の失恋曲だけを集めて17曲もあるというのはなかなかのものですよね。

 そう、KANA-BOONは失恋の曲が多くて。そんな失恋しまくってるわけじゃないんですけど(笑)。1つの失恋に執着して、たくさんたくさん曲を作っているんです。

 失恋ベスト。いいですね。

 失恋ベストが出せるバンドってなんなんだって悔しくなりますけど(笑)。

 まあでも失恋じゃないとあんまりいい曲にならないですしね。ハッピー! 大好きよ! うれしい私もよ!みたいな曲を誰が聴きたいねんみたいな気持ちになるし(笑)。風情がない。つらい思いをしていて、心の叫びがないといい曲にはなりにくいですね。僕も失恋ソングは大好物です。

 うん。ハッピーなときには曲はできないですね。やっぱり恋は一番音楽になりやすい感情なのかなと思います。一番心が動くのは恋と音楽にまつわることぐらいで。友達と普通に飲んでいて特別に心がガコンと外れることもガチャンとはまることもないし(笑)。恋なんて10代から20代前半が一番のピークだと思ってたけど、30代になってもこんなガクガクなんやなと。歳をとればとるほど恋に敏感になってるかもしれない。

 なんか高岡早紀みたいでいいですね(笑)。大人になってより情熱的になるって、すごくいいなあ。へえー。気持ちはすごくわかりますね。すぐ好きになっちゃうんで。今日ももう2人くらい好きになってる。

 まだ昼やのに(笑)。

 ここに来る途中でちょっとかわいい子とすれ違って。すれ違っただけでもほぼ「好き」ってなるから。ちょっと優しくされるだけでも好きになる。

 街を歩けば「好き」なんですよ。好きがいっぱい。

 日本には好きがいっぱいあふれてるから(笑)。

 非常にわかります(笑)。

左から清竜人、谷口鮪(KANA-BOON)。

左から清竜人、谷口鮪(KANA-BOON)。

左から清竜人、谷口鮪(KANA-BOON)。

左から清竜人、谷口鮪(KANA-BOON)。

とりあえずケータイを壊します

 KANA-BOONは今年ちょうどデビュー10周年なんですよね。20年、30年と続けているバンドを見て、どう思いますか? Mr.Childrenだとか、サザンオールスターズだとか。

 デカすぎる存在ですよね。

 うん。あの規模で、メジャーでずっと活躍し続けているバンドについて、自分たちと照らし合わせてどう考えてるんやろうなって。

 なんでしょう、「すごいな」とはまた別で……いい人たちなんだろうなと。それぞれがメンバーに対してちゃんと敬意を持っている人たちの集まりなんだろうなと思うんですよね。続いているバンドって。

 なるほどなあ。ソロだとわからないバンドの空気感というのがあって。しかもそれだけ長く続いているようなバンドだとなおさらで、10年以上バンドを続けている人だと何かわかる部分があるのかもしれないと思って、ぜひ聞いてみたかったんですよね。

 たぶん無理やりやらされているわけじゃないと思うんですよ(笑)。バンドは……組まないんですよね?

 そうですね。たぶん性格的に続かない気がするんで。期間限定だとか、そういうのはやってみたい気持ちはありますけど。

 今日お話ししてみて、すごく見てみたいなと思いました。2カ月とかでもいいんで(笑)。バンドとともにいる竜人さんが見てみたい。

 1回だけ企画モノでTOWNというパンクバンドをやったんですけど、その場で会った人と音楽をやるっている特殊なものだったんで(参照:26分の衝撃、演者と観客の垣根を取り払った清竜人TOWN初ライブ)。ちゃんと「こいつとやってみたいな」と思うメンバーを集めてバンドを組んで、バンド名を付けて活動するみたいなことは……この人生ではなさそうな予感はしています。バンドの人がソロ名義でやるのも難しいですよね。「あんま音楽性変わらんなあ」みたいなことも多いじゃないですか。

 うんうん。

 それだとやる意味あるのかなと思ったりもするから。やってみないとわからない難しさもあるだろうし。もしソロでやるとしたら、どういう音楽をやりたいとか考えたことはありますか?

 あまり考えたことはないですけど……やるならまったく違うものにすると思いますね。「何が違うの?」と思われるような音楽をやるのは、バンドに悪いので。バンドメンバーが面白がってくれるようなものじゃないとね。

 確かになあ。バンドのフロントマンだとそうなっちゃいますよね。

 僕からも1つ聞いていいですか? 一番ハードなときって、どうやってリセットしてますか?

 忙しいときってことですか? うーん……どうやって気持ちをリセットしてってことですよね。仕事をドタキャンするとかじゃなく。

 (笑)。リセットをしないとしても、エネルギーの補給というか、どうやってますか?

 僕はちゃんと音楽で疲れるタイプというか……好きなことを仕事にしてるから、肉体的に疲れることはあっても精神的にしんどくなることはない、HPが減らないという人も中にはいると思うんですけど、僕はしっかり疲れるんで。アルバムを1枚出し終わったらちゃんと休養期間を取るようにしていますね。とはいえ、制作期間の中でキャパシティ的にいっぱいいっぱいになることもあるから、そのときはとりあえずケータイを壊します。

 あはははは。

 外部との接点を断つ。どんなに追い込まれてもなんだかんだ仕事は続いちゃうから、物理的に断つしかない。ゼロか100かにしてますね。こう、パッと(ケータイを割る動作)。

 ちょっといい作戦を聞いたかもしれません(笑)。

 あまり社会不適合者の話を聞かないほうがいいですよ(笑)。

 さっきの話で言うと、僕はどっちかというとHPが減らないタイプなんですよ。でも10周年でいろいろあるし、どうしても忙しくなってくるから、何か方法があるなら先人に聞いておきたいなと。この先、僕の連絡が途絶えたらそういうことです(笑)。

左から谷口鮪(KANA-BOON)、清竜人。

左から谷口鮪(KANA-BOON)、清竜人。

清竜人 公演情報

「清 竜人 弾き語りコンサート 2023 夏」

2023年8月20日(日)東京都 自由学園明日館 講堂
[1部]OPEN 13:15 / START 14:00
[2部]OPEN 16:15 / START 17:00

プロフィール

清竜人(キヨシリュウジン)

1989年生まれ、大阪府出身のシンガーソングライター。15歳でギターを手にし、作曲を始める。16歳のときには早くも自主制作盤を発表し、そのクオリティの高さが音楽関係者の間で話題となった。映画「僕の彼女はサイボーグ」への挿入歌提供を経て、2009年3月にシングル「Morning Sun」でメジャーデビュー。その後もシングル、アルバムを精力的にリリースし、2014年9月から2017年6月にかけては“一夫多妻制”アイドルユニット・清 竜人25として活動。およそ3年におよぶプロジェクトで6枚のシングルと2枚のアルバム、合計31曲のオリジナルソングを作り上げた。清 竜人25と並行し、2016年12月に立ち上げたプロジェクト・TOWNでは「演者と観客との境界線を取り払う」というコンセプトのもと、公募によるメンバーや観客を巻き込んでのライブを敢行し、合計12回のライブをもって2017年7月に解散。同年12月にピアノ弾き語りツアー「KIYOSHI RYUJIN SOLO TOUR」でソロ活動を再開した。2019年5月、新元号「令和」が施行される1日にニューアルバム「REIWA」をリリース。2021年3月にソニー・ミュージックレーベルズへ移籍し、11月にテレビ東京系ドラマ「スナック キズツキ」のオープニングテーマ「コンサートホール」を配信リリースした。2022年11月に通算8枚目となるオリジナルアルバム「FEMALE」を発表。2023年6月、テレビアニメ「山田くんとLv999の恋をする」のエンディングテーマを収めたシングル「トリック・アート」をリリースした。

KANA-BOON(カナブーン)

高校の同級生だった谷口鮪(Vo, G)、古賀隼斗(G, Cho)、小泉貴裕(Dr)を中心に結成され、地元大阪を中心に活動を開始。2012年に参加した「キューン20イヤーズオーディション」で4000組の中から見事優勝を射止める。2013年4月には活動の拠点を東京に移し、同年9月にシングル「盛者必衰の理、お断り」でメジャーデビューを果たす。2018年にはメジャーデビュー5周年企画として、新作のリリースやライブイベントの開催を5シーズンにわたり展開するプロジェクト「KANA-BOONのGO!GO!5周年!」を展開した。2021年10月にシングル「Re:Pray」をリリースし、全国ツアー「KANA-BOON Re:PLAY TOUR 2021-2022」を開催。2022年3月にアルバム「Honey & Darling」を発表し、4月に東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)と大阪・NHK大阪ホールでワンマンライブ「KANA-BOON presents『Honey & Darling』-Tokyo Honey, Osaka Darling-」を行った。4月に新メンバーとして遠藤昌巳(B)が加入。5月より19都市20公演におよぶ新体制初の全国ツアー「KANA-BOON LIVE TOUR 2022 Honey & Darling」を開催した。2023年6月、テレビアニメ「山田くんとLv999の恋をする」のオープニングテーマ「ぐらでーしょん feat. 北澤ゆうほ」を含むラブソング縛りのコンセプトアルバム「恋愛至上主義」を発表。同月から8月にかけて対バン形式のライブツアー「KANA-BOON Jack in tour 2023」を行う。