「RECORD STORE DAY JAPAN 2026」開催記念|今年のミューズ・満島ひかりがceroと邂逅 (2/2)

自然と人間の行動=ダンス

──歌詞を見ると「踊る」「体を揺らす」「ステップを踏む」のように、ダンスに関する言葉が頻出しますよね。このあたり、満島さんの中では意識されて書かれたんでしょうか?

満島 今、好きな学者さんが2人いて。お一人は佐治晴夫先生。“1/fゆらぎ”について研究されてる学者さんですね。佐治先生がおっしゃる「ゆらぎは人間の根源的な癒しである」っていう発見がすごく好きなんです。それと国立天文台の縣秀彦先生。以前お会いしたときに「月がなければ渚は生まれない」と伺って。月があるから波が揺れて、砂浜があるから渚があって、という話ですね。それがすごくいいなと思ったんです。お二人から聞いた話が、私の書く歌詞にも影響を与えてるんじゃないかな。自然と人間の行動が、広い意味でダンスっぽくなっているとか、そういう事象がすごく好きなんだと思います。

──どちらかと言うと、自然界の大きな営みやサイクルとしての“ダンス”だと。

満島 そうですね。私は今のところ、人間個人に対しての歌詞はあんまり書かないタイプのようで。リスナーとして聴くのは好きなんですけどね。髙城さんの書く歌詞も好きですし、私もできるのであればそういう歌詞をいつか書いてみたい。でも、どうしても達観したり俯瞰したりしちゃうのは、もう癖なんだろうなあと思います。お芝居をしていても「ここは猫っぽくいこう」とか「ここは道路工事の音っぽくいこう」って考えちゃうこともあるんです。そう思うと恥ずかしいですよね、歌詞って。やっぱりどう隠しても、どう物真似しても、自分の中の何者かがにじみ出ちゃうじゃないですか。

満島ひかり

満島ひかり

髙城 ひとくちに詞と言っても、叙事的なものと抒情的なものがあって。叙事的に寄れば寄るほどストーリーテリングに近付いて、抒情的になればもっと散文的な意味の断絶した言葉の羅列になっていく。その意味で、僕は自己分析をするに、叙事的な歌詞を書くことが多いと思うんです。メロディを抜きにして読んでも、なんとなく意味が通るようにしたいって思考にいきがち。満島さんはどちらかと言うと抒情的なほうですよね。一緒に制作をしていて、言葉が意味を離れて音になっていくプロセスが面白いなと思いました。さっき言ってた“ゆらぎ”のほうにいくプロセスともリンクしてる話かもしれないですね。

満島ひかりの言葉の当て方

──曲作りの工程としては、満島さんの歌詞を起点に、メインのメロディが作られていくというような流れですか?

髙城 いや、メロディは僕も荒内くんも曲ができた時点で作っていたので、満島さんはそこを想定して歌詞を書いてくれました。意外だったのは、例えば「羽」という言葉を、最初は「は」と読んで、次は「はね」と読んでみたり、同じ単語でも読み方の変化を付ける、そういうテクニックをメロディに入れ込むのがすごくうまいんですよ。勉強になりました。

──ceroの音楽はいわゆるJ-POP的なものと違って、声の配置や音響的な響きまで細かく試行錯誤するという印象があるのですが、満島さんの声とメロディを扱ううえで意識したことはありますか?

荒内 「踊るノアール」はメロディを書く時点で、日本語が乗せやすく、かつ満島さんの声にフィットするような曲を想定していたので、そこまで考えてなかったかもしれません。あえて言うなら、J-POPのように歌を前にドンと配置したようなものではなく、トラックの中にいてもらうぐらいのバランスは意識しました。

髙城 「dröm」は満島さんの声以外に、“歌ってる楽器がいっぱいある”という状態にしたかったんです。トランペットもたゆたって好きにラインを吹いていて、シンセもずっとフワフワと鳴ってる。ギターもメロディの裏でずっとオブリしていて……と、そんな感じで楽器たちが会話してる中に、満島さんもその一部として入ってもらうくらいのバランスを想定していました。満島さんともそのコンセンサスが取れている感覚があったので、いい形でハマったのかな。

──満島さんご自身は声の扱い方であったり、歌唱のニュアンスであったり、どのように考えながらレコーディングされましたか?

満島 基本的には、楽曲を作っていただいて、そこに歌を乗せることがほとんどです。それぞれに個性豊かな楽曲なので、どこにフォーカスを絞ればいいのか判断に時間がかかります。スタジオとか、そこにいる作り手たち、流れる空気をなんとなくつかんだり。それから、演劇だとその日の感じで速度が変わるけど、音楽はテンポが決まってることが多いじゃないですか。それを自分の呼吸に馴染ませたり、レコーディングブースの環境を自然だと感じることに時間がかかってしまったり。体が自然にリズムを取るようになると、そこでやっとテンポを手離せてよくなる気がして。自己をなくして、音そのものになったらいいなあと、いつも願ってます。

荒内 「dröm」のデモで髙城くんが歌った仮歌はちょっと英語っぽい発声を入れてたんだけど、満島さんはそのイメージから少し離れたかったみたいで。それでピアノで弾いたメロディを髙城くんが送り直したんです。そこから日本語らしい響きに変わって、乗り方も後ろめになってタイム感にも変化が生まれました。ceroは英語のような子音や破裂音が多い言語がハマるメロディが多くて、それとどう向き合うかが課題だったけど、満島さんのような日本語の当て方もあるんだなと、すごく勉強になりましたね。

次のコラボはタイでレコーディングを

満島 レコーディングの前に、ceroのライブを観に行ったんですよ。以前から好きな、光永(渉)さんのドラムがやっぱりすごくよくて、今回の曲も「打ち込みじゃなく、光永さんに叩いてほしい」とお願いしました。そしたら、光永さんがレコーディングに大量の乾燥昆布を持ってきて。

──どういうことでしょう?

満島 昆布が連なった楽器なんです。

髙城 昆布で楽器を作っている知り合いの職人さんにもらったみたいで。昆布同士が擦れてカサカサって音がするんですよ。

満島 ちょうど湿度的にもいい時期だから昆布が扱いやすかった、とおっしゃってました。

髙城 最初のデモは打ち込みで作っていて、さっき満島さんが言ったようなタイム感はかなりシビアな状態だったんです。そこからいろんな人の手が入って有機的なものに変わっていくプロセスで、みっちゃん(光永)がすごく作用してくれたと思いますね。歌と生の楽器がどうやって入っていくかで、タイム感の伸び縮みは変わってきますから。昆布の楽器も、そういう有機的な要素にすごく寄与していて、だんだんトロンとした感じのものに変わっていった。

満島 そうなってくるとやっぱり歌いやすいですね。耳の中がずっと幸せでした。

──自分の中でもある程度、タイム感の融通が利くというか。

満島 そうかも。時間の融通が利かない感じは変な焦りにもなるので、やっぱり融通が利くほうが好きかなあ。

荒内 確かにレコーディングのとき、ビートに対してけっこう後ろめで歌うなと思ってました。初めて歌う曲の場合、普通は走っちゃうから珍しいなって。

満島 後ろめのほうが最近は楽しく歌えるんです。ゆったりしたい気持ちの表れかもしれないですね。実はもう1曲、橋本さんがタイに行っていたときに作ってくれた曲もありまして。好きな方向のドリームポップな曲で、これまた楽しい曲なんです。

橋本 機会があれば歌ってもらいたいですね。

満島 メロディを口に出して歌ってみたら、ハッピーな気分になりました。また近いうちにリトライできたら幸せです。橋本さんがタイで作ったなら、私もタイでレコーディングしたいなって考えています。

「RECORD STORE DAY 2026」アナザービジュアル

「RECORD STORE DAY 2026」アナザービジュアル

RECORD STORE DAY JAPAN

毎年4月の第3土曜日に世界で同時開催されるアナログレコードの祭典。2008年にアメリカでスタートし、現在世界23カ国で数百を数えるレコードショップが参加を表明している。日本での運営は東洋化成が担当。レコードショップで数多くのアーティストのアナログレコードの限定盤やグッズなどが販売される。また世界各地でさまざまなイベントも行われ、毎年大きな盛り上がりを見せている。

RECORD STORE DAY JAPAN

プロフィール

満島ひかり(ミツシマヒカリ)

1985年11月30日、鹿児島県生まれ、沖縄県育ち。1997年にダンスボーカルグループ・Folderでデビュー。音楽活動を経て2005年から俳優業を始め、数々の作品に参加している。近年は「First Love 初恋」「ラストマイル」「兄を持ち運べるサイズに」などに出演。待機作に映画「時には懺悔を」がある。NHK Eテレの教育番組「アイラブみー」では、70役以上の声を担当している。並行して音楽活動も展開しており、2017年にMONDO GROSSOが「RECORD STORE DAY JAPAN 2017」に合わせてリリースした12inchアナログ「ラビリンス」にボーカリストとして参加。昨年も7inchアナログ「LOST CHILD」を発表した。2026年にはアナログレコードの祭典「RECORD STORE DAY JAPAN」のミューズを3年ぶりに務め、ceroをプロデューサーに迎えた新作「踊るノアール / dröm」を発表した。

cero(セロ)

2004年に髙城晶平(Vo, G, Flute)、荒内佑(Key)、柳智之(Dr)の3人により結成されたバンド。2006年に橋本翼(G, Cho)が加入し4人編成となった。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成に。2015年5月に3rdアルバム「Obscure Ride」、2018年5月に4thアルバム「POLY LIFE MULTI SOUL」をリリースした。最新アルバムは2023年5月発表の「e o」。3人それぞれが作曲、アレンジ、プロデュースを手がけ、サポートメンバーを加えた編成でのライブ、楽曲制作においてコンダクトを執っている。2025年公開のアニメーション映画「ホウセンカ」の主題歌および劇中音楽を担当した。