ナタリー PowerPush - RINKO
過去を乗り越えて見えた“自分の歌”
監禁事件を機により冷静になった
──自分らしい歌のスタイルができあがったと感じられるようになったのはいつ頃?
ここ最近ですね。私はメロディを歌いながらポイントで韻を踏んでいくスタイルが得意で。これは最初にやってみたら「ヤバい、カッコいい!」……って自画自賛なんですけど(笑)。でも、いろんな人に「こういう歌い方できる人ってあんまりいないよ」って言われているんですよ。歌詞の内容は、上京してから起きたつらい経験を乗り越えたことで変わっていったような気がします。
──そのつらい経験っていうのは、RINKOさんがファンに監禁されたという事件のことですか? 資料にはこの事件について、「ハードコアファンに10日間監禁され、逃げ出したが、1人の警官に“戻って殺されてこい!”と言われた」と書いていますけど。
はい。監禁されていた場所から脱出して、アザだらけの体でやっとの思いで警察に駆け込んだんです。でも全然取り合ってもらえず、助けてもくれなくて。それからは数年間はPTSDに悩まされました。
──それは生活が一変してしまうほどの出来事ですね。
はい。昔の仲間に会っただけで呼吸ができなくなってパニックになったりして、クラブにも行けなかった。それに友達も離れていっちゃうから、「あれ、私って被害者のはずなんだけど? 本当に誰も助けてくれないんだ」って思って。さっき昔から冷めていたところがあったと言いましたけど、監禁事件を機により冷静に物を考えるようになりました。そして生活も一変して、ずっと家に籠もって本を読んでいました。
──ちなみに、どんな本を?
そのときの状況から立ち直るための思考法が書いてあるものとか、そういった類の本ですね。そのうちに嫌なことがあったりうまくいかないときでも、物事を冷静に捉えることができるようになっていきました。人生を振り返って、遠回りもしたし苦しかったけど遠回りすること自体は悪いことじゃないって思えるようにもなったり、以前よりも深い考え方ができるようになって。
──そういう出来事を経たことで、自分らしさを発見できたところもあるのでは?
ええ、自分の経験をもとにした歌詞を書くようになって、自分しか歌えないことが見えてきたんです。あとは以前やっていたゴリゴリのヒップホップやR&Bよりも、もっといろんな人に聴いてもらえるようになったっていう手応えも出てきたし。
──なるほど。音楽的な面でも変化はありましたか?
音楽的なところでは、アメリカ人プロデューサーのD. Focisとの出会いがすごく大きくて。それまで歌っていたトラックは、“ここでもっとこうきてほしいのにな”って思いながら歌うこともあったんですけど、彼のトラックを聴いたとき、あまりにグルーヴが完璧で驚いて。それで自分が本当にやりたい音楽がまとまってきたんです。
有名な人にトラックを依頼するような高望みはしない
──そのD. Focisも参加している「NAKED LIFE」についても聞かせてください。
今回はアルバムのために楽曲を書き下ろして制作していったわけではないんですけど、以前から歌っている曲をアレンジし直したもののほかに、新しい曲も入っています。私、今流行のEDMはちょっと苦手で。とはいっても今っぽさがあることも大事だから、エレクトロのテイストを取り入れてバランスを取っていきました。あとは有名なトラックメーカーに曲を作ってもらうというような高望みはしないで、自分の近くにいる才能のあるアーティストと一緒に作るというところにこだわって。
──アルバムの制作で何か苦労はありましたか?
トラックをどういう感じに仕上げるかが悩みどころでしたね。「100万ドルの夜景」は途中でどんなサウンドにしたらいいのかわからなくなってしまって、D. Focisにミックスの作業を投げてみたんです。そうしたらすごくカッコよく仕上げて戻してくれました。そうやっていろんな人の意見を聞きながら作業を進めていったことで客観的に曲を見ることができたので、自分が予想していたよりもいい作品になったと思います。
──アルバムには全収録曲のビデオクリップを収めたDVDも付属しています。
はい。PVを撮影したディレクターはすごく才能があるんですけど、ストイックで気難しいところもある人で。彼女に映像を頼むと大変な仕事になるとは思っていたけど、絶対によいものができるって信じていたのでお願いしました。彼女はヒップホップっぽいアクションが嫌いで、ちゃんと曲の世界観を仕草などで表現できるまで、何時間もかけてやり直しました。超ハードな撮影だったけど、どのPVもいい作品になったと思っています。
──アルバムを聴くと、やっぱり自分の体験を赤裸々につづった歌詞が耳に残ります。過去を包み隠さずに歌おうと思ったのも、自分らしい表現を模索した結果だったのですか?
ええ。あとすごく不思議に感じることがあるんですけど、私みたいな過去があって、それを乗り越えてきたって発言すること自体、日本の社会はよしとしていないんです。
──と言うと?
アメリカで同じようにカムバック体験を話したら歓迎してくれるのに、日本はなぜかそうはならない。被害者なのに社会から隔離されて周りから非難されるから、余計につらい思いをしてしまうことが多いんですね。悪いことなんてしていないのに悪者扱いされるのってどう考えても変だからそういう問題をなくしたいのに、被害者たちもそれを隠すから解決できなくなってしまう。
楽しいのと苦しいのが半々くらい
──そういった思いも、楽曲に込めているんですか?
はい。例えば、最近の幼児虐待とかのニュースを受けて、「今はこういう曲が必要とされているのかなって」考えてアルバムに入れたのが「I Don't Wanna Be Like You」です。
──「I Don't Wanna Be Like You」は、ご自身の家庭環境をつづったようなリリックが印象的で、耳に残ります。
ええ。だから以前この曲を歌っていたときは昔のことを思い出してどうしても怒りがこみ上げちゃったりしたんですけど、今は過去を受け入れて、消化してるのでもう少し冷静にフワッとした気持ちで歌えるようになりました。
──今回のアルバムは自身のつらかった過去を詰め込んだ作品となっているわけですけど、アルバム作りは苦しくなかったですか?
楽しいのと苦しいのが半々くらい。作っているときは苦しかったけど、完成していいのができたから楽しかったです。
──じゃあ、また今回のように自身の体験をつづったアルバムを作りたいですか?
作り終えてみたら、ちょっと包み隠さなすぎたかなって思うところあって(笑)。あまりにストレートすぎる内容だと、CDを置いてもらえる場所や歌える場所も限られてしまうかもしれない。だから次はもう少し広がりのある言葉を選びつつ、わかる人に伝わるような作品にしたいですね。ただ、自分が乗り越えてきた経験を歌にしていきたいと思う気持ちは変わらないです。
- Stand Up
- 100万ドルの夜景
- 1stアルバム「NAKED LIFE」/ 2014年4月9日発売 / [CD+DVD] 1620円 / GREENLAND LTD / GXXXX-001
- [CD+DVD] 1620円 / GXXXX-001
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CD収録曲
- What You Gonna Do?
- Stand Up feat. YOKE
- 100万ドルの夜景
- I Don't Wanna Be Like You(2014)
- I Should Be Happier
- Take A Break
付属DVD収録内容
- What You Gonna Do? ビデオクリップ
- Stand Up feat. YOKE ビデオクリップ
- 100万ドルの夜景 ビデオクリップ
- I Don't Wanna Be Like You(2014) ビデオクリップ
- I Should Be Happier ビデオクリップ
- Take A Break ビデオクリップ
RINKO(リンコ)
鹿児島県出身の女性シンガー。高校卒業後に上京し、モデル活動やイベントの主催、テレビ出演など幅広い活動を始める。また同時に音楽活動もスタートさせ、2008年にはD. Focisが手がけたコンピレーションアルバム「New Tokyo Mixtape 2」に唯一の女性アーティストとして参加した。さらに同年にはFOX TVのMCに抜擢され、テレビやラジオでの活動が本格化。2012年以降はアーティストとしての活動に力を入れ、2014年4月に、幼少期の過酷な家庭環境やファンに監禁された過去などを赤裸々に歌った1stアルバム「NAKED LIFE」をリリースした。