凛|アイドル、仮歌シンガー、作詞家 紆余曲折で得た“凛イズム”

AKB48グループをはじめとした数多くのアーティストおよび作曲家の仮歌を担当し、2015年に放送されたバラエティ番組「ニノさん」で「日本一の仮歌シンガー」と紹介されたこともある女性シンガー・凛。彼女の活動10周年を記念した初のフルアルバム「凛イズム」がリリースされた。

ハロー!プロジェクト・シェキドルのメンバーとしてキャリアをスタートさせ、2007年にソロデビューを果たした凛。2011年にメジャーデビューし、アニメやゲームの主題歌を担当して注目を集めながらも2度も失声症を患い、さまざまな困難に直面しながらもアーティスト活動を継続させている。アニメ「カードファイト!! ヴァンガード アジアサーキット編」のエンディングテーマである「情熱イズム」、アニメ「クロスファイト ビーダマン」のオープニングテーマ「TRUTH」などを含む本作では、強烈なパワーを持ったボーカルワークはもちろん、彼女の豊かな表現力を体感することができる。音楽ナタリーでは凛に単独インタビューを実施。これまでのキャリアとアルバム制作の裏側、楽曲に込めた思いなどについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 石原敦志

J-POPから昔の洋楽の名盤まで聴きまくった

──今作「凛イズム」は凛さんの活動10周年を記念したアルバムなんですね。

凛

はい。私としては、万感の思いがありますね。収録曲を選ぶのも大変だったんです。10年分をすべて詰め込みたかったし、1曲1曲に愛着があるので。1枚のCDの容量ギリギリまで入れさせてもらったんですけど、16曲を通しで聴いてると、そのときの思いやエピソードが蘇ってくるんですよ。失声症という心因性の病気で、まったく声が出なくなったこともあったし、「がんばってリハビリしたあと、最初に録ったのはこの曲だったな」みたいなことも思い出して。

──ハロー!プロジェクトのシェキドルのメンバーとしてデビューし、その後は仮歌やコーラスを担当するなど裏方の仕事をこなし、2007年に凛名義で活動をスタートさせました。さらに2度の失声症を乗り越えながらアーティスト活動を継続させている凛さんのキャリアは、まさに波乱万丈の道のりですね。

この10年、本当にいろいろありました。それを乗り越えたからこそ歌える曲ばかりだと思います。

──順を追って聞きたいのですが、音楽に興味を持ったのはいつ頃ですか?

小さい頃から音楽に没頭してましたね。親の話によると、絵本を読みながら勝手にメロディを付けて歌ってたらしいので(笑)。私が生まれ育ったのは仙台の田舎なんですけど、小学生のときにはCD屋さん、レンタルショップ屋さんを自転車で回って、好きな曲をチェックしてたんです。お金はなかったから、一番利用させてもらったのは図書館のCDレンタルコーナーですね。そこでJ-POPから昔の洋楽の名盤まで聴きまくって。そのうちに作詞、作曲、編曲のクレジットが気になり始めて、「この曲もこの人がアレンジしてるんだ!」みたいなことがわかるようになって。浅倉大介さん、CHOKKAKUさん、朝本浩文さんなどが関わった曲は片っ端から聴いてました。

──歌にも興味があったんですか?

凛

ひたすら歌ってました(笑)。好きな曲のオケを流しながら、最初から最後までCDと同じように歌えるまでひたすら練習してたんですよ。その頃はパートごとに録ってることがあるなんて知らないから、「どうしても息が続かない!」とか思ってましたけど(笑)。歌えるようになるまで自分の歌を録音して、それを聴いて何度も練習していました。あと、楽曲の感想とか「この曲のこの音が好き」「ボーカルのビブラートの長さがこれくらいで」みたいなことをずっとノートに書いてまとめてたんです。小中高はずっとそんな感じでしたね。

──それも1人でやってたんですか?

はい。お気付きかどうかわかりませんが、私、実はすごく根暗でして(笑)。パッと見は派手ですけど、「暗いからこそ、黒は着られない」という理由で明るい色の服を身に付けているんです。小さい頃からずっとそうで、学校でも人と話さないから、先生が心配して両親を呼び出したくらい。ただ音楽を聴いているときだけは楽しかったんです。今振り返ってみると現実逃避だったのかなと思いますけど、自分にとっての救い、癒しとして音楽があったんですよね。学校帰りにCDを借りまくって、土日はずっと聴いて、歌って。人前で歌ったことはまったくなかったですけど、家族には聞こえちゃうじゃないですか。妹に「あなたの声はもう飽きた」って言われたこともありました(笑)。

裏に引っ込もうとする私を表に引っ張ってくれる

──学生時代の経験は、楽曲に対する理解力、歌の表現力につながってますよね。

そうですね。当時は単なる趣味としてやってたんですけど、仮歌の仕事のときに楽曲の世界観を瞬時に汲み取って歌うっていうことに対しては、その頃にやっていたことが役立ってると思います。オケ、歌のメロディ、コーラスなどもきちんと分けて聴けるし、仮の歌詞が乗っているメロディだけを取り出して、別の歌詞を書くのも得意なので。

──ディープに音楽に没頭しているうちに、シンガー、作詞家としての基本的なスキルを磨いていたと。当時から「将来はアーティストとして活動したい」と思ってたんですか?

それは一切ないですね。性格的に表に出ようとするタイプではないので。実を言うと、いまだにあまり表には出たくないんです(笑)。一緒にやってくれている方々には申し訳ないんですけど、歌が好きなだけで、本来は目立ちたがり屋ではなくて。歌を職業にしている限り、表に出ないといけないことがあるというのはもちろんわかってるんですけど。

──と言うことは、アーティストとして活動すると決めたのは相当な決心だったんでしょうね。

凛

そうですね。15歳のときにオーディションを受けたんですけど、そのときも「他の人の歌を聴いてみたい」というのが理由だったんです。非公開のオーディションで、数人のグループに分かれて1人ずつ歌うということだったから、「デビューを目指す人たちの歌を聴ける絶好の機会だ。非公開だったらクラスの人にバレることもないし、これは参加するしかない」と思って。その結果、東北全域で合格したのは私だけだったというオチが付いて、本当にビックリしました。ちょっと意識が変わってきたのはそこからですね。音楽だけが楽しみで生きていたんですけど、表現する側に興味が出てきたと言うか。「本当に自分にやれるのかな?」という心配はありましたが、オーディションに受かってからも「東京に来て、この曲を歌ってみない?」と声をかけてもらうことがあって、いろいろなご縁のおかげで、ハロー!プロジェクトに参加することになって。その後も、私は周りの方に恵まれていたと言うか、裏に引っ込もうとする私を表に引っ張ってくれる人がいてくれるのは、本当にありがたいことです。

「凛イズム」
2018年1月31日発売 / MUSiC GARDEN
凛「凛イズム」

[CD]
3000円 / MGCD-1001

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 夢×現
  2. 華燈-HANABI-(Version.2017)
  3. FREEDOM(Version.2017)
  4. 情熱イズム
  5. イカロス
  6. 片翼-ツバサ-の行方
  7. 孤独なマニフェスト
  8. 浸食アルゴリズム
  9. LiLiA
  10. ULTIMATE SOUL-幾千の岐路-(Version.2017)
  11. LOOP(Version.2017)
  12. Xana-シャナ-
  13. SPIDER GIRL(Version.2017)
  14. Dear DESTINY
  15. 人生ゲーム(Version.2017)
  16. TRUTH
(リン)
凛
宮城県仙台市出身の女性ボーカリスト。末永茉己名義で作詞家としても活動しており、柿原徹也、井上和彦といった声優アーティストに作詞の提供も行っている。ハロー!プロジェクトのグループ・シェキドルのメンバーとして活動したほか、AKB48や乃木坂46をはじめとした数多くのアーティストの仮歌やコーラスを務めるなど、“仮歌シンガー”としても活躍。2007年に島崎貴光のプロデュースのもと、凛としてソロデビューを果たした。2011年11月にはアニメ「クロスファイト ビーダマン」のテーマ曲を収録したシングル「TRUTH / 片翼-ツバサ-の行方」を、2012年5月にはアニメ「カードファイト!! ヴァンガード アジアサーキット編」のエンディング主題歌を収めたシングル「情熱イズム」をリリース。2018年1月には凛名義の活動10周年を記念したアルバム「凛イズム」を発表した。