歌えば歌うほど、自分に生きるたくましさをくれる曲

──以前のインタビュー（参照：rieco「Shining」インタビュー）で、riecoさんは地元の浜辺にキーボードを持ち込んで曲作りをすることも多いと話していました。「信じて」もそうですか？

いや、今回は東京で作りましたね。2番の「マワル メグル この街じゃ」という歌詞はわざとカタカナにしてるんですが、東京って福岡に比べると人の電車の乗り降りが機械的に見えたり、ちょっと無機質な感じがあるんですよ。だから、その空気感を文字で表現できたらなって。

──1番の「あなたの温もり 肌に残したままで 人混みの改札のまれてく」も、都会で暮らす主人公の風景がありありと目に浮かびます。

よかったー！ でもそのあとに「ぬくもりに寄り添うだけじゃ 辿りつけないから」ってあって、ここはかなりアラサーならではの葛藤が出てると思いますね。やっぱり私の年代になってくると、心が弱ったときに誰かに寄り添ったり頼りたくなったりするんですけど、それだけじゃいけないっていうのも気付いていて。そういう気持ちは、私と同年代の人には強く共感してもらえるんじゃないかと思います。

──ストレートに胸に響く歌も印象的だったのですが、レコーディングで意識したことは？

今回はテクニック的なことはあまり考えず、自分に言い聞かせる感じだったり、誰かに聴いてもらおう！という気持ちで歌いました。ライブでもすでに歌ってるんですが、歌えば歌うほど自分に生きる、たくましさをくれる曲だなって思います。あと、女性のお客さんから「私も自分の仕事をがんばろうと思います」とか「（夢を追うのは）まだ遅くないよね？」って言葉をもらったりすると、心から「ああ、よかったな」って。

──ビデオクリップはどんな仕上がりになりましたか？

初のストーリー仕立てで、自分の心の闇を黒、表に出て歌う私を白として、2色のバックの前で歌っています。部屋のシーンは私の過去10年間の写真がバーッと飾られているんですが、そこには日本武道館を撮った1枚もあって。じっと見つめながら「絶対そこに立ちたい」という信念を感じさせる映像にしたかったんです。

──最後には、キーボードを弾くシーンも登場しますよね。

はい。そういう姿を収めたPVも初ですね。キーボードにかけられたカバーをバッと取って、「よし、やるぞ！」みたいに私が弾いてるので、ぜひご覧になってください。あとはお芝居っぽいことも少しやったんですけど、つい笑っちゃって、真面目な顔をするのがすごく難しかったです（笑）。

マンガのような初恋エピソード

──カップリング「"Hello! Hello! Hello!"」は、淡い恋心が描かれたキュートなポップナンバー。聴いているだけで胸がキュンキュンします。

これは、初めてひと目惚れをしたときのことを思い出して作りました。当時考えていたこととか、恋の始まりのワクワク感をそのまま封じ込められたらなって。でも、周りが見えなくなった女の子のちょっと痛い部分とかも入ってて（笑）、かわいいアメリカンポップスみたいなイメージですね。

──ちなみに、どんなひと目惚れだったんですか？

地元のカフェで働いていたとき、「いらっしゃいませー」ってパッと入口を見たら入ってきたお客さんに恋しちゃったんです。それこそ「いらっしゃい……ま……」みたいに、時間がスローモーションになる感じで（笑）。

──どこにビビッと来たんでしょう？ ルックスが好みだったとか？

それもあるけど、全体の雰囲気？ わかんないです（笑）。でもなんか運命的なものを感じちゃって、とにかくキャー！ってなりました（笑）。ところがある日、その人に料理を運んでいったら、ワックスがけをした床で滑って、トレーごとバーンってこぼしちゃって。彼のスーツにもかけてしまったんです。でも彼は自分のハンカチを出して拭いてくれて、「お疲れですか？ 僕は大丈夫ですよ」って。

──ドラマみたいな展開ですね（笑）。

そう！ で、さらに「好きー！」って思いました（笑）。それをきっかけに少しずつ話せるようにもなったんですけど……結局、それ以上は進展しませんでした。彼が引っ越して会えなくなってしまったんです。

──でも、こちらまでニヤニヤしてしまう素敵な初恋エピソードですね。ちなみに、riecoさんは付き合うとどうなるタイプですか？ この歌詞みたいに、返ってこないメールをひたすら待ったりします？

しますねー。どんなに忙しくても、トイレくらい行く暇あるよね？とか、ヤキモキしちゃう（笑）。で、やっと返ってきたと思ったら「うん」だけだったりして、こっちは8時間待ったんだよー!?とか一方的にイライラしちゃうタイプだと思います（笑）。

「愛してる」って曲で言えるのは素晴らしいこと

──もう一方のカップリング「君が思い出になる前に」は、スピッツの名曲のカバーですね。このカバーシリーズは、riecoさんのシングルの恒例になっています。

そうですね。今回の曲は、以前私が歌詞で悩んでたときに「歌詞が好きな曲は？」と聞かれていくつか挙げた中の1つなんです。あと今、実は福岡から上京しようとしてるんですが、そうやって今までのものが思い出になっていく気持ちと歌詞がリンクしてるなって。

──なるほど。

最初はラジオで流れてきたのを聴いて、さわやかに歌ってるんだけどすごく悲しい曲だなーって涙が出たのを覚えてます。一番好きなフレーズは「忘れないで 二人重ねた日々は この世に生きた意味を越えていたことを」なんですけど、何度聴いてもグッときますね。同じソングライターとして、こういう歌詞が書けるようになりたいなって。

──レコーディングは一発録りだったそうですね。

はい。今まで自分でピアノを弾いてたんですけど、初めてプロのジャスピアニストの方にお願いして、せーの！で録りました。私はピアノの旋律に呼吸を合わせながら、向こうは私の歌に合わせながら、お互いに歩み寄って作った感じですね。

──最後に、今回のシングル全体を振り返ってみていかがですか？

3曲ともすべて相手がいるっていうのが今までと違うところかなって。昔はそういう曲もいっぱい作ってたんですけど、20代前半くらいに一度やめちゃったんですよ。今さら「愛してる」なんて曲で書けない、恥ずかしい、みたいに思っちゃって（笑）。でも最近は「ま、いっか」ってすべてを受け入れられるモードになっているので、そういうラブソングも怖がらず書いていこうと思ってます。やっぱり、「愛してる」って曲で言えるのは素晴らしいことですからね。