金子ノブアキ&来門インタビュー|RED ORCAのロマンチシズムと現在地を示す5曲

来門(Vo)、金子ノブアキ(Dr)、草間敬(Syn)、PABLO(G)、葛城京太郎(B)、同道公祐(G)からなるバンド・RED ORCAが、新作ミニアルバム「beyond the darkn(Es)s」を2月3日に配信リリースした。

彼らが1stアルバム「WILD TOKYO」を発表したのは2020年3月、コロナ禍で世の中の動きが停滞し始めた頃のこと。それから約3年を経て発表された「beyond the darkn(Es)s」は全曲リモートでレコーディングされ、型にはまらないRED ORCAの進化を感じられる作品に仕上がっている。

音楽ナタリーではミニアルバムのリリースを記念して、来門(Vo)と金子ノブアキ(Dr)にインタビュー。バンドの発起人である金子がライブ活動に重きを置いて始動させたRED ORCAの現在の状況や、「beyond the darkn(Es)s」の制作エピソードを聞いた。

取材・文 / 増田勇一撮影 / 後藤倫人

失敗してもかまわないだけの時間があった

──コロナ禍の序盤に1stアルバム「WILD TOKYO」がリリースされてから約3年が経ちますね。

金子ノブアキ(Dr) このプロジェクトを立ち上げてアルバムを1枚作った途端にコロナ禍に入り、天井が落ちると同時に地盤が上がって塞がれるような感じになって。とはいえ嘆いていても仕方ないので、まずは制作をガンガン進めてみようということになりました。そこで自分たちなりの制作スタイルを確立できて。

──今作は全曲リモートで制作されたそうですね。

金子 そうですね。各々の持ち場を各自が作ってくるというか。自分の場合で言えば、今回はドラムの音もすべて自分で作ってるんです。そう考えてみると、コロナ禍に入って悪いことばかりではなかったかなと。土俵際での闘い方を身に付けることができたから。トライ&エラーをする時間、失敗をしてもかまわないだけの時間があったし、変な話、そういう状況にちょっと感謝してる部分もあって。

来門(Vo) 俺、そこには気付いてなかった(笑)。あっくん(金子)はソロ活動を始めたときからクリエイティブなことをやってきたんだろうなと思ってた。ただ、お互い一緒の世代で、同じようにミクスチャーを背景に持ちながらずっと活動してきてたから、そこはもう阿吽の呼吸というか。だから俺は最初からすごく歌いやすかったし、今回もすごく楽しかった。

左から金子ノブアキ(Dr)、来門(Vo)。

左から金子ノブアキ(Dr)、来門(Vo)。

──3年前、金子さんは「自分が表現手段として一番得意とするライブをやるためのプロジェクト」としてRED ORCAを発足させたとおっしゃっていました。その直後、何よりも重要なはずのライブ活動が思うようにできなくなってしまった。そこでクリエイティブな作業中心の動きに舵を大きく切っていくことは自然にできたんですか?

金子 このプロジェクト自体が生まれたてだったので、ワンマンライブをやるにも弾が足りなかったし、すぐにでも新しい曲を作ろうと当時から言ってたんですよ。だからむしろタイミングとしてはよかったし、実際あれ以降、フルアルバム3枚分ぐらいの曲を作っています。ただ、いたずらに乱発しても効果的ではないという考えもあったし、作り始めた当初に比べると俺自身にもノウハウが増えてきて。RED ORCAという場があったことで、俺としては体もなまらずに、3年前よりもいいと思える状態になれています。今日もさっきまでリハしてたんですけど、4、5年前よりも演奏者として絶対によくなっているという自覚がある。あと、1stアルバムを出した当時は、みんなに対して俺がすべてプレゼンしなきゃいけなかった。自分が言い出しっぺだし、道筋を示す必要があるじゃないですか。でも、それが今ではみんなからアイデアが出てくるし、全員のモチベーションがすごく高い。だから今、すごくいい状態なんです。

──来門さんは、ライブ活動の停滞がモチベーションに影響しましたか?

来門 どうでしょうね? 歌ってるときの自分と日常の自分って、全然違うんですよ。しかもすごくいいライブをしてるときって、あまり記憶がなくて。大きいステージに立つときなんかはけっこうドキドキするんだけど、そこでいいライブをやっても覚えてない(笑)。そんな感じだから、さほど影響はなかったと思いますね。ただ作品作りは、日常の俺がやらないといけないので影響があったかもしれない。今作は、コロナ禍で自分の中に湧き上がっていた怒りやイライラを形にしたので。そこについてはさっきあっくんも言ってたように、コロナ禍も悪いことばかりじゃなかったな、と思えますね。

──これまでアルバム3枚分もの曲を作ってきたとのことですが、ミニアルバムに収録されている5曲はどういう位置付けのものなんでしょうか?

金子 「今、いいんじゃない?」という曲たちですね。あと、ちょうど「ノーモア★ヒーローズ3」というゲームのサウンドトラックを作らせてもらう機会があって、それも発端になってます。それが1曲目の「Touchdown the Killer」です。この曲のミュージックビデオでは、ゲームの映像をお借りして使っているんですよ。とにかく作っては投げ、作っては投げというやり取りをゲーム作家の方と繰り返して。その作業がRED ORCAの制作スタイルの1つになりました。ゲーム用の音楽はあくまで俺1人で作ったバージョンで、そこには来門のボーカルは入ってないんですけどね。

金子ノブアキ(Dr)

金子ノブアキ(Dr)

来門 あのトラックに歌を乗せるのは自分にとって挑戦でしたね。「Touchdown the Killer」に限ったことじゃないんですけど、挑戦できることは面白いです。夜中の3時くらいにあっくんから「できた!」って、めちゃくちゃ破天荒なトラックが送られてきて、こっちはもう「すげえな!」と笑うしかないというか。それをどう料理していくかは俺の腕の見せどころ。どんどん膨らんできたところにさらに草間さんが入ってきて、(葛城)京太郎が入ってきて、という流れで曲ができあがっていくんです。

金子 俺からすると、来門が歌うことを前提にして、いわば当て書きができるわけなんです。実際、来門と京ちゃん(葛城)のためにトラックを作ってるようなところもあって。来門がSMORGASで培ってきたことをRED ORCAでやるとどうなるのか、というところに面白さがある。京ちゃんとか同道(公佑)くんみたいな若いやつらの場合は、時代が何周かして、ブルースなんかの大人びた音楽をフレッシュに感じてたりする。俺の若かったときは、「そういうのはおじさんがやってるもの」という感覚があったけど、彼らにとっては新鮮なわけですよ。そういう感覚の違いに面白さを感じます。全然違う音楽を通過してきたはずなんだけど、そこに共通するものがあるんでしょうね。音楽的にはミクスチャーだけど、メンタリティはパンクというか。

来門 やっぱり怒りや迷いに対して自分の情熱を燃やしていくのがロックだと思うし、そこに根源があると思うんですよ。そういう“なにくそ魂”みたいな部分は精神的にパンクなんだろうし。でもそこで「俺はこれに対して怒ってるんだ!」と言ってるだけでは自己満足で終わってしまうから、最終的な着地点というのを自分の中でいつも決めてるんです。最後にはそれをポジティブなものに変えられるのが音楽だと思うし、そこにたどり着けないと音楽としての意味がないと思っていて。音を楽しまないと音楽じゃないはずだから。あっくんもクールなようでいてそういう炎は宿してる。彼の中に沸々と燃えているものが出ているのがRED ORCAの音楽だと思うし、俺はそこに共鳴できてるんだろうなと思う。ナイスガイだし最高にハンサムでありながら、実は神の火花を持ってる男なんです、彼は。

金子 なんだか妙に話のスケールがデカくなってきましたね(笑)。

来門 で、俺も神の怒りの火花を持ってる。だからこそそこで共鳴できてるわけです。

──怒りを自分で解消するだけではいけない、ということなんですね?

来門 そうです。やっぱりあくまでやってることはエンタテインメントだから、いろんな人を巻き込んでいかないといけないし、誰かが抱える怒りを俺が代弁して、それを浄化させないといけない。RED ORCAの音楽はそういうものなんじゃないかと、俺は思ってますね。

RED ORCAの根底には愛がある

──「Touchdown the Killer」は先ほども話に出たようにゲームが発端となった曲です。終盤に日本語で叫んでいるワードは歌詞資料には記載されていませんが、この曲を象徴している叫びに感じました。

来門 まさに! あのひと言がこの曲の正体と言ってもいいですね。あっくんから「何か言ってみて」と言われて何パターンか録ってみて……。

金子 あの言葉が一番よかったんです。ほかにも「地獄に落ちろ!」とか何パターンか用意してたんですけど(笑)。

来門 この曲を作ってた当時は俺自身にいろいろあって、そこに対しての鬱憤もあったんですけど、その怒りを愛に変えられたらいいなと思って。そのタイミングでこの曲のトラックが届いて、これならちょうど俺の感情をぶちまけられるぞと。絶好のタイミングでいい乗り物がきた、みたいな感じでしたね。

──しかも、怒りをぶちまけているようでありながら後半には希望的に開けていくような展開があります。そこに愛があるというか。

来門 そうなんですよ! このリリック、感情的にはだいぶこんがらがってるんですよね。でも最後には希望を感じられる。そういう表現をずーっとやってきたんです。希望は絶対なくならない。なぜかと言えば、RED ORCAの根底には愛があるから。

来門(Vo)

来門(Vo)

金子 この曲は、来門に歌ってほしくて作った曲でもあって、ホントに端的に言うと、RED ORCAに関しては来門と京ちゃんが売れてくれることが目標なんです。最近、自分自身と改めて向き合ってみて、自分のためにはがんばれないタイプだとわかって。俳優の仕事をガンガンやるようになった時期は、ちょうどRIZEが10周年を控えていて「これはバンドにとっていい刺激になりそうだぞ」という考えがあったからなんですよね。同じようにRED ORCAの場合は、来門と京ちゃん、もちろん同道くんもそうだけど「彼らがもっと売れてくんなきゃ嫌だな」という思いが動機にあるんです。しかもみんな、本気でやり合う相手としてもこれ以上ないくらいのメンバーだし。

──面白いです。発起人でもある自分が引っ張っていかなきゃいけないという気持ちはあっても、それが、自分が前に出ていくことにはつながっていないというのが。

金子 やっぱりドラマーだし、そのこと自体が物語っているのかなと。だから俳優の仕事をしていても「前に出て、点獲っちゃって!」という場面では「わかった!」と思えるけど、基本的には全体をサポートすることに徹しているというか……そこが一番自分にとって自然で、楽しく無理なくやれるポジションなんですよね。

──後ろでみんなを見据えながらコントロールする楽しさを感じている?

金子 うん。ドラムを叩いていて、フロアにモッシュピットができたら「うーん、やっぱりここは眺めがいいぜ!」と思うし。昔からインタビューでよく言ってるのは、「俺はゴールキーパーだけど、たまにセットプレイで蹴ったりする」ということ。