クジラ夜の街×崎山蒼志インタビュー|2組が明かす、コラボ曲「劇情」の“舞台裏” (2/2)

“文化祭の女子”みたいなマインド

──ここからは「劇情」の制作過程を詳しく聞かせてください。

宮崎 まず今年の4月に、どういう曲にするかを崎山さんと2人で話し合いました。もともとライブで披露することが前提としてあったので、みんながノレるようなポップスを作りたいという意見は一致していて。あとは「ラブソングを作りたいですね」という話も出たので、それらの意見をもとに僕がテーマを考えました。3つぐらいアイデアを出して、それぞれのプレゼン画像をLINEで送ったんですけど、その中の1つとしてあった“劇団”をコンセプトにしたものに決まり……もうそこからは大喜利みたいな感じです(笑)。2人でひたすら歌詞やメロディを出していきました。

崎山 ああいうプレゼン画像は普段から作られているんですか?

宮崎 いや、初めて作りました。僕は今回のコラボに、“文化祭の女子”みたいな気分で臨みたいと思っていたんですよ。「うちらで最高なものを作っちゃおうよ」というマインドで、とにかく曲作りの過程を楽しみたかった。プレゼン画像を作ったのも、自己陶酔の1つというか(笑)。自分のテンションを上げるためのものですね。

崎山 そういうことだったんですね。でも僕はその画像を見たときに「クジラ夜の街とやるんだ」と思ったんですよね。テーマの詰め方がめちゃくちゃクジラ夜の街っぽいなと思って。

宮崎 “まずテーマを決めてそこから作る”という手法は、僕らが普段やっていることですからね。でも、僕からしても崎山さんとの共作は驚きと感動の連続でしたよ。ずっとワクワクしっぱなしで。「崎山さんを驚かせたいから、普段使わないような言葉を使っちゃおう」みたいなこともありました(笑)。

──メンバーの皆さんは、お二人が作られた曲を初めて聴いたときにどのように感じられましたか?

山本 一晴の曲にほかの人のエッセンスが加わったものは初めて聴いたので、すごく新鮮でしたね。「こんなふうに広がりが出るんだ」という感動がありました。

 僕は初めて聴いたとき、なんとなくラテンっぽさを感じたんですよ。デモの段階ではラテンの要素はそんなになかったんですけど、なんとなくラテンの香りを感じて。聴いた瞬間に「ラテンの要素を入れたら絶対に面白くなる」と思ったので、リズム面とかでそれを実現できたのがうれしかったです。

佐伯 僕はとにかく「崎山くん、いい声だな」と思いました(笑)。

佐伯隼也(B)

佐伯隼也(B)

マイクに愛されているとしか思えない

──今の佐伯さんのお話で言うと、“ボーカリスト・宮崎一晴”、“ボーカリスト・崎山蒼志”の印象はお互いにいかがでしょうか。

宮崎 これが一番刺激的だったかもしれないです。崎山さんの歌声は、とにかくマイク乗りがいいんですよ。僕は声量自体は大きいほうだけど、声の大きさとマイク乗りのよさは関係なくて。小さな声でも、マイク乗りがいいと、その分近くで歌っているように聞こえるんです。声質などの天性のものなのか、技術的なものなのか、何が要因かはわからないけど、崎山さんは小さな声でそっと歌っても、声がダイレクトに伝わってくる。それがかなり衝撃で。「これはどういうことなんだろう?」と、レコーディングの最中ずっと不思議でした。マイクに愛されているとしか思えない。

──崎山さんご自身は、今宮崎さんがおっしゃったようなことは意識されているんですか?

崎山 マイクにもいろいろあると思うけど、そのマイクに合うように歌うというのは意識していますね。僕はこれまで、自分の声の嫌なところを変えてきていて、もともとの歌い方からどんどん変化しているんです。その変化の過程の1つとして、マイクに乗りやすいかどうかを意識して歌うようになったというのはあると思います。

宮崎 やっぱり意識してるんだ……聞けてよかった。そういえば「GUITAR JAMBOREE」のときも、崎山さんの歌声だけやけにクリーンに響いていましたよね。そういうのも、ちゃんと意識して歌っているがゆえのものなんですね。マイクに愛されていながら、ちゃんと愛してもいる。相思相愛なんだと腑に落ちました。

崎山 それで言うと一晴くんは、シンプルに「めっちゃ歌うまいな」という衝撃がありましたよ。ピッチがすごく安定しているし、地声で高音もしっかり出せるのがすごいなと。自分の声にはない“太さ”があるので、憧れますね。

宮崎 2人とも声質はまったく違うはずなのに、1つの曲で聴くとちょっと似ているような印象を受けるんですよね。これが面白くて。途中式は全然違うのに出てくる答えが一緒、みたいな。今回のコラボで受けた刺激はいろいろあるけど、一番得るものが大きかったのは歌に関するところかもしれないです。

ギターと歌だけで作る“波”

──クジラ夜の街の皆さんは、4人での演奏に崎山さんが加わることで、いつもとは異なる感覚があったと思うのですが、そのあたりはいかがでしたか?

山本 バンドで演奏するときって、全員で曲の波を作っていくような感覚があるんですけど、崎山さんは1人でその波を作れるんですよね。もともと弾き語りからスタートしたというのもあって、アコースティックギター1本と歌だけで波を作ったり、新しい景色を見せたりできる。それがすごく新鮮でした。基本的にはバッキングギターなんですけど、場面によってはリードっぽい聞かせ方をされたりもして。自分の居場所を確保しつつ、曲全体の流れも作ってくれるのが、とても頼もしいなと。

山本薫(G)

山本薫(G)

崎山 弾き語りのときにそういうことを意識しているから、その癖が出たのかもしれない。僕はとにかく「皆さんの演奏に馴染むように弾こう」と思っていたので、それがうまくいっていたのであればよかったです。

──崎山さんはこれまでもたくさんのアーティストとコラボされてきましたが、そのたびに新たな発見があったと思います。そういう点で、過去のコラボと比べて今回はいかがでしたか?

崎山 以前リーガルリリーの皆さんとコラボしたことがあったんですけど、あのときはすでにできていた曲をアレンジしていただく形だったので、ここまで本格的なバンドとのコラボは初めてで。どのバンドにも特有のグルーヴがあると思うけど、クジラ夜の街は4人ならではのグルーヴ感が強いから、そこに混ざることができて単純にうれしかったです。みんなの音楽への真摯な向き合い方がすごくカッコいいなと思ったし、近くでそれを見て鼓舞されました。

──やっぱり同世代のアーティストとのコラボは、また違う感覚がありますか?

崎山 全然違いますね。同世代ゆえの共通言語も多いですし、その分共有できるものもたくさんあって。それが音楽にもいい形で反映されたような気がします。

改めて、クジラ夜の街と崎山蒼志の関係は……?

──9月にはSMA創立50周年を記念したツーマンツアーが控えていますが、ライブへ向けたお気持ちはいかがですか?

宮崎 純粋に音楽を楽しみたいと思います。音楽に関する楽しいことだけを考えられる日にしたいなと。それがきっと、タレント事務所の50周年記念イベントに臨むモチベーションとしては正解なんじゃないかなと思いますし。

──佐伯さんはどうでしょうか。

佐伯 ライブ自体すごく楽しみだし、「劇情」を演奏できることにもワクワクしています。

宮崎 やるかどうかはわからないけどね!(笑) やるにしても、果たしてどんな形で演奏するのか、楽しみにしていてほしいです。

山本 僕らのライブももちろんだけど、崎山さんのライブも楽しみにしてほしいよね。ライブのときの崎山さんは、本当に鋭いので。えげつないギターを弾きますよ。

崎山 4人のライブを間近で観たら燃えそうですね。「自分もがんばらなきゃ」と思えそう。

──お互いにリスペクトしながら、いい刺激を与え合っているのが伝わってきます。いただいた資料に「同世代の盟友」と書いてあるんですが、2組の関係を表すとしたらやっぱり「盟友」がしっくりきます?

宮崎 どうなんだろう……どう思います?

崎山 盟友なのかな?

宮崎 友達……?

崎山 うん、“ともだち”かも。

宮崎 ひらがなで“ともだち”でお願いします。

 なんかかわいくなっちゃった(笑)。

崎山 相談相手……話し相手……いや、やっぱり“ともだち”がしっくりきますね。同世代の“ともだち”です。

左から秦愛翔(Dr)、宮崎一晴(Vo, G)、崎山蒼志、佐伯隼也(B)、山本薫(G)。

左から秦愛翔(Dr)、宮崎一晴(Vo, G)、崎山蒼志、佐伯隼也(B)、山本薫(G)。

公演情報

SMA 50th Anniversary presents クジラ夜の街×崎山蒼志「劇情」

  • 2024年9月13日(金)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2024年9月14日(土)大阪府 Yogibo META VALLEY
  • 2024年9月26日(木)東京都 LIQUIDROOM

プロフィール

クジラ夜の街(クジラヨルノマチ)

同じ高校の同期生だった宮崎一晴(Vo, G)、山本薫(G)、佐伯隼也(B)、秦愛翔(Dr)の4人によって2017年6月に結成されたバンド。音楽コンテスト「Tokyo Music Rise 2019 Spring」や高校軽音楽部の全国大会で優勝した実力を持つ。ロッキング・オン主催のオーディション「RO JACK」で優勝し「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」に出演。直後に「出れんの!?サマソニ!? 2019」オーディションを勝ち抜き「SUMMER SONIC 2019」にも出演するなど、耳の早い音楽ファンの間で話題となる。近年は「ファンタジーを創るバンド」をキャッチコピーに掲げ、絵本や童話のような世界観を追求した楽曲やライブ演出を打ち出している。2022年12月に“メジャープレデビュー曲”第1弾「踊ろう命ある限り」、2023年3月に第2弾「ハナガサクラゲ」を配信リリース。5月にメジャーデビューEP「春めく私小説」を発表した。2024年8月に崎山蒼志とのコラボ曲「劇情」を配信リリース。同年10月にメジャー2ndフルアルバム(タイトル未定)を発表する。

崎山蒼志(サキヤマソウシ)

2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガーソングライター。2018年7月に初のシングル「夏至 / 五月雨」を発表し、同年12月に1stアルバム「いつかみた国」をリリースした。翌2019年10月には、君島大空、諭吉佳作/men、長谷川白紙とのコラボ曲などを収録した2ndアルバム「並む踊り」を発表。2021年1月にアルバム「find fuse in youth」でメジャーデビューを果たす。2023年7月にテレビアニメ「呪術廻戦」第2期「懐玉・玉折」のエンディングテーマ「燈」をリリース。YouTubeで公開されたミュージックビデオの再生回数は3000万回を突破している。2024年1月には台湾と香港で初の海外ツアーを敢行。また雑誌「ギター・マガジン」では連載「崎山蒼志の未知との遭遇」を、新潮社文芸雑誌「波」ではコラム「ふと、新世界と繋がって」を執筆するなど、独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。