クラシックは誰にも伝わる究極の大ネタ

——さて、いま聴いてもらえたはずの「LOVE YOU」ですが、バッハのメヌエットを歌メロに取り入れるという試みですね。なぜクラシックをテーマにしたのかを教えてください。

前作でもバッハの「主よ、人の望みの喜びを」を導入部だけ引用したんですが、今回もその延長線上、更にそのアイデアを広げた解釈で取り組みました。

——それはどの段階で浮かんだアイデアなんですか?

きっかけは、昼間の仕事なんですが、CMの現場で「有名曲、既存の楽曲を使用して、更にフックのある新しく聴こえるアプローチを」という話がありまして、何度かスタッフ間で打ち合わせを設けている中で、クラシックの名曲が持っているコミュニケーションの早さ、既聴感やいい部分をしっかり残しつつ、なおかつ新しく聴かせるという、今回の着想を得ました。

——昼間の仕事からのいいフィードバックですね。そしてまた、うまく原曲が改変されています。

原曲そのままのメロディーラインで歌にすると、うまく言葉が乗らなかったりしたので、そこは上手くチューニングしないといけなかった。かつ、誰でも知ってるメロディが自然に違うメロに変化して、また自然にメヌエットに戻っている、というのは、トライ&エラーの繰り返しでもありましたが、作っていてやりがいがありましたし、非常に刺激がありました。

——トラックメイカーから見た聴きどころは?

あまりトラックメイカーとしての自負はないですが(笑)。あえて挙げるとすれば、導入部から音が次第に厚くなってくる展開、この辺りは上手く音に表現できたと思っています。

——なるほど。ところで、なんでメヌエットなんですか。

ほんとに老若男女、誰でもが知ってる楽曲ですよね。たとえば90年代的なネタの使い方ってありますよね。マニアックなネタを引っ張ってきて、知ってる人だけがニヤリとわかる、確信犯と共犯者みたいな、そういった作品とリスナーの結びつきというのは、非常に強いとは思うんですが、引用元を知ってる人と知らない人とで、最終的な作品の受け取り方が違ってきてしまう。

その点メヌエットなら、誰もが「ああ、あの曲をベースにしてるんだ」って瞬時にわかってもらえる。さらに言えば、その過程を知らなくても自然に楽しんでもらえる、非常に開かれたアプローチだし、それだけの魅力を持っている楽曲だと思ったからです。

チームワークで音楽を磨くやり方

——今作では新たに及川リンさんという女性ボーカリストを迎えています。彼女によってQ;indiviはどう変わりましたか?

今までは楽曲先行、まず曲ができて、その曲調に合うボーカリストをチョイスするというプロセスだったんですが、今回から及川が正式メンバーとして入ったので、まず彼女のボーカルありきで、彼女の声質に合うような曲を制作し、楽曲のトーンだったりダイナミクスだったりを彼女に合わせてチューニングしていく、というプロセスになりましたね。これは大きな変化です。

——具体的にはどういう声質で、どういうチューニングを施したのでしょう。

彼女はすごく、持っている声質がクールなんです。たとえば「LOVE YOU」みたいなバロック的なコード進行って、普通の人が、たとえば日本語で歌い上げると大げさなミュージカルみたいになってしまう。でも彼女が歌うとサラッと聴かせちゃうんです。どんな局面においても自然に楽曲を彼女自身に合わせて温度調節をしてしまう、それは及川のすごいところです。彼女のポテンシャルと長所を最大限、引き出す作品作りにトライできたというのが、今作の原動力になっていますね。

——ではもうひとりのメンバー、ケヴィン・ギルモア氏について教えてください。

ケヴィンは、実作業としてはリズムトラックのプログラミング。それと彼はサンプリングCDや音ネタのアーカイブを山ほど持っていまして。普段HDDを持ち歩いているくらいですから(笑)。そこから適切な場所に適切なサンプルをチョイスしてくれています。自分には無い、ものすごい才能があります。

あとアートワークですね。僕はヴィジュアル方面と外交的なことに関しては才能がビタイチないことを自分でわかっていまして、視覚的な制作と外交に関しては完全に彼の領域です。

——いいチームワークが機能している感じがします。

そうですね。僕たちが普段している音楽の仕事というのはチームプレイなんです。クライアントとの関わりがあったりスタッフもたくさんいて。おかげでチームで音楽を作り、チームで音楽を磨いていくやり方にやりがいを覚えることができたんです。たとえば自身が実制作をしない方がベストであればスタッフワークにも回りますし。やっていていつも何かしら新しい発見があって、それらを今は上手く活かせている感じですね。

——なるほど。今後どういう風にしていきたい、みたいな方向性があったら教えてください。

アルバム1枚作り終えて、また次のアイデアやメロディが浮かんできているので、それらを早く形にして皆さんに聴いてもらいたいですね。良いときも悪いときも継続していくこと、とにかくアクションを起こすことで発見するものが大きいな、と実感するようになりました。言葉にすると堅苦しいですが、要はフラットにハッピーに少しでも長く続けていくってことが理想です!

プロフィール

Q;indivi(きゅーいんでぃう゛ぃ)

YUKIやHALCALI、元気ロケッツへの楽曲提供で知られる田中ユウスケ(Sound Produce/Compose)、「ハチミツとクローバー」ほか数々のサウンドトラックやCMで声を聴かせる及川リン(Vocal)、そして謎の男Kevin Gilmour(Rhythm Programming/Art Direction)の3人からなる「ミュージック・ファクトリー」。全編英語詞で透明感のあるヴォーカルに、アコースティックあり、エレクトリックあり、そしてクラシックありの新世紀ポップスサウンドをクリエイトしている。