死は日常的なもの
──今回メジャーデビューシングルの表題曲になっている「愛を教えてくれた君へ」はダイナミックなバラードです。最新ミニアルバム「Life is Wonderful」の収録曲はポップなイメージが前面に出ていたので新鮮に感じました。
内田 僕ら、結成して数年経ったときに名古屋にある円形のホールでライブをしたことがあるんです。普段はライブハウスでやることが多いけど、そのときは着席形式で、森がグランドピアノを弾いて、少人数のオーケストラも入れて。そのライブの感覚が自分らにすごく合ってたと言うか、「曲をじっくり聴いてもらうことが自分らにとってすごく似合うんだろうな」って思ってたんです。それもあって、ずっとバラードをリード曲にしてみたかったんですよ。だけどなかなかタイミングがなくて。自分らがずっとやりたかったことが、メジャーデビューのタイミングで叶いました。
──この曲を作るにあたって、アニメサイドから何か注文はあったんですか?
内田 基本的にほとんどなかったです。僕たちが「いぬやしき」の原作マンガを読んで“「いぬやしき」のエンディング曲”として作っていきました。
森 この曲は「死別」という重いテーマのバラードで。これをメジャー1stシングルの表題曲にできてホントによかったなって思ってます。今って、いろいろ世の中的にも不安定じゃないですか。そういうときにハッピーな音楽で現実を忘れるという素晴らしさもあると思うんですけど、私たちは目を逸らしたくなるような重いテーマを提示したかった。それは「いぬやしき」の話が来る前から考えていたことで。うちらは人の心にグサッと刺さるような曲を届けたいっていう思いが昔からあるんです。
──クアイフは最新ミニアルバム収録の「グッドナイター」でも死について歌っていますよね。
内田 はい。「グッドナイター」を作ったときは僕のおじいちゃんが亡くなった時期で、その1年後にもう1人のおじいちゃんが亡くなったんです。そこで「死という別れが一番どうすることもできない」ってことに直面して。今回「いぬやしき」のお話をいただいて曲を作っていたときに、おじいちゃんが亡くなった頃の気持ちを思い出しました。
──「グッドナイター」は残されたおばあちゃんの立場から、おじいちゃんへの思いを歌った曲ですよね。
内田 はい。で、今回の「愛をくれた君へ」は亡くなった側の目線になっていて。意識はしていなかったんですけど、結果的に対になる曲になりました。
──2015年リリースの1stミニアルバム「organism」で人が生まれてから死ぬまでのストーリーを描くなど、クアイフはこれまでも死生観を歌ってきたバンドですよね。
内田 そうですね。でも昔の曲と、今の曲の死生観は違うんですよ。
森 昔は死というテーマでも、世界情勢を考えながら「こんな世界嫌だ!」みたいな感じで勢い任せで曲にしてて。想像して作っていたから、歌詞も抽象的だったんです。
内田 でも実際に身近な人の死を経験したときに、結局死という別れも、恋人との別れも、友人との別れも“日常的なもの”という意味では一緒なんだなって気付いたんです。僕はおじいちゃんが死んで別れるとき、それを受け止めることに精一杯で。だけど恋人と別れるときだって、みんな精一杯だと思うんです。いろんな別れがあるけど、結局その人にとってはすべて大きな出来事と言うか……だから今は死という一見大きなテーマに思えるものを、どう身近なものにできるかっていうのを考えて作ってます。
僕と過ごしていた日々よりは少しだけ不幸せでいてほしい
──「愛を教えてくれた君へ」は先ほどもお聞きしたように、亡くなった自分が生きている人にメッセージを送るという内容です。「元気でいてね、愛してるよ」という温かな思いだけではなく、1番の歌詞にある「今の日々を愛さないで そこには僕はいないんだよ」「何気ないことが幸せだったって 当たり前でしょ」のようなフレーズにドキッとしました。
内田 同じような題材の別の曲でも「つながっていられるよね」みたいな温かい曲が多いし、そうしたくなる気持ちもすごくわかるんですよ。だけど、いざ自分が身近な人の死を経験すると、そんなにキレイなもんじゃないなって。もちろん亡くなった側は生きてる人のことをすごく大事に思ってるとは思うんですけど、きっと離れ離れになって「僕と過ごしていた日々よりは少しだけ不幸せでいてほしい」みたいな気持ちもちょっとはあるんじゃないかなって。
森 嫉妬だよね。
内田 うん。そういう本音みたいなところは隠したくないなと思って。1番のサビに生々しさを出したかったんです。
──歌詞は森さんと内田さんの共作なんですよね。
森 はい。もともと「今の日々を愛さないで」っていうフレーズは内田が作ってきたところなんですけど、私もすごくハッとしました。自分がもし死んだとき、大切な人には幸せでいてほしいって思うに決まってるんだけど、自分のことを忘れて楽しんでるのを空から見たとしたら「今の日々を愛さないで」とも思っちゃうよなと。それが最後のサビで「今の日々を愛していて」に変わるんですけど、そこもすごく悩んだんですよ。最後まで「愛さないで」で終わるのか……でも今の日々を愛して幸せで過ごしてほしいっていう方向で終わるのか。
内田 と言うか、「今の日々を愛していて」も「今の日々を愛さないで」も両方共本音だと思うんですよ。嘘っぽくはしたくないけど、やっぱりちょっと光を感じさせる終わり方にしたいなって思いました。
森 私は自分で歌ってみたんです。最後のサビを「今の日々を愛さないで」「今の日々を愛していて」の2パターンで歌ってみたら、最後に「愛していて」って言った瞬間に自分で超泣けちゃって……単純にそっちのほうが曲として感動するわって思って……。
三輪 え、もしかして泣くん?(笑)
森 話してるだけで今泣きそう……ライブでも毎回感情移入しすぎて泣きそうになってて。でも「コイツ毎回泣いてるわ」って、おかしな人に思われそうなのでガマンしてます(笑)。
でっかいと思ってることは、実はすごく日常的
──「いぬやしき」はUFOの墜落に巻き込まれて機械の体に生まれ変わった主人公のサラリーマン・犬屋敷壱郎と高校生・獅子神皓を軸にした物語です。機械の体になってしまった壱郎は人を助けることで、獅子神は人を殺すことで生きてることを実感しますよね。そういったストーリーの“光と闇”という部分も、楽曲と共通しているなと思いました。
内田 「いぬやしき」が描いていることってすごくSFっぽいんだけど、実はものすごく日常的で。きっと会社や家庭から疎外されてる壱郎の生活も、そこら中の家庭で見られる景色だと思うんです。あと獅子神の「周りの大切な人間だけ幸せならいいじゃん」っていう思いも僕は正直少し共感できる。そういう、物語から感じる「そんなに日々の生活ってきれいごとじゃないよね」「いいことだけじゃなくてよくないこともあるよね」っていう部分がすごく日常的だなと思ったんです。UFO墜落とか、機械の体とか、そういう要素のある壮大な作品だからこそ日常的な曲にしたいなと思いました。
──先ほどから話に出てくる“日常”という言葉が、今バンドにとって大きなテーマなのかもしれませんね。
内田 僕は今29歳なんですけど、自分が10歳のときと今って社会の状況が違いすぎてると言うか。昔は僕も周りもそんなに携帯電話を持ってなかったですけど、今はみんなが普通にスマホを持っていてSNSを使う時代ですよね。そうやって10年、20年経てば昔は常識じゃなかったことが常識になる。だけど今回「愛を教えてくれた君へ」と「セツナロマンチック」で表現している“誰かに会いたい”という気持ちは、SNSでいつでも誰とでもつながれる今でも、みんな悩んだり喜びを感じたりすることだと思うんです。今回のメジャーデビューというきっかけで、この先どういうバンドになりたいかを考えたときに、それは10年後、20年後、30年後も愛される、人の心の近くにある音楽を作るバンドだったんです。だからシングルに収録される2曲共、“誰かに会いたい”という普遍的な感情をテーマに作りました。
森 自分たちは活動初期の頃“バンドとしてカッコよくありたい”というところに意識がいっていて。別に日常のことを歌わなくたっていいと思ってたし、「自分らがこうありたいんだ!」「負けてたまるかっ!」って葛藤が表れた歌が多かったんです。でもあるとき、自分も夢があってこうやって音楽をやってるけど、小さなことで傷付いたり、人間関係で悩んだりしてるなって気付いて。そのときに「それが人間だよな」「そういう日常的なことをちゃんと表現していきたいな」というマインドになったんです。1曲目は死、2曲目は遠距離恋愛が題材で、一見ことの大きさが違うように見えるけど、その2つは等価なんですよ。人に会いたいという思いはすごいエネルギーだなって思います。
三輪 僕も今回の楽曲の共感できる部分が多くて、けっこう自分の人生と照らし合わせながら歌詞を読んでました。ドラムを叩くときもすごく気持ちがのっかりますね。
──皆さんの気持ちの変化が、メジャーデビューのタイミングで日常を歌うことにつながったんですね。
内田 はい。幸宏が映画好きで、僕もここ数年で映画をめっちゃ観るようになって。クリストファー・ノーラン監督のSF映画とか、壮大ですごいなって思うんです。でも結局そういう映画とか「いぬやしき」とか、いいSF作品が伝えてるのって、ものすごく身近な価値観だったりするんですよね。僕らが今回のメジャーデビューシングルで伝えたいものもそれと同じ。でっかいと思ってることは、実はすごく日常的であるということなんです。いつも近くにある価値観に気付いてもらえるような楽曲を、これから作っていきたいなと思います。
- クアイフ「愛を教えてくれた君へ」
- 2017年11月29日発売 / EPICレコードジャパン
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期間生産限定盤 [CD+DVD]
1500円 / ESCL-4948~9 -
通常盤 [CD]
1200円 / ESCL-4947
- 期間生産限定盤CD収録曲
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- 愛を教えてくれた君へ
- セツナロマンチック
- 愛を教えてくれた君へ(TV Size Version)
- 愛を教えてくれた君へ(Instrumental)
- セツナロマンチック(Instrumental)
- 通常盤収録曲
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- 愛を教えてくれた君へ
- セツナロマンチック
- 愛を教えてくれた君へ(Instrumental)
- セツナロマンチック(Instrumental)
- 期間生産限定盤DVD収録内容
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- TVアニメ「いぬやしき」エンディングノンクレジット映像収録
ライブ情報
- クアイフ Live Tour “愛を教えてくれた君へ”
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- 2018年2月18日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2018年2月24日(土)東京都 LIQUIDROOM
- 2018年2月25日(日)愛知県 DIAMOND HALL
- クアイフ
- “絶対的、鍵盤系ドラマチックポップバンド”をキャッチコピーとする3人組バンド。2012年3月、音楽大学のクラシックピアノ科出身で数々のコンクール受賞歴のある森彩乃(Vo, Key)と、内田旭彦(B, Cho, Prog)、三輪幸宏(Dr)というメンバーで結成された。2014年3月に1stフルアルバム「クアイフ」、2015年6月に1stミニアルバム「organism」を発売。「organism」は「第8回CDショップ大賞2016」の東海ブロック賞を受賞した。2016年からは拠点である愛知県名古屋市のプロサッカークラブ・名古屋グランパスのオフィシャルサポートソングを担当。同年4月には2ndミニアルバム「Life is Wonderful」をリリースした。2017年11月にフジテレビ系「ノイタミナ」枠のテレビアニメ「いぬやしき」のエンディングテーマを表題曲としたシングル「愛を教えてくれた君へ」でEPICレコードジャパンよりメジャーデビュー。