音楽ナタリー PowerPush -Poet-type.M
夜しかない街の物語“春盤”
テーマがなければただのカタログ
──ただ、このアルバムに流れているのは「NO」と突きつけるダークなテイストだけではなく、曲によっては「YES」もストレートに表明してますよね。
うん。1曲目の「唱えよ、春 静か(XIII)」はまさに全肯定がテーマなんです。いろんなことがありますけど、一番大事なのは「どこから来たか」よりも、これから先のことなので。気持ち悪いところもたくさんありますけど、同時にいい予感というのも常にあるんですよ。大きかったのはグラミー賞ですね。ベックの「Morning Phase」が最優秀アルバム賞を取ったこともそうだし、プリンスのスピーチもすごくよくて。
──プリンスの「アルバムって覚えてる?」というスピーチは非常にインパクトがあったし、確かに重要な指摘だったと思います。
本当に素敵なスピーチだったし、うれしかったですね。アルバムというのは、テーマがなければただのカタログなんですよ。例えば「タイアップ曲を3曲入れて、足りない曲を作って……」ということだったら、顔と名前が違うだけで、結局全部一緒なんですよね。それはすごく悔しいし、「何でそんなにつまらないものにしちゃうんだろう」という疑問があって。「これを表現したい」というテーマがあって初めてアルバムになるわけだから。
──「表現したいことは何か?」という根本の部分を見つめ直す時期に来ているのかも。
そうです。「本当にやりたいこと、好きなことをやるときがきた」ということだし、どうやってそれを実現するかについて模索している人もいるわけじゃないですか。
──あとは優れた音楽を作るのみ?
応援してくれてる人に応えるにはそれしかないですね。あとは思ってることを正直に言うことかな(笑)。
──もう1曲、「楽園の追放者(Somebody To Love)」についても聞かせてください。「大人になるなよ 無駄に許すなよ」「君は独り 絶対独りで無敵さ」など鋭いフレーズを持った曲ですが、これはリスナーに向けられてるんですか?
いや、違いますね。それはGood Dog Happy Menをやっていたときの僕が、今の僕に問いかけてるんです。「最近、日和ってないか?」って。
──そういう恐れもある?
ありますね。こうしてインタビューを受けていても「自分の思っていることをちゃんと喋っているんだろうか?」という不安があるし、独りで音楽をやっていくのはハードルが高い。BURGER NUDSもGood Dog Happy Menも、「自分が最高」という人の集まりだったんですよ。僕は音楽をやっていく上で、「あの人の音楽のほうが素晴らしいな」と思ったら、その時点で終わりだと思っているんですね。だから「自分が最高だって言い切れる熱量を持って、今も音楽をやれているんだろうか?」と怖くなることだってあるし。
──今日の話を聞く限り、そこに関しては完全に大丈夫だと感じました。あと「観た事のないものを、好きなだけ」という歌詞も象徴的ですよね。このフレーズは3曲目のタイトルにもなっていますが、どんな意味が込められているんですか?
“これから先の未来=ファンタジー”だと思っているし、時が進むというのは、そういうことだと思うんですよね。ファンタジーが入り込む隙間を自分の想像力の中に用意しておきたいなって。あのとき(3.11)以降、ファンタジーが生まれづらくなってたから……。
確認ではなくファンタジーを
──ファンタジーが生まれづらいと、知っていることを確認するという方向に行きがちですよね。
そう。9.11以降のアメリカもそうじゃないですか。その前はラギッドな音楽があったのに「これがいいよね」って確認するようになって。そうじゃなくて、やっぱり「観た事がないものを、好きなだけ」なんですよ。今僕が言える、一番センスのいい「YES」がこの言葉なんですよね。
──PtMはライブのスタイルにおいても、新しさを模索してますよね。今年1月に行われた「A Place, Dark & Dark -prologue-」は端的な提示だったと思います。
ライブに関してはやり始めたばかりなので、まだなんとも言えないんですけどね。1月のライブは「“Dark & Dark”の街を電車の中から見ている」というテーマだったんです。MCも事前に録音して、本編では一度も話さず、ずっと曲をつないでいって。1回も拍手が起きなかったのはよかったですね。いいことをやれたんだなと思えたというか。
──「オーディエンスが集中して聴いている」という実感があった?
そうですね。15曲中10曲が新曲だったんですよ。お客さんはずっと知らない曲を聴かされてたわけだけど、そういうライブもいいと思うんですよね。例えば映画だったら、ストーリーやセリフを知っているとつまらないじゃないですか。
──確かに。でも音楽のライブの場合、「知っている曲、好きな曲を聴きたい」という要望もあるのでは?
知っている曲を聴いて「やっぱりいいよね」って確認したり、その場にいる人とユナイトするのもいいと思うんですよ。それがすべてになったらよくないっていうだけの話で。大事なのは、自分が音楽に誠実に向き合って、誰に対しても「いいライブをやっている」と言えることだと思うんですよね。一見盛り上がってないライブに見えても、実はすごく感動をしていたりするわけじゃないですか。まあ、フェスで共有されている感覚とは180度違うことをやりたかった、というだけなんですけどね、1月のライブは。ライブ中、「黙って見てろ」って思ってやっていました(笑)。
誰も排除しないポップさ
──楽曲については、どのリスナーでも楽しめる「ポップさ」の必要性も感じていますか?
そこが重要だし、僕が一生かけて学んでいかないといけないことだと思ってます。それはつまり「誰も排除しない」ということなんです。この価値観のまま、誰も排除しないようなポップさを表現できれば、それは絶対に素晴らしいものになるので。そのための知識不足、スキル不足は常に感じているし、そこはこれからの課題ですね。
──7月1日にリリースされる“夏盤”にも期待しています。10月には大阪と東京で「festival M.O.N —美学の勝利—」も開催。PtM、BURGER NUDSの出演がアナウンスされていますが、どんなイベントになりそうですか?
これは「Dark & Dark」のためのイベントですね。今回のアルバムもそうですけど、BURGER NUDSやGood Dog Happy Menを知ってる人が聴いたら、よりニヤッとできる仕掛けもたくさんあるので。それが一夜でわかるようなイベントになると思います。
- ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」/ 2015年4月1日発売 / 1620円 / I WILL MUSIC / PtM-1030
- ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」
収録曲
- 唱えよ、春 静か(XIII)
- 痛いな、この光(Ticket To Nowhere)
- 観た事のないものを、好きなだけ(THE LAND OF DO-AS-YOU-PLEASE)
- 救えない。心から。(V.I.C.T.O.R.Y)
- 泥棒猫かく語りき(Nursery Rhymes ep3)
- 楽園の追放者(Somebody To Love)
Poet-type.M(ポエットタイプエム)
BURGER NUDS、Good Dog Happy Menの門田匡陽によるソロプロジェクト。2013年4月に活動を開始し、同年10月にアルバム「White White White」を発表した。2015年1月に行われた“独演会”「A Place,Dark&Dark-prologue-」では、「夜しかない街の物語」というコンセプトを掲げ演奏を披露。さらに同コンセプトを反映した新作「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」を同年4月に発表。「A Place, Dark & Dark」は春夏秋冬の4部作で展開される作品集としてリリースを予定している。