音楽ナタリー PowerPush -Poet-type.M
夜しかない街の物語“春盤”
音楽を舐めすぎている“気持ち悪さ”
──「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」のサウンドについて聞きたいのですが、このアルバムには門田さんにとっての「新しい音」が反映されているわけですよね。
そうですね。ニューヨークインディーシーンの音楽を聴いた後に僕の作品に触れても、遜色ないものを作りたいっていう。僕はミュージシャンですが、リスナーとしての時間が9割で、作る時間が1割なんです。家に帰ってから寝るまで、ずっと音楽を聴いてますからね。毎日新しい音楽を見つけないと気が済まないので。聴いてる量の多さは自分でも引くくらい(笑)。ギークなんだなって思います。
──ヤバいくらい聴きまくってる、と。
去年1年間もずっとそれをやってました。PtMでやるべき音楽を模索していたというか……。今回のアルバムに関しては、わりとニューウェイブや80'sポップにフォーカスを当てた1枚になってるんだけど、それがPtMのすべてというわけではないんですよ。今自分ができる音楽を4部作用に分けて、それを振り分けていったという感じなので。結果的にはそんなにバラけないと思いますけどね。通底和音として80'sがあって、そこにもっとルーツ的な音楽が入ってくるというか。もう1つは、みんなが聴けるようなポップに昇華することも意識しています。今回もそこに時間がかかったんですよね、実は。例えばアンビエントやヒップホップ的なトラックと日本語を乗せたポップスをつなげたり、なおかつギターロックとしても成立するような曲にしたいとか。そういうトライ&エラーを繰り返す中で、やっと自分が納得できるだけのクオリティとバラエティを持った曲がそろったということですね。あとはずっと「気持ち悪いな」と思って過ごしてました。
──「気持ち悪い」っていうのは、音楽をやっていく上で?
はい。「White White White」(2013年10月にリリースされたPtMの1stアルバム)を出したときは、「絶対、これからよくなっていく」と思ってたんです。3.11から2年半経って、だんだん「次はどうやっていけばいいか?」ということにみんなが目を向け始めたと思ったから。日本はすごく自由な国だし、特にロックに関しては音楽的なルーツも持ってないじゃないですか。たとえばイギリス人なら「どうしてもThe Beatlesっぽくなる。デヴィッド・ボウイっぽくなる」みたいな不自由さがあるだろうし、それはアメリカ人も同じだと思うんですよ。僕らにはそういう不自由さがないし、ネットも発達していて、こんなに音楽の選択ができる時代は過去なかったはずなんです。そういうことも含めて、「これからどういう音楽をやっていくべきか」ってミュージシャンが真面目に考えるようになると思ったんだけど、去年はそれが悪い方向に出てたんじゃないかなって。
──なるほど。
「僕はそこに関係ないよ」という体でもいいんですけど、音楽に携わる人間としてはやっぱり……僕らがやっているのは文化ですからね。あとから振り返ったとき、今の音楽というのはすごく悲惨な見え方になると思うんです。本当はそうじゃないのに、音楽に携わっている人が音楽を舐めすぎているから。そこに対する気持ち悪さはすごくありましたね。
──自戒を込めて言いますが、お金の問題も大きいと思うんですよね。音楽メディアもこの先、どうやってビジネスとして成り立たせるか試行錯誤が続いているし。
でも、それは志の問題じゃないですか。最初はそうじゃなくて、「カッコいいと思ったものを応援したい」だったはずだし。それはミュージシャンも同じですよね。自分で言うのもおかしいですけど、僕の覚悟とは程遠いと思います。「その程度の覚悟でやるなよ、文化なんだから」って思う。
「夜のダーク」と「アンチとしてのダーク」
──そのスタンスは今回のアルバムにもハッキリ出ていますね。もっとも顕著なのは「救えない。心から。(V.I.C.T.O.R.Y)」。今の音楽業界に対する違和感を直接的に表明した曲だと思うのですが、こういう内容を歌うことによって、音楽の美しさが損なわれるリスクはなかったですか?
自分の音楽に対する愛を信用し切っていますから。こういうことを歌っても音楽としていいものになると思っていたし、そこは完全に振り切っていますよね。一番大事なのは、音楽のファンタジーを信じることなんですよ。「このことを言いたい」というだけだったら曲にする必要はなくて、言葉以上にメロディや音が物語っているわけだから、そこで生まれるファンタジーが伝わればそれでいいじゃないかなって。そういう聴き手の想像力も100%信頼していますからね。
──「夜しかない街の物語」というテーマ自体にもファンタジーの要素が含まれてますよね。このテーマを掲げた理由は何だったんですか?
1つは僕自身、夜が好きということです。夜の街を歩くのがすごく好きなんですよ。隅田川の近くに住んでるんですけど、そこから東京湾あたりまで歩くのも楽しいし。そのときの感覚を“還ることのない美しさ”と呼んでるんですけど、それを音楽に翻訳したいという気持ちもありますね。よくわからないけど悲しい、どこから来るかわからないきれいな気持ちを音楽に還元するというのも、PtMのテーマなので。もう1つは、何かに対する静かな“NO”ですね。アンチ光、アンチ希望、アンチ等身大とか。一番はアンチインスタントですけどね。
──インスタントな音楽に対するアンチテーゼ?
そうですね。夜の“ダーク”と、何かに対するアンチとしての“ダーク”。だから「Dark & Dark」なんです。
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- ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」/ 2015年4月1日発売 / 1620円 / I WILL MUSIC / PtM-1030
- ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」
収録曲
- 唱えよ、春 静か(XIII)
- 痛いな、この光(Ticket To Nowhere)
- 観た事のないものを、好きなだけ(THE LAND OF DO-AS-YOU-PLEASE)
- 救えない。心から。(V.I.C.T.O.R.Y)
- 泥棒猫かく語りき(Nursery Rhymes ep3)
- 楽園の追放者(Somebody To Love)
Poet-type.M(ポエットタイプエム)
BURGER NUDS、Good Dog Happy Menの門田匡陽によるソロプロジェクト。2013年4月に活動を開始し、同年10月にアルバム「White White White」を発表した。2015年1月に行われた“独演会”「A Place,Dark&Dark-prologue-」では、「夜しかない街の物語」というコンセプトを掲げ演奏を披露。さらに同コンセプトを反映した新作「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」を同年4月に発表。「A Place, Dark & Dark」は春夏秋冬の4部作で展開される作品集としてリリースを予定している。