ナタリー PowerPush - ピロカルピン

空想の世界に誘う“まぼろし”短編集

音楽でどこにもない世界に行きたい

──今作に収録された過去の楽曲について伺いたいのですが、現メンバーでアレンジとレコーディングをやり直してみてどんな手応えを感じましたか?

アレンジはそんなに大きく変わっていなくても、どの曲もフレーズごとに「本当にこれでいいか?」って細かく吟味したんです。だから自分たちでは全然違う仕上がりに思えていて。そういう意味では“新曲”と言ってもいいんじゃないかなって思います。

──すごく根気が要りそうな作業ですね。

はい、かなり(笑)。ピロカルピンの曲は元々すごく緻密にアレンジして作るので、私たちにも粘り強さが必要なんですけど、今回のように1回曲としてでき上がってるものを再度吟味し直していくのは、さらに根気がいる作業でした。それと、今回ならではの変化という点で言えば、コーラスをたくさん入れていて。自主制作時代と比べてコーラスの量を圧倒的に増やしたので、そのあたりはパッと聴いてもわかると思います。

──オリジナル音源を持っている人は、聴き比べてみると面白いかもしれないですね。そのほかにリアレンジをしていて印象的な楽曲はありましたか?

インタビュー写真

「カンパネルラ」は3拍子で、割と尺も長めの曲なんですが、聴いた人が音から何かしらイメージしてくれるんじゃないかなって。

──たっぷり聴かせる間奏のギターソロが耳に残りました。

あ、良かったです。長いけど飽きずに聴いてもらえるように……っていうのもテーマにしていたので。

──ちなみに、この曲の歌詞にも「まぼろし」という言葉が入っていて。

そうなんです。でもそれ、私自身は全然自覚していなかったんです(笑)。

──あと松木さんの歌詞に多く使われている「星」や「光」というフレーズがこの曲にも入ってますが、やっぱりピロカルピンはそういった言葉がもたらすイメージが強いのかなって。

やっぱり音楽を通して“どこにもない世界”に行きたいと思っているし、聴き手にもそれを体験してほしいっていう気持ちがあるんです。だから自然とそういうワードを使っちゃうのかもしれないですね。

──本作に収録されている楽曲以外にもピロカルピンの過去曲は多くありますが、今回この5曲を選んだ基準とは?

今回はアルバム全体のテーマを特に設けてなくて、むしろ1曲1曲の世界観が独立した短編集みたいなものにしたかったんですね。だから、強いて言うなら楽曲がしっかり濃く立っているもの、というのがひとつの判断基準でした。

──なるほど。どれも同等の濃さがあるのに、並べてみたときの印象は全て違っていて。リスナーは1曲1曲、それこそ短編集のページをゆっくりめくるように楽しめそうですね。

そうですね。だから今回は自由な曲順で聴いてもらってもいいかなって思っていて。小説の短編集もそうだと思うんですが、気分によって今日はこれを聴こうとか、そういうことがあっても全然いいと思います。

──新曲についても伺います。「獣すら知らぬ道」はライブでもまだ披露していない新曲だとか。

これはピロカルピンの中でまた新しいタイプの楽曲で、自分たちでも演奏していて新鮮でした。

──この曲もコーラスが多めですね。

はい。「ここにも入れるのか?」っていうところまで入ってます(笑)。

──私は歌詞を読んで「迷い」というキーワードが浮かんだのですが、そのあたりはいかがですか? もがいてたり、先の見えない何かを探してる感じが伝わってきます。

やっぱりそれもピロカルピンの根底にあるものなのかなって。バンドを始めてからずっと目標に向かってやってきて、近場の目標を達成してもまた次に次に……と、いつまで経ってもたどり着けない何かを目指す感じがずっと続いているんだと思います。

納得いく作品を作りたいという目標も“まぼろし”

──その「何か」を表現したのがアルバム「蜃気楼」だったと思うんですが、今回のタイトル「まぼろし」も近いイメージの言葉ですよね。「まぼろし」とは、バンドにとってはどういうものなんですか?

「まぼろしアンソロジー」は、ピロカルピンの過去と未来をつなぐ作品でもあるので、そういう意味ではバンドの理想的な未来も「まぼろし」と言えると思います。そこに行きたくて過去を振り返ったり、再構築したりしたものなので……。

──それは「蜃気楼」とどう違うのですか?

先にあるものを目指すっていう意味では変わらないんですが、気持ち的な部分が少し違ってると思います。今回は「新たなものをつかみたい」っていう思いがより強く出てきてる気がするんです。あと「蜃気楼」発売時のインタビューでもお話したんですが、何か目標を目指して、そこにたどり着いた瞬間ってもう現実なんですよね。全然キラキラしていないというか。でも私は最近、人生ってその繰り返しなんじゃないかと思ってて。ひとつ達成したらまた次の理想が見えて、また次へ次へって。

──そのずっと続いていく「まぼろし」にゴールはないんですか?

よく「人生はずっと勉強」って言うじゃないですか? なんとなくそれと変わらないような気がします。「ずっとたどり着けない」っていうのはネガティブな意味じゃなくて……「バンドとして納得がいく作品を作りたい」っていう目標もひとつの「まぼろし」だし、これからもずっとその“まぼろし”を追っていくんだろうなって。

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ピロカルピン - 桃色のキリン(Short Ver.)

2ndアルバム「まぼろしアンソロジー」 / 2012年11月14日発売 /2100円 / UNIVERSAL J UPCH-1896
2ndアルバム「まぼろしアンソロジー」
収録曲
  1. 桃色のキリン
  2. 人魚
  3. 白昼夢
  4. カンパネルラ
  5. 獣すら知らぬ道
  6. ララバイ
  7. 火の鳥
「まぼろしアンソロジー」レコ発ワンマンライブ

幻聴シンポジウム vol.2 ~まぼろしがまぼろしではなくなる日~
2012年11月19日(月)
東京都 渋谷CLUB QUATTRO
OPEN 18:30 / START 19:30

同時開催「ピロカルピン イラスト原画展2012」

2012年11月19日(月)
東京都 渋谷CLUB QUATTRO
OPEN 18:30~終演後まで開催

ピロカルピン

ピロカルピン

松木智恵子(Vo, G)、岡田慎二郎(G)、スズキヒサシ(B)、荒内塁(Dr)からなる4人組ギターロックバンド。2003年に松木と岡田が出会い、バンドの原型が誕生。2009年7月にタワーレコード限定シングル「人間進化論」とHMV限定シングル「京都」を同時発売しデビューした。
2010年11月から2カ月連続でシングル「存在証明」「終焉間際のシンポジウム」を発表し、繊細な世界観とダイナミックなサウンドで話題を集める。2011年3月、3rdアルバム「宇宙のみなしご」をリリース。このアルバムのタイトルは森絵都の同名小説にちなんだもので、森の快諾により名付けられた。
2011年5月にはドラムが荒内にメンバーチェンジ。7月3日に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブ「幻聴シンポジウム vol.1」を行い、成功を収めた。11月には初の3曲入りシングル「青い月」を発売。そして、12月に行われたワンマンライブにてユニバーサルJへの移籍を発表した。2012年5月にメジャーデビュー作となるアルバム「蜃気楼」をリリースした。同年11月には早くもメジャー2作目「まぼろしアンソロジー」を発売。