ナタリー PowerPush - ピロカルピン

新しいチャレンジに満ちた新作「青い月」

「青い月」は絵本のような作品

──メンバーチェンジ、初のQUATTROワンマンと、バンドにとってさまざまな変化があった中、新曲「青い月」はいつ頃制作した曲になるんですか?

松木 原曲のようなものは7月末に作りました。今までは、作りためていた新曲のデモからどれを制作するか選ぶことも多かったんですが、今回はそうじゃなくて。原曲完成からリリースまでが一番早かったですね。

岡田 ピロカルピンは、結構アレンジに時間がかかってしまうんです。でも今回は、QUATTROを経て、この4人だったら短期間でもいけるみたいな勢いもあって、ガーッと集中して作れましたね。

──ピロカルピンの曲はどれもメロディ先行ということを以前お伺いしましたが、今作はどういったイメージから原曲が生まれたんですか?

松木 まずは、わりと速いアッパーな曲を作ろうと思っていたので、先にテンポから入りました。

岡田 そこから仕上げていく段階でも、QUATTROライブの後だったこともあってか、気持ちの面でもちょっとイケイケで(笑)。テンポは速く、ギターも“ピロカルピンのロック”という色を出したかったので大人しくなりすぎないことを意識しました。アレンジも、ここまでストレートなのは初めてだと思います。

──歌詞はいかがですか? 全体的にファンタジックな世界観ですよね。

松木 そうですね。「青い月」の歌詞は、絵本のような、ファンタジー要素の強いものにしたくて。この曲からイメージを膨らませて、絵本が描けるくらいのものにしたいなって思ったんです。

──曲のモチーフに“青い月”を選んだのはなぜでしょう? 資料によると、ごく稀に現れる1カ月のうち2度目の満月という意味なんですよね。

松木 私は元々、月の満ち欠けが人に与える影響に惹かれるような傾向があったんです。それでいろいろ調べていたときに“青い月”の存在を知って。それは月に2回現れる満月のことでとても珍しい、つまりパワーを持っている現象だってことがわかって。その月に願うと叶いやすいっていう言い伝えもあるみたいなんです。なので、そこをモチーフにイメージを膨ませて書いてみようと。世界にはいろんな家があって、その中や外にいろんな人がいて、みんなそれぞれの生活をしてるんだけど、それをすべて超えたところに青い月があって、そのパワーが全体を包んでいる……っていう。

願望を曲に託している

──曲の中盤に出てくる「ありえないことなんて なくなる世界」という歌詞はとても印象的でした。

岡田 それについては、僕は松木さんが自分の今置かれている状況を表したのかなって思ってて。「ありえないこと」っていうのはQUATTROライブの話にも当てはまるし。それを実現したことで、今後はもっとありえないことを叶えていけるっていう希望を込めたのかなって。

──松木さん、その解釈はいかがですか?

ピロカルピン

松木 うーん……どうでしょう(笑)。私は聴く人によって自由に受け取ってもらえたらと思ってるんですが……。でも確かに今年はQUATTROでライブをやれて、プライベートでも叶わないと思っていたことが実現できたりして。だから、これからもそういう大きな願いを実現していきたいって思いを込めている一面はありますね。私自身が昔から持っているそういう感情は、どうしても歌詞に出ちゃうのかもしれない。願望を曲に託しているというか。

──歌詞には、ちょっと神秘的だったり、先程お話してくれたような絵本のイメージに近い温度感を持ったワードが散りばめられてますよね。でも、だからこそ、初めてこの歌詞に触れる人には、ちょっとわかりにくい部分もあるのかなって思ったんです。ピロカルピンの歌詞って、基本的にはメロディが活きる言葉を選んで書かれているから、具体的なストーリーやメッセージ性がまず最初にあって……っていう作風じゃないですよね?

松木 はい。わりと直感的に言葉をメロディに当てはめているというか、語感やメロディに乗ったときの音の感じを重視してます。だから、歌詞の意味を優先するために音の数を崩すとかは絶対にしたくないんです。

──じゃあ、これからも“わかりやすい直球のメッセージソング”みたいな歌詞は書かない?

松木 私にとって歌詞は、メッセージを伝えることが一番大切なことではないんです。歌詞を“詞”という概念では捉えてなくて、音楽とひとつになって初めて成り立つものとして作っているので。だから、曲の世界観に触れられて、聴く人によってはメッセージが感じられる……くらいのレベルを目指してます。普段から、お客さんがいろいろと解釈して聴いてくださってるみたいなので、そういう想像の余地みたいなものを曲に残しておきたいなって。

ニューシングル「青い月」 / 2011年11月23日発売 / 1000円(税込) Graraga / PRKL-1011

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収録曲
  1. 青い月
  2. オペラ座
  3. 祈り
ピロカルピン(ぴろかるぴん)

アーティスト写真

松木智恵子(Vo, G)、岡田慎二郎(G)、スズキヒサシ(B)、荒内塁(Dr)からなる4ピースバンド。2003年に松木と岡田が出会い、バンドの原型が誕生。2009年7月にタワーレコード限定シングル「人間進化論」とHMV限定シングル「京都」を同時発売しデビューした。
2010年11月から2カ月連続でシングル「存在証明」「終焉間際のシンポジウム」を発表し、繊細な世界観とダイナミックなサウンドで話題を集める。2011年3月、3rdアルバム「宇宙のみなしご」をリリース。このアルバムのタイトルは森絵都の同名小説にちなんだもので、森の快諾により名付けられた。
2011年5月にはドラムが荒内にメンバーチェンジ。7月3日に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブ「幻聴シンポジウム vol.1」を行い、成功を収めた。11月には初の3曲入りシングル「青い月」を発表。精力的な活動を続けている。