「ファントム オブ キル」音楽プロジェクト スタッフインタビュー|ソーシャルゲームとしては珍しくキャラソンに力を入れている「ファンキル」、その狙いとは?

「ファンキル」のために書かれていない歌詞にはできない

──「Filii Bestia」の作曲、編曲はA-beeさんですが、制作にあたってどのようなやりとりを?

木村 恥ずかしながら、僕は紹介してもらうまでA-beeさんのことを存じ上げなかったんです。でも過去の音源などを拝聴してすぐに、A-beeさんなら僕の表現したいものを形にしてくれるだろうと直感的にOKを出させていただきました。実際、最初のミーティングから「救われるような音楽を」とか「10分超えてもいいです」とか「なんなら歌がなくてもいいです」とか僕が一方的に捲し立てたんですけど、それに対してA-beeさんは「キャラソンでそれやるんですか? いいですね、やりましょう」みたいに面白がってくださって。

冨永 私たちはキャラソンを作るとき、基本的にはコンペを行うのですが、今回は木村が作りたい世界観が最初から明確にあったので、例外的にA-beeさんを指名させていただく方法を取ったんですね。ただ正直、不安もあったんです。スケジュールもタイトですし、もしアテが外れたら取り返しがつかないので。でも、デモ音源が上がってきたときに……。

木村 びっくりするぐらいスムーズでしたね。A-beeさんから最初のデモをいただいたとき、すごすぎて笑っちゃいましたから。ただ、そのデモは完成形よりも展開がコンパクトにまとまっていて、より歌モノ的なキャッチーさもあったんです。それを「もっと尺を伸ばしてもらって大丈夫なんで」「じっくり“救い”を表現しましょう」みたいな要望を改めて伝えさせてもらい、メジャー路線からより独自の方向へ突き進んでもらいました(笑)。結果、想像以上の楽曲ができあがりました。僕はクリエイターとして今までいろいろなものを手がけてきましたけど、その中でも5本の指に入るくらい素晴らしい作品だと自負しております。

──「Filii Bestia」の作詞は、仁田さんがなさっているんですよね。

木村 やっぱり仁田が、誰よりもゲームのこともキャラクターのことも理解しているんですよ。プロモーションの仕事って、商品のよさを理解してないとできないじゃないですか。そういう意味では、彼はキャラクターを表現するためのワードを正しく選び取ることができる数少ない人間なんですよね。もともと仁田はコピーライター出身で、そのおかげかわかりませんけど、僕としては非常に助かっています。

仁田俊秀

仁田 曲よりも歌詞は批判の的になりやすいものなので、ユーザーさんがお怒りになる可能性を極力なくしたいと思っております。外部の作詞家さんに頼めば歌詞は作っていただけるのですが、私も言葉のプロとして長くやってきている中で、その精度とかユーザーさんの視点を踏まえると世に出すのが難しいと感じてしまいます。実際、最初の頃に作った曲は、今泉潤プロデューサーのOKが出ずに途中で作詞家さんが交代になり、20回近く直したというものもあります。「ファンキル」のことを知らない人には頼れないし、間に合わないので自分で書こうと思ったのが、私が作詞をしたきっかけでした。もちろん私が書いても全員にご満足いただけるものにはなりませんが、このキャラのためだけに作られた歌詞になるよう魂は込めています。

木村 「Filii Bestia」は楽曲の性格的に、歌でメッセージを伝えるというよりは、歌声も楽器の1つとして用いながら世界観を表現するようなイメージだったんです。なので、より言葉の響きを重視して、例えば「サビはサ行の摩擦音でエコー映えさせたい」とか、そういう要望を伝えました。歌詞の言葉選びもパーツとして必須でしたので。

仁田 今回は木村から具体的なオーダーをもらっていたので、その点はやりやすかったです。楽曲が攻めているからこそ、ユーザーさんが聴いてすぐカシウスらしい言葉で歌の世界に入れるように冒頭を「輪廻」にして、コンセプトを表現する仕掛けとして、タイタニックが沈むときにみんなが歌ったとされる賛美歌をラテン語で組み込みました。歌詞というのはあくまでも楽曲を構成する一要素であって、トラックやボーカルと組み合わせて初めて形になるわけですから、最終的に音色や構成を踏まえて詰めていくところは妥協せず、“そら”の漢字を“天穹”と書こうとか。自分が悩んだときは冨永にチェックしてもらったり。冨永はけっこう厳しい指摘をしてくれるので(笑)。

冨永 そんなことないですよ(笑)。企画意図がわかっているからこそ、一番初めに客観的にチェックできるという立場上、いろいろ気が付きやすいだけだと思います(笑)。

完成形を聴いたときに「これヤバくないですか!?」とめちゃくちゃ興奮した

──そして「Filii Bestia」のボーカルは、カシウスを演じる声優の佐藤舞さんです。

木村 佐藤さんは若手声優ではあるんですけど、歌い手としてのポテンシャルも高く、今回の楽曲に見事にマッチした素晴らしいボーカルでした。去年の夏にカシウスを含む4人のキャラクターで組んだゴッドキラーズというユニットで「キミにGod4Love♥」「永遠Summer…」という夏のテーマソングを2曲レコーディングしたんですね。そのときに、こちらのディレクションへの対応などが見事だったんです。彼女だったら「Filii Bestia」のような曲も表現できるかもしれないと思って、高いハードルにチャレンジしてもらったんですけど、マジですごかったです!

木村 先ほど言ったように歌詞は言葉の響きを重視していたので、ボーカルでもそれを生かしてもらう必要があったんですけど、それにもばっちり応えてくれて。しかもレコーディングの現場でもめきめきと実力を付けているかのようで、それも面白かったですね。ただ、現場のスタッフに申し訳ないなと思ったのはトラックダウンで……。

仁田 いつまで経っても木村がスタジオに帰ってこないんですよ(笑)。

木村 現場のエンジニアさんには朝からずっと作業していただいて、午後にA-beeさんサイドの確認を終えて、夜の7時ぐらいに僕が確認に伺ったんですけど、そこから4時間くらい居ましたからね。

冨永 しかも、ちょうど別タイトルの周年イベントと重なっていて、ものすごく忙しい時期だったんですよね。毎日帰れないし、木村にもたくさんやってほしいことがあったのですが連絡がつかず(笑)。曲を作ることが決まってから、配信日を決めて、そこから逆算してスケジュールを組んでいくんですけど、だいたい押すので(笑)。そのスケジュールの再調整が大変だったのはよく覚えています。トラックダウンが終わったときに木村から感激している様子のLINEが届きました。

木村 普段のトラックダウンは、もう最終確認なので「はい、オッケーです!」のひと言ですぐ済むんですけど、このときはエンジニアさんも「やるならとことんやりましょう」みたいな熱意を見せてくださって。個人的に一番感動したポイントは、後半の間奏で語りを入れてるパートなんですよ。その語りはラテン語なんですけど「ほとんど聞き取れないぐらいに、ノイズっぽく加工して」とか「でも輪郭は見える感じで」「そして最後は覚醒」みたいな僕の無茶なリクエストに付き合ってくださって。完成形を聴いたときに「これヤバくないですか!?」とめちゃくちゃ興奮したのをよく覚えています。

木村将人

仁田 あと、「Filii Bestia」に関して、個人的には木村がデザインしたジャケットにも注目してほしいと思っております。これも一般的なキャラソンのビジュアルとは一線を画すものだと思っていまして。もともと木村はデザイナーとしてもフランスで賞を取っているくらいにすごい実力があるので、私も毎回楽しみにしていまして。このジャケットは日曜に「できたよ!」と気軽に送られてきたのですが、見た瞬間に鳥肌が立ちました。

木村 僕が最初にイメージした“救い”というのは、魂が浄化されるみたいな、内面的な救いだったんですよ。その“内面”を表現したくて、水中から水面を見上げたシーンと、水中に何かが落下した瞬間を捉えたシーンをかけ合わせ、そこに光が差し込んでいるというビジュアルに落とし込みました。ちなみに、水中に落下した“何か”は獣の子=胎児のイメージです。僕はデザインをするとき、計算して作り込んでいくというよりは、“偶発性”を重視するというか。最初に方向性をイメージしたら、あとは素材をかけ合わせる瞬間にアイデアを生み出し続けていくという即興的な手法なんです。デザインしながら表現の完成度を高めていって、できあがったときに今回は特にうまくハマって、ユーザーさんに届けるのにふさわしいものにはなりました。

ユーザーとの関係を深めたり体験を共有するために命をかけている

──先ほど、仁田さんの歌詞に冨永さんから厳しいチェックが入るとのお話でしたが、もう少し具体的にお聞きしてもよいですか?

仁田 「Filii Bestia」よりも、カップリングの「永遠Winter…」のほうが厳しかったですね。この曲は、先ほど話に出た「永遠Summer…」の冬バージョンで、アレンジと歌詞を変えて、かつユニットではなくカシウス役の佐藤舞さんがソロで歌っているんです。このバージョン違いを企画したのも冨永なんですよ。初めは冗談で木村と「Winterを作ろうか」と話していたんですが……。

冨永 「Filii Bestia」はメジャー志向の曲ではなかったので、カップリングはユーザーさんにわかりやすい曲にしようと仁田と決めていたのですが、それなら「永遠Summer…」は佐藤さんも歌っていましたし、その冗談を本当にやってしまおうということになりました。ですので「永遠Summer…」を踏まえて、冬の「永遠Winter…」の歌詞に必要な要素とか、そういうディスカッションは念入りにしましたね。

──それができるのも、やはりプロモーション担当としてゲームおよびキャラクターを熟知しているからこそなんでしょうね。

冨永 ゲーム内容やキャラの設定はもちろんですが、リアルイベントや生放送などユーザーさんとのコミュニケーションを踏まえて必要な表現に落とす……みたいなことは自分なりに常に考えています。

木村 そもそもオリジナルの「永遠Summer…」も冨永のアイデアのおかげでできたようなものでした。普段プロモーションでは仁田のサポートをしていますが、せっかくなのでキャラソンプロジェクトでの彼女の役割にも触れておきたいと思います。ちょうどどういった考えでキャラソンをやっているのかというご説明になるので。

冨永 毎年夏にテーマソングを作っているのですが、常に新しいことにチャレンジしようというコンセプトがプロモーションチームにありまして、今回は2曲作るということでアイデアを持ち寄りました。8月は王道でアッパーな夏ソングを提案して、それがのちに「キミにGod4Love♥」という曲になったんです。一方の9月は、夏の終わりをテーマにした少し切なげな曲として「永遠Summer…」の元となる音源や楽曲の方向性を提案して、ありがたいことに採用いただきました。3人のブレストで木村からもやったことのない夏曲がいいよねとなりまして。

仁田 冨永には初めてこのあたりからプロジェクトに入ってもらったんですが、すぐに才能を発揮してくれて。それまでクリエイティブ関連は木村と私の2人でなんでもやっていて、付いて来れるメンバーがいなかったので「この子できるな」と思いました(笑)。狙いについて話すと、今、冨永が言ったように、ゲーム内で3カ月もイベントが続くとさすがに中だるみしてしまうんです。なので、それまで夏ソングは1曲だけだったけど、去年は月が変わるタイミングで2曲、しかも方向性の違う曲を用意してゲーム内に実装し、配信することでユーザーさんに新しい体験をお届けしようと試みたわけです。あくまでゲーム内の動きが軸になっていて、配信やCD化があって、そのうえで生放送やリアルイベントなどを実施することで、ユーザーさんに愛着を深めてもらおうと考えています。

木村 これも“音楽制作チーム”ではなく“プロモーションチーム”だからこそ実現できることなのかなと思っています。去年の夏に鎌倉のイベントで、声優さんたちに本物の海辺で「永遠Summer…」を歌ってもらって生配信をしたのは実によかったよね。

冨永美咲

冨永 キャラソンを作ることにした時点で、そのアウトプットまで一瞬で決めてますよね。イベント中は波の音がしてました! あのイベントについて、仁田さんは制作サイドから「できない」と言われてましたが、強引に実現させましたね(笑)。

仁田 かなり無理を言って……現地へ飛んで、レイアウトからカメラの位置まで全部私が決めたんです。「最悪、明るさや見栄えが悪くなっても絶対にユーザーさんに海をお見せしたい」と。さらに木村にはバスツアーで現場入りしてもらって、ユーザーさんとスイカ割りをしたり、かき氷を振る舞ったりもしたんです。たぶん普通のアートディレクターはそういうことはしないですよね。

木村 意味がわからないですもんね(笑)。

仁田 キャラソンは一例ですが、ほかのタイトルと差別化しながら、ゲームを起点としてユーザーさんとの関係を深めたり体験を共有するために、僕たちのチームは命をかけているようなところがあります。プロデューサー自身もそうですし、仕事以外の自分はすべて捨てて、時間も魂も情熱も全部注ぎ込んでます(笑)。いろいろな角度から「ファンキル」をユーザーの皆様にお届けしたいと考えています。

木村 なんなら事業としては収益があるわけではないですからね、生放送とかをやっても(笑)。KPI(重要業績評価指標)だけ追いかけていたら意味がないように見えるかもしれません。でも、それを5年間毎月やってるんですよ。

仁田 はっきり言えば音楽についても、CDをたくさん売ろうとか収益を得ようとかそういう趣旨はないんです。「『ファンキル』を楽しんでいただけるのであれば……」という気持ちだけです。

木村 もちろん、制作に関わってくださったクリエイターの方々に還元したいという意味では売れてほしいし、より多くの人に届けたいとは思うんですけど、曲を作って金儲けをしようという発想は皆無なんですよね。キャラソンは、今仁田も言ったように、あくまでユーザーさんとゲーム、キャラ、世界の関係を深めていくためのものなんです。もちろんキャラソンも魂込めてやっていますので、1人でも多くの方にゲームに興味を持っていただけたら幸いです。