「ファントム オブ キル」音楽プロジェクト スタッフインタビュー|ソーシャルゲームとしては珍しくキャラソンに力を入れている「ファンキル」、その狙いとは?

キャラクター育成のやり込み度で、2014年10月のサービス開始以来、多くのプレイヤーから支持されている「ファントム オブ キル」(以下:「ファンキル」)。このゲームでは以前から、ゲーム内に登場するキャラクターたちのキャラソンを制作し、配信でリリースしたり、リアルイベントでライブパフォーマンスを披露したりしてきた。

アニメ業界においては一般的となっているキャラソンだが、歌を前面に打ち出しているスマホゲーム以外で「ファンキル」ほどキャラソンに注力しているタイトルはほかにあまり例がない。本稿では「ファンキル」を開発・運営するStudio FgGプロモーションセクションの3名にインタビューを行い、キャラソンに力を入れている理由や、スマホゲーム運営視点で見るキャラソンの役割などについて話してもらった。

構成 / 編集部 撮影 / 入江達也

運営ゲームには“終わりがない”からこそ、遊んでいただく皆様との関係を大切にしていきたい

──皆さんは「ファンキル」というゲームにおいてどのような役割を担われているんですか?

木村将人

木村将人 僕はアートディレクターとして「ファンキル」におけるクリエイティブとプロモーションを統括しています。具体的には楽曲のプロデュースやジャケット、広告やグッズのデザイン、コミュニケーション周りのあらゆる制作物はだいたい手がけています。ほかにも公式生放送に出演してユーザーさんと直接コミュニケーションを取るというスポークスマン的な役割も担っています。

仁田俊秀

仁田俊秀 私は木村のもとでプロモーション施策を広告からコミュニティ管理、ゲームとの連動など全方位で担当しています。音楽プロジェクトでは楽曲のラインナップとコンセプト、収録・配信のマネジメント、ミュージックビデオ制作のほか、作詞にも一部携わっています。この音楽プロジェクトもそうですが、ゲームはユーザーさんに続けてもらうために、ゲームを愛してもらわなくてはいけない。じゃあどうすればより「愛していただけるのか」を考えるのが自分の役割です。

冨永美咲

冨永美咲 私はプロモーションセクションで広告や広報、イベント運営のほか、主にクリエイティブ周りのお仕事をさせてもらっています。仁田と同じく楽曲のコンセプト出しなどのほか、歌詞の一次チェックやMVの絵コンテ、全体のスケジュール管理や予算周り、制作会社との窓口なども担当しています。

──「ファンキル」はいわゆるキャラソンに力を入れていますが、その理由は?

木村 先ほど仁田がお話しした通り、僕らはどうすれば「ユーザーさんにゲームをより愛してもらえるか」ということを第一に考えているんですけど、その点において「ファンキル」の場合は、キャラクターがすごく大事なんです。オリジナルのゲームなので、キャラクターの魅力をイチから伝えていかなきゃいけない。その手段としてキャラソンは有効であると、あるとき実感したんです。あれは……3年前の夏?

仁田 そうですね。2017年の夏に「ファントム♥パラディーゾ」という曲を配信したんです。これは厳密にはキャラソンではなく、あくまで夏のテーマソングという位置付けだったのですが、ゲーム内にキャラクターが歌った曲が実装されたのは初めてでしたね。

木村 「ファンキル」に登場する3人のキャラクターでユニットを組んで、その楽曲をゲーム内で流したり、リアルなイベントで歌ってもらったりしたのがきっかけで、これはコミュニケーションとして非常に有効だなと。以降、毎年夏のタイミングでテーマソングを作り、タイミングを見てキャラクターソングも制作していく形になりました。

──例えばアニメにもキャラソンはありますが、ゲームの運営サイドとして、ゲームにおけるキャラソンというものをどのように捉えているんですか?

木村 一般的に、アニメというのはすでに映像化されたストーリーとキャラクターがあって、それをユーザーさんが視聴して楽しむものですよね。一方でゲームの場合は、ユーザーさん自身がキャラクターを操作して、敵と戦ったり仲間を見つけたりするわけです。要は自らキャラクターを育て、かつそのキャラクターと一体になってゲーム内の出来事を体験するという性質があるんですね。

仁田 ゲームではそのキャラクターを深堀りすることがゲームをより楽しんでいただけることに直結すると考えています。ただ、ゲームをやっていただくだけでは表現しきれない部分も当然ありますので。そこをキャラソンによって別の角度から伝えていけるという側面は大いにありますね。

冨永 キャラソンを通して、ゲーム内では見られなかったキャラクターの一面を見たり、知ることができるようなる。ユーザーさんとキャラクターとの距離が近付くからこそ、もっとゲームを好きになるきっかけになってくれると考えています。

仁田 あとアニメの場合は、基本的には1クールでいったん終わりを迎えますよね。もちろん放送が終了しても愛され続けるアニメもたくさんありますが、ゲームには終わりがないんです。つまり、我々としては終わりが見えない中でユーザーさんとの関係を深め続けていくというミッションがあります。キャラソンはそのための重要なファクターになり得ると捉えています。

木村 そのキャラクターも、現時点で100人以上(※2020年5月現在)いるんですよ(笑)。だからこそ多様なアーティストが所属している「ファンキルレーベル」みたいなもので、いろんな表現ができる状態なのかなと思っていますね。

左から仁田俊秀、木村将人、冨永美咲。

MONOのライブでの強烈な音楽体験を、キャラソンを通じてユーザーに伝えたかった

──キャラソンによってキャラクターを掘り下げるとのお話でしたが、具体的には?

仁田 これはちょっと特殊な例かもしれないのですが、私としては、木村がプロデュースした「Filii Bestia」という曲が衝撃的でした。我々のキャラソン作りは、基本的にはそのキャラクターのゲーム内における設定やセリフなどを下敷きに、ユーザーさんのイメージを膨らませるような方向で考えるんです。でも、この「Filii Bestia」はそれを超越しているというか。

木村 確かに「Filii Bestia」はカシウスというキャラクターの歌なのですが、実はユーザーさんが思い浮かべるカシウス像をそのまま曲にしようとは僕は考えていなかったんです。このカシウスは設定上、幻獣の国の王でありつつ、思考している次元や感情そのものが通常の人間の領域にないようなキャラクターなんですね。じゃあ、彼女が本質的にいったい何を思っているんだろうかというのを突き詰めたとき、その幻獣の国の人々が救われること、ひいては自分自身が救われることなんじゃないかと。そこから“救い”をテーマに据えることで、カシウスというキャラを深堀りできると思ったんです。

仁田 僕はキャラクターのしゃべり方や性格を意識して、おしゃれなサウンドの、ポップだけど無機質な歌い方をする楽曲をイメージしていたのですが、それを提案しようと思ったらミーティングで木村からいきなり「テーマは『救い』だよ」と言われたんです(笑)。これが木村のクリエイティブだなと。僕もクリエイティブをずっとやってきているのですが、木村の発想は通常の枠組みから超越しているんですよ。でも、その発想は自分にもすごく納得できるもので、魂に響きました。ただ、そういう意味でユーザーさんにとっても想像外で、必ずしも求められているようなキャラソンではなかったんだと思います。

木村 音楽的にも求められてなかったかもしれない。

──「Filii Bestia」は、ひと言でいえばシューゲイザーですね。キャラソンらしからぬ曲かもしれません。

木村将人

木村 キャラソンでこれをやる意味がないですよね(笑)。音楽として聴きやすいわけでもないですし。でも、そうすることでキャラソンの音楽としての次元を変えたかったというか、この音楽性でキャラクターを表現しつつ、音楽体験としても新しいものをユーザーさんにお届けしたいとチャレンジした曲ですね。あと、僕自身がそれこそ音楽に救われた経験があったので。

──と言いますと?

木村 僕は大学を卒業して2、3年くらい路頭に迷ってた時期があって、まともな職にも就かず警備員をずっとやってたんです。あり体にいえば人生に絶望していたんですけど。そのときに昔のバンド仲間と、MONOっていう日本のポストロックバンドのライブを観に行ったんですよ、渋谷CLUB QUATTROに。彼らの曲はすべてインストなんですけど、その中に「Halcyon(Beautiful Days)」という曲があって。静かなギターのアルペジオから徐々に盛り上がっていき、最後は轟音の中で美しい旋律が天から降ってくるような曲なんですけど、それをライブハウスで爆音で体験をしたときに、なぜか涙が止まらなくなって、なぜだか「赦された」気がしたんですよ。だから「Filii Bestia」は、そのような強烈な音楽体験を、カシウスというキャラクターを通じてユーザーさんに少しでも体感してもらいたいという思いもありました。