ナタリー PowerPush - 小野リサ

ボサノバの女王がJ-POPを歌った理由

1989年のデビュー以来、ボサノバを中心としたブラジル音楽のエッセンスを取り入れたサウンド、穏やかで清涼感に満ちた歌声によって、独自のポジションを築き上げてきた小野リサ。新作「Japao 2」では「グッド・バイ・マイ・ラブ」「ブルーライト・ヨコハマ」といった日本のヒット曲、さらに井上陽水による新曲「青いフラミンゴ」などをボサノバテイストのアレンジとともに歌い上げ、その音楽性がさらに深まっていることしっかりと示している。

ナタリー初登場となる今回のインタビューでは、「Japao 2」を中心に、ブラジル音楽に対するスタンスから今後のビジョンまで、幅広く語ってもらった。

※文中にてアルバムタイトルを「Japao」「Japao 2」と表記していますが、2つ目のaは上に波線が付くのが正式表記となります。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 佐藤類

幼い頃から常にブラジルの音楽が聞こえていた

──新作「Japao 2」は、日本のヒットソングを中心としたアルバム「Japao」の続編。まず、小野さんが日本の楽曲に注目した理由から教えてもらえますか?

小野リサ

デビューしてからずっと、日本語でほとんど歌っていなかったことに改めて気が付いたのです。音楽の旅(ジャズ、ハワイアン、カンツォーネ、シャンソン、ソウルミュージックなど、世界各国の音楽をボサノバアレンジで作品にしていくシリーズ)の最終地点は日本にしたいなってずっと思っていて。それを受けて前のアルバム「Japao」をリリースしたのですが、そのときにいい楽曲をたくさん知って、もう一度作りたいなと思ったんです。

──小野さんは幼少の頃にブラジル・サンパウロで暮らしていたので、日本の歌謡曲や童謡に触れる機会も少なかったのでは?

日系の幼稚園に通っていたので、童謡は歌っていました。歌謡曲に関して言うと、10歳で日本に戻ったときにテレビから流れてきたものは聴いていました。ただ、当時はブラジルのことがすごく懐かしかったので、学校から帰ってくると、ずっとブラジルの音楽ばかり聴いていて。だから、どっぷり日本の音楽を聴くということはなかったと思いますね。

──やはり音楽的なルーツはブラジルなんですね。

そうですね。私の場合、両親がブラジルでお店を経営していたこともあって、常にブラジルの音楽が聞こえていました。私のベーシックはブラジル音楽なんです。

とても表現が豊かなので、日本語で歌うのは難しい

──日本の音楽は後天的なものというか、もう1つのルーツという位置付けなんでしょうか?

小野リサ

そういう意味もありますが、それよりも「今まで私の音楽を聴いてくれた方々に対するお礼」という気持ちのほうが強かったんです。1989年に最初のアルバム(「カトピリ」)をリリースしたときは、リオで録音すること、ポルトガル語で歌うということにこだわっていて。それは自分のキャラクターを作るということでもあったし、今になって当時のことを振り返ってみると……、自分では受け入れてもらえると思っていたのですが、ポルトガル語で歌うのはけっこう無防備だったなという気がするんですね。

──そうかもしれないですね。ボサノバという音楽自体も、今のように浸透していたわけでもないですし。

実際、「日本語で(歌ってほしい)」という話もありましたからね。ただ、日本語で歌うほうが私には難しかったし、もしそうするのであれば、そのための準備も必要だったと思うのです。だからポルトガル語で歌ったわけですが、それでも多くの皆さんに受け入れてもらえて。それはもう、感謝です。

──日本語で歌うことの難しさは、今も感じていらっしゃいますか?

日本の音楽を表現すること、日本語で歌うということは、私の中では大きなチャレンジです。もっとスムーズに歌えるのではないかなと思っていたけれど、実際に歌ってみると、言葉の表現だったり、ニュアンスだったり……、ほら、日本語の表現はとても豊かじゃない? やはり、難しい部分はありましたね。

──ボサノバのリズムとの相性という意味でも、日本語とポルトガル語では違いますよね。

それもありますね。リズムの軸が変わったり、それが発音に影響することもあるので。今回もいろいろと四苦八苦しながら制作を進めていました。

収録曲を選ぶために100曲くらい歌いました

──収録曲はどのような基準で選んだんですか?

小野リサ

まず100曲くらいピックアップして、まずは歌ってみるの。そこから、どういうスタイルがいいか、どういうアレンジにするかということを考えて。時間がかかりましたね(笑)。知らない曲もかなりありました。収録されている曲でいうと、「いのちの歌」もそうですね。

──「いのちの歌」、じつは僕も初めて知りました。「グッド・バイ・マイ・ラブ」「ブルーライト・ヨコハマ」「ワインレッドの心」(ポルトガル語バージョン)など、魅力のあるカバー曲も数多く収録されていますが、なかでも「人生の扉」は強く印象に残りました。これは妹のリエさんと一緒に歌われてるんですよね?

はい。彼女の声はすごくかわいらしいので、私と一緒に歌うと太陽の光が差してくるような感じがするの。

──小さい頃から一緒に歌ったりしてたんですか?

よくケンカしながら歌っていました(笑)。一緒にハモったりしていると、私のほうが夢中になってしまうのですよね。彼女が途中でやめようとすると、そこでケンカになってしまうこともありましたね。彼女にはたまに歌ってもらうのですけど、今は楽しんで歌っているようで、よかったなって思います。

ニューアルバム「Japao 2」2013年6月19日発売 / 3000円 / Dreamusic / MUCD-1285
収録曲
  1. 水の影[作詞・作曲:松任谷由実]
  2. グッド・バイ・マイ・ラブ[作詞:なかにし礼 / 作曲:平尾昌晃]
  3. あなたの忘れ物 ※新曲(NHKラジオ深夜便のうた)[作詞・作曲:沖正夫]
  4. 空に星があるように[作詞・作曲:荒木一郎]
  5. 胸の振り子[作詞:サトウハチロー 作曲:服部良一]
  6. 何もきかないで ※ポルトガル語バージョン[作詞・作曲:荒井由実]
  7. 星に祈りを[作詞・作曲:佐々木勉]
  8. いのちの歌[作詞: Miyabi / 作曲:村松崇継]
  9. ブルーライト・ヨコハマ[作詞:橋本淳 / 作曲:筒美京平]
  10. 人生の扉[作詞・作曲:竹内まりや]
  11. ワインレッドの心 ※ポルトガル語バージョン[作詞:井上陽水 / 作曲:玉置浩二]
  12. 青いフラミンゴ ※新曲[作詞・作曲:井上陽水]
小野リサ ジャポンツアー2013 ~日本の名曲とボサノヴァの夕べ~
2013年7月14日(日)
東京都 東京国際フォーラム ホールC
2013年7月15日(月)
大阪府 大阪森の宮ピロティホール OPEN 16:30 / START 17:00
チケット料金:7350円
一般発売:2013年4月20日
小野リサ ボサノヴァ・ナイト
2013年7月6日(土)
長野県 八ヶ岳高原音楽堂
OPEN 16:30 / START 17:30
コンサートのみ 1万円(申込みは電話にて承ります)
コンサート付き宿泊セット 3万2500円~(隣接のリゾートホテルでの宿泊・夕食・朝食。1室2名利用、1人分料金)
サッポロ・シティ・ジャズ
2013年7月21日(日)
北海道 SAPPORO MUSIC TENT
1回目 OPEN 13:30 / START 15:00
2回目 OPEN 18:30 / START 20:00
料金:5000円
LISA ONO Music Journey for You~Acoustic Live 2013
2013年8月18日(日)
神奈川県 神奈川県立音楽堂
OPEN 16:30 / START 17:00
料金:5800円
小野リサ(おのりさ)

日本を代表するボサノバシンガー。ブラジル・サンパウロで生まれ、10歳の頃に日本に帰国する。1988年に大貫妙子のアルバム「プリッシマ」に参加し、翌1989年にデビューアルバム「カトピリ」を発表。ボサノバの生みの親であるアントニオ・カルロス・ジョビンやジャズサンバの巨匠ジョアン・ドナードらと共演し、ニューヨークやブラジル、アジアなどでワールドワイドなライブ活動を展開している。1999年に発表したアルバム「DREAM」は20万枚を越えるヒットを記録。2011年に初の全曲日本語によるカバーアルバム「Japao」、2013年にシリーズ第2弾「Japao 2」をリリースする。