大原櫻子×長屋晴子(緑黄色社会)|歌好きの2人が染める“私だけの色”

“カラフル”と“透明”

──お食事会を兼ねた打ち合わせを経て、「透ケルトン」という楽曲はどのような流れで形作られていったんですか?

大原櫻子

長屋 歌詞と曲の断片はもともと私のiPhoneのメモ帳に入っていたもので、バンドとしてはちょっと昇華しきれないなと思っていたんですね。それが今回のお話をいただいたときに、「あ、これ櫻子ちゃんに合うかも!」と思ったので、方向転換して曲のパーツを改めて膨らませていったんです。櫻子ちゃんの声はすごくまっすぐに伸びて、それが聴いていて心地いいところなので、それを生かせるメロディにしたりとか。頭の中で櫻子ちゃんの声を再生しながら作りました。

大原 へえ、そうなんだ! だからかな。キー合わせをやったときも晴ちゃんが歌ってくれた仮歌のまんまで大丈夫だったもんね。

長屋 うん。キーも考えながら作りました。「ここらへんが気持ちいいだろうなあ」みたいなことを考えつつ。

大原 そうやって作ってくれたのは、晴ちゃんも歌が好きで、実際に歌っている人だからこそですよね。私に寄り添って作ってくれたことがちゃんと伝わってきました。歌詞がまたすごくいいんですよねえ。いい意味でインパクトが強いというか、揺るがない意志みたいなものをちゃんと感じさせてくれる内容で。今の私にすごくフィットしました。

──歌詞は“自分らしさ”が軸となるテーマですね。余計なものを脱ぎ捨てて透明になることで、自分だけの色に染めることができるんだというメッセージが聴き手の背中を押してくれます。

長屋 さっきも言ったように、櫻子ちゃんには“カラフル”かつ“透明”というイメージがあったので、そこからテーマを決めて書き進めていきました。ただ、歌詞を書いた段階ではまだそこまで彼女のことを知れていたわけではなかったので、自分自身に当てはめながら書いていったところもありました。私は自分の意見を言える人がすごくカッコいいと思うんですよ。芯を持った人に憧れているというか。自分はそういうタイプではないので。

大原 そうは見えないけどね、1mmも(笑)。

長屋 あははは(笑)。いや本当にそうなんですよ。私は人に気を遣いすぎてしまったり、意見を合わせてしまいがちなので、「自分はどんな人間なんだろう?」と思うことがすごく多い。だから自分に向けて書いた曲でもあるというか。

大原 私もそういうことはよく考えます。先のことを考えると、今はちょっと自分の中でもがいている時期でもあったりして。だからこの歌詞がすごく刺さりました。今の自分を脱却していきたいと思う感情を「サイズ違いの服じゃまだ」「行けないの遠くへなんて」というフレーズで表現しているところとか、すごく素敵ですよね。ホントに大好き!

長屋 そう言ってもらえて、すごくうれしいです(笑)。

大原 しかも晴ちゃんの書く詞は、誰しも共感できるものだと思うんです。そこもすごく大事なところだよなって。歌を届ける立場としてはそういう歌詞じゃないと絶対に伝わらないと私は思っているので。

──長屋さんはそういった歌詞の普遍性は意識されているんですか?

長屋 私は普段、自分自身と相談して歌詞を書くんですよ。他人に相談することが苦手なので。ある意味、自分と向き合える場所が歌詞なんです。なので基本的に誰かに伝えたい、届けたいという感じではなく、すごく自分勝手な理想や目標を描いた内容だったりするんです。ただ、一方では自分自身が本気で納得できた自分勝手な歌詞じゃないと届かないよな、とも思っていて。さらに言えば、人はみんな違うようでいて、どこかに共通点もすごくある。似たようなことで悩んでいたりもするし。なので私の場合は、すべての人に届けとは思わないですけど、自分が共感したものであればきっと誰かにも共感してもらえるはずだという気持ちで歌詞を書いています。

大原 その感覚めちゃめちゃわかる! そうやって書いたものを自分が歌うことで思いが昇華されていくところもありますからね。

──大原さんはメロディに関して、どんな印象を受けました?

大原 AメロもBメロも全部がサビみたいに聴こえるくらいキャッチーだと思いました。今までに聴いたことのないおしゃれなメロディラインは、デモをいただいたときからずっと頭の中をグルグルしちゃって、「ああ、気持ちいい!」みたいな(笑)。けっこう構成も不思議な感じがありますよね?

長屋晴子(Vo, G / 緑黄色社会)

長屋 そうそう。この曲はイントロがなくていきなりAメロの歌から始まるんですよ。歌で始まる曲の場合、けっこうサビを持ってくることが多いので、この構成は自分的にも勝負だなと思いましたね。

大原 うん、確かにほかにはない印象を受けました。

長屋 あまりない構成ではあるけど、櫻子ちゃんの声ならきっとまっすぐ届くだろうなと思えたことで挑戦できたところもありましたね。イントロをつけるべきか悩んだりもしたんですけど、櫻子ちゃんに仮歌を入れてもらったときに「これは行ける!」と確信したので、そのまま進めていきました。聴いてくださる方々にも、きっとハッとしてもらえるんじゃないかな。

頭を透明にして歌うことができた

──長屋さんはボーカルのレコーディングには立ち会われたんですか?

長屋 いえ、立ち会うことができなかったんです。

大原 でもレコーディングする前にLINEはしたよね。「今から歌ってきます!」って。

長屋 うん。「がんばれー!」ってお返事して。

大原 この曲、めちゃめちゃ歌いやすかったんですよ。技術的には地声で張るところとファルセットで歌うところが細かく入れ替わったりして、けっこう難しいんです。でも、晴ちゃんが歌ってくれたデモを何度も何度も聴いていたので、すごく歌いやすくって。

長屋 櫻子ちゃんの歌に関してはもう絶対的な安心感があったんですよ。いろんな曲を歌われていますけど、どれも自分の色にしているなと常々思っていたので。ただ、今回はご自身の色はもちろん込めつつも、同時にBメロのちょっとしゃくりを入れた歌のニュアンスだったりとか、私のクセみたいな部分をところどころに取り入れてくれていたりもして。それがうれしかったんですよね。

大原 それもたぶん体に染み込んでいたんでしょうね(笑)。歌い手のクセって、自分では無意識かもしれないけど、その人の内面にある感情やテンションが自然とにじみ出ている部分だと思うんですよ。だからそこは生かしたいなという気持ちもあるにはありました。ただ今回に関しては、自然に晴ちゃんの歌い方になっちゃったというのが正解なんですけど(笑)。

左から大原櫻子、長屋晴子(Vo, G / 緑黄色社会)。

──中村圭作さんによる疾走感のあるピアノロック的なアレンジに、大原さんの爽快な歌声がマッチしていますよね。

大原 最初にいただいた晴ちゃんのデモはピアノの弾き語りで、それもめちゃめちゃ素敵だったんですけど、バンドサウンドのアレンジになったことで、また違う魅力を引き出していただけたような気がします。

長屋 私のデモにはなかった間奏の決めがすごくカッコいいですよね。テンションが上がるし、疾走感を増してもらえたなって。今回は初めてご一緒するアレンジャーの方だったので、仕上がりに関してはリスナー目線で楽しませていただきました(笑)。

大原 そういう疾走感のあるバンドサウンドになったので、歌はあまり力まず、風に身を任せるように気持ちよく歌うことを意識しました。晴ちゃんが私に寄り添ったメロディと歌詞を作ってくれたからこそ、ある意味、頭を透明にして歌うことができたんだと思います。

──まさに“透ケルトン”な状態で臨めたと。

長屋 あははは(笑)。このタイトルもね、「本当にこれでいいんですか?」って確認したんですよ。「ちょっとおやじギャグっぽくないですか?」って(笑)。

大原 いやいや、これでいいでしょ!

長屋 って言って、私の遊び心を受け入れてくれたのでよかったです(笑)。

次作は胸キュンなラブソングで

──今回の初コラボを通して何か発見や気付きはありましたか?

長屋 いやー、ありましたね。自分が書いたメロディを誰かに歌ってもらうことが今までなかったので、自分以外の声のフィルターを通すとこういうふうに変わるんだなというのが大きな発見でした。しかもそれが世に出るわけですからね。その初めての感覚はちょっと照れ臭いような感じもありつつ、すごくうれしいです。

大原 私は晴ちゃんの言葉選びのセンス、言葉のひねり方みたいな部分にすごくシンパシーを感じたんです。それは今までにご一緒してきたさまざまな方々とはまた少し違った感覚でもあって。それはきっと同世代だからこそなのかなあと思いましたね。新しい発見だった気がします。

長屋 案外、同い年で歌を歌っている人って周りに少なかったりしますからね。すごく貴重な経験ができたし、もっと仲良くなりたいなっていう気持ちが強いです。今後もよろしくお願いします(笑)。

大原 あはははは(笑)。こちらこそです。歌が好きっていう大きな共通点があるから、たとえほかの部分が全部真逆の性格だったとしても、すべて受け入れられちゃうような気もするんですよね。

長屋 うん、確かにそうですよね。

大原 「歌が好き」「だよね!」っていう価値観を共有できる存在として、これからも仲良くしてもらえたらうれしいです。

長屋 そのうえで、私はこれからどう呼ぼうかなと思ったりしてて(笑)。

大原 あははは(笑)。私はなんとなく自然にもう晴ちゃんって呼んじゃってるけどね。仲のいい子には“ラコちゃん”とか“サク”とか呼ばれることが多いんだけど。

長屋 じゃ、響きがかわいい“ラコちゃん”にしようかな(笑)。また一緒に曲を作れたらいいよね。同業ではありつつも、バンドとソロっていう違いがあるのがいいと思うんですよ。いろいろと勉強になることも多いので。ただ、もし櫻子ちゃんがいつかバンドを始めたりしたら、ちょっと意識し出すのかもしれない(笑)。「これはヤバイぞ」みたいな。

大原 急に“大原さん”とか他人行儀な呼び方し始めたりして?(笑) やだー、怖いわ!

長屋 あははは(笑)。いやでも本当に私はまた一緒に何かやりたいので。

大原 私もぜひ! 一緒に胸キュンなラブソングを書けたらいいな! 楽しみだね。

左から大原櫻子、長屋晴子(Vo, G / 緑黄色社会)。

※記事初出時、緑黄色社会のプロフィールに一部誤りがありました。お詫びして訂正いたします。


2020年12月1日更新