音楽ナタリー PowerPush - NORIKIYO×ILL-BOSSTINO
ガチンコヒップホップ対談
ライブは仕事
NORIKIYO 初めて僕がBOSSくんと同じ現場になったとき衝撃を受けたことがあって。
BOSS TSUTAYAのイベントだったよね。SEEDAとかGEEKも出てた。
NORIKIYO はい。そのライブでBOSSくんは自分の出番が来るまで非常階段に座って、ずっと練習をしてたんですよ。それ観て、僕は「すげーライブにはすげーなりの理由があるんだ」ってこと知ったんです。ヤバさにはそれを裏付ける努力があるってことを。
BOSS 俺は5年に1枚しかアルバムを出さないようなやつだからさ(笑)。そうなると必然的にライブでやる曲も限られてくるんだよ。最後に到達したいところは同じだとしても、お客さんが常に新しいと感じられるような努力をするわけ。曲順を変えたり、バックトラックを変えたりさ。俺の横にはギタリストなんていないから、ライブならではの臨機応変な対応にだって限界がある。じゃあどうするかって言ったら、曲間のMCでさえも重要になってくるんだよ。細部まで固めすぎててつまらないって感じる人もいるだろうけど、両方はできねえ。俺は今のやり方が自分のベストだと思ってるよ。だからこの道を突き詰めていく。
NORIKIYO もちろんがっちり決めないライブのよさもあると思うんです。例えば漢くん(MSC)なんかは、リハーサルもしないんですよ。それでもお客さんをロックできるフリースタイルやライブでお客さんをロックする技術が彼にはある。でも僕はそういうの苦手だから。だったらやっぱり、BOSSくんみたいに作り込んでいくべきだなって思ってます。昔はすごい酔っぱらってステージに立って、同じ曲を2回連続でやったりしてて。で、次の日にすごい後悔するんです。もう前の日の自分をぶっ殺しに行きたくなるくらい(笑)。
BOSS 結局は1回来てくれたお客にもう1回来てもらうためにはどうするかっていう、ただそんだけのことなんだよね。そうじゃないと俺は食ってけねえからさ。だってさ、コンビニの店員も、メシ屋のウエイトレスも、タクシーの運転手もさ。俺らはその人たちが稼いだ大事な金を週末に支払ってもらうわけなんだよ。だったら俺らもちゃんとやらないと。
NORIKIYO 僕はそれに気付くまでに時間がかかりましたね。
BOSS いやNORIKIYOは早かったと思うよ、そこに気付くの。だってリキッドでワンマンやってるじゃない? 何より、これで食えてる。だからNORIKIYOは俺と出会う前から自分なりの糸口をつかんでたんじゃないかな。
ジャンルの壁を突き崩す
NORIKIYO さっきBOSSくんが、隣にギタリストのいない僕らラッパーはステージで何をすべきかって話をしてたけど、それってすごく重要だと思うんですよ。だってお金払ってライブに来たお客さんにとっては、ヒップホップだからロックだからとかジャンルなんか関係ないわけで。
BOSS それは本当に大きいよ。日本のロックには、俺たちのヒップホップなんかより比べものにならないほどの歴史があって。すでに大きな市場ができあがっちゃってる。そういうとこに出て行く立場なんだよね、俺らは。あいつら、すげえよ。
NORIKIYO BOSSくんはロックバンドと一緒になることも多いですもんね。
BOSS そうだね。でもさ、そのすげえのを突き崩していくのが楽しいんだよ。余地は全然ある。俺が1990年代後半に東京のヒップホップを突き崩したときのように。今も変わらず挑戦者だね。俺らは、英語混じりの曲で歌詞の意味は二の次で無邪気に騒いでるロック好きのベイビーたちに、日本語でがっつりショックを与えることができる。だからその代わりに俺らはロックのやつらがやってる練習はもちろん、照明、PA……、そういったことも当然のように全部吸収しなきゃならないんだよ。そうじゃなきゃ勝てない。ヒップホップの世界の中だけで完結してくのなんて、あまりにもつまらないよ。外の世界で学んだものをヒップホップに還元していく。まだまだそんな段階だよ。
NORIKIYOの理想
──NORIKIYOさんは昨年末に発表した「花水木」からすごいペースで作品をリリースしましたね。
NORIKIYO 「花水木」ってアルバムで「仕事しろ」とか歌ってるんですよ。そんなこと言っといて、俺ができてないのはダサいなと思って(笑)。
BOSS 間違いないね(笑)。でも今回のが一番ヤバいと思うよ。いい意味で歌謡曲っぽいっていうか。俺には大きくジャンルを縦断したアルバムに聞こえた。それくらいの広がりのあるアルバムって気がする。
NORIKIYO 僕自身、多くの人に届くなら呼ばれ方は気にしてないです。作り方はヒップホップだけど、できあがったものはポップスでも歌謡曲でもなんでもいいんです。
BOSS 俺さ、ヒップホップが届く場所ってせいぜいロックリスナーくらいまでだと思ってたんだよ。でも今回の「如雨露」を聴いて、ヒップホップは歌謡曲とかそっちのほうの世界にもいけるんだって気付かされた。
NORIKIYO BOSSくんにそんなふうに言ってもらえるのは本当にうれしい。僕はBOSSくんのようになりたいんです。
──どういうことですか?
NORIKIYO BOSSくんは“ラッパーの”とか“ヒップホップの”とかって言われないでしょ? ジャンルとか関係なくILL-BOSSTINOなんですよ。甲本ヒロトさんを「ロックか? パンクか?」っていう議論がまったく無意味なのと同じです。どこのジャンルの人が見ても関係ない個性があるというか。僕はそういうところに行きたい。
収録曲
- 何度でもやる
- 何時かの夕立ちを想ひて
- 密会
- 最後の朝
- 未練にキスを
- Cha La Cha La feat. BRON-K
- Go So Far
- プラットホーム
- Music Train
- 舵は俺達の手の中に
- 解放区
- 如雨露
- まだゴールなら遠い
- このトンネルを抜けりゃ
- 腰越ハートブレイク feat. YOSHIRO(underslowjams)
- ベッドの上で
NORIKIYO(ノリキヨ)
神奈川県相模原を拠点に活動するヒップホップクルー・SD JUNKSTAのメンバー。SEEDAのアルバム「花と雨」への参加などを経て、2007年に東京郊外の暮らしを中心に歌った1stアルバム「EXIT」を発表した。その後2枚のアルバムをリリースして2013年末にアルバム「花水木」を完成させ、2014年にはNORIKIYO & WATT a.k.a. ヨッテルブッテル名義のリミックスアルバム「メランコリック現代 Remix」とアルバム「雲と泥と手」を発表。8月には東京・LIQUIDROOMでワンマンライブを敢行した。さらに12月10日には6thアルバム「如雨露」を発表。
ILL-BOSSTINO(イルボスティーノ)
THA BLUE HERBのラッパー。通称、BOSS。1997年に札幌でO.N.O(Track Maker)とともにTHA BLUE HERBを結成した。1998年に1stアルバム「STILLING, STILL DREAMING」を発表し、以降も独自の世界観を確立したリリックとソリッドでミニマルなビートで人気を集める。またライブはDJ DYE(LIVE DJ)とBOSSの2人で行う。2014年12月10日にtha BOSS名義のシングル「NEW YEAR'S DAY feat. 般若」を発表する。