音楽ナタリー Power Push - 西内まりや

大躍進の2015年を振り返る

“今までの人生で一番キツい時期”の乗り越え方

──時系列が前後しますが、2ndから3rdシングルをリリースする間の2月22日に「情熱大陸」が放送されましたね。過密なスケジュールとマルチな活動によって目まぐるしく変わる環境の真っただ中で「苦しい」と号泣する西内さんの姿が話題となりました。

西内まりや

私は9年ほど前、バドミントンを捨て、(※中学時代の西内は将来を有望視されていたバドミントン選手だった)監督に怒鳴られながら福岡から上京しました。そんな経緯もあったので、「大きくなって帰らないと監督やみんなに顔向けできない」と思っていました。そうまでしてやりたかった仕事だったので、それまでは特に無理も感じずに楽しんでこられたんです。ただ、あの「情熱大陸」の時期は本っ当にキツかった。今までの人生で一番キツい時期でしたね。何をしていても音楽のことが頭から離れないし、セリフも覚えなくちゃいけない。私の中で女優と歌手とモデルって、それぞれまったく違う仕事という意識が強かったので、「早く切り替えなきゃ!」という焦りばかりが先走っちゃって……。

──結果としてあの時期はどうやって乗り越えたんですか?

「ここを乗り越えれば私は強くなる。きっと強くなる」。ともかくそう信じて耐えるしかないと(笑)。

──自己暗示ですか。その苦しみが峠を越えたのはいつ頃だったんですか?

「ホテルコンシェルジュ」でドラマの初主演を務めたあたりでした。

──それって、つまりつい先日のことじゃないですか。

どんなお仕事でも自分の持っているものをさらけ出すという意味では、全部同じなんだなとようやくわかってきて、そこからすごく楽になりました。例えば歌うときに歌詞の内容を表現する行為は演技のお仕事と通じるし、モデルもお芝居も音楽も、自分にとってはすべて同じことなんだなって。

憧れは長渕剛さん、玉置浩二さん、宇多田ヒカルさん

──確か西内さんはピアノを6年習って、ギターはお父さんに教わったんですよね。歌への目覚めはいつ頃だったんですか?

西内まりや

小さい頃から好きでしたね。保育園の発表会、合唱コンクール、音楽の授業と、どんなときでも誰よりも前に出て歌っていました。地元で中学生向けのカラオケ選手権みたいなけっこう大きい大会があって、そこに友達と3人でユニットを組んで出場したら、グランプリが獲れたんです。そのステージで歌ったときに、「私は将来歌手になりたい」と初めて思いました。

──誰々の音楽を聴いて、ではなく、歌う楽しさから目覚めたクチだったんですね。これまで聴いてきた中で、自分にとってスタンダードな存在と言えるアーティストは?

たくさんいますけど、長渕剛さんや玉置浩二さんかな。宇多田ヒカルさんも昔からずっと好きですね。歌を聴いて感情がビシビシと伝わってくる方に憧れます。一言一言に重みのある歌詞を、話しかけるように歌う姿に引き込まれますね。

──より本格的に歌手を目指し始めたタイミングはいつ頃でしたか?

今の事務所からスカウトされた中1のときかな。すごく大好きだった歌手の先輩がいたこともあって、「私もがんばって先輩みたいになりたい」と思い、福岡で1年間、モデル、歌、ダンス、演技の4つのレッスンを毎週受けていたんです。でも、やっぱり歌って踊るのが一番楽しかった。演技はぶっちゃけ苦手でしたね(笑)。

──でも結局は最初にモデル、次に女優で、音楽は最後のデビューとなった。

歌手デビューをしたとき、私の家族や友達は「やっと叶ったね」という感じでした。

──西内さん、お芝居がうまいので先に女優デビューとなったのもわかりますが。

西内まりや

そんなことないですよ! 下手だ下手だって言われ続けてきましたもん!

──そんなことはないですよ。ちょっとイジワルですけど、むしろ若干“器用貧乏”な印象も受けるくらいで。

……ああ、それもときどき言われます。

西内まりやの作詞作曲術

──10月にリリースした4枚目のシングル「Save me」はドラマ「エンジェル・ハート」の主題歌でしたね。

5曲書いてお渡しした中から、北条司先生(原作者)が選んでくださったのが「Save me」でした。歌詞は原作を読んで感じた、愛や寂しさやさまよえる感じの世界観をイメージして書きました。

──シングル4枚目にしてタイアップへの書き下ろしという、作家的なアプローチを初めて経験しました。プレッシャーはありましたか?

はい。でもやっぱり根拠はないんですが、どこかで自分を信じていましたね(笑)。あまり考えすぎずに直感を信じようと思いながら。演技のお仕事の経験もあるので、ドラマのエンディングでかかるならこういう雰囲気でこういう始まり方がいいんじゃないかな、といったイメージも湧いてきたので。でも歌詞はかなり苦戦しました。特に英語と日本語を混ぜるバランスが大変でした。レコーディングの最後の日まで書き直しながら録っていましたね。

──例えば詞が先とか曲が先とか、ソングライティングにおけるセオリーはありますか?

「ありがとうForever...」はお風呂で半身浴中に思いついた鼻歌からでしたね(笑)。それをすぐボイスメモで残して、あとからピアノに座って形にしていきました。

──曲のアイデアはいつも半身浴のときに?

西内まりや

特に決まったシチュエーションはありません。思いつくときはどこでも。中3から高1のあたりに、ポップスを聴いて励まされたことがあって「作詞や作曲をしてみたい」と日記につづっていました。その頃から思いついたメロディをボイスメモに入れたり、日記の間に歌詞のようなものを書いたりしていたんです。最近はスタジオで適当に歌っているときに思いつくこともあれば、渋谷の街中で洋服を見ていたら店で流れていた曲のギターがすごくよくて、そこに適当なメロディを合わせながら、お店の中でボイスメモを録ることもあります。

──じゃあ渋谷でショップをのぞいたら、店内でボイスメモを吹き込んでいる西内まりやに遭遇するかもしれないんだ?(笑)

ちょっとアブナイ人みたいですよね(笑)。

西内まりや(ニシウチマリヤ)

1993年生まれ福岡県出身。2007年7月にモデルデビューし、ローティーン向けファッション雑誌「ニコラ」の専属モデルの後「Seventeen」専属モデルを5年半務める。2014年8月、シングル「LOVE EVOLUTION」で歌手デビューし、この楽曲で同年の「日本レコード大賞 最優秀新人賞」「日本有線大賞 新人賞」を受賞。2015年7月クールに放送されたTBS系ドラマ「ホテルコンシェルジュ」では主演を務め、11月公開の映画「レインツリーの国」ではヒロイン役として出演するなど女優としても活躍中。