西川貴教インタビュー|歩みを止めない「Ignis -イグニス-」次につながる作品完成 (2/2)

あきらめずに願い、思い続ければ成し遂げられる

──タイトルになっている「Ignis」はラテン語で“炎”や“かがり火”といった意味を持ちますが、西川さんはアニメのサイトでのコメントで「燃え上がる力」「内に宿る熱」といった表現をされていましたよね。

はい。最初に話した香港でのライブの件もそうだけど、どんなに困難な状況にあったとしてもあきらめずに願い、思い続ければ成し遂げられることって絶対にあるんですよ。願いや思いというのは形のないもののように思えるけど、実はそこにもちゃんと質量はあって、熱交換が生まれる。そして、それは絶対何かの燃料になっていると思うんです。だから、この曲で一番大事なのは単に炎や熱というよりも、もっとマインドに近い部分というか。そこはリリックにおいても歌においても大切にしたし、しっかり込めることができたと思います。

西川貴教

──そして、曲を聴き終えたときに感じるのは、冒頭でおっしゃったように「次につながる、さらなる未来を感じさせる」メッセージでした。

そう感じてもらえたらうれしいですね。細かい部分ですけど、「rise into a new world」ですから。決して“The End”ではなく、次の世界が見えてくるという。4分を切っている短い曲ではあるけど、展開も多いし、情報量も多いので、非常に大きな聴き応えを感じてもらえるんじゃないかな。

──歌うという意味では相当カロリーが高そうですけどね。

そう(笑)。最後に転調もやってくるしね。

──本当に素晴らしいボーカルだと思います。並みのボーカリストだったら、このパワフルなトラックに飲み込まれているはず。

あははは。まあ、大変ではありますね(笑)。今回、ヴァースではちょっとライム的なアプローチというか、フロウ的な歌い方をしているんですけど、今っぽく歌うのであれば本当はもっとリエゾンしたほうがいいと思うんですよ。でも自分の場合はとにかく一語一語はっきり歌わないと気が済まないので。

──曲に込めたメッセージを余すことなく伝えるためには、そうあって然るべきだと思います。その歌い方こそが西川さんらしさでもあるし。

カッコよさを意識しながら、全編、西川らしく歌わせていただいた感じですね。サビはやっぱり曲としての聴かせどころなので、1コーラス目と2コーラス目での言葉の違い、ニュアンスの違いを意識しながら、どうエモーショナルに響かせられるかを考えながら歌いました。リリックのワードを固めていく作業の中でボーカルのイメージはほぼ固まっていたので、レコーディング自体は非常にスムーズでした。ちなみに今回はミックスもTeddyがやってくれたんですよ。それによって全体としてすごく独特な雰囲気になったのも面白かったな。生の歌さえもTeddyの持ち味の中できちんと昇華されていく感じがありました。

体を鍛えておいてよかった

──先日、ミュージックビデオも公開されましたね。これがまたCGを駆使した、ものすごい仕上がりで。西川さんがめちゃくちゃ戦ってます。

僕の出演パートの素材は半日くらいで撮り終えたかな。殺陣のシーンでは、「ああ、体を鍛えておいてよかった」と思いつつ(笑)。CGシーンはめちゃくちゃ時間がかかってます。今回、監督してくれた荒船泰廣さんも初めてご一緒する方で。Aimerさんの「残響散歌」など彼が携わった作品を観て興味を持ったのでお願いしてみたところ、めちゃくちゃいいMVに仕上げてくれました。こういうアプローチで何度も観たくなるようなMVって僕はほかにあまり知らないので、本当にたくさんの方に観てもらいたい。今回はTeddyやTOPHAMHAT-KYOくん、荒船監督という新鮮な皆さんとのワンチームで素晴らしい作品を生み出すことができて本当によかったです。今回の経験を持って、「また次はこんなことができるんじゃない?」みたいなこともすでに見えているというか。そんな意味でも、まさに“次につながる”作品になったと思います。

自分に対しての宣誓

──シングルにはもう1曲、「祖逖乃誓」も収録されています。

きっと一聴しただけじゃ何も伝わらなかったと思うんですけど(笑)。

──いやいや。僕は西川さん独自の経典を読経する曲だと解釈しました。

あははは。まさに、です(笑)。今の、そしてこれからの自分に対しての宣誓というか。自分が成し得る何かに対する向き合い方、自分の姿勢をこの作品で宣言するといった趣の曲でございます。

──タイトルは中国の将軍・祖逖の逸話に由来する「目的を果たすまで帰らないという命をかけた決意」を意味する四字熟語。西川さんが書かれたリリックには、仏教用語がたっぷり盛り込まれているのも特徴ですね。

突飛に思われるかもしれないんですけど、僕が子供の頃、お経を唱えるときに、意味はわからないけど、その節回しやフレーズの心地よさを感じていたところがあって。その後、意味を知るにつれ、自分を形成するものとして大切なものになっていたんです。何を思ったか、それをここで存分に出してしまいました(笑)。

──作詞は西川さんに加え、海外のクリエイターの名前がクレジットされていますが、コライトで書かれたんですか?

今回はコンペで曲を選んだんですけど、そのデモの段階で英語のワードがいくつか入っていて。で、自分の中で伝えたいテーマが決まった段階で僕が歌詞を書いていったんですけど、そこに齟齬がない、違和感がない部分に関してはデモの英語を残したという感じですね。なので純粋なコライトという形ではないんですけど。

西川貴教

──コンペでこの曲を選ばれた決め手はどこにあったんですか?

西川貴教に求められている部分というのはアップテンポで元気、力強いものだとは思うんですけど、一方では1人のボーカリストとしてじっくり歌を聴かせていく曲にもアプローチしていきたい思いが常々あって。なので、どっしりとしたサウンド感で、しっかりと歌を届けられるという視点でこの曲を選びました。もちろんコンペとは言え、もらったデモをそのまま使ったわけではなく、こちらから新たな展開をオーダーしたりとか、1、2回ほどやりとりをして完成に至った感じですけど。

──ライブでシンガロングが生まれそうなパートが盛り込まれていたりはしますが、全体的にはある種、淡々としたムードが漂う曲ですよね。そこがまさに読経っぽい歌にマッチしていて。

そうそう。このサウンドを効いたとき、僕の中にもそういうイメージが浮かんだんですよ。一節一節、言葉を読んでいくというかね。歌詞の締切までけっこうタイトだったんですけど、どんどん言葉は出てきましたね。ちょっとしんどいなと思ったときとかに、自分の中での指針になり得る言葉、よりどころにしてきた言葉を詰め込んでいった感じです。

──いろいろな気付きを与えてくれる曲ですが、一番胸に響くのは“歩みを止めない”という決意ですよね。

そうですね。僕の人生って、大きな事務所に所属したこともなければ、集団と群れることもなく、最初に立った場所には何もなかったんですよ。後ろをついてくる人もいないしね。でも、とにかくひたすら歩み続けてきたことで、いつの間にか自分なりの道を見つけ、振り返ればそこに轍ができていた。だからこそ、今の己に対しても“歩みを止めない”ということを改めて言いたかったんです。一聴して小難しく受け取られる可能性もありますけど、でも先人が残してくれた教えの中には、今こそ我々が受け取るべき言葉がたくさんある。今はみなさん、スマートフォンをお持ちだと思うので、この曲を聴きながら知らない言葉を検索し、その背景を共有していただけたら楽しいのではないかなと思います。

──今年で西川貴教名義での活動は9年目を迎えます。10周年イヤーが見えてきた一方で、T.M.Revolutionは30周年を迎えますね。

複数名義で動くことに対し、最初はみんなから「どっちかにしろよ」だの、いろいろ言われることも多かったんですけど、ある程度の歴史を重ねてきたことで「両方あっていいよね」という感じになってきた実感はありますね。T.M.Revolutionでは今年、初めてのところも含め、フェスに出演する予定がありますし、西川は西川で今回の新曲だけでなく、新たなサウンドアプローチを試み、どんどん新規軸を開拓しようという思いが強くなっています。ぜひともに楽しんでいただければ。

西川貴教

公演情報

FEST. INAZUMA 2026

  • 2026年9月19日(土)滋賀県 烏丸半島芝生広場
  • 2026年9月20日(日)滋賀県 烏丸半島芝生広場
  • 2026年9月21日(月・祝)滋賀県 烏丸半島芝生広場

<出演者>
後日発表


プロフィール

西川貴教(ニシカワタカノリ)

1970年9月19日生まれ、滋賀県出身。1996年5月にT.M.Revolutionとしてシングル「独裁 -monopolize-」でメジャーデビュー。「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」など数々のヒット曲をリリースした。2008年には「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年から大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を主催している。2018年3月に西川貴教名義で初となるシングル「Bright Burning Shout」を発表。2026年2月にテレビアニメ「炎炎ノ消防隊 参ノ章」第2クールのオープニングテーマ「Ignis -イグニス-」をリリースした。9月には「イナズマロック フェス」を「FEST. INAZUMA」と名前を改め、3日間にわたって開催する。