自分のやってきたことは誰かのためになっていた
──「HEROES」のボーカルからも、新たな西川さんを感じました。濁りのないまっすぐな歌声が、言葉1つひとつを鮮明に届けてくれています。
アニメがスタートしたとき、なんの情報もなくこの曲を聴いた人の中には僕だと気付かなかった人がけっこういたみたいで。クレジットを見て、「え、これ西川だったんだ」みたいな。その反応にはちょっとびっくりしましたね。それほど今までになかった表情になってるんだなと。これまでの自分はハイノートで喉がちぎれそうな感じで歌うのが1つの持ち味になっていたとは思うんです。でも、ここに来てしっかりとボトムのある歌、実のある歌を届けていくことこそが強みになるような気がしているとこもあって。そうすることで、その曲が持っている核の部分をもっと前に押し出すことができるというか。曲によってはテンション高く、突風を吹き付けることも大事だとは思うんだけど、この曲のようなタイプは、イソップ寓話の「北風と太陽」の太陽みたいに熱をもった歌声でゆっくりとその人の心を溶かしていくことが大事なんじゃないかなと。それをまた魅力の1つと思っていただけるように、今はいろいろ表現を模索しているところもありますね。
──ちなみに沖さんは歌入れにも立ち会われたんですか?
歌入れはもちろん、ミックスのときにも来てくれました。もうね、来るたびに泣いてるんですよ(笑)。歌詞を見せたときも泣いてたし、レコーディングで歌ったらまた泣いてるし。うれしかったですけどね。コロナ禍以降、自分がやっていることに意味があるのかと本気で思うことが多かったんですよ。でも、そんな沖くんの姿を見ていたら「自分のやってきたことは誰かのためになっていたんだな」と素直に思えたというか。誰かを救いたいと思ってやってきた僕の思いを受け止め、さらに今度はそれを自分の力に変えて誰かを励ましている沖くんの存在に、僕自身が救われました。
リファレンスは「YO! SAY」
──カップリングの「響ケ喝采」についてもお聞きします。原一博さんが手がけた楽曲が世に出るのは2曲目になりますね。
アルバム「SINGularity Ⅲ -VOYAGE-」では原さん作曲の「LIBERATED」をお聴きいただきましたけど、あの曲よりも先にいただいていたのがこの「響ケ喝采」のデモだったんです。聴いた瞬間、この雰囲気の曲を今の西川に歌わせようとしているところがすごく面白いし、めちゃくちゃいいなと思ったんですよ。ある意味、自分で自分のパロディをするみたいな感じで(笑)。でも、あのアルバムにはうまくはまらない感じがしたので、ちょっと温めさせていただきました。結果的に「HEROES」が持つ意味を押し上げてくれる、いい組み合わせのカップリング曲になったと思います。
──確かに曲のパワーがハンパないですよね。ボーカルでは西川節が炸裂していて。出だしの第一声で「あ、西川さんの曲だ」と誰もが納得する感じ。
そうそう。実は歌入れ前にリファレンスとして、自分の過去の曲をちょっと聴いたりしましたからね(笑)。原さんのデモがまさにそういう過去の自分を感じさせる仕上がりだったので、それを求めてくださるんだったら思いきりブチ込んでやろうと(笑)。面白かったですよ。
──TATSUNEさんによるリリックも、「HEROES」と同じく亀田さんによるアレンジも、西川さんの持つパブリックイメージに思い切り乗っかってくれている感じですよね。
そうですね。ご想像通りの仕上がりに(笑)。このタイプの歌入れはめちゃくちゃ早いんです。正味、3本録ったか録ってないかくらいで。亀田さんから僕の声の仮歌があるとアレンジしやすいというお話をいただいたこともあり、事前に一度しっかり歌っていたので、今回は本当に早かった。最初はハモが少なかったけど、ちょっと90年代の曲っぽく4度で当てたステイのラインを作るという試みをしてみたり。ハモはけっこうこだわりました。ちなみに「響ケ喝采」の歌い方は、「HOT LIMIT」の「YO! SAY」を意識したんですよ(笑)。
西川貴教はめちゃくちゃ身近な存在
──今回のシングルは西川さんの唯一無二な存在を改めて感じさせる内容になったと思います。
そうですね。西川貴教という人間がここから担うべき役割を、この2曲が象徴していると思います。なんかね、ここに来て西川の知名度が上がってることを実感してるんですよ。どこに行っても、「ああ、あの子ね」みたいな(笑)。
──いやいや、これまでも知名度は高かったと思いますけど。
なんだか、50歳を超えてから声のかけられ方に違いが出てきたんですよ。関西でのお仕事を意識的に増やしてるからかもしれないけど、めちゃくちゃ身近な存在に感じていただけている感覚があるんです。みんな知り合いみたいに話しかけてきますから。先日、万博に行ったときも大変だったもん。みんな普通に「おーっ!」って寄って来るから。普通、もうちょっとためらわない?(笑)
──あははは。たぶんT.M.Revolutionの活動だけをやっていたら、そうはなっていないような気がしますよね。
そうなんです。これは本当にいろんなことを積み上げてきたおかげだと思う。振り返ると、「SINGularity」の「Ⅰ」「Ⅱ」くらいまでは自分の中の葛藤がテーマだった気がしていて。ブレイクスルーを目指しているけど、なかなかできない気持ちが出ているというか。でも、「Ⅲ」でその場所から抜け出して、もう一度、日が昇り始めたような感覚なんです。それがすごく面白い。
──夏に向けて、すでにいろいろと予定が発表され始めていますね。楽しみです。
はい。6月には「百万石音楽祭2025~ミリオンロックフェスティバル~」、8月には「LuckyFes'25」への出演が決まりましたし、あと7月20日に万博の中で開催されるガンダムシリーズオーケストラコンサート「Next Universal Century」もありますしね。まだまだいろんな方々に僕の存在を見ていただき、新たなファンの方々との出会いも広げていけるよう、これからも精力的に活動していきたいと思っています。
プロフィール
西川貴教(ニシカワタカノリ)
1970年9月19日生まれ、滋賀県出身。1996年5月にT.M.Revolutionとしてシングル「独裁 -monopolize-」でメジャーデビュー。「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」など数々のヒット曲をリリースした。2008年には「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年から大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を主催している。2018年3月には西川貴教名義で初となるシングル「Bright Burning Shout」をリリース。2020年に「第45回滋賀県文化功労賞」を受賞した。2024年1月に、小室哲哉をプロデューサーに迎えたアニメ「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」の主題歌「FREEDOM」を発表。同曲を収録した3rdアルバム「SINGularity III -VOYAGE-」を2025年2月にリリースした。同年5月に7thシングル「HEROES」をリリース。
Takanori Nishikawa Official Website
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