新人・西川貴教が語る貪欲さ|あきらめずに挑戦していきたい。その気持ちが全部「Never say Never」に入っている (2/2)

「今どき?」っていう感じがいいでしょ?

──「Never say Never」のボーカルは、疾走するロックサウンドに合わせて力強いものになっていますね。西川節全開と言いますか。

そうですね。ここまでキーを上げちゃうと歌える人がごくわずかになってしまうから、誰もカラオケで酔っぱらいながら歌ってくれないんですよ(笑)。そこがちょっと気になるところではあるんですけど、この曲のようなパワー感、トップノートのギリギリでシャウトするかのようなボーカルを皆さんすごく求めてくださるし、それを西川節と言っていただけるのはうれしいことではありますね。あとね、最近はリリックが聞こえすぎるとカッコ悪いという風潮なのか、日本語なんだけどちょっとリエゾンしてるような歌が多い気がするんですよ。そう考えると、よくも悪くも一聴して歌詞がズコーンと聴こえてくる僕の歌い方は流行りじゃないのかもしれないなとは思うんですよね。

──そこもまた西川さんの大きな魅力だと思いますけどね。

うん。僕もそう思っていて。自分なりのキャラクターとして、どれだけ言葉数が多くて、どれだけテンポが速かったとしても、言ってることは間違いなく伝わるという歌にするということは今回もしっかり狙ったところではありました。今っぽくはないという意味で言うと、今回のMVなんかもそう。今じゃもう誰も触っていないヴィジュアル系のイメージをあえて触ってますからね(笑)。

──今回は西川貴教名義では初のバンド演奏シーンが盛り込まれたMVになっています。確かに往年のヴィジュアル系を想起させる映像ではありますね。

なんとなく曲の制作段階からバーッと画が浮かんでいたんですよ。それはまったく今の時代にそぐわないものだろうけど、でもやってみようかなっていう。

──でもヴィジュアル系全盛の時期を知らない若い世代からすれば新鮮に映るでしょうし、西川さんのアイパッチ姿は純粋にめちゃくちゃカッコいいですからね。

そうですか? ありがとうございます。そういうのを狙ってたんで、その感想はうれしいですね。「今どき?」っていう感じがいいでしょ?

──ちょっとギリシャ神話を想起させる彫像が出てくるのもいいですよね。

そうそう。前作の「Eden through the rough」ではタイトルの“Eden”に引っかけて、アダムとイブじゃないけど、楽園的な感じを出したアートワークにしたんですよ。で、今回は第2期としてそこにどう紐付けるかを考えたときに、あまりにも時代が進みすぎるのは違うなということでギリシャくらいの時代にしたという。MVとしてどう整合性を持たせるかを考えるのは大変ですけど、自分の中にはしっかりとしたイメージがあるんですよ。次につながるフラグになっている部分もあるので、そこは今後、なんらかの形で回収していこうかなとは思ってますけどね。

──へえ! それは楽しみですね。

ある意味、次の展開に向かうための入り口みたいな感じでご覧いただければなっていう思いはありますね。映像の端々にちょこちょことわかりやすい伏線が置いてあるので、いつか出るであろう「SINGularity Ⅲ」を聴いたときに、もう一度ここに戻ってきてもらうことで「あ、あれはここにいたこいつか!」みたいな面白さにつながっていけばいいなと。僕なんかは「スターウォーズ」が好きな世代なんでね、自分の作品においてもそういう楽しみ方があってもいいんじゃないかなって。

西川貴教

華余子の趣味全開

──シングルの2曲目には、作詞を藤林聖子さん、作曲を草野華余子さん、アレンジを堀江晶太さんが手がけた「BREACH」が収録されています。

草野さんと初めてご一緒したとき、「一番光れ!-ブッチギレ-」とともにたちまち数曲のデモを送っていただいてたんですよ。その中にあったのがこの曲なんです。いずれちゃんとした形にできればいいなと思っていたので、こちらも今回シングルに収録することができて僕としてはうれしいんですよね。

──西川さんとしては、この曲のどこに強く惹かれたんでしょうか?

堀江くんのアレンジのおかげで、完成したものは今っぽい雰囲気になってますけど、華余子のデモはもう趣味全開、超ヴィジュアル系っぽい感じだったんですよ。(両手のひらをヒラヒラと動かしながら)完全に“咲き”まくってましたから(笑)。

──ヴィジュアル系バンドのライブで見られるファンの人たちの動きのような。

そうそう。それが華余子好みだったんでしょうけど、僕もすごくいいなと思えた。で、さっき「Never say Never」のMVの話をしましたけど、あのイメージが出てきたのはこの曲がきっかけでもあるんです。最初はヴィジュアル系っぽい映像をこの曲でやりたいと思っていたくらいだったので。

──草野さんの曲を堀江さんがアレンジするという布陣は、「SINGularity Ⅱ -過形成のprotoCOL-」に収録されていた「The Barricade of Soul」と同じですね。

エンジニアの方も含め、同じ布陣です。この曲に込められた華余子の魂を最高の形で昇華させてあげるためには堀江くんの力が絶対に必要だなと思ったんですよね。前回も思いましたけど、堀江くんのチート具合はすごいよね(笑)。素晴らしいアレンジをしていただけました。

──ピアノがいいアクセントになっていますよね。疾走系のロックナンバーという意味では「Never say Never」と同ベクトルなのかもしれないですけど、聴き心地はまったく異なるものになっています。

自分の過去を振り返ってみても、間奏でピアノソロが出てくる曲はほとんどなかったですからね。ギターと同じ弦楽器ではあるけど、ピアノによるアプローチはまた全然違った雰囲気になって。ありそうでなかった仕上がりだなと思いました。最近は間奏自体があるってだけでもレアなのかもしれないけど(笑)。

西川貴教

──藤林さんの歌詞には“コロナ後”を生きるためのヒントが詰め込まれている印象を受けました。

まさにそうだと思います。実は最初に藤林さんから歌詞をもらったとき、内容的には“脱色”を意味する「BLEACH」なんだけど、タイトル表記が「BREACH」になっていたんですよ。で、確認したところ“L”と“R”を間違っていたようで。ただ、そのときに改めて“BREACH”という単語を調べてみたところ、“裂け目”とか“狭間”という意味があることがわかったので、むしろそっちのほうがテーマとしていいんじゃないかと思ったんですよね。で、僕からもいろいろワードのアイデアを投げさせてもらいながら、改めてアプローチし直して今の歌詞になっていきました。そういうやり取りもあったので、この曲は最終的な形になるまでにけっこう時間をかけましたね。

──こちらのボーカルレコーディングはいかがでしたか?

この曲はレンジの開きがかなり大きいですから、トップノートをどう乗りこなすかをまず考えましたね。同時に上がかなり高い分、平歌がわりと重ためな印象になってしまうので、ちょうどいいバランスをどう取っていくかも大事にしたかな。まあでもこの曲もテンポが速くて、言葉数が多くて、という意味においては皆さんが思う、皆さんが歌わせたい西川貴教の楽曲スタイルだと思うので(笑)、あまり大きく悩む感じではなかったですけどね。

──草野さんとのコラボはこれからも続いていきそうですか?

ミックスダウンが終わったとき、恐ろしいことを言ってましたよ。「まだまだ死ぬほどたっぷり歌わせたい曲があるんで、いつでも言ってください」って(笑)。ありがたいことですね。

やることが多すぎてヤバイです

──このあとの西川さんの予定としては、ダンス作品「バーン・ザ・フロア」にスペシャルゲストシンガーとして参加したり、ミュージカル「スクールオブロック」への出演も控えていますね。

コロナ禍の影響でスケジュールを組み直した結果、どちらも2023年にやることになっちゃったんですけど、個人的にはすごく楽しみですね。ほかにも「イナズマロック フェス」の前哨イベント(「イナズマフードGPXL」)や去年立ち上げた地元でのイベント(「稲妻イグナイト:北びわ湖大花火大会」)、「イナズマ」の本番、さらに秋以降には別プロジェクトが動き出したりもするので、やることが多すぎてヤバイです。マジで多牌(笑)。

──ファンとしてはうれしいことではありますけどね。西川さんに会える機会がそれだけ増えるわけですから。

いや、そう思っていただけるのであれば本望ではありますけどね。ただ、僕らが20代の頃に見ていた諸先輩方はもっとゆとりのある活動をされていたんですよ。自分もそうなれると思ってがんばってきたけど、この年齢になってもまだ馬車馬のように働いているっていう。やりがいもあるし、すべてのことが楽しいですけど、こんなふうになっているとは思ってもみなかったです(笑)。

西川貴教

プロフィール

西川貴教(ニシカワタカノリ)

1970年9月19日生まれ、滋賀県出身。1996年5月にT.M.Revolutionとしてシングル「独裁 -monopolize-」でメジャーデビュー。「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」など数々のヒット曲をリリースした。2008年には「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年から大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を主催。俳優、声優、MCなど幅広い分野で精力的に活動している。2018年3月には西川貴教名義で初となるシングル「Bright Burning Shout」をリリース。2023年4月に西川の2ndツアーの模様を収めたBlu-ray / DVD「TAKANORI NISHIKAWA LIVE TOUR 002 "SINGularity II -過形成のprotoCOL-"」、6thシングル「Never say Never」を発表した。また6月には舞台「バーン・ザ・フロア BE BRAVE. TOGETHER.」、8月から9月にかけてはミュージカル「スクールオブロック」に出演。10月には自身が主催する音楽フェス「イナズマロック フェス 2023」を3日間にわたり開催する。