西川貴教「SINGularity II -過形成のprotoCOL-」インタビューで語る新たな次元、新たな世界線の、新たな西川貴教

西川貴教が2ndアルバム「SINGularity II -過形成のprotoCOL-」をリリースした。

1stソロアルバム「SINGularity」から約3年半ぶりのアルバムとなる本作。草野華余子との初コラボ曲となった、オリジナルテレビアニメ「ブッチギレ!」のオープニングテーマ「一番光れ!-ブッチギレ-」や「Crescent Cutlass」「Eden through the rough」などのシングル曲に、ASCAとコラボした「天秤-Libra-」、ももいろクローバーZをフィーチャーした「鉄血†Gravity」、さらに斬新なアプローチを感じさせる革新的な新曲群を加えた全13曲が収録されている。

音楽ナタリーでは西川本人にインタビュー。“西川貴教”に対するパブリックイメージを凌駕する新たな魅力が詰め込まれた本作について話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / 須田卓馬

“SING”にこそ意味がある

──西川貴教名義のアルバムリリースは約3年半ぶりになりますね。

そんなつもりじゃなかったんですけどね。当初の予定では昨年中にはアルバムをリリースして、今年の頭にはそれを携えてツアーをするつもりだったんですけど、コロナ禍の影響もあり結果的にはリリースがないまま、ツアー(「Takanori Nishikawa LIVE TOUR 2022 "IDIOSYNCRASY"」)だけ回らせてもらうことになって。

──「SINGularity」から時間が経った分、今作にはそれ以降にリリースされたシングル曲が多数収録されています。

この3年半の間は折に触れて新曲をリリースしていたので、ある種、この期間の集大成的な側面はありますね。そういった状況もあって、今回はアルバム全体として大きなテーマを設けることはせず、その時々に生まれたものをそのまま収めていった感じで。有り様をそのまま受け入れるというか。それは結果として、アーティストという軸がありながらも、その傍らでさまざまな活動をしている西川貴教という存在にすごくマッチした作品になったような気もしています。僕にまつわる今の状況はあらゆる意味で居心地のいいものなので、それを音楽の世界の中でもうまく形にすることができたんじゃないかなって。

西川貴教

──既発曲だけ見ても、タイアップした作品のカラーに合わせて多種多様な西川さんが楽曲で表現されていますからね。そこにまた多彩な新曲群が加わることで、アルバムでは12編の歌と1編の序曲が大きな物語の世界を紡ぎ出している印象です。

西川貴教という1つの軸があるとすると、今回はそこから枝葉のようにどんどん分岐していくさまを表現できたんじゃないかなと。それは自ら意図した分岐もあれば、タイアップのような外部からの影響によって生まれた分岐もある。今回はその分岐を本線に戻すことを考えるのではなく、分岐した部分をそのまま受け入れながら「過形成のprotoCOL」という1つの作品にまとめた感じです。バラけた12の世界観が並ぶことで、また新たな世界線を作ろうとしている、みたいな。そういうスタイルは西川貴教として活動していくうえではいい手法だなと思いました。

──そういうお話を聞くと、アルバムジャケットのビジュアルにも意味がしっかり見えてきますね。どこかの新たな次元、新たな世界線に、新たな西川貴教が生まれてきたことが表現されているというか。

そうそう。どこかから転送されてきたとイメージする人もいるみたいなんですけど、僕としては「生まれる」という表現のほうが近いんですよね。3Dプリンターで新たな義体(人工的な肉体。「攻殻機動隊」に登場する造語)が作られ、クラウド化された記憶をダウンロードすることで、別の次元でも西川貴教として活動できるという。12の人格を持った、ある種バラバラな楽曲たちを1枚にまとめることに、ビジュアル面でもなんとか意味を持たせた感じですね(笑)。

──本作に収録されている新曲はどれも斬新かつ新鮮な仕上がりです。そこには新たなトライアルをしようという思いが存在していたんでしょうか?

いや、そんなこともなかったんですけど、結果的にはいろんな出会いによって新たな挑戦が加わったんだと思います。申し上げたように既発曲の多いアルバムでもあるので、最初からフィルタリングをせずに、1回どんなものでも受け入れてみようと。「こんなのもありかもね」みたいな、柔軟な視点で曲をチョイスしていった結果、ベクトルの異なる曲ばかりが集まったという。非常に面白い内容にはなりましたけど、この先ライブではどうしようか、若干の不安はありますね(笑)。この一見まとまりのないアルバムをどう表現するかがここからの課題です。

──1stアルバム「SINGularity」リリース時のインタビュー(参照:西川貴教「SINGularity」インタビュー)で、「既存のイメージを変える、新しい部分をもっと打ち出すことがアルバム2枚目以降の大きなテーマになる」といったことをおっしゃっていましたが、そこは本作でしっかり実現されていますよね。

そうですね。とは言え、まだまだ発展途上かなとは思っていますけど。「SINGularity」というタイトルについて、僕の活動における“特異点”という意味で受け取ってらっしゃる方も多いとは思うんです。でも、僕にとっては大文字になっている“SING”にこそ意味があるというか。歌うという行為を通して、自分自身の中にある可能性を見つけていく。それを西川貴教としてはこれからもやっていきたいし、今はまだまだその途中なんだよと。そんな意味を込めて今回は「SINGularity II」というタイトルにしたんです。

──ナンバリングタイトルにしたのはそんな理由からだったんですね。

はい。どこで完結するかはまだまだわかりませんけど、無限に広がっていく世界線を持つ「SINGularity」という物語の一端を、本作でもしっかりお届けできるかなという感覚はありますね。

西川貴教

「西川さんに歌ってもらいたい曲があります!」

──先行リリースされた「一番光れ!-ブッチギレ-」は本作のリードトラックにもなっています。作詞作曲を手がけられた草野華余子さんとはこの曲が初コラボとなりました。そこにはどんなきっかけがあったんでしょう?

去年、バラエティ番組(「ダウンタウンDX」)でご一緒させていただきまして。そのときに「タイミングが合ったらぜひ曲を書かせてください!」とおっしゃっていただいたんです。いわゆるキッズ時代に僕の音楽を聴き、すごく応援してくださっていたみたいで。そんな出会いがあったので、「せっかくだし、やってみましょう」とお声がけしたところ、「一番光れ!-ブッチギレ-」とともに、デモを数曲いただいたんです。そこから選ばせていただいたのがアルバムに入っている「The Barricade of Soul」なんですけど。

──そんな経緯で2曲のコラボが実現したんですね。

とにかく熱量の高さが印象的でした。「西川さんに歌ってもらいたい曲があります!」と。それがすごくうれしかったんですよ。僕が西川貴教名義でのプロジェクトを始めた目的は、いろんなクリエイターの方々に僕に歌わせたいと思う楽曲をどんどん投げてもらい、それをとにかく打ち返していくことだったので。「これこれ、こういうのをやりたかった!」という感じでしたね。

──結果的に「一番光れ!-ブッチギレ-」の作詞を草野さんが手がけることになったのは、そのリリックが西川さんにもしっかり刺さったからにほかならないですよね。

もちろんそうです。やっぱり熱に勝るものはないと感じました。「The Barricade of Soul」にしても、僕に歌わせることをイメージして、ずいぶん前から温めていた曲みたいですからね。しかも、彼女から紹介されたアレンジャーの堀江(晶太)さんやエンジニアの方と一緒に作業できたのもすごく楽しかった。草野さんとのコラボを通して、西川貴教プロジェクトでやりたかったことが望んでいた方向にブレイクスルーした感じがすごくありましたね。

──草野さんはレコーディングにも立ち会われたんですか?

はい。そこでのこだわりもすごく強くて。グルーヴ感を大事にしつつ、言葉1つひとつの鳴り方、聞こえ方みたいな部分もしっかり考えてくださって。作家として多忙な時期だと思うんだけど、仕事として流さない姿勢というか。丁寧にお仕事される方なんだと思ったし、それが草野さんならではの熱量にもつながっているなと感じました。すごく刺激的なコラボになったので、また機会があれば一緒に作品作りをしましょうと話しています。