ニコニコ動画（仮）の頃から知ってる

──松岡さんがニコニコ動画に興味を持ったのはいつ頃ですか？

かなり初期で、まだサイトの名前が「ニコニコ動画（仮）」だった頃（※2006年12月から2007年1月まで運営されていた、ニコニコ動画の最初のバージョン）からですね。というのも、「7zoo7」という僕のオフィシャルサイトがあるんですけど、このサイトってもともとクリエイターたちが自由に集まる場所として2003年に立ち上げたもので。このページを一緒に創ってくれたチームがニコニコ動画を創った方々だったというご縁もあり、サイトが公開された当初から知ってて、僕は遠くからニコ動を見守っている感じでした。

──ニコニコ動画というサイトを見て、当時の松岡さんはどう思っていたんですか？

どんどんユーザーが増えていくのを目の当たりにしましたし、「ニコニコ大会議」も何度か見ていて、「これは1つの文化になるな」って感じてました。「大会議」は最初から勢いがすごかったから。そうやってサイトの動向を見ているうちにユーザーたちがどんなことをニコニコ動画の世界に求めているのかが知りたくなって、僕もユーザー登録して動画を観るようになったんですよね。

クルーズでコメント打ってますから

──松岡さんのお気に入りの動画はなんですか？

僕は「ニコ生クルーズ」（※配信されている生放送を巡回する動画）が大好きなんですよ。とにかくずーっと回ってます。昼間っからベランダでビール飲みながらしゃべってたり、夜中なのにテンションが超高い人が番組をやってたり、そういう放送に出会うのが面白くて。彼ら“生主”（※ニコニコ生放送を配信するユーザーを指す言葉）は自分のことをわかってほしいから生放送をしてるわけじゃなくて、「そこに誰かいるんだろ」みたいに呼びかけている感じがするんですよ。そこに「俺もいるよ」って答えるのが好きなんです。僕、コメント打ちますからね。

──え!? じゃあクルーズで配信してる生主の中には、松岡さんのコメントを受け取っている人もいるんですね。

そうなりますね（笑）。もちろん特定のユーザーさんがアップロードしてる人気の動画を観ることもありますけど、やっぱり僕が好きなのはクルーズです。

──松岡さんが感じるニコニコ動画の魅力ってどんなところですか？

ニコニコ動画ってなんでもないことをみんなが報告し合うところだと思うんです。でもそういう自分にとってなんでもないことが、ほかの人を癒したり、興奮させたり、喜ばせたりしてるんですよね。「動画」って、その人の人生が反映されているものだし、それに対して視聴者はコメントを送ることができる。こういうコミュニケーションツールは、ほかにないじゃないですか。みんないろんな楽しみ方をしてるのはすごくいいんだけど、ちょっと勘弁してほしいと思うのは……動画のサムネイルでエロい写真が貼ってあるのに、開いてみたらムキムキの男たちが出てきたりするのってありますよね？（笑）

──俗に言う“釣り動画”ですね。

そうそう！ アレはやめてほしいなあ（笑）。あと、僕にはまだコミュニティに入る勇気がなくて。ユーザーに支えられている面白そうな番組がコミュニティ限定だったりすると、僕は観れない。すごく観たいんだけど、やっぱコミュニティ入っちゃうとなんかボロが出てバレちゃうかもしれないから。

くだらないことをマジでやるのがニコニコ

──松岡さんは2009年からニコニコ生放送で冠番組「松岡充の世の中ヲタしい事だらけ！」を月に1回のペースで配信しています。ニコニコ動画を観続けてきた松岡さんは、どういう番組にしようと考えてこの番組を始めたのでしょうか？

公式放送の話が上がったとき、いわゆるアーティストのオフィシャルレギュラー番組っぽい配信をするのはちょっと自分のイメージと違うなあと思ったんですよね。せっかくニコ動でやるんだから、ユーザーがいつも配信してる感じの生放送がやりたかった。だからある意味ユーザーたちの生放送をお手本にして、カメラも1個しか使わないで始めたのが「世のヲタ」だったんです。

──最近の松岡さんの番組では照明を落として真っ暗なまま放送したり、あえて静止画を見せながら番組を進行したりと毎回演出を工夫していますが、公式だからといって予算をかけているわけではないんですね。

そうそう。ああいう演出って一般ユーザーもできるものじゃないですか。僕、実は放送の前にかなり念入りにスタッフと打ち合わせをするんですよ。毎回いろんなアイデアを出しすぎて、スタッフを困らせてます（笑）。くだらないことをどれだけマジでやれるかっていうのがニコニコの本筋だと思ってて。でもくだらないところから超大事なものが生まれることもあるし、何かをひたむきにやってる姿って、見てるだけで元気が出てくる。だから僕の番組は本筋を外れないように、バカバカしさっていうのを真剣に追求しようと思ってやってます。

──ニコニコの空気感は、確かにYouTubeやTwitter、Facebookのようなほかのメディアでは感じられない独特のものですね。

TwitterやFacebookで面白いことを言って、瞬間的にリアクションをたくさんもらうっていう面白さもわからなくないけど、僕はそういうのを「ニコニコでやればいいのにな」って思っちゃうんですよ。

──それはなぜですか？

ニコニコだったら視聴者からの反応もあって、面白いことがもっと膨らむはずだから。双方向性の強みですよね。やりっぱなし、投げっぱなしで終わっちゃうのがもったいないと思うんです。僕はボーカリスト、アーティストとして活動していますが、誰もいないところでは歌いたくないですし。僕が作品を創るのもライブで歌うのも、それは伝えたい相手がいるからだから。クリエイトすることって、反応してくれる相手がいなかったら面白くないはずなんですよ。