Nothing's Carved In Stone「BRIGHTNESS」発売記念|村松拓×ホリエアツシが“大吐露”対談

Nothing's Carved In Stoneがリリースした新作EP「BRIGHTNESS」。本作は彼らが新たにWarner Music Japanとタッグを組んで制作した、約2年半ぶりのCD作品で、増し続けるバンドのエネルギーが感じられるような仕上がりになっている。

本作のリリースを記念し、音楽ナタリーではナッシングスの村松拓(Vo, G)とストレイテナーのホリエアツシ(Vo, G, Piano)の対談を実施した。昨年2023年は、ナッシングスが結成15周年、ストレイテナーが結成25周年を迎えた節目の年。村松とホリエはナッシングスの始動当初に出会い、それから約15年経った今、公私ともに近しい間柄だ。そんな2人が対談という場で顔を合わせるのは約9年ぶり2度目だという。2人が相手に今抱いている感情や、お互いが認める進化した部分とは。対談では相互理解とリスペクトにあふれた奔放なトークが展開され、両者の音楽的、人間的魅力が浮き彫りになった。

取材・文 / 風間大洋撮影 / YOSHIHITO KOBA

ユーモアを持って生きてる人の理想形

ホリエアツシ(ストレイテナー) この2人の対談、9年ぶりなんだってね。

村松拓(Nothing's Carved In Stone) 昔、JUNGLE LIFEで連載してたコラムにホリエさんに出てもらったんですよ。尊敬する人から話を聞いてみたくて。

ホリエ その頃はまだバンド同士の付き合いだったけど、今はお互い声をかけ合って弾き語りライブを地方で開催したり個人的な付き合いも多いから、オンもオフもともにしてる時間が長いし、いろんな面で関係がより深くなってきてるよね。

左から村松拓(Nothing's Carved In Stone)、ホリエアツシ(ストレイテナー)。

左から村松拓(Nothing's Carved In Stone)、ホリエアツシ(ストレイテナー)。

村松 ナッシングスを始めた頃、ホリエさんはひなっち(ストレイテナーとNothing's Carved In Stoneの両方に所属するベーシスト・日向秀和)が「拓は面白い」と吹聴してるのを聞いていて、「実際に会ってみたらそんなでもねえなって思った」って言ってましたよね。

ホリエ そうだっけ!?(笑)

村松 「意外と人見知りだな」って。

ホリエ ああ、2人とも人見知りではあるもんね。常に面白いやつを求められても困りますよ、みたいな。テンションが完全に平熱なときって自分を面白く見せようとか思わないんだけど、拓がいるとシラフでもなぜか面白く見せようとしちゃうところはある(笑)。

村松 いつも面白いテンションの人なんだって思い込んでました(笑)。俺はホリエさんを“面白”で追っかけてるところがあるんですよ。人生の中のスパイスとしてユーモアを必ず持ってる人で、生き方のエッセンスがおしゃれというか。そういう部分を、俺の前だから出してくれてたっていうのはうれしいですね。

ホリエ 拓は単純に笑ってくれるんじゃなくて「ふむ」みたいな反応するでしょ。だから数打ちたくなっちゃうのかもしれない。自分の中で消化しきれてない、面白いかどうかわからない原石もとりあえず1回拓に投げてみようかな?みたいな。

村松 1個1個の目の付けどころが細かいんですよね。

ホリエ だからさっきのごはん粒(※対談前の撮影時、村松の服の袖口にごはん粒が付いていることが発覚するも、そのまま撮影を敢行)も、真っ先に何粒あるのか数えたくなったもんね。たぶん7粒だなとか。

村松 6粒半でした。俺はこの対談が終わったときにごはん粒を見ながら「6:30ですね。おつかれさまでした!」って言うと決めてます。

ホリエ はっはっは!

村松 ホリエさんといるとけっこう話題を委ねちゃうし、ホリエさんが楽しそうにするのを待っちゃう。不良とか、音楽的にすごくカッコいいとか、子供の頃から憧れてきた要素はいろいろあるけど、面白い人って最強だよなというのは常に思ってて。ホリエさんは自分にとってユーモアを持って生きてる人の理想形なんですよ。だから会うと話を聞きたくて、ちょっと自分を抑えちゃう。

村松拓(Nothing's Carved In Stone)

村松拓(Nothing's Carved In Stone)

ホリエアツシ(ストレイテナー)

ホリエアツシ(ストレイテナー)

オンでもオフでも同じ人間でありたい2人

村松 ホリエさん、歌がすごく変わりましたよね。まだホリエさんの尖りが見えるくらいの頃に出会って、そこから少しずつ……今でも触れすぎちゃいけない部分も持ってるとは感じるんですけど、それ以上にいろんなものを受け入れて、包容していく人間性が増している気がする。同時に歌も柔らかくなって、導いてくれる力を感じるようになって。

ホリエ 拓と出会ってからのこの15年、そこは大きく変わったかもね。アーティストとしてもそうだけど、人間的にも成長していかないと……まあ人間なんて成長してない部分がほとんどで、99%くらいはそのままだけど、残りの1%くらいが生まれ変わっていってる感覚はあって。歌を歌っている以上は誰かの気持ちに力を加えていきたいから、歌い方とか声の出し方、言葉の使い方が変化してきてる。

村松 そうなんですね。

ホリエ むしろ昔は理解しづらい、一筋縄ではいかない表現の仕方を狙ってたんだけど、自分だったらこういう書き方をするっていう「自分だったら」を一旦やめてみようかと。いろんな書き方を意識したうえでオリジナリティを追求したいなって。日々精進ですよ。

村松 僕が面白いと思うのは、ホリエさんと普段やりとりしていることが、歌詞や楽曲の表現につながっていると感じるところなんですよ。

ホリエ 普段のやりとりって、ふざけたりしてるのも含め?

村松 はい。ストレイテナーの歌詞の端々に「普段から言ってるな、ホリエさん」っていう、人間そのものの部分が見えるんです。音楽とアーティスト自身の人生が乖離してないところは自分とも近いなと思うし、尊敬するところでもある。

ホリエ オンでもオフでも同じ人間でありたい気持ちは、拓のほうがよりある気がする。ステージ上でめっちゃカッコつけたりするけど、たぶん照れがあるよね。

村松 うん、照れちゃいますね。

ホリエ その照れることにも「別にいいや」と思ってる。

村松 確かに!

ホリエ 拓はそのまんまでいることに一番こだわってる気がする。近年は楽しいっていう感情をステージ上でちゃんと表現できるようになってきたし、さらに素直になってきてるように見える。僕はどこかで気付いたんだよね。裏と表があってもいいかもしれないけど、どちらも完璧にできる才能は自分にはないから、だったら自分の人間性で表でも勝負しようっていうふうに開き直った。拓もそうだと思う。

左から村松拓(Nothing's Carved In Stone)、ホリエアツシ(ストレイテナー)。

左から村松拓(Nothing's Carved In Stone)、ホリエアツシ(ストレイテナー)。

村松 開き直ってます。考えすぎて、たぶんほかの人が気付いてないことに気付いちゃう瞬間が多い性質だと思うし。

ホリエ そうだよね。あと、歌は拓もすごく変わったよ。安定感もそうだし、エロさというか……。

村松 おお! エロさ出てきました?

ホリエ 出てるね。「ROCKIN' QUARTET」(弦楽四重奏の演奏で歌うライブシリーズ)に出たときの拓が絶好調で、吐息に徐々に音程と実声が乗ってくるみたいな歌い方をしてて。玉置浩二じゃんと思った(笑)。

村松 それは怒られるなあ(笑)。でもすっげえうれしい。

「自分でありたい」という戦い

村松 テナーの武道館(2023年10月開催「25TH ANNIVERSARY ROCK BAND 2023.10.15 at Nippon Budokan」)を観たときは、「25年やってまだやりたいことがあるんだな」と思いました。25周年のお祝いはしてもらうけど、さらに先を見てると感じられるライブだったのはすごいことだし、自分もそうありたいなって。

ホリエ 周年のライブって、自分の中の新しいものを作ることへの貪欲さとのバランスが難しいんだよね。びっくりさせたいけど、ファンそれぞれの中のストレイテナーにも寄り添いたいから、びっくりさせるだけじゃダメ。

村松 変わりましたよねえ。だって前は、MCで「みんなのために音楽やってない」みたいなこと平気で言ってましたし。

ホリエ そうそうそう(笑)。

村松 自分に優しくなったのかな、たぶん。自分に求めるレベルがすごく高いから。

左から村松拓(Nothing's Carved In Stone)、ホリエアツシ(ストレイテナー)。

左から村松拓(Nothing's Carved In Stone)、ホリエアツシ(ストレイテナー)。

ホリエ そうかもね。甘くなったのかも。悪い言い方をするとあきらめなんだけど、あきらめも大事だもんね。

村松 大事だと思います。

ホリエ 「ここまで行ける」と思ってたところに行けなくて絶望するんじゃなく、あきらめることでまた新たな目標ができたりもするから。ポジティブな意味でのあきらめは大事かなと思う。

村松 リアルにあきらめの人生ですよ、僕なんか(笑)。これは自分じゃないな、できないなっていうことがだんだんわかってきて、だんだん自分自身が自分に近付いていく作業をやってきたから。誰かの真似をしたら終わりみたいなこだわりもあるし、こっちに行けば憧れてもらえるっていう道は見えていても「お前の思うカッコいいは絶対やんねえよ」って思う人生というか。その分、評価はあきらめてるっていう。

ホリエ どんなに憧れてても「あの人みたいだよね」って人から言われるのはすごく嫌じゃない?

村松 すっげえ嫌ですね。

ホリエ その「自分でありたい」っていう戦いを続けていかないとオリジナルにはならないから。特に人と比べられることが多い環境であればあるほど、それは大変なことだと思う。拓はけっこう比べられてきてるけど、そこを今や乗り越えたよね。

村松 はい。今だから言いますけど、ホリエさんもコンプレックスの1つでしたよ、ずっと。お互いひなっちと一緒にやってるバンドのボーカルなわけだから。

ホリエ そうだね。

村松 でも逆にいろいろ教わったところもあって。それを同じようなことを考えてそうな後輩の子に対してもしたいなって思ったりはしますね。「まだ本当の自分を出せてないんだな、出していいんだよ」と。

ホリエ そうだね。ナッシングスの武道館(2024年2月開催「Nothing's Carved In Stone 15th Anniversary Live at BUDOKAN」)の一番の印象は、4人それぞれのタフさが磨かれてきていたこと。あの時間、あの曲数を最後まで抜かりなくやりきったのがまずすごいけど、バンドとしてというよりは4人それぞれがタフになってきてると感じた。

村松 俺がMCでちょっとふざけたとき、ホリエさんが客席から大きめの声でしっかりツッコんでくれてたっていうのを聞いて、いいなと思いました。

ホリエ (笑)。ウブくん(生形真一)に話を振っといて、ウブくんが言ったことを全部拓が言い直すのとか面白かった。そういうのって昔だったら怒られてたと思うんだよね。

村松 怒られてたと思う(笑)。

ホリエ タフになったし、メンバー同士認め合えてるなって思った。だから……村松タフってあだ名つけたもん、武道館のあとに。

村松 やめてくださいよ。村松タフ、20年前くらいにさんざん言われてますよ、俺。

ホリエ あ、そうなの?(笑)