どこか懐かしくて、だからこそ親しみやすい
──カップリング曲「ライクライフライム」の作編曲は、先ほどもお話に出たHAMA-kgnさんですね。
HAMA-kgnさんはマジでおなじみの方です。「ライクライフライム」は、HAMA-kgnさんが過去に書いてくださった曲でいうと「ロジックルーパー」(「Ep01」収録曲)とか「烏合讃歌」(「コンポジット」収録曲)に近い雰囲気で、メロディラインにちょっと歌謡曲みを感じるんですよね。どこか懐かしくて、だからこそ親しみやすい、ヒヨコ群的にもすぐにノれる楽曲になっているんじゃないかな。
──今言及された「ロジックルーパー」は、「re-2nd」でも大盛り上がりしましたね。
私もめちゃくちゃ楽しかったです。「ロジックルーパー」は謎に熱狂的な支持者がいるんですけど、正直、楽曲を作っている最中は、ライブで盛り上がるというよりはメッセージを伝えるタイプの楽曲だと思っていて。それが、ワイパーの振付1つでみんなの一体感のレベルが格段に上がる、会場中がドカ沸きする楽曲になるなんて、もうびっくりですよ。そういう魔力がHAMA-kgnさんの楽曲にはあるので、「ライクライフライム」もライブで歌ったら予想外の盛り上がりを見せる楽曲に育つんじゃないかという期待があります。
──「ライクライフライム」はHAMA-kgnさんらしいアップテンポな曲ですが、同じくHAMA-kgnさんが手がけた「ステテクレバー」(2019年4月発売の1stアルバム「ログライン」収録曲)や「メイクストロボノイズ !!!」(「ケーブルサラダ」収録曲)と比べると重心が低いというか、ベースラインが主役みたいな。
うんうん。わかりやすい派手さはないかもしれないけど、いわゆるスルメ曲というか、聴けば聴くほどクセになるみたいな。ヒヨコ群にとってもそういう楽曲になってくれたらいいな。
──ただ、表題曲の座は最終的に「『 later 』」に譲ったわけですよね。何が決め手だったんですか?
「ライクライフライム」表題説も有力ではあったんですよ。でも、どちらにしようか迷ったときに、直近のシングル表題曲「シャドウボクサー」がアップテンポだったので、違うことをやりたくなって。それプラス、私が夢を追ってしまった結果「『 later 』」が表題になりました。だから「ライクライフライム」が表題になっていた未来も十分あり得たし、どちらが表題になっても私と夏川チームにとって大切な楽曲であることに変わりはありませんね。
いつもの私のふて腐れっぷりが見られる楽曲
──「ライクライフライム」の作詞は夏川さんで、やはり皮肉が込められていますが、「『 later 』」よりもユーモアの色が濃いですね。
うんうん。一応、「ライクライフライム」の歌詞も不気味さとか居心地の悪さから出発してはいるけれど、曲調的に「『 later 』」ほどじめっとしたことは言えない感じで。この曲調に合わせて詞を書くとなると、どうしても今まで「ステテクレバー」とか「烏合讃歌」で言ってきたことに近くなってしまうんですよ。それとは違う新しいことをやりたくて、自分の中で行ったり来たりを繰り返していたので、わりと難産ではありましたね。最終的に「人生観」というけっこう大きなテーマにたどり着いたんですけど、いつもの私のふて腐れっぷりが見られる楽曲に着地できたかなと。タイトルの「ライクライフライム」もいつもの造語で、いろいろ考えた末に「まるで人生のような韻」というのをそのままカタカナ英語にしました。
──「難産だった」というのは、具体的にどのあたりが?
もう、全体ですね。さっき言ったように「ライクライフライム」のメロは歌謡曲的なので、ハマらない言葉がなかったんですよ。だから選択肢がありすぎて、本当にいろんなパターンを書いたんです。私は作詞をするとき「このメロにはこの言葉しかハマらない」と感じる瞬間があって。「『 later 』」だったらサビの「おたがい」の部分がそうで、「もうここは『おたがい』しかあり得ない」と思ったら、その「おたがい」に至る道筋を整えるように歌詞の辻褄を合わせていく。場合によってはその過程でいつの間にかテーマが決まっていることもあるんですけど、「ライクライフライム」はどうとでも書けちゃうから、これはもう白米なんだなって。
──白米?
何を乗っけて食べてもうまいみたいな。それって逆に、何を乗っけようか迷うじゃないですか。だから歌詞の方向性がなかなか定まらなかったんですけど、サビの1行目の「一生安泰って冗談じゃない!」というフレーズが浮かんだときに「この言葉の響き、面白いな。よし、ここから出発しよう!」と決めて。出発したのが締め切りギリギリのタイミングだったので、そこから寝られなくて大変だったけれども、完成した歌詞には満足しています。特にサビ後半の「瞬間の安心と 永遠の慢心の 温床になっていると気づいた」は、メロは上向きで力強い感じなのに、我ながら酷いことを言っているなと。
──「温床」って、だいたい悪い意味で使われますからね。
あと、私はそのとき世間で流行っているものを歌詞に入れがちというか、情報として頭の隅にあるから勝手に入ってくると言ったほうが正しいんですけど、Dメロの「性格のデータ化 やけに便利になる一方で」はMBTI診断を皮肉っています。いや、私もMBTIは好きで何回かやっているし、やること自体は別にいいと思うんです。だけど、診断結果でレッテルを貼るような行為はいかがなものかと。最近は、自己紹介のときにMBTIを聞かれることもあるみたいで。
──キモいですね。
キモいですよね! まさしくここの歌詞は、私が感じている気味の悪さを表現できたと思います。
──「ライクライフライム」のボーカルに関して、僕は1番のラップパートの最後の1行「でもなんだか シケてるんじゃないか?」の「か?」に、初めてかわいさを感じてしまいました。
おお、うれしい!
──夏川さんの曲で初めてではなく、あらゆる曲の中で初めてです。今まで誰かの歌声を聴いて「かわいい」と思った記憶はないので。
そんなにですか? どこが刺さったんだろう?(笑) 自分としては「シケてる」とか、言葉としてはかわいくない歌詞をかわいく、愛嬌を込めて歌おうとするんだけど、愛嬌を込めきれていない不器用な感じがけっこう好きで。ラップパートはそういう拙いかわいさを意識して歌っていたので、もしそれが刺さっていたならよかったです。
ヤバいことをやりたい
──このシングルは、2024年最後のリリースになるんですかね?
そうなりますね。しばらくは、表立ったソロの活動はあんまり活発ではないかもしれません。
──来年はTrySailがデビュー10周年を迎えますからね。初の日本武道館公演(「LAWSON presents TrySail 10周年出航ライブ “FlagShip” in 日本武道館」)も発表されましたし(参照:TrySail、初の日本武道館ワンマン開催)。
そうなんですよ。来年はTrySailのほうでいろいろ動きがあるので。ただ、気持ち的には「夏川椎菜」でツアーをやりたいし、ツアーをやるなら新しいアルバムを出さなきゃいけないし、「re-MAKEOVER」もやりたい。だから表には出ないけど、TrySailの活動の裏で、作詞やレコーディングをもりもり進めていくんじゃないかな。本当に早くリリースしたい、溜めている曲がいっぱいあるんです。今回のシングルからは漏れてしまった山崎さんとHAMA-kgnさんのハロウィン曲もストックされていますし、まだ名前は出せないんですが、とある方に書いていただいた楽曲もあって。もちろん新たに楽曲制作をお願いしたいアーティストの方もいらっしゃるので、いろんな方にお会いできて、いろんな楽曲ができるんじゃないかという予感だけはあります。
──頼もしいです。
とにかく早く制作がしたい。ただ、「『 later 』」と「ライクライフライム」の制作スケジュールがカツカツすぎて、いろんな人が精神をすり減らしているのを目の当たりにしてきたので「アルバムを作ることになったら時間をかけて、ゆったりやろうね」という話はしています。今回はギリギリ間に合いましたけど、間に合ったからといってまたやっていいとは限らない(笑)。
──少々気が早いかもしれませんが、TrySailが10周年を迎えるということは、夏川さんの10周年も近付いているわけですよね。
だからミュージックレインは、ここ数年が超大変なんですよ。今年は天さん(雨宮天)が10周年で、来年はTrySailが10周年、再来年はもちさん(麻倉もも)が10周年、その翌年が夏川の10周年なんですけど、その頃にはもう天さんの15周年が見えてくるので。
──僕は2020年前後に雨宮さん、TrySail、麻倉さん、夏川さんを取材していたとき、「この人たちずっと周年やってるな」と思っていました。
ですよね(笑)。5周年のあたりはコロナ禍があったので、あんまり派手に動き回れなかった部分もあって。でも、10周年はいろんなことができそうな気がしています。これは末っ子の特権みたいなもので、例えば10月から天さんの「天10展」が開催されますけど、そうした10周年イベントを間近で見ながら「10周年は、こういうわがままも通るんだ?」とか、いろんな可能性を探る時間がある。夏川の10周年は2027年なのでまだ具体的なことは決まっていないけれど、毎日が「417の日」(毎年4月17日に夏川の地元・千葉で開催されるイベント)みたいなことになればいいと思っています。うん、ヤバいことをやりたい。
プロフィール
夏川椎菜(ナツカワシイナ)
1996年7月18日生まれの声優、アーティスト。2011年に開催された「第2回ミュージックレインスーパー声優オーディション」に合格し、翌年より声優として活動を開始。2015年に同じミュージックレインに所属する麻倉もも、雨宮天とともに声優ユニット・TrySailを結成した。2017年4月に1stシングル「グレープフルーツムーン」で自身の名義にてソロデビュー。2019年4月には1stアルバム「ログライン」をリリースし、9月より初のツアー「LAWSON presents 夏川椎菜 1st Live Tour 2019 プロットポイント」を行った。2022年2月に2ndアルバム「コンポジット」、2023年11月に3rdアルバム「ケーブルサラダ」を発表。2024年4月にシングル「シャドウボクサー」をリリースし、7月にライブツアー「LAWSON presents 夏川椎菜 Revenge Live "re-2nd"」を行った。10月に9thシングル「『 later 』」をリリース。2025年3月にTrySailとして初の日本武道館ワンマンライブ「LAWSON presents TrySail 10周年出航ライブ “FlagShip” in 日本武道館」を実施する。
夏川椎菜オフィシャルブログ「ナンス・アポン・ア・タイム!」Powered by Ameba
夏川椎菜 Official YouTube Channel | YouTube
夏川椎菜 Shiina Natsukawa artist official (@Natsukawa_Staff) | X