ナタリー PowerPush - ナノウ
ボカロPが弾き語りカバーアルバムを作った理由
やっぱりボーカリストとして挑戦してみたかった
──今回リリースされるアルバム「UNSUNG」は、まさにここまで伺ってきたお話を具現化した内容だと思います。全ての壁が取っ払われて、全てが地続きになった感じですよね。
自分の曲もボカロの曲も洋楽も邦楽も、ジャンルも曲調も関係なしに全てをごちゃまぜにして、僕の歌とギターだけで同じ土俵の上に乗っけたら面白いんじゃないかなって思ったんです。選曲に関しては基本的に自分が影響を受けたもの、リスペクトしてるものからピックアップした感じですね。
──先程“ぼっち”のための音楽というお話が出ていましたが、ラインナップ的にものすごく納得できました。心の奥底に渦巻いているような感情を歌う曲が多いですよね。能天気に明るい曲は皆無(笑)。
あははは(笑)。そうですね、うん。
──弾き語りというスタイルゆえに、それぞれの曲が持っているメロディの良さが浮き彫りにもなっていますよね。同時に、ナノウさんのボーカルの素晴らしさも堪能できます。
弾き語りはバンドの合間にちょこちょこやったりもしていて、楽しさを感じる部分がすごくあったんです。とは言え、ちゃんとした作品を弾き語りで作ったことはなかったので不安もありました。でもやっぱりボーカリストの自分として挑戦してみたかったから。
──しかも、観客のいないコンサートホールでライブレコーディングするという、ごまかしの利かない方法を選んだのはどうしてだったんですか?
元々、コンサートホールのようなところでライブをやりたいっていう気持ちが去年くらいからあったんで、じゃあ今回のアルバムをライブレコーディングという形で、歌も演奏もほぼ一発録りでやってみようということになりまして。そもそも自分にそんなことができるのかっていう不安がありましたけど(笑)、そういうスタイルでレコーディングすることに面白みをすごく感じたんで、やりたいという気持ちが勝った感じでしたね。
ネットも現実も関係ない、全部がただの音楽じゃないか
──実際のレコーディングはどうでした?
全部で4日間レコーディングしたんですけど、初日はどういう感じになるか全然想像もつかない感じでしたね。でも、1曲目に自分の曲「3331」を録った後、それを聴いてみたらすごくいい感じだったんですよ。「あ、これはいけるぞ」ってすごく思えて。試行錯誤しながらやっていったところもありましたけど、いい勢いで最後までやり切れましたね。全体的にかなりうまくいったんじゃないかなって思います。
──それぞれの楽曲で多彩な声の表情を堪能できますが、それらは事前にしっかり練って臨んだんですか?
事前に歌い方を練ってから臨んだ曲もあれば、逆にあまり練りすぎるとこなれてきちゃうからほとんど練習しないで臨んだ曲もありました。自分の「3331」や梨本(うい)さんの「死にたがり」、「いろは唄」(銀サク)とかはガッチリ決め込まず、その場でバーンと勢いよく歌って、「はい、これでいいです!」みたいな感じでしたね。ある意味、テンションに任せて。
──ボカロ楽曲ファンだけに限らず、さまざまな人に届いてほしい作品になっていると思います。ご自身としてはどんなふうに響くとうれしいですか?
ここで選曲したボカロ曲はニコニコ動画の中ではすごく有名なものばかりで、とてもたくさんの人が知ってると思うんですよ。でも、一歩ネットの外に出ると、当然まだまだ知らない人たちもたくさんいるわけで。そもそも「ボーカロイドって何?」っていう人もたくさんいるんですよね。だからネット上にはこれだけいい音楽っていうのがほんとにたくさんあるんだよっていうことをいろんな人に知ってほしいなって。その他の曲たちも全部そういう思いですね。単純に楽曲の良さをわかって欲しいんです。ジャンルも関係ないし、ネットも現実も関係ない。全部がただの音楽じゃないかっていう思いがあるので、そういう思いがこの作品で伝わってくれたらいいなって思います。
──無駄な先入観を排除して楽しんでほしいですよね。ナノウとしては今後もそういったジャンルの垣根をぶっ壊すような活動を展開していきたい気持ちですか?
自分がそういったことの担い手になってやろうっていう思いはあまりなくて、自分がいいと思ってやったことが結果としてそうなればいいかなって思うんです。だから僕は自分のやる音楽の純度をさらにさらに高めていくだけというか。そこだけを考えてますね。音楽に対する誠実な気持ちがないと、それってすぐにバレちゃう気がするから。僕の音楽活動は常にそこが出発点なんで。
ニューアルバム「UNSUNG」2012年9月5日発売 2000円 / BALLOOM / DGLA-10015
収録曲
(カッコ内はオリジナルアーティスト)
- 3331(ナノウ)
- 遺書(Cocco)
- From Y to Y(ジミーサムP)
- いろは唄(銀サク)
- creep(RADIOHEAD)
- 文学少年の憂鬱(ナノウ)
- 神様はエレキ守銭奴(家の裏でマンボウが死んでるP)
- 月に負け犬(椎名林檎)
- 死にたがり(梨本うい)
- Rape me(NIRVANA)
- コノハの世界事情 (じん(自然の敵P))
- Just the way I'm feeling(FEEDER)
- 「 ねぇ。」(ナノウ)
- 朝焼け、君の唄。(ナノウ)
ナノウ(なのう)
スリーピースロックバンドLyu:Lyuのコヤマヒデカズ(Vo, G)のソロ名義。2008年からニコニコ動画に自作ボーカロイド楽曲を投稿し始め、ボカロPや歌い手としてのネット上での活動が注目を集める。2010年末に発表した自身初のオリジナルアルバム「Fantasm-O-Matic」は発売から2週間足らずで完売。2011年3月にボカロPによるレーベル「BALLOOM」の設立メンバーとなり、2012年9月には自身のフェイバリットソングをカバーするギター弾き語りアルバム「UNSUNG」をリリースする。