ナタリー PowerPush - モテキ
恋が攻めてきたッ!! 映画公開記念スペシャル
「ナタリーだったら幸世でもやっていけるんじゃねえ?」
──今回「モテキ」はナタリー編集部を舞台にしているわけですが、まずはその経緯から伺っていいですか?
あれはもともと久保(ミツロウ)さんから出てきたアイデアで、「ナタリーだったら幸世でもやっていけるんじゃねえ?」ってことですよね。
──あはは(笑)。
映画はドラマの1年後の話だから、久保さんの中で「幸世を就職させたい」って気持ちがあったみたいで。どんなところで働いてるかって考えたときに、サブカル的な趣味を生かして働くとしたらライターかなって。で、俺もそれを聞いたときに腑に落ちたのが、去年ナタリー編集部に行ったときに感じた空気感っていうか。「確かにあそこだったら幸世でも働けるな」って思って(笑)。
──確かにそうかもしれないです。
ナタリーは、原作やドラマのときからずっと「モテキ」を応援してくれてたわけじゃない? そのときに周りにいた人たちはみんな共犯だよ、っていう気持ちもあるんですよね、俺の中では。ナタリーとか「EYESCREAM」とか、ドラマ始まったときから特集組んでくれてたし。だったらもう映画になったときは「一緒にやりましょうよ」っていう気持ちで。
ファンタジーにならないようにリアリティを追及した
──それにしてもナタリーが出てくるシーンでは、取材して記事を書いてっていう、普段の仕事が劇中でもそのまま描かれていて、僕らから見ても全く違和感なかったです。
そこはちゃんと編集部に行って取材したかいがあったよね。「ライターが書いた原稿は、責任者がチェックしてから公開するんですよ」っていう手順を聞いたから。それが映画にもちゃんと生かされてる。
──そうなんですよね。それに映画のセットも実際に編集部にある備品を持ち込んで作っているし、すごく細かく再現されてて驚きました。正直、そこまでリアリティを追求しなくてもいいんじゃないか、とも思うんですけど。
まあそこは、倉本聰先生が言ってた「大きな嘘はついても小さな嘘はつくな」っていうことですかね。
──なるほど。確かにそういう小さなことをリアルに作ってるからこそ、Perfumeが出てきたりっていうような、大きな嘘のシーンが成立してる。
ドラマに比べてよりちゃんとやらなきゃなと思ったのは、今回はメインに長澤まさみ、麻生久美子っていうのがいて、これはもうファンタジーじゃないですか。ヘタしたら空想の物語になっちゃうから、まあそこの地固めっていう意味でのリアリティの追及は大事にしたいなって。
──例えば?
下北の場面にしても、都夏(下北沢の居酒屋)で飲んで、みゆきとるみ子が来て、カラオケ行こうってなったときに下北だったらカラ館(カラオケ館)だろう。そのあと歩いていって王将前あたりで別れて、みたいな。あのシーン、別に王将前でやる必要ないんですよ。もっと撮りやすい場所はいっぱいあるし。でもその移動経路の嘘はつきたくない。そこで嘘をつくと別のところでほころびが出てくるような気がしてて。
──やっぱり夜の王将前の撮影は見物人がたくさんいました?
うん。だから長澤まさみのシーンをあんなところで撮るの大変だったんだよ。またあそこ五差路だかなんだかになってるから5方向で車止めなきゃいけないし。そういう面倒くささもあって。
──でも面倒くさくても、あの場所でやらなきゃいけない?
やらなきゃいけない。あと、ナタリーを舞台にしてよかったのは、今回は大勢の芝居を撮れたっていうことだよね。ドラマのときは最高でも4人くらいの芝居しかなかったけど、ナタリーが舞台だとやっぱ奥行きもあるし、そういうところは映画っぽく撮れたかな。
──編集部をオシャレに撮ってもらえたのはありがたかったです。
映画が公開されたら全国のボンクラたちがみんな上京してきて「ナタリーに就職させてください!」って来ると思うよ。「あそこだったら働けそうな気がする」って(笑)。
幸世の音楽的な目覚めは岡村ちゃんが入り口だった
──さて、ナタリーの取材なんで音楽の話もしたいんですが、「モテキ」の音楽の使い方は斬新ですよね。すごく新しいと思うんですが。
曲によって物語が転がっていくんですよね。ほとんど常に曲がかかってて、なんかミックスCD聴いてるような印象にすらなるっていうか。まあでも、そんなに不自然じゃないでしょ?
──不自然じゃないです。日本語詞の曲が全編通して流れてるのに、全く違和感はなかったです。
俺はオリジナリティも才能もない人間だけども、唯一ある長所というのはたぶんバランス感覚というか、DJ的な部分。人のものをアレンジしたり並べて見せるのがすごい好きっていう、そのバランスには長けてるんだろうなっていう気はしますけどね。だから前野健太は、あれは前野健太本人でもいいんですよ別に。
──ああ、前野健太の「友達じゃがまんできない」をナキミソが歌うシーンがありますね。
そう、あの場面でマエケン本人が出てきて歌ってもいいんだけど、脚本上、次に星野源の「ばらばら」がかかるって考えたときに、自分の中のDJ的なイメージでは「ここ女性ボーカルだな」って感じなんですよね。マエケンから星野源の流れだとフロアがちょっとくどくなる(笑)。だからあそこはナキミソみたいな女の子のボーカルでちょっと軽くしたほうがいいなと思って。
──なるほど。
あと、るみ子が歌うジュディマリの曲はなんだって考えたときに、やっぱ「LOVER SOUL」とかあのへんだろうなーとか。幸世が「俺はYUKIは好きだけどジュディマリ通ってない」、るみ子は「ジュディマリは好きだけど今のYUKIはちょっとよくわかんない」みたいなことを言う感じっていうのも、我ながら「この2人のバランスってこういうことだよな」って。
──あと「モテキ」といえば、岡村靖幸への並々ならぬ思い入れですよね(笑)。
俺が勝手に作った設定で、幸世の音楽的な目覚めは岡村ちゃんが入り口だったっていうのがあるんですよね。多分中2とかで、後追いで岡村ちゃんを知って、そこからスチャ(スチャダラパー)とか渋谷系とか知ってっていう。で、自分の感性の中では岡村ちゃんが一番フィットしたというか、幸世は一番最初に好きになったアーティスト。そういう存在として岡村ちゃんがいるっていう。
──そんな裏設定が?
最近作ったんですけどね(笑)。
カラオケビデオのドブ板仕事が大好きだった
──あと「モテキ」は画面に歌詞が出るのがすごいなあと思うんですが、あれは大根さんの発明なんですか?
発明っていうか……なんなんでしょうね(笑)。
──カラオケのシーンでもないのに画面に歌詞が出てくる。ああいうのって映画畑の人に怒られたりしないんですか?(笑)
でも例えば「処女作にその監督のすべてがある」と言われるとしたら俺はカラオケビデオ出身だからね。
──そうなんですか!
カラオケビデオを50本くらい作ってたんですよ。21歳とか22歳くらいのときに。すごい好きだったの、その仕事が。MTVとかPV全盛の頃で、ディレクターはみんなそっちに憧れてたし、カラオケビデオっていうのは本当に見下されてたんだけど、俺はそのドブ板仕事が大好きで。本当に何やっても誰もなんにも言わないから。
──そこがルーツ?
(笑)。ルーツっていうか、だから歌詞を出すのも俺の中ではそんなに特別なことじゃないんですよね。
──でもあんな演出「モテキ」以外で観たことないですよ。
そうですね。ドラマの1話の「格好悪いふられ方」であれをやろうと思ったのはなんでだろうな。単純に歌詞出したほうが面白いっていうのは、まあバラエティやってた経験っていうのもあるのかな。テロップで笑いを強調するっていうのは、あんまりやりすぎるのは良くないけど、例えば「めちゃイケ」のテロップワークとかって秀逸じゃない? あれはもう1つの演出というか、エンタテインメントの1つの技法として立派に成立してるから。テロップワークで人の心を動かすっていうのは、好きだし、やるべきだと思うし。で、それを映画でやったらもっとバカバカしいかなって。
──そういう部分も含めて、すごい映画ができた気がします。
どうなんですかね。今のところいい評価ばっかりでうれしいんだけど、こんなものがたくさんの人に受け入れられるわけないっていうのはどっかで思ってるんですけどね。その逆の気持ちもあって、これがいろんな人に伝わったら気持ちいいなっていうのもあるし。そもそもそのつもりで映画にしたわけなんだけど。だから今はなかなか複雑な気持ちではありますね(笑)。
- 監督・脚本
- 大根仁
- 原作
- 久保ミツロウ
「モテキ」(講談社イブニングKC) - キャスト
- 森山未來、長澤まさみ、麻生久美子、仲里依紗、真木よう子、新井浩文、金子ノブアキ、リリー・フランキー
- オープニングテーマ
- フジファブリック「夜明けのBEAT」
- メインテーマ
- 女王蜂「デスコ」
© 2011映画「モテキ」製作委員会
2011年9月26日更新