ももいろクローバーZ|合言葉は「ももクロとPLAY!」4人がたどり着いたボーダーレスな配信ライブ

ももいろクローバーZの視聴者参加型配信ライブ「PLAY!」をパッケージ化したライブBlu-ray / DVD「PLAY!」が4月14日にリリースされた。

4月3、4日に神奈川・横浜アリーナでひさびさの有観客ライブとなるバレンタインイベントを行い、モノノフ(ももクロファンの呼称)と約1年2カ月ぶりの再会を果たしたももクロ。彼女たちはここに至るまで実験的なオンラインライブを重ね、コロナ禍の中で新たなエンタテインメントの形を追求し続けてきたが、その1つの到達点となったのが昨年11月にABEMA PPV ONLINE LIVEで独占生配信された「PLAY!」だった。このライブでは視聴者参加型の企画やオンラインであることを生かした演出が多数用意され、「ももクロとPLAY!」を合言葉に“ボーダーレス”な映像体験が届けられた。

この記事では過去にももクロのミュージックビデオに携わり、「PLAY!」で遊び心あふれるMV風の映像演出を手がけた河谷英夫、スミス、ZUMI、多田卓也のコメントを交えてライブの見どころを紹介。1曲ごとに担当するクリエイターが変わり、次々に新しい世界が広がっていった「PLAY!」の独創的なシーンを振り返る。また特集の後半では、ももクロメンバー4人が印象に残っているシーンを語っている。

文 / 近藤隼人

現実と非現実のボーダーレス

ライブの最初の見どころとなったのは、おなじみのSE「overture ~ももいろクローバーZ参上!!~」を経て披露された本公演のテーマソング「PLAY!」だ。スタイリッシュなセットアップの衣装に身を包み、「PLAY」という文字のオブジェとともにカメラの前に姿を現したももクロは、曲が始まった途端、景色が目まぐるしく変化する異空間の中へ。いきなりの展開で視聴者の度肝を抜きつつ、「ねえ ちゃんと見てる? そこ 離れていてもわかるから」と笑顔でカメラの向こう側に呼びかけた。この演出は3面のLEDからなるステージと最新のXR技術によって実現したもので、このシーンを監督した多田は「現実と非現実の境目、ボーダーレスな感覚を体験できる映像を意識しました。アナログの『PLAY!』オブジェを使ったももクロの4人のダンスパフォーマンスが、背景のCG世界、ライティング、カメラワークのすべてと連動するように、本番ギリギリのギリギリまで調整が必要で、メンバー並びに各スタッフのスペシャルなスキルに本当に助けられました!」と舞台裏での苦労を明かしている。

「PLAY!」の初披露を終えると、ももクロはバーチャルの空間から現実世界へと帰還し、ラップを中心としたポップチューン「The Diamond Four」を歌唱。歌詞に沿ったアイテムやモチーフが次々に登場するスタジオ内を4人が移動していくという、リアルタイムでMVを撮影しているような映像が展開された。「PLAY!」と対照的に現実感あふれる質感になったこのシーンについて、映像作家のスミスは「OPからここまではテクノロジー満載だったので、ももクロが得意とする脱構築的なネタバラシを演出のキモにしました。情報量を多くして、メンバーの素があふれるように(仕掛けを登場させる)タイミングもギリギリを狙ってます。歌詞も言葉遊びが多いので、仕掛けとつながるように工夫しています。カメラの切り替えと位置取りが大変で、裏でいろんな人が走り回ってます」と解説している。

絶妙な2択が提示された楽曲投票企画

ABEMAのアンケート機能を使った楽曲投票企画もこのライブの目玉の1つ。2つの楽曲のうちどちらを披露するのか、その選択肢が視聴者に委ねられるという、まさに“視聴者参加型”の企画が複数回実施された。毎回モノノフにとって悩ましい、絶妙な2択が提示され、1回目は初期からのライブの人気曲「Chai Maxx」の序章を描いた「Chai Maxx ZERO」と疾走感あふれるロックチューン「stay gold」が投票の対象に。アンケートの結果、「Chai Maxx ZERO」がセットリストの5曲目に組み込まれることになった。

動く床の上で「Chai Maxx ZERO」をパフォーマンスするももいろクローバーZ。(撮影:上飯坂一)

この曲ではジャミロクワイ「Virtual Insanity」のMVを彷彿とさせる、床が前後にスライドするセットの中でメンバーがダンス。ディレクションを担当した河谷は「The Diamond Four」と同じように「アナログなトリックで何かアプローチできれば」と考えたとのことで、「あくまでライブなので、進行やメンバーのパフォーマンスにストレスをかけずに、簡単に一発で面白く見える仕掛けをと思い、箱とカメラを固定して同時に移動させる手法に至りました。レンズ感や箱の動きに遊べる余白があったので、メンバーにアドリブでのカメラアクションをしてもらって、楽しい表情や空気感が撮れたのではないかと思っています」と手応えを語る。なお、楽曲投票企画ではメンバーもスタッフもどちらの曲が選ばれても対応できるように準備していたという。Blu-ray / DVDには「stay gold」をはじめ、投票で選ばれなかった楽曲のパフォーマンス映像も収録されているので、配信を視聴した人もぜひチェックしよう。

ももクロならではのドタバタ展開

ライブ中盤には、ももクロのコミカルな一面が大きくフィーチャーされる。「ゴリラパンチ」では4人が巨大なゴリラに扮し、都会の街並みを再現したミニチュアセットで特撮映画をイメージさせるパフォーマンスを展開。最後は“ササキアヤカゴリラ”こと佐々木彩夏がセットの東京スカイツリーを引っこ抜いて持ち上げるという暴れっぷりを見せつけた。配信時は佐々木の“圧”が全開になったこの演出にチャット欄が笑いのコメントでいっぱいに。スミスはメンバーを巨大化させた理由について「ヒーローでも怪獣でもデカくなるってだけでなんか説得力があるというか。理由もなく大きくなると、なぜか哀愁みたいなものも感じられて、すごくグッとくるんです」と私感を述べている。

またスミスはパンクナンバー「あんた飛ばしすぎ!!」のシーンも担当。このパートは、涼むために屋外へ出たももクロが夜から昼に時間が巻き戻っていることに気付き、意識を集中してタイムスリップを試みるという唐突なドラマパートから続く形でスタートした。ライブ全編を通してもっともカオスな瞬間だったが、過去に「あんた飛ばしすぎ!!」のMV監督も務めたスミスは「依頼があった時点でなぜかドラマを作ることが決まっていて、どうやってMVの世界につなげたらいいのか考えたんですが、無理矢理行くしかないという結論で、これになりました」とその背景を解説。スケバンやヤンキーの姿に変身したメンバーが気志團の早乙女光とともにパフォーマンスした曲中の演出については、「不条理な感じがうまくいってとてもいいシーンになりました。とにかく自由に暴れるメンバーを見てもらいたいです」と注目ポイントを語っている。このシーンでは好きなタイミングでカメラ映像をスイッチングできるマルチアングル機能の使用が可能になり、視聴者はさまざまな角度からステージ上のドタバタ劇を楽しんだ。

「ももクロの令和ニッポン万歳!」の新潟パートの様子。2016年に新潟で“結婚披露宴”イベント「ももたまい婚」を開催した百田夏菜子と玉井詩織を、ほかのメンバーとダンサーが紙吹雪で祝福した。(撮影:上飯坂一)

このほか、全国各地の名物紹介や、その土地での思い出を歌詞に詰め込んだ「ももクロの令和ニッポン万歳!」でもにぎやかなライブが繰り広げられた。ももクロは日本地図を模したステージ上をところ狭しと動き回りつつ、セットに寝転んだり、「写ルンです」で自撮りしたりしながら“日本1周”を満喫。多田はこの演出の意図を「振り付けのアンナ先生とこの楽曲の演出の打ち合わせをしていた際に、このご時世だからこそ、改めて旅や移動の楽しさを表現したいと盛り上がりました」と説明し、「セットリストの関係上、衣装が学生服ということもあり、修学旅行みたいにしたいねといろいろネタを盛り込みました。アドリブが多い楽曲になっていて、ももクロ4人の素の魅力が伝わる演出になっています!」と見どころをアピールしている。

プレーンな演出で魅せたラストスパート

「月色Chainon」を初披露するももいろクローバーZ。(撮影:上飯坂一)

ライブがラストスパートに差し掛かると、ももクロは純白のロングドレスに衣装をチェンジ。天真爛漫な姿でモノノフを楽しませたかと思えば、次の瞬間にはシリアスで大人びた表情を見せる、そのコントラストが彼女たちの魅力として挙げられるが、ここからは視聴者の目を釘付けにする迫真のステージが連続する。大きな満月に照らされた神秘的なステージに立った4人は、映画「劇場版『美少女戦士セーラームーンEternal』」の主題歌「月色Chainon」を初披露し、力強い歌声としなやかなダンスで楽曲の壮麗な世界観を表現した。河谷はこの場面を「初披露ということだったので、過度な演出はせずプレーンにダンスパフォーマンスを観てもらえればというところと、セットリストの中でもグッとエモーショナルになっていくところで、ちょうど次の曲『月と銀紙飛行船』と“月”をモチーフにした曲が続くところだったので、“月”のオブジェを共有させてもらいました。ZUMIくんの『月と銀紙飛行船』がドラマチックな演出だったので、そこにつなぐ序章的な意味でも、プレーンなライティングで楽曲の持つ大人なムードやエモーショナルな世界観を作っていくという作業でした」と回顧する。

「月色Chainon」を初披露するももいろクローバーZ。(撮影:上飯坂一)
バレエダンサーとともに「月と銀紙飛行船」を披露するももいろクローバーZ。(撮影:上飯坂一)

最後の楽曲投票企画では「月と銀紙飛行船」と「イマジネーション」という、ももクロの楽曲の中でもとりわけロマンチックなナンバー2曲でアンケートが実施され、その結果として全編3拍子の「月と銀紙飛行船」が選ばれた。河谷が述べたように、この曲でも月のオブジェが使用され、ももクロの4人はバレエダンサーを交えつつ、ブランコに座って情感たっぷりに歌唱。楽曲を聴いたときに浮かんだイメージをそのまま再現したというZUMIは、「私が想像したのは、『満月の夜、雲よりも高い遥か上空でブランコに乗って悠然と歌うMCZの姿』でした。加えて、ウサギのバレエダンサーが月に帰れず困っているのをMCZの4人が歌の力で元気付けてあげるというストーリーになっています。包み込むような優しさを持ちそっと背中を押してくれる、そんなステージになったらいいなと思い提案しました。演出は、カメラを複数台用いず1カメショーで見せきることにこだわりました。浮遊感のあるクレーンカメラの動きで、一緒に雲の上を飛んでいるような視点でお届けしたかったんです」とそのこだわりを語る。またZUMIは配信で披露されなかった「イマジネーション」で冒頭の「PLAY!」同様のXR技術を用いた演出に挑戦しており、「“宇宙の想像爆発と時空トラベル”をテーマに立体視で見せられるXRならではの効果を演出に盛り込みました」とコメントしている。

ライブのラスト、「クローバーとダイヤモンド」を歌いながら「PLAY」のオブジェがある最初のステージへと戻り、「また一緒に遊ぼうね!」とモノノフに無邪気に呼びかけたももクロ。ライブに先駆けて行われた音楽ナタリーのインタビューで高城れにが「絶対に一石二鳥とかいう次元じゃなくて一石何鳥と数え切れない得があると思います」と語っていた通り(参照:ももいろクローバーZ、明日の参加型配信ライブ「PLAY!」を猛烈アピール「数え切れない得がある」)、「PLAY!」はオンラインでしか味わえない“遊び”がいくつも用意された、一瞬たりとも目を離せないライブとなった。初めての試みも多い中、彼女たちが心の底から楽しみながらカメラの前に立てるのは、空間を共にしていなくても変わらずモノノフを楽しませたいという気持ちがあるからだろう。Blu-ray / DVDにはライブのメイキングも収録されているので、4人の舞台裏での姿までじっくり楽しもう。

弾けるような笑顔でZポーズを決めるももいろクローバーZ。(撮影:上飯坂一)
ももクロの4人が印象に残っているシーン
百田夏菜子
百田夏菜子

「The Diamond Four」です!
会場の構造を全⾯に活⽤して配信ならではのものを作りました。
常にカメラマンさんと⼀緒にリハーサルするというのもとても新鮮でした。
あとはドラマですね。ライブの合間に挟まってくるドラマ。
私たちのライブでは⽐較的馴染みのある茶番ですが、現場に⾏ったら思った以上に本格的でびっくりしました(笑)。

玉井詩織
玉井詩織

XRという映像技術を使った演出です!
⽣配信ライブだったのでリアルタイムで私たちのダンスと合成していたので⽴ち位置とかがいつもよりシビアでした。映像を通して観ると同じライブ会場なのに突然異空間になってとても⾯⽩かったですし、配信ライブならではの演出だなって思いました!!

佐々木彩夏
佐々木彩夏

「ChaiMaxx ZERO」です!
ライブの⼈気曲なのですが、とってもひさしぶりやったのでみんなの反響がとても大きくてうれしかったのと、
トリックアート的な仕掛けを使ってパフォーマンスしたのが面白かったです!
踊ってる側はなにが起こってるのかよくわからないのですが(笑)、
とても⾯⽩い映像になっててびっくりしました!

⾼城れに
⾼城れに

「⽉⾊Chainon」と「⽉と銀紙⾶⾏船」です!
フルでの初お披露⽬だったのですごくドキドキしながらやりました!
セットの⽉もとても幻想的で曲とマッチしてましたし、⽉のブロックは異次元な感じで印象的です!