みゆな×クボタカイ|遊ぶようにコラージュするように、同郷の次世代アーティストがコロナ禍で制作したコラボ曲

海辺の野良猫みたいだね

──では音楽以外での共通点は、お二人の間にありますか?

みゆな うーん、どうだろう。喫茶店の好みが似ていたり、たこ焼きが2人とも好きだったりはするけど、映画やテレビ番組の話題は出ないかも。基本的に音楽の話ばかりですね。2人で遊ぶときはずーっと音楽を作っています。

クボタ YouTubeにType Beatという著作権フリーのビートが置いてあるところがあって、それを使って遊ぶことが多いよね。

みゆな そうそう。そこから落としてきたビートを延々と流しながら即興で歌ったりラップしたりしてる。遊んでいるうちに勝手に1曲できあがっちゃうこともよくあるし。「冷蔵庫にある食材を片っ端から使ってヤバいジュースを作ろう」みたいな遊びをしている合間にそうやって曲を作ってます(笑)。

左からクボタカイ、みゆな。

──(笑)。曲作りもセッションも、遊びの延長線上にあるんですね。今回のコラボ曲「あのねこの話」も、そんな流れの中で生まれたのでしょうか。

クボタ まさに。2人で即興で歌っているうちに「それなりのクオリティになりそうだぞ」とお互い思い始めて。そういう状態がしばらく続いていたんですけど、「そろそろちゃんと本腰を入れて作ろう」と作ったのが「あのねこの話」です。

みゆな クボタくんとLINEでやり取りしていたときに「みゆなちゃんは海辺の野良猫みたいだね」って言われたのがすごく印象に残っていたんですよ。それで猫の曲を作ることになった。

クボタ みゆなちゃんって、人懐っこいけど野性味もあって、ものすごくエネルギッシュなんです。決して飼い慣らされた猫じゃないし、愛想のよさと野性との共存……魚釣りしていたら、しれっと寄ってきて、魚だけもらってなでられて帰っていくみたいな。

みゆな あははは!(笑)

クボタ そういうたくましさとしたたかさをテーマに制作を進めていきました。

みゆな 私、「猫みたいだね」って言われたのはクボタくんが初めてだよ。私は自分のことを犬っぽいのかなと思ってたし。好きな人に会うと、尻尾が生えてたら振りまくってるだろうなというくらいすり寄って喜ぶタイプだから。

聴いてくれた人それぞれが思う「あのねこの話」

──実際の作業はどんなふうに進んでいったのですか?

クボタ まずは僕が叩き台となるデモトラックを作って、歌詞も書いて。歌詞には僕が思うみゆなちゃん像が投影されています。で、それを聴いたみゆなちゃんが「ここはこういう言葉を使った方がいいんじゃない?」「こういうメロディはどう?」みたいな感じで提案してくれて、それを反映していきました。

左からクボタカイ、みゆな。

みゆな クボタくんの歌詞をひと通り読んだときに、最初は「君」だったり「あなた」だったり二人称が定まってなかったんですよ。それが面白さでもあるけど、聴いた人がわかりづらいと思ったのでまずはそこを整理して。でもずっと「君」と歌っている中で1カ所だけ「あなた」になっているのはあえて残しました。

──それはどうして?

みゆな お互いの世界観が、1曲の中でぶつかり合っているのが面白いんじゃないかと思ったんです。私にとって野良猫は、夜中に路地裏からふらっと出てくるイメージだったので、夜に散歩したくなる歌詞にしたかった。あとただしたたかなだけじゃなくて、野良猫のかわいらしいところも入れたくて、そういうふうに手を加えさせてもらいました。例えばこの曲では「もういらなくなった 指輪を外して」と女の子が言っているけど、本当は指輪を持っていたいのに強がって外してしまったんだと思うんです。そういうちょっと意地っ張りなところもあるような、かわいい女の子にしたかったんですよね。そこもまた猫っぽいし。

クボタ みゆなちゃんは、みゆなちゃんの視点で歌詞を書き加えてくれたんだよね。

みゆな うん。そうすることで、聴いた人はきっと「ここでこんな展開を迎えるんだ!」みたいな驚きもあるだろうし、いろんな解釈が生まれると思って。それに対して私たちは正解を示すんじゃなくて、聴いてくれた人それぞれが思う「あのねこの話」になればいいなと。

──あまりきっちり作り込まず、あえて「未整理」な要素を入れているからこそ、聴き手も自分のイメージを投影しやすいのかもしれないですね。

みゆな そうすることで、聴くたびに印象が変わる楽曲になると思うんです。だからスタッフさんから「この曲は何回も聴くからこそ意味がある。もっと聴きたくなっちゃう曲だね」と言ってもらえたとき、すごくうれしくて。皆さんにもいろんな想像をしながら聴いてもらいたいですね。

楽に生きられる世の中になるといいなあ

──ところでお二人は、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、どんな思いで日々を過ごしていましたか?

クボタ ライブが中止になってしまったり、思うように活動ができなくなってしまったことはもどかしいけど、切り替えるしかないので、とにかく今は事態が収束したときのことを考えて曲を作り続けています。

みゆな クボタくんの2月のライブ(2月14日に東京・VUENOSで開催された「クボタカイ デビューEP『明星』RELEASE TOUR」)にゲスト出演して歌わせてもらって、その直後にコロナがこれだけ流行して。クボタくんも私も出るはずだったライブが中止になったりして、そのことでクボタくんがすごく悔しがっていたのも知っているし、もちろん私も悔しかったからこそ、今回のコラボを絶対に実現させたいという気持ちがありました。なので、今回この時期に一緒に楽曲を出させてもらえてありがたいです。たとえライブができなくても、音楽はいつでも誰かの心に寄り添えるものだから、これからも私はたくさん曲を書いて、誰かの気持ちを少しでも癒せたらいいなと思っています。

──これから世の中はどう変わっていくのでしょうね。

クボタ 僕は、よくも悪くも元には戻らないと思う。ポジティブな面を見れば、例えば配信はどんどん進化しているから、きっとライブができるようになっても配信ライブという形態はスタンダードとして残っていくんじゃないかなと思いますね。

みゆな 私が思うのは、今後いったい誰が先頭を切ってライブをやるんだろう?ということ。また感染者数も増えているし、ワクチンも今年中の開発は困難だと言われている。そんな世の中で、制限付きのライブをしても何かあったときに叩かれたり責任を負わされたりするのは企画した人やアーティストになるわけじゃないですか。それじゃあ「明日から満員のライブができるよ」と言われても、誰もしたがらないと思うんですよ。本当に悩ましいです。

左からクボタカイ、みゆな。

──感染防止と経済活動の両立を実現させるためには、ブレーキとアクセルを踏み替えながら進んでいくしかない。となると、私たちの発想も転換していく必要がありますよね。「コロナと共生する」という意識を持たないと、何かあったときに誰かに責任転嫁することの繰り返しになってしまうし、そうなると先頭を切る人たちがどんどん萎縮してしまう。

みゆな そうなんです。私たちが音楽をファンに届けるためには常にお金が動いていて、その流れが止まってしまうと私たちも音楽を発信できなくなってしまう。ブレーキとアクセルの踏み替えは難しいことだけど、頭をよく回転させてやっていかないとね。だから、今回のインタビューもすごく感謝しております!

──よかったです(笑)。最後にお二人のファンへのメッセージをもらってもいいですか?

クボタ ポジティブな気持ちって、人に要求されてなれるものじゃないけど、でもきっとまたポジティブになれる日が来るからそれまで一緒にがんばりたいと僕は思っています。

みゆな がむしゃらに進むのもいいけど、進みすぎると周りが見えなくなったり、足元がおぼつかなくなったりする。でも涙をこらえるのもよくないし、この曲で歌っているように「ちょっとぐらいブレていてもいいんじゃないかな?」と思っています。楽に生きられる世の中になるといいなあ。