ナタリー PowerPush - 雅-MIYAVI-

プロデューサー亀田誠治と手加減なしの“侍”対談

精神的なところも含めて強くないと、人を愛せないし守れない

雅-MIYAVI- 震災が起きた直後は、俺もヨーロッパツアーでスペインに行くっていう状況を控えてて。コラボ自体もそうだけど、ツアーをするのかどうするのか自体ずっと悩んでました。でも、もうやるだけのことやろうって、それしかなくて。ヨーロッパを回ってる最中もずっと亀田さんとどんな曲にするかやり取りをしてた。

亀田 そうだったね。

雅-MIYAVI- 実際ツアーを通じて、声を届けたり、逆に声をもらったりする中で自分が日本人として言いたいこと、言えることが見えてきてたし、その思いを曲にぶつけていくしかないって。日本は恵まれてる国だし、震災が起きたときもいろんな国から援助やサポートもあったけど、最終的には自分たちでどう立つか、それしかないんですよね。経済的にも政治的にも厳しい状況にある中で、愚痴ってても仕方がなくて、1人ひとりが強くならなきゃいけない。そう思える歌、人の背中を押したり鼓舞したりできる歌を書きたかったんです。俺とクレさんっていう組み合わせでしか唄えないことがあるとすれば、やっぱり強いメッセージだと思って。愛することは、肉体的だけじゃなく精神的なところも含めて強くあらないと人を愛せないし守れない、と僕は思うんですね。「STRONG」っていうキーワードもそこから生まれました。クレさんだったらそういうメッセージを言葉に込められるし、説得力も俺より全然あると思ったから。

写真左から雅-MIYAVI-、亀田誠治。

──ということは震災がなかったら別の曲になっていたかもしれない?

雅-MIYAVI- それはわからないけど、震災があったことでメッセージはより明確になった。あと震災のあと改めて音楽の必要性を考えさせられましたね。メシ食って、寝て、セックスして、子供を産んでっていう人間の本能的な営みの外に音楽はあって。でもみんな、求めてる。できるだけ生きることや本能的な感覚に近い作品にしたかった。

細美くんの音楽は絵に近い

──「STRONG」を皮切りに「SAMURAI SESSIONS」が本格的に始まったわけですが、KREVAさん以外で対戦して印象的だったアーティストとか……。

亀田 もう全員だね。話し出したらキリがない(笑)。

雅-MIYAVI- 作り終えて感じるのは本当にみんな、素晴らしいアーティストだということ。HIFANAとかは俺自身が普通にファンだったし、彼らの音楽に対する姿勢や音の楽しみ方にすごく刺激を受けました。クレさんとのセッションの中では、日本人として西洋の楽器やカルチャーを表現していく上でどうあるべきなのかを改めて意識させられました。彼も日本語のラップがどう在るべきなのか考えているし、すごく誇りを持ってやってる。YUKSEKだけ海外のアーティストなんだけど、彼と組んだことで音と時代をリンクすることができたし、とにかく音の決め方が半端なく早かった。あと、細美(武士)くんは一音一音に対するこだわりがすごくて。

亀田 本当に細美くんは命削って音楽作ってるんですよね。彼との作業の中では気付きが多かった。僕と雅-MIYAVI-は本能的だったり、一瞬の中でスパークすることに重きを置いてる部分があるんだけど、細美くんは全く違うんですよ。構築美に近いかな。瞬間に賭けて全てをぶつけるんじゃなくて、自分が一度表現して出したものでも、壊してもっと出るんじゃないかと試す。陶芸で焼き上がって完成しても、アカンかったら割るみたいなこと何回も何回も繰り返すんです。僕らは良いものができた瞬間に「オッケー!」ってなるけど彼は違う。細美くんは何度も自分の全てを出して、出すたびに自分を1回捨てて。また違うアプローチで作り直してってことをずーっと繰り返すわけ。だから終わらないのよ。

雅-MIYAVI- 今年の頭から実はスタジオ入ってたんですけど、できあがったのは一番最後。もうアルバム1枚作れるくらいの曲数ができたんじゃないかな(笑)。音楽って時間芸術だから、時間が動かないと感じれない。ポーズしちゃうと音楽って聴けないじゃない? 逆に絵とかは空間芸術で、時間が止まっていても空間に存在することでその魅力が伝わる。細美くんの音楽は絵に近い感じがした。赤塗って、青塗って、緑塗って、全部黒になって、その上にもう1回白を塗ってまた赤を塗るみたいな(笑)。なのですごいエンボス的というか立体感がある。構築して音楽を作る方法自体、今回の作品の中ではすごく新鮮でしたね。

亀田 そういう作り方するから、すごく奥行きがあるんだよね。何層も何層も重ねてるから。それは単純に音を重ねてるだけじゃなくて、重ねて構築していく工程を経てるから生まれる質感がある。

「PLEASURE!」は被災地に行ったことで生まれた

──細美さんのサウンドとは対照的に、H ZETT Mさんとの「PLEASURE!」や、上妻宏光さんや沖仁さんとの「HA NA BI」は本能的な音のぶつかり合いを感じました。

亀田誠治

亀田 まさにそのとおり! H ZETT Mは以前東京事変で一緒にやってたから、同じ皮膚感覚を持ってると感じてて。雅-MIYAVI-くんとぶつけたら面白いだろうと思ったし、鍵盤の対戦相手が1人いるといいなと感じたんで。

雅-MIYAVI- 「PLEASURE!」はね、東北の被災地にギターを持って弾きに行ったときにできたの。ふと、子供たちの前で弾く曲がないなあ、と。子供たちの前で「SURVIVE」とかやってもなんか違うでしょ(笑)。それからずっと楽しい歌を作りたいなあと感じてて。それでH ZETT Mくんと打ち合わせをしたとき、共通する思いを感じたんですよね。彼はすごく繊細な人で、人の痛みをたくさん感じる人。ゆえにああやってピエロみたいなメイクをしてパフォーマンスをしてるんだろうし。純粋に目の前にいる人たちを笑わせたいっていう思いから作りました。向こうも、亀田さんと事前にそういう話をしていたみたいで。

亀田 H ZETT Mからも雅-MIYAVI-からも「聴く人が笑顔になれる曲にしたい」っていう言葉が返ってきたんですね。それまでの雅-MIYAVI-のアーティスト像からするとびっくりしたんだけど、そう言ってきたことにも、2人がお互い話をする前からシンクロしていたことにも僕は鳥肌が立った。これは絶対すごいセッションになるぞと思って。曲もスムーズにできたもんね。

雅-MIYAVI- なかなか子供向けのロックってないじゃないですか? そういう意味でもすごく意義のあるトラックができた気がしてます。

ニューアルバム「SAMURAI SESSIONS vol.1」 / 2012年11月14日発売 / EMI Music Japan
初回限定盤 [CD+DVD] / 3200円 / TOCT-29086
通常盤 [CD] / 1800円 / TOCT-29087
収録曲
  1. MIYAVI vs HIFANA “GANRYU”
  2. MIYAVI vs KREVA “STRONG”
  3. MIYAVI vs YUKSEK “DAY 1”
  4. MIYAVI vs TAKESHI HOSOMI “SILENT ANGER”
  5. MIYAVI vs H ZETT M “PLEASURE!”
  6. MIYAVI vs HIROMITSU AGATSUMA vs JIN OKI “HA NA BI”
  7. MIYAVI vs SEIJI KAMEDA vs MIU SAKAMOTO “祈りを”
雅-MIYAVI-
雅-MIYAVI-(みやゔぃ)

1981年大阪府出身のソロアーティスト / ギタリスト。エレクトリックギターをピックを使わずに全て指で弾くという、独自のスラップ奏法でギタリストとして世界中から注目を集めている。これまでに北米、南米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアなど約30カ国で200公演以上のライブを行い、3度のワールドツアーを成功させている。2010年10月リリースの最新アルバム「WHAT'S MY NAME?」では、ギターとドラムのみの編成でロック、ファンク、ヒップホップ、ダンスなどジャンルを超越したオリジナルなサウンドを確立。さらに2011年10月からさまざまなジャンルの”サムライアーティスト”とのコラボレーション企画「SAMURAI SESSION WORLD SERIES」を始動。2012年11月にその集大成となるアルバム「SAMURAI SESSIONS vol.1」をリリース。近年は他のアーティストやクリエイターからも高い評価を受けており、UNIQLO、東芝、日産自動車、ロッテ、大塚製薬のCMへの楽曲提供や、布袋寅泰、野宮真貴、GOOD CHARLOTTEらの作品への参加など、精力的な活動を続けている。

亀田誠治
亀田誠治(かめだせいじ)

1964年アメリカ・ニューヨーク生まれ。1989年に音楽プロデューサーおよびベーシストとしての活動を始める。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、Do As Infinity、スガシカオ、アンジェラ・アキ、JUJU、秦基博、いきものがかり、チャットモンチー、エレファントカシマシ、WEAVER、植村花菜、ハナエ、MIYAVI VS KREVAなど数多くのアーティストのプロデュースやアレンジを手がける。また2004年夏に椎名林檎らと東京事変を結成し、数多くのヒット曲を発表。2012年閏日に惜しまれつつも解散する。2007年には「第49回日本レコード大賞」で編曲賞を受賞。2009年には自身初の主催イベント「亀の恩返し」を日本武道館にて開催した。