宮川愛李×内澤崇仁(androp)|念願のコラボ&対談が実現 20歳の力作をよかったら聴いてください

緊張のあまりエゴサ

──サビの「本気で本気の 愛を食らってよ 僕のじゃなくてもいいからさ」と一気に畳みかけるところは、聴いていてスカッとしました。

宮川 Twitterにも「これどこで息継ぎするのかわからないよ」という声が上がってました(笑)。ファンの方も歌ってくれてるんだと実感できてうれしかったです。

内澤 キーチェックでワンコーラスだけ歌を入れてもらった音源を聴いたとき、すでに自分のものにされてるなという印象でした。その段階ですごくいいものになりそうだなという予感がして。レコーディング本番でも、すごくこだわったボーカルの録り方をされてましたよね?

宮川 そうなんです。違うマイクを2本置いて録ってました。

内澤 あのマイクを通すとちょっと声が歪んでましたね。声が変わったことで迫力がより出てると思いました。

宮川愛李

宮川 ラジオっぽい声色に聞こえるものを重ねて置いて、「これ、どっちがメインですか?」「そっちは無視していいから!」というやりとりをして(笑)。たくさん工夫を重ねた作品なので、そういうこだわりも感じてほしいです。

内澤 歌詞も攻めてますよね。

宮川 気合い入ってます(笑)。「Reboot」に関しては、内澤さんのデモだけを聴きながら言葉がどんどん出てきた末の歌詞なんです。私の決意や覚悟も何かしら影響しての言葉選びだったと思うんですけど、この「Reboot」にはビシッとハマったかなと私的には思ってます。

内澤 しかもちゃんとコナンのストーリーとも重なっているので、すごいなと思いました。

宮川 ありがとうございます。この曲がエンディングで初オンエアされたときは、めったにしないエゴサをしちゃいましたもん(笑)。緊張のあまり、Twitterをシュポシュポ更新しちゃって。でも、よかったっていう反響の声が多くて安心しました。「愛李ちゃんがまたコナンのエンディングをやってくれてうれしい」というツイートを見つけて、「覚えててくれたんだ!」と思って。

──実際に「名探偵コナン」放送1000回記念プロジェクト「再起動(リブート)される神回を当てろ‼」として、1996年に放送された「ピアノソナタ『月光』殺人事件」が新たに制作されることになったんですよね。

宮川 その企画自体、本当にまったく知らなかったので、びっくりしました! ある日突然企画とタイトルが合致してて、スタッフさんも「鳥肌立った」と話していて、運命感じましたね。

今しか感じられないありのままの思いを

──レコーディングにはそうそうたるミュージシャンの方々が集まりました。

内澤崇仁(Vo, G / androp)

内澤 宮川さんのスタッフは音楽に対して妥協を許さない方がすごく多くて、参加したミュージシャンやエンジニアの方についても僕は何も言ってないのにイメージ通りの方ばかりでした。ドラムの佐野康夫さんは普段から宮川さんとやられている方ですし、ベースのひなっち(ストレイテナー、Nothing's Carved In Stone、FULLARMORの日向秀和)は最初のミニアルバム(「スマホ映えの向こうの世界」)で弾いていましたもんね?

宮川 非常にお世話になってます。スタジオにお邪魔したとき、ギターの西川進さんをはじめ、みんな前のめりでレコーディングしていてすごかったです。シーンと静まり返った空間で、音を聴きながら「悲しみの成分が多いな」とか。「全然わかんない、怖い!」と思って(笑)。しかもそのあと「もっと怒りの成分を強く!」とか言い始めたんです。もう私、横から見てるだけでいっぱいいっぱいで。音楽ってここまで深いんだと思って震えてました。皆さんが気合いを入れて作り上げた音なので、歌録りのときもかなり張り切りました。

──ボーカルに一切妥協が感じられなかったんですけれども、アルバム制作中はどんなことを思われましたか?

宮川 「こういう方向性で行こう!」と第一印象でバシッと決まった楽曲はすっきり歌えたんですけど、後半、歌に関しての理解が深まっていくにつれて、歌い方がわからなくなることも増えていきました。まだこの楽曲について理解できていないなと思って。作詞に関しても、レコーディングの最中ずっと悩んでたくらいギリギリまで定まらなかったんです。そんな中、内澤さんは「今しか書けないありのままの気持ちを書いたほうがいいです。時が経ってしまったら書けなくなるから」と話してくださいましたよね?

内澤 はい。日記を書いていた頃と同じで、そのときにしか書けない思いがあると思うので。

宮川 生まれてまだ20年の今でもそれを実感しているくらいなので。日記を書いてた時代と比べたらだいぶ大人の心境になってるんだろうなって、内澤さんの言葉で改めて気付かされました。スタッフさんとも何回もその話をしてたんです。「内澤さんがこう言ってたから、もう1回書き直します!」って。今回は私の希望で一緒にやりたいと思った方と関われた制作というのもあって、妥協したくなかったんです。20歳になる切り替えの時期に大きく前進したいという思いが強かったので、かなり力を込めた1枚になったなと思います。

船で移動した故郷の記憶

──アルバム曲では「ぐ」「わすれもの」でも内澤さんとご一緒されています。

宮川 この2曲はバラードですけど、今回バラードはレコーディングの後半に歌わせてもらったんです。内澤さんの曲への理解がしっかり深まってから取り組みたいという思いがあったので。

──まずは「ぐ」について。いいタイトルを付けられましたね。

内澤 タイトルは最後に付けるんですか?

宮川 私、最後になっちゃうんです。

内澤 僕も最後です。

宮川 ホントですか!? 今回決められなさすぎてスタッフさんから「先に付ければいいのに」と言われたんですけど、どうしてもダメなんですよね。なんでだろう?

内澤 タイトルって曲の“顔”って感じじゃないですか?

宮川 そうなんです! 一番力を入れたくなるから迷っちゃうんですよね。

内澤 僕はロールプレイングゲームでも最初にキャラクターの名前を入力するとき全然決められなくて、そこからずっと進まないんです(笑)。

左から宮川愛李、内澤崇仁(Vo, G / androp)。
左から宮川愛李、内澤崇仁(Vo, G / androp)。

宮川 わかります! 「王国の名前を決めてください」とか言われて、どうしよう!?みたいな(笑)。

内澤 曲名を付けるのもそんな感じに近いです。仮タイトルも付けないんですか?

宮川 付けないです。仮で付けてあとで変更するぐらいなら、悩みに悩んで1発ドン!と出そうっていうタイプで。

内澤 僕も仮のタイトルを付けられなくて、デモのナンバーは日付とか曲順を使ってます。宮川さんに送った曲も番号でしたよね?

宮川 そうでした。“M-7”とか“M-8”とか。タイトルなのかアルバムの曲順なのかわからなくて(笑)。

内澤 でも、「ぐ」も「わすれもの」も自分的にはしっくりきました。

宮川 ああ、うれしいです。

内澤 なぜ「ぐ」だったんですか?

宮川 島出身なので身近な言葉だったんです。風1つなく海面に小波も立たない状態を“ぐ”っていうんですけど、島では船で移動するので、海がおとなしいときは「今日はなぎだよ」って。この曲を聴いて歌詞を書くとき、夏の歌にしようと思って“8月”と入れたんですけど、自分の過ごしていた場所での夏を思い出したら、イントロの入りの静かなところで雫が1粒落ちて始まるイメージがぱっと浮かびました。この波が立っていない場所はなぎだと思ったんです。

内澤 実体験が反映されているんですね。

宮川 大事な言葉です。私、ずっと“ぐ”って方言だと思ってたんです(笑)。

内澤 そのくらい当たり前に使ってたし、身近だったってことですよね。歌詞も魅力的なんですけど、ボーカルもすごいですよね。「ぐ」はキーが高くなかったですか?

宮川 高かったです。

内澤 キーチェックで「これで行きます」と言われたとき、想像してたより高いから「えっ!」と驚いたんです。ワンコーラスだったらまだしも、フルでこのキーを地声で歌いきるボーカリストはなかなかいないので。後半サビを畳みかけるところも、そのキーで高い声を張り続けて歌いこなしているから驚きました。

宮川 ありがとうございます。