ナタリー PowerPush -mishmash*Julie Watai

マスヤマコムが伊藤ガビンにPV進捗伺い

映像は年4本が限界

──ガビンさんが手がけられたビデオクリップは、1つひとつ作風が違いますよね。bomiさんの「ビューティフォー」、二階堂和美さんの「女はつらいよ」、そして今回の「ハートブレイカロイド」を見比べてみても、同じクリエイターが作ったとは思えないほどテイストが違っていて。

ガビン クライアントの期待に応えようとして、一生懸命作ってるからじゃないですか?

マスヤマ もともと映像作家じゃないしね。

伊藤ガビン

ガビン そう、編集者ですから。(映像作品も)雑誌のグルメページとかグラビアを作ってるような感じですからね。映像は年に4本までって決めたいんだけど、ここ数カ月、増えちゃってるんですよ。

マスヤマ 年に4本の根拠は? ほかの仕事との兼ね合い?

ガビン そうですね。年に4本が限界というか、映像は大変じゃないですか。あと、たいていお金を使い過ぎるんですよ。

マスヤマ 特に実写はね。

ガビン 「実写は絶対やめてください」って会社の人たちに言われてますから。bomiちゃんのときもそうだったんだけど、制御できないんですよね。前日にコンテを描き直して、撮影は大混乱だったし(笑)。映像のプロじゃないから、やり方がわからないんですよ。

マスヤマ 何をやるか?というのが決まったら、あとはディテールでしょ。どこで筆を置くか、というか。

ガビン そうですね。80%くらいまではわりとすぐに見えるんです。そこからどこまで詰めるかっていうことなんですけどね。

一緒に飲みに行ったこともない

──お2人の関係について少し聞きたいのですが。最初に会ったのはいつ頃ですか?

左からマスヤマコム、伊藤ガビン。

ガビン 最初に会ったのは……覚えてないですね(笑)。

マスヤマ 覚えてないね。80年代なんだけど、ガビンちゃんが「ログイン」(1980年代前半に創刊されたパソコン雑誌。2008年に休刊)にいた頃かな。

ガビン そうですね。たぶん、SEDICで……。

マスヤマ SEDICって言ってもわからないよ。

ガビン 六本木WAVEの上にあった会社なんですけどね。

マスヤマ そこにいろんな人がいたんですよ。今、(株式会社)ポケモンの社長をやってる石原恒和さんとか。僕は社員じゃなかったんだけど、しょっちゅう出入りしていて、「ウゴウゴルーガ」を作った人たちといっしょに、その前身みたいなものをやったり。

ガビン あとはアミーガ(Amiga)ですよね。

マスヤマ 最初のマルチメディアパソコンね。マッキントッシュが出る前の。

ガビン それを使ってるヤツは全員友達、みたいな時代があったんですよ。マスヤマさんにもいろいろ見せてもらいましたよね。“Pao”のときとか……。

マスヤマ あったねー。日産のPaoという車のPVを監督をしたんですよね。しりあがり寿さんに絵を描いてもらったりして。基本的には西武系の広告をやってる会社だったんですけど、それとは関係なく、本当にいろんな人がいたからね。

ガビン ラボですよね。

マスヤマコム

マスヤマ よく言えばラボ、悪く言えば部室だね(笑)。まあ、そこから「ポケモン」とか「MOTHER2」も生まれたわけなんだけど。当時、デジタルを使って、とがったエンタテインメントをやってた人たちって、たぶん日本に100人くらいしかいなかったんですよ。ほとんどは顔見知りだったんだけど、ガビンちゃんとは一緒に何かやったわけじゃなくて。

ガビン 飲みに行ったこともないです。

マスヤマ ないね(笑)。ただ、世代も近いし、観てるものがけっこう一緒だったりするんです。全然連絡しなくても、似たような人たちと付き合ってたり。あと、いろんな引き出しを持ってるから、何かあったときにガビンちゃんに聞くと、いちいち説明しなくてもわかってくれるというか。

ガビン ラクなんですよね。

マスヤマ さっきも言ったけど、mishmash*のプロジェクトについても、最初のときから話してたしね。ビデオクリップもやってほしかったんだけど、何回かトライして、やっと実現したっていう。こういう作品に結実するとは思ってなかったけど。

ガビン 予想しない展開(笑)。でもこんなにクライアントに報告しないなんて、ありえないですよね。

マスヤマ 全然アリですけどね、僕としては。

やってることは完全に狂ってますから

──ガビンさんはmishmash*というプロジェクトをどんなふうに見てるんですか?

ガビン 音楽をどうやって届けるか?ということについては、いろんなトライがあるタイミングだと思うんですよね。僕の周りでも音楽に関わっているいろんな人がいろんなことを考えてるし。そういう過渡期って、一番面白いんですよ。

マスヤマ うん。

ガビン 成功しても失敗しても面白いというか。もともと消えていっちゃうモノって大好きなんです。このプロジェクトが消えていくってことではないけど、確実に過渡期に出てきたものじゃないですか。そういうものが大好物だから、楽しいですよ。さっきも話に出たけど、“カセットブック”も面白かったじゃないですか。

──「TRA」(※1982年に創刊されたカセットブック。当時の最先端のカルチャーが取り上げられた)とか。

ガビン そうそう。ああいうものって今でも持ってたりするし。

マスヤマ わからないけど、たぶん本はなくならないと思うんですよね。ただ、CDってどんなふうに入れても合わないんですよ、本という形態に。だから今回は「CDはナシ。だけど音楽のパッケージです」というものを作ってみよう、と。自分でもなんの本かわからなくなってるんですけどね(笑)。歌詞とかイラストはいいんだけど、全然関係ない写真とかも入ってたりするし。まあ、同人誌的なことを予算と時間をかけてやってる感じなのかな。

ガビン そうですね(笑)。

マスヤマ やってみないとわからないからね。定石というか、よくあるパターンにしちゃったらプロには敵わないし、最初から出版社に持っていくと思うんです。そういうことをやりたいわけじゃないからね。

ガビン それにしても思い切りましたよね。マスヤマさんはこうやって論理的に話してくれるんだけど、やってることは完全に狂ってますから。

左からマスヤマコム、伊藤ガビン。

マスヤマ ハハハハハ!(笑) まあ、こういうことをやる以外、まったく楽しくないからね。たとえばポール・マッカートニーはさ、まったくお金に困ってないでしょ。でも、めんどくさいツアーを続けてる。それはもう、やりたいからやってるだけだよね。mishamash*はそこまでの規模じゃないけど、やっぱりこういうことをやってるのは楽しいから。あと、たまたま昔からの知り合いに“作る”人が多いし、それぞれのスキルも上がってて。そういう人たちに頼んでいると、こういう活動になっていくんだよね。

ガビン こんな活動してる人、ほかにいないですからね。やっぱり狂ってるんですよ(笑)。だから、どんどん外に出てほしいんですけどね、マスヤマさんには。

ニューアルバム「セカンド・アルバム / The Second Album」 / 2013年12月5日発売 / [ダウンロード用パスワード+ブックレット] / 1829円 / mishmash* / mmpx-39
ニューアルバム「セカンド・アルバム / The Second Album」
収録曲
  1. 起電力ロマンス
  2. 回れ右、逃げるんだ
  3. ハートブレイカロイド
  4. リバーブの奥に [34423 mix] / 34423
  5. 恋のタマシイ [COR!S mix] / COR!S
  6. ゴー・ファービー・ゴー [COR!S mix] / COR!S
  7. 3分シェイクスピア [sawako mix] / sawako
  8. グラドルを撃たないで [Tomohiko Gondo mix] / 権藤知彦
  9. Scattered / Go-qualia
  10. Electromotive Romances
  11. Do a 180
  12. Heartbreakeroid
mishmash*(みしゅましゅ)

Corneliusのサウンドプログラマーを務める美島豊明と、ゲームや出版、映像などさまざまなカルチャーコンテンツを手がけてきたマスヤマコムによる音楽ユニット。作品ごとに異なるクリエイターをフィーチャーすることをコンセプトに掲げている。2012年12月リリースの1stアルバム「mishmash*Julie Watai」および2013年12月リリースの2ndアルバム「セカンド・アルバム / The Second Album」では、写真家として活躍する元アイドル / モデルのJulie Wataiをフィーチャーしている。

伊藤ガビン(いとうがびん)

1963年生まれの編集者 / ゲームデザイナー。女子美術大学短期大学、京都精華大学などで教鞭をとる。デザインユニットNNNNYのメンバーであるとともに、映像作家としても活躍しており□□□やbomiらのPVの制作に携わっている。