手紙はいいと思いますよ
とつか 今、「熱意に打たれてアーティストが出てくれる」というお話がありましたけども、アーティストの方にどうやって熱意を伝えたらいいのか……そもそも話を聞いていただけるかどうかもわからない中で、どうしたらアーティストさんに気持ちよく「出たい」と思ってもらえるのか、そのあたりはどのようにお考えでしょうか。
清水 その答えがあったら、とっくにみんなやってるから……。
とつか 確かに(笑)。
清水 アーティストによっても違うしね。同じ伝え方をしても、響く人もいればそうでない人もいるんで。ただ僕は、手紙はいいと思いますよ。まずは。
とつか 手紙!
清水 うん。すぐに会ってくれるかはわからないんだから、その前に気持ちを伝える方法として手紙は有効だと思うな。と言っても、同じ文面を印刷して「これが企画書です」じゃなくてね。ちゃんとその相手に向けて、その人に出てもらいたいという熱い思いを伝えることが大事。誰にでも当てはまるようなことを書いても、結局誰にも響かないから。
とつか なるほど……! 僕はまず実績も知名度もなくてなんの信頼もない企画者なので、せめて正式な作法でオファーを出すことで「ちゃんとした依頼だ」と認識してもらえるよう、形式を整えることを優先していたんですけど、それよりも気持ちの部分を大事にするべきだということでしょうか。
清水 そうだね。あとはやっぱり、俺たちには焼津愛があるけど関係ない人に「焼津!焼津!」って言っても響かないから(笑)、その人が気持ちよく出られるだけの理由というか、「俺はなぜこのフェスに出るのか」という問いへの答えは用意してあげないといけないね。それはもちろん相手を知らないとできないことなんで、いろいろと話していくうちに学んで、交渉の中で引き出していくことが必要だと思います。
とつか その答えは、アーティストによっても違うわけですもんね。「ギャラさえよければなんでもいい」という人もいるだろうし、「その土地のこれが食えるなら」という人もいるでしょうし。
清水 それこそ焼津や静岡に愛の強いアーティストなら……まあ静岡のバンドってそんなにたくさんはいないんだけど(笑)、そういう人を探すのも手かな。あとは、仲のいいアーティストが出るかどうかも重要だったりするよね。実際「ほかに誰が出るの?」というのはよく聞かれるし。逆に言えば「このアーティストさえ呼べたら、そのキーマンがほかのバンドを何組も連れてきてくれる」というケースもあったりするから、そういったこともやっていくうちに少しずつわかってくるんだろうと思いますよ。
とつか 何から何まで勉強になります……!
清水 あと、企画書に「初年度はチケット代を取らない」とあったけど……。
とつか はい、可能な限りそうしたいと思ってます。
清水 それでギャランティとか制作費はちゃんと払えるの?
とつか そこなんですけど、クラウドファンディングをしようと思っていまして。スポンサー企業さんからの協賛金とクラファンだけで運営費をまかなうやり方にトライしてみようと考えています。こういったフェスをクラファンでやる事例というのは僕が知る限りではほぼないので、多少は話題性もあるかなと思いますし。
清水 なるほどね。確かに「ほかがやっていないことをやる」っていうのは、差別化という意味ではいいんじゃないかな。
とつか それと、とにかく焼津の人たちにフェスという文化を知ってもらうことが大きな目的のひとつなので、入場料を無料にしてまずは体験してもらおうと。思うように資金が集まらなかった場合などは無料開催を断念する可能性もあるんですけど……。
清水 でも、そこで「タダでやるつもりだったけど、やっぱりチケット代を取ります」となったら一気にいろんな事情が変わってくるよ。冷めちゃう人も出てくるだろうし、やはり一度決めた目標に対しては一途にやるしかない。「仮にクラファンで資金がまかなえなくても入場無料でやる」くらいのリスクを背負える覚悟ができるのかとか、腹をくくらなきゃならない場面はたくさんあると思いますよ。
とつか そのあたり、本当に気が気でない毎日を送っております(笑)。
“そこにしかないもの”が絶対にある
とつか 差別化という話でいうと、去年の「SUMMER SONIC」でやっていたサウナソニックがすごくよかったです(とつかが2023年の「SUMMER SONIC」を訪れた際のVlog)。サウナ好きの間で聖地と呼ばれる静岡の「サウナしきじ」とコラボしていて……。
清水 あれはね、ただのサウナだったら興味なかったんだけど、しきじがプロデュースしてくれるって話を聞いて「え!?」って。
とつか (笑)。
清水 それはもう完全にほかと一線を画すなあと思って、絶対にやろうということになったんだよね。
とつか マジでめちゃくちゃよかったです! BEACH STAGEのところにあったんで、サウナに入りながらOriginal Loveの演奏が聴こえてきて、砂浜も見えて……フェスうんぬんを抜きにして、サウナとしてだけ考えてもあんなロケーションで楽しめるところなんてなかなかないじゃないですか。あれのためだけにサマソニに行ってもいいと思えるくらい、本当に素晴らしいサウナでした……この話題で今日イチ熱くなってるの、我ながら意味わかんないですけど(笑)。
清水 ははは。
とつか あの場所以外では絶対に体験できない価値を提示していましたよね。ああいう何かを自分も作っていかなくてはいけないと思い知らされました。例えば港の特性を生かした、そこでなければ味わえないオリジナルな体験を提供できたらベストですよね。
清水 それは本当に重要だと思うよ。どこのフェスでも、特に成功しているところは“そこにしかないもの”が絶対にあるからね。食べ物で言えば、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」だったらハム焼き、「FUJI ROCK FESTIVAL」ならもち豚串とか。それが「SUMMER SONIC」は焼津のマグロなのよ。幕張には名産らしい名産がないんで、だったら故郷に頼ってしまえと。
とつか 「MINATO RISE」でも、マグロの解体ショーはやりたいなと思ってるんですよ。焼津ならではの部分というのは、お客さんに対してもそうだし、スタッフさんやアーティストさんに対しても見せていきたいので。
清水 そうだね。うちに出てくれる海外アーティストもね、「俺はこのマグロを食うのが楽しみで来てるんだ」と言ってくれる人が年々増えてるんだよ(笑)。フェス飯って、日本のフェスが作った特有の文化だと思うんだよね。たぶん海外にはここまで食が充実しているフェスはないから。
とつか そうなんですか!
清水 うん。例えばビーガンに特化したフェスとかそういうのはあるんだけど、日本のフェスほど食にこだわってバラエティに富んだものを提供しているフェスはないだろうね。もはや日本が世界に誇れる文化なんじゃないかな。
とつか なるほど……! 確かに、ほぼフェス飯目当てで毎年通っているファンも多そうですもんね。今までフェスに関心を持たなかった層に興味を持ってもらうためにも、グルメももちろんですけど、アミューズメントなども含めて「行ってみようかな」と思うきっかけになり得る手はできるだけ打っていきたいなと思っています。もちろん音楽がメインだという原則は見失わない程度にですけど。
清水 期待しています。クリエイティブマンには僕以外にも焼津出身、静岡県出身の人間が何人かいるんで、協力できることはしたいと思っていますし。
とつか ありがとうございます、心強いです!
公演情報
「MINATO RISE」
2024年9月8日(日)静岡県 焼津漁港周辺エリア
※本イベントは中止になりました
クラウドファンディングにて支援受付中!
リターン
参加者向けコース
- オリジナルTシャツ
個人向け・事業者向け協賛コース
- とつかうまれがメインギターとして使用しているレアギター「ZEMAITIS PEARL FRONT」を譲渡する「Tiki-Taka Technicsメインギターコース」
プロフィール
とつかうまれ
2018年に音楽プロジェクト・Tiki-Taka Technicsを始動。シニカルな歌詞と鋭いギターサウンドを特徴としたポップミュージックを得意とする。活動3周年を機に主催イベント「Tiki-Taka Jamboree!」を始動させ、2021年12月には東京・下北沢シャングリラで2DAYS公演を実施。2022年12月28日に1stアルバム「MAZE」をリリースした。2024年9月開催予定の、静岡県の焼津漁港を舞台にしたロックフェス「MINATO RISE」の実行委員長を務める。
Tiki-Taka Technics Official Web Site
清水直樹(シミズナオキ)
株式会社クリエイティブマンプロダクション代表取締役社長。1965年静岡生まれ。数社を経て、1990年にクリエイティブマンプロダクションの立ち上げに参加し、1997年に32歳で代表取締役に就任する。2000年に都市型ロックフェスティバル「SUMMER SONIC」を始動させ、「PUNKSPRING」「SPRINGROOVE」「LOUD PARK」「SONICMANIA」といったフェスを立ち上げた。