水瀬いのり×カノエラナ|アニメ「アクロトリップ」主題歌で深まる2人の縁 (2/3)

「つぼみは花開いて」というフレーズはもしや……

──「フラーグム」はアニメ放送に先駆け、8月21日に“オリジナルハーフアルバム”としてリリースされた水瀬さんの最新作「heart bookmark」に収録されています。水瀬さんは来年でアーティスト活動10周年を迎えますが、「ブックマーク=しおりを挟むことでこの先も物語が続いていく」という意味が込められた本作のタイトル同様に、「フラーグム」という楽曲にも水瀬さん自身の物語の過程が示されているように思います。

水瀬 そうですね。たぶん、デビュー当時にこの曲をいただいていたら、また違ったアプローチになっていたと思います。今の自分だからこそ少し頼もしくなった姿で歌えるし、ここまでの活動の積み重ねがあるからこそ、歌詞からドラマを感じていただけるのかなと。歌詞の中に「つぼみは花開いて」というフレーズがあるんですが、私のデビュー曲が「夢のつぼみ」というタイトルだったので、「もしや……」と思っていて。

カノエ はい、引っ張らせていただきました。

水瀬 すごい! そこも含めて本当に素敵だなと思いました。私たち歌っている身としては、ファンの皆さんがあってこそのお仕事なので、その思いをアーティスト活動10周年を前にして伝えられることにとても意味があるなと。恩返しをする、愛を返していくという点では、ライブで歌うことでより意味を持つ曲になる予感がしていて、今はこの曲を持ってファンの皆さんに会いに行くのが楽しみでなりません。

水瀬いのり

水瀬いのり

カノエ そう感じてもらえて本当にうれしいです。私が観たいのりさんのライブは、ステージと客席の一体感が本当にすごかったんですよ。境目がなく融合している感覚が強かったですし、お客さんもめちゃくちゃ楽しそうで終始笑顔でした。だからこそ、いのりさんと町民(水瀬ファンの呼称。オフィシャルファンクラブ「いのりまち」の町民)の皆様が近い距離で言葉を交わすような楽曲にもしたいなという思いがあって、そういう要素も入れさせてもらいました。もちろん「アクロトリップ」から離れてもいけないので、最終的にはその瀬戸際を行ったり来たりする感じで書きました。

──作品の世界観に寄り添いつつも、そこにいかにアーティスト自身を重ねていくか。水瀬さんはそういったアニメのテーマソングをこれまでも多く歌ってきたと思います。楽曲に対する自身の投影の仕方に関して、より経験値が上がっているのではないでしょうか?

水瀬 そうかもしれないです。特に「フラーグム」は作品のテーマも含めて、等身大で歌いやすかったですし、気持ちを前向きに持っていくような感覚でした。作品によってはその都度モードを切り替えて、自分を投影するよりも演じるような感覚で歌うこともあって、それももちろん楽しいんですけど、今回は自分の心の底で眠っていたキラキラした思いが無意識のうちに表に出て、気付いたらスキップしてたみたいな、そういう忘れちゃいけないピュアな部分を表現できたんじゃないかと思います。今回のレコーディングでは白戸さん(「フラーグム」の作編曲を手がけた白戸佑輔)がディレクションをしてくださったんですけど、白戸さんが「めっちゃいいね!」ってずっと言ってくださって。でも、それは曲と歌詞が私を「フラーグム」の世界にちゃんと導いてくれたからなんですよね。Aメロの「“待って”」の部分とか感情を込めて歌うのがすごく楽しくて、「ベスト“待って”」を出すために何度も歌いました(笑)。

カノエ あの「“待って”」はすごいですよ。本当にお話ししているみたいな感情の乗り方で、「どうやったらできるんだ?」って不思議でたまらなくて。自分も仮歌を歌ったときに何度も何度も試したんですけど、いのりさんの歌が入った音源を聴くと言葉が浮き出ているというか立体的に聞こえるんです。それに感動しましたし、作詞した身として素直にありがとうございますと伝えたいです。

速攻提出で一発OKというミラクル

──続いて、カノエさんが歌うエンディングテーマ「リバーシブルベイベー」について聞かせてください。先の展開がまったく読めない、おもちゃ箱みたいな曲だと思いました。

カノエ うれしい。この曲はまず「原作を読んだ感想をありのまま書いてもらえれば。あとは好き勝手に書いてください!」というオーダーをアニメサイドのスタッフさんからいただいて(笑)。オープニング主題歌も明るい曲調ですけど、どちらかと言うとちょっと落ち着いたトーンで優しく歌う曲なので、エンディングでは同じ明るいでもギャグのテイストを盛り込みたかったんです。自分はギャグも好き、魔法少女の世界観もすごく好きなので、感じたままのテンションでめちゃくちゃな曲を作っちゃおうってことですぐに完成させて、速攻提出で一発OKというミラクルを起こした曲です。

──1番を聴いただけでは、続く2番の展開はまったく想像できません。

カノエ そこはもう編曲に際してこと細かくオーダーをいたしまして、例えばBメロのズンチャッチャーって鳴るところを「遊園地にいる感じで。でもちょっと暗めの遊園地で人がいなくて、夜にパッと明かりが点いちゃったぐらいのテンション感」みたいに伝えたりして。かっちりした言葉というよりはちょっとふわっとした感覚とか色合いで伝えたんですが、戻ってきたアレンジが想像していた以上に予測不可能なものになっていて、私自身も楽しみながら制作に臨めました。

カノエラナ

カノエラナ

──ボーカルもかなり弾けていますよね。

カノエ なかなかない弾け方をしているので「これで大丈夫ですか?」ってアニメサイドのスタッフさんに一応確認したんですけど、「全然大丈夫!」というテンションだったので、やりすぎではなかったみたいです(笑)。

──カノエさんはオープニング、エンディング両方の作詞を担当したわけですが、それぞれの歌詞からは共通した世界観を見つけることはできるものの、楽曲的には対極な仕上がりになっていて驚かされます。

カノエ 「リバーシブルベイベー」を先に作詞したので、「フラーグム」では書き足りなかったところやわざと書かなかった部分を歌詞にさせてもらったところはあります。あとは、「アクロトリップ」という作品自体ギャグだけではなくて、地図子の過去やクロマ(ベリーブロッサムの敵である悪の組織「フォッサマグナ」の総帥)にあったいろいろなことも描かれているので、「リバーシブルベイベー」に関しても「フラーグム」に関しても歌詞の内容についてどのキャラクターから見た誰、とは決めていなくて。誰に当てはまってもいいのかなっていう思いで書いたので、皆さんが感じたように聴いてもらえれば一番です。

──同じ作詞家さんがオープニング主題歌、エンディング主題歌を書いたからこそ、その2つで補完できているところがあるのかなと。

カノエ 「アクロトリップ」は正義と悪を題材にしていますけど、その正義と悪も時にはオセロのようにリバーシブルになることもある。相手のことを知らないとめちゃくちゃ悪に見えるかもしれないけど、一度話し合ってみたら解決することもあるだろうし、「ハロー!」って挨拶したら「ハロー!」って返ってくるかもしれない。歩み寄って1回話してみて「意外とこの人と合うかもしれない。全然嫌いじゃないかもしれない」って思えたら、相手にすごく近付けると思うんです。そういうことがこの2つの楽曲に表れているんじゃないかなと思います。

左から水瀬いのり、カノエラナ。

左から水瀬いのり、カノエラナ。

──水瀬さんは「リバーシブルベイベー」を聴いてみていかがでしたか?

水瀬 急にとんがったり丸くなったりと、目を離した隙にどんどん姿が変わっていく変幻自在さと爆発力が本当にすごくて、どこを切り取ってもハイライトでピークみたいな感覚が強いです。作詞も作曲もされる方って「ここの音にこの言葉を乗せる」という意思のもと制作しているから、楽曲がすごく自然に聴けるんですよね。本当に自分がやりたいこと、作りたいものと真剣に向き合っているからこそ迷いや不安みたいなものを感じさせない、濃度の高い1曲だから、聴いていてとても楽しかったです。あと、劇中はベリーブロッサムとクロマのすれ違いコントみたいな場面も多いですけど、「たぶん普通に話したら明日から友達になれると思うよ?」と思いつつもお互いに譲れないこだわりもあって。曲を聴いていると「本当は近道なのにすっごい遠回りをして歩み寄っている」様子を俯瞰で見ているようで、同じ扉を開いていたはずなのに真逆に歩き出す2人の姿が目に浮かんできて面白いなと。その表裏一体のイメージがタイトルにもあるリバーシブルという言葉で表現されていますが、それこそが「アクロトリップ」の面白い要素でもあるので、そこに着目するのは素敵なアプローチだなと思いました。

カノエ ありがとうございます!