Mardelas インタビュー|メジャーデビュー10周年ベストアルバム、再録&リミックスで説得力が増した楽曲群 (2/2)

統一感のあるベストアルバムにしたかった

──ここからはベストアルバム「Brand New Best 2025」についてお話を伺っていきます。2枚のディスクでこの10年間を総ざらいするような内容で、選曲もすごくツボを押さえたものだと思いました。本作を制作する際、何かコンセプトは用意していたのでしょうか?

蛇石 まず、22曲収録することが最初に決まったんですよ。で、2019年にリリースしたミニアルバム「Ground ZERO」より前の曲は全部再録する、それ以降の楽曲はリミックスするというルールを課したんですけど、それが決まってからは選曲が早かったですね。

──リテイクした楽曲に関しては、今の音で録り直したいと思ったものが中心になっているのでしょうか?

蛇石 このベストを機に新規でファンになってくれるであろう方々にも聴いていただきたいので、ミュージックビデオを撮った曲は最優先で選んでます。あとは、去年の2月に行ったSHIBUYA PLEASURE PLEASUREでのワンマンライブ「Dead or Alive」からシンセアレンジをキーボーディストのMaoくんという人に頼んでいて、ライブアレンジを一新しているんです。そういう曲は改めて録り直したいなと思ったので、MV曲の間にうまく挟み込んでいます。

──リミックスされた楽曲も含めて、アルバムとしての統一感が強い仕上がりですよね。

蛇石 そのへんは彼(及川)がすごくがんばってくれました。

及川 再録とリミックス、マスタリングを含めて音質をそろえるのがけっこう大変なんですけど、そこはエンジニアさんと一緒にいろいろ調整しました。統一感のあるアルバムにしたかったので、そう言っていただけて光栄です。そんな中、リテイクした曲に関しては、2ndアルバム(2016年リリースの「Mardelas II」)は僕自身悔いが残っている作品だからというのもあって、ちょっと多めに選んでいます。

蛇石 あと、「Daybreak [2025 RELOADED]」なんかはアレンジも見直したよね。

及川 全体的にけっこう変えましたね。そのほかの再録曲の中にもアレンジし直したものもありますし。

──だからなのか、知っている曲にもかかわらず、どこか新作を聴いているような感覚が強かったです。本石さんはご自身が加入する前の楽曲に関して、ライブではプレイしていたものの、レコーディングして形に残すのはこれが初めてですよね。

本石 基本的には全部ライブで演奏してきた曲なので、プレイ的には問題ないんですけど、「Mardelas IV」以降のいい音に近付けるとか、その作業に充てる時間のほうがレコーディング時間よりも長かったかもしれないです。で、基本的には2本のベースで録ったんですけど、「Link [2025 RELOADED]」と「Coma [2025 RELOADED]」だけは別のベースを使ってレコーディングしたので、ちょっと思い入れがありますね。音作りに関しては一生悩むとは思うんですけど、昔から出したかった音を20年ぐらいかけて、やっとここで出せたかなと感じてます。

──ギターに関しても機材が変化したでしょうし、ライブを積み重ねてきたことで変わったプレイやアレンジもあれば、逆にここは変えたくないという部分もあったかと思います。

及川 ギターに関しては今の音が正解なのかなと思っているんですけど、これまでの作品と違って、ギターアンプを3、4台用意して、曲ごとにアンプを選定して使うという新しい試みをしました。今まではアルバムの統一感を出すために、「このアルバムは5150で弾こうかな、SOLDANOを使おうかな」くらいのざっくりした感だったけど、ベストアルバムはメタル曲もあれば、ポップスとかロック寄りの曲もあるので、そういうわけにもいかなくて。例えば、「Cheers!! [2025 RELOADED]」や「Crossroads [2025 RELOADED]」はバッキングでひさしぶりにMarshallを使ったりと、けっこう振り幅を持たせていますが、通しで聴いたときに統一感がなくならないような範囲で音を作りました。

──今おっしゃった「Cheers!! [2025 RELOADED]」は、メタリックな楽曲が中心の本作の中では少々異質かもしれませんが、アルバムとして通して聴くとサウンド面での統一感があるから、そこまで違和感を持つことがない。すごく自然な流れで楽しめます。

及川 そこが狙いだったので、そう言っていただけて安心しました。

──あと、リテイクされた楽曲、特に初期の楽曲に関しては蛇石さんのボーカルのすごみがより増していることにも気付かされます。個人的には「蛇に牡丹 -snake & peony- [2025 RELOADED]」から伝わる巧みな技術や艶やかさに、ボーカリストとしての成長を感じました。

蛇石 うれしいです。実は、「蛇に牡丹 -snake & peony-」は一番リベンジしたかった曲だったんです。リリース当時は、曲のコンセプトに対して自分の年齢が若すぎて、「自分がもうちょっと年上だったらな」と思ったんですよ。当時の年齢でやれることは全部やれたという自信もあるんですけど、絶対に今歌ったほうが説得力のある歌にできると思っていたので、このベストを作ることが決定した段階で「蛇に牡丹 -snake & peony-」は絶対に再録すると決めていましたし、ちゃんとリベンジできたと実感しています。

新たな手応えが得られた楽曲は

──再録したことで印象が変わった、あるいは新たな手応えが得られた曲はありますか?

蛇石 私は「Cheers!! [2025 RELOADED]」かな。「これがやりたかった」と感じていたことをちゃんと形にできたし、新しく加わったシンセのアレンジも含め、歌もより楽曲のキャラクターを生かせるような変化を付けることができました。「Cheers!! [2025 RELOADED]」は原曲からの印象が一番変わって、「化けたな」という実感が私の中では強いですね。

及川 僕はあえて1曲挙げるなら、やっぱり「Daybreak [2025 RELOADED]」ですね。バンドの歴史的に一番古い曲ですが、メロディラインや曲構成が普遍的で、今新曲として出してもおかしくない。ただ、10年も経つとアレンジセンスに変化が生じるわけで、今の感覚でアレンジし直して、今のプレイスキルで録り直すことができてよかったなと。一番素直にそう思えるのが「Daybreak [2025 RELOADED]」かな。ギターにフォーカスして言うと、速弾きは当時きれいに弾くことに精一杯だったけど、今はそこにピッキングハーモニクスとか細かな表現を付けられるようにもなったので、原点的な曲を最新の形にバージョンアップできたことはすごく誇りに思います。

本石 僕は1stアルバムや2ndアルバムの収録曲かな。原曲では僕はプレイしていないし、前のメンバーとはプレイスタイルもまったく違うので、僕のベースを通して一番違いが出せたと思います。そこを感じていただけたら幸いです。具体的に曲名を挙げるとするならば、「Crossroads [2025 RELOADED]」。実は今回、先にドラムを録ってもらったことが大きくて。前のドラムが辞めてからはずっとサポートドラマーに叩いてもらっていて、スケジュールの関係もあって先に打ち込みのドラムに合わせてベースをレコーディングして、最後にドラムを録ることが多いんです。でも、今回は先にドラムトラックを録っていたから、そこに合わせて弾くことができた。それもあってドラムのリズムとめちゃくちゃハマっていて、弾いていて気持ちいいんですよ。

──なるほど。では、作詞作曲においてはどうでしょう? 過去の楽曲を改めて向き合ったことで得られた気付きなどはありましたか?

蛇石 作詞に関しては、昔のほうが苦労していたイメージですね。産みの苦しみを感じながら書いた歌詞が多いけど、だからこそ今聴いてもまったく恥ずかしくない。そのときにしか書けない歌詞をちゃんと書いてきましたし、今の自分には書けないものもあると思うので大事にしていきたいですね。作曲については、私は基本的にやりたいことをやって、樹京さんにアレンジを頼んで困らせることが仕事なので、たぶん彼のほうがいろいろと大変だと思います(笑)。

及川 その話も踏まえると、僕は作曲というものに関して根本は変わらないかもしれないです。頭に浮かんだメロディを形にするという作り方は基本的に変わらないし。でも、歌う際にブレスの入る位置や、キーがキツくなりすぎないようにすることなどは、ライブを重ねるようになってより意識するようになりました。あと、今回再録して思ったんですけど、アレンジに関しては今すごく成長している途中なのかなと。音楽理論を勉強した時期もあったので、そこに関しては格段によくなっていると思います。マリナが作る曲はコード進行が難しいものが多くて(笑)、「どういうことをやっているんだ?」とアナライズしてからアレンジしなきゃいけないので、そういう試練を乗り越えられたのもこの10年の成長なのかもしれません。

──先ほど、本石さんは「歌詞が先にあるとベースを弾く際に気持ちを込めやすい」とおっしゃいましたが、蛇石さんの書く歌詞を通じて感じる変化はありますか?

蛇石 変化してるかな?

本石 再録ではないですけど、「Patriot Anthem [2025 RELOADED]」や「ICE-PICK [2025 RELOADED]」は全部英詞なので、変化というか進化を感じられていいなと思います。彼女は帰国子女で、ちゃんとしゃべれる人の英語なので、カタカナ英語とは違う洋楽っぽさも伝わりますし。

──2曲とも歌詞はすべて英詞で、サウンドも海外のヘヴィメタルバンドとなんら引けを取らない仕上がりなのに、メロディラインは日本人から生まれてくる特徴的なものなんですよね。

蛇石 日本の歌謡曲が好きなんですよね。子供の頃に東南アジアに住んでいたんですけど、当時向こうで旅行をすると、現地の人が日本の曲を歌ってくれることがあって。今思えば観光客向けにビジネスとして歌ってくれたのかもしれないけど、当時は「日本の曲って海外でも通用するんだ、海外でも愛されているんだ!」って子供ながらにすごく誇らしくて、そこから歌謡曲が好きになったんです。そして「自分も日本のよさを伝えられる人になりたい」という気持ちが、アーティストを目指す発端だったのかもしれません。「帰国子女だから英語で歌えるのは武器だね」と言われることがあって、確かに海外の人に注目してもらうために英語詞を使うこともあるし、英語で歌いたい気持ちのときもあるけど、基本的には日本的なメロディを日本語で歌いたいという思いが強いです。

セルフオマージュ満載のMVやジャケット

──本作の収録曲うち、「Daybreak [2025 RELOADED]」のミュージックビデオが新たに制作されました。こちらもバンドの歴史を振り返るような内容ですね。

及川 10年前に「Eclipse」のMVを撮影した場所と同じところで撮ったり、ギターも当時のものを使ったりしていて。最初のギターソロのシーンは、Van Halenの「Hot for Teacher」のMVをオマージュしたものなんですけど、これずっとやってみたかったんです(笑)。

──モノクロなのも含めて、かなりリスペクトの感じられるオマージュですね(笑)。

蛇石 2番で場面が変わるんですけど、あそこはメジャー1stシングル「千羽鶴 -Thousand Cranes-」(2015年)のオマージュですね。

及川 そのあとに出てくるレコーディングスタジオの場面は、「Ground ZERO」までレコーディングで使っていたキングレコード関口台スタジオで撮ったものです。

蛇石 で、2番が終わったあとに出てくる、もっさん(本石)が歩いてくるシーンは、「World vs Honor -仁義なき世界-」のMVをイメージしていて。この曲のタイミングからもっさんが加入したという意味が込められています。

──そういえば、アルバムジャケットも1stアルバム「Mardelas I」とリンクするものがありますよね。

蛇石 「Mardelas I」はリード曲が「Eclipse」だったので、アートワークで皆既日食をモチーフにしていて、今回はそれとほぼ同じデザインを使っています。でも、10年の時を経て満月になったという意味で、月の中が蛇や牡丹とかMardelasっぽいアイテムで埋め尽くされています。これはデザイナーさんのアイデアだったんですけど、すごくいいなと思って採用させていただきました。

──メジャーデビュー作ではまだ“前夜感”が強かったけど、10年経ってオリジナリティ豊かな月へと進化したということですよね。

蛇石 まさにその通りです。

──このベストアルバムを携えた全国ワンマンツアー「Brand New Best Tour 2025」が現在開催中ですが、12月13日にYOKOHAMA ReNY betaでファイナルを迎えます。10周年という大きな区切りを経て、Mardelasはここからどんな未来を歩んでいくのでしょう?

蛇石 今バンドがすごくいい状態にあるので、「Brand New Best Tour 2025」以降もライブ活動を続けつつ、皆さんがお待ちしているであろう次のアルバム「Mardelas V」のことも考え……まだいつ出すとかタイミングは決まってないですけど、ここからどう活動していくかいろいろと検討しているところです。

本石 「Mardelas IV」に「Brand New Best 2025」と、こんなにいいアルバムを作って次は何を犠牲にすれば……お酒でも断ったらいいんですかね(笑)。何かを得るには何かを犠牲にしないといけないので、次のアルバムを作るまでにいろいろ探しておきます。

──本石さんは「Mardelas IV」では作曲にも挑戦していましたね。

本石 採用されるかはわからないけど、次も1曲いきますか。

蛇石 おお! 期待してますよ。

及川 次のアルバムでは、もうちょっと芸術性を高めていきたいなと最近思っていて。エディ・ヴァン・ヘイレンとか昔のスーパーギタリストの作品を聴くと、音数よりも質の高い1音を届けたいんだなということが伝わってきますし、ミックスやマスタリングも含めてロックの域を超えた芸術作品だなと感じるものが多いんです。そういう意味でも、また違う視点からバンドを見つめ直して、さらにすごいものを作るためにがんばってみようかなと考えているところです。

公演情報

Brand New Best Tour 2025

  • 2025年10月13日(月・祝)東京都 青山RizM
  • 2025年11月16日(日)福岡県 DRUM SON
  • 2025年11月29日(土)大阪府 OSAKA RUIDO
  • 2025年11月30日(日)愛知県 ell. SIZE
  • 2025年12月13日(土)神奈川県 YOKOHAMA ReNY beta

プロフィール

Mardelas(マーデラス)

蛇石マリナ(Vo)、及川樹京(G)、本石久幸(B)の3人からなるヘヴィメタルバンド。蛇石マリナのソロプロジェクトとして2014年に始動し、2015年にKING RECORDSのNEXUSレーベルからメジャー1stアルバム「Mardelas I」をリリース。これを機にプロジェクト形態からバンドに本格移行した。作品のリリースとライブの開催を精力的に続け、2025年4月に東京・渋谷CLUB QUATTROにてメジャーデビュー10周年記念ライブ「Explosion Into The Next Decade」を実施。10月にメジャーデビュー10周年を記念した2枚組ベストアルバム「Brand New Best 2025」を発表した。