Made in Me. 「Re:Habilis」インタビュー|“平成を背負う”異端的ミクスチャーバンドの集大成

神奈川・横浜および東京・町田を拠点に活動しているミクスチャーバンド、Made in Me.が1stフルアルバム「Re:Habilis」をリリースした。本作は彦(G, Vo)、ゆかり(Vo, Syn)のツインボーカルによる多彩な歌を軸にヘビーロック、EDM、オルタナ、ヒップホップなどを縦横無尽に行き来する音楽性を楽しむことができるアルバム作品だ。音楽ナタリーでは、メンバー5人にインタビュー。バンドの成り立ちとルーツ、独創的な制作スタイル、「Re:Habilis」の収録曲などについて聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / 山崎玲士

遊びのスリーピースが本気のバンドに

──Made in Me.は彦さん、U sucg :):さん、ゆかりさんのスリーピースバンドから始まったそうですね。

彦(Vo, Rap, G) はい。順番に話すと、その前に僕とじゅんちゃいが一緒にバンドをやっていたんですけどうまくいかなくて。もともと僕はバンドクラッシャーだったのもあって、長続きしなかったんですよ(笑)。

じゅんちゃい(Cho, G, Syn) ハハハ(笑)。

 じゅんちゃいとやっていたバンドが解散することになって「ちょっと疲れたから、遊びでバンドやりたい」と思って始めたのが、Made in Me.でした。最初は僕とU sucg :):と友人のドラマーの3人で、同じ世代のバンドの企画に出るような感じで。そのうちU sucg :):が「本気でやりたいんだけど」という感じになったんですよ。

彦(Vo, Rap, G)

彦(Vo, Rap, G)

U sucg :):(Cho, B) 自分はバンドに参加するのはMade in Me.が初めてで、その前はリリックビデオなどの映像編集で音楽に関わっていたんです。もともとパソコンをいじるのが好きで、映像のAfter Effectsとかデザインにも興味があって。でもどこかにバンドを本気でやりたいという気持ちもずっとあったんですよね。Made in Me.は彦がギターボーカルだし、ドラマーもいたから、「じゃあ、ベースかな」と(笑)。なので僕はバンド歴=ベース歴なんです。

 そうだったね(笑)。U sucg :):が本気になったタイミングで僕も「このタイミングで本気出すって、どういうことだろう?」と考え始めて。そのうち最初のドラマーが辞めることになったタイミングで、ライブに遊びにきてたゆかりを誘いました。

──ゆかりさん、最初はドラマーだったんですよね。

ゆかり(Vo, Syn) そうです(笑)。学生時代に吹奏楽部でパーカッションをやっていたのもあって。

 前のドラムはパワーヒッターで音がデカかったんですけど、ゆかりはそういうタイプのドラマーじゃなかったので新鮮でしたね。僕、U sucg :):、ゆかりでバンドをやることになったときに思ったのは、ゆかりの声を生かそうということで。そこから僕とゆかりのツインボーカルが始まりました。

ゆかり(Vo, Syn)

ゆかり(Vo, Syn)

「曲はいいのに、音源がよくない。俺が録る」

──3ピース時代の音楽性はどのようなものでしたか?

 等身大というか、生活感のあるギターロックという感じでした。僕はもともとORANGE RANGEやケツメイシなど、2000年代前半に出てきたアーティストが好きなんですよね。その影響もあって、4年ぐらい前にラップの要素を取り入れた「19hours」という曲を作って、ずっと交流があったじゅんちゃいに聴かせたら、それをすごく気に入ってくれて。

じゅんちゃい レコーディングの邪魔しに行ったら、いきなり「ギター弾いてよ」って言われて弾いたりもしてました(笑)。その後、3人のMade in Me.のライブを観たんですけど、それもすごくよくて。金になりそうだなと思って自分から「入れてよ」って言いました。

──売れそうなバンドだなと思った?

じゅんちゃい そうですね(笑)。

 僕としても「音楽がいい」じゃなくて「売れそうだから」と潔く言ってくれたのがうれしかったな。

──じゅんちゃいさんが加入したことで、活動スタイルや音楽性も変わった?

じゅんちゃい どうだったかな? とにかく彦がいっぱい曲を作ってたので、それをとにかくレコーディングしていました。ただ僕もDTMを始めたばかりで、かなり試行錯誤しながら曲作りをしていたんですよね。そういう時期にDAIKIくんがライブに来てくれて、「曲はいいのに、音源がよくない。俺が録る」と言ってくれたんです。

DAIKI(Dr) はい。1年くらいはメンバーというわけではなくて、“録る人”と“録られる人”という関係だったんですけど、途中で「ゆかりがドラムを叩かなくなるかもしれない」という話が出てきて。

 この話はメンバーによって捉え方が違うんですよ(笑)。僕としては、とにかくDAIKIにメンバーになってほしかった。ギターもピアノも上手だし、アレンジ面でもスパイスを与えてくれて。DAIKIはいろんなプロジェクトをやっていたし、忙しいのはわかってたんだけど、僕のほうが「お前なしでは無理!」みたいになってしまって。それとは別にゆかりをもっとボーカルとして前に出したほうがいい、という考えもあったんですよね。なのでゆかりをなるべくボーカルに集中できる立ち位置に動かして、DAIKIにドラムをやってもらうのがいいかなと思って。DAIKIも「バンドで汗をかく場所が欲しい」と感じていたみたいだから、正式にメンバーとして入ってくれることになりました。

ゆかり ドラムも好きだったけど、バンドの中で歌う割合が増えてきた頃に「歌うのもすごくやりがいがあって楽しいな」と思い始めていて。ドラムとボーカルを両方やれるほど器用じゃなかったから、この提案は私にとってもありがたかったです。

──彦さんとゆかりさんの思惑が一致したわけですね(笑)。

 そう、お互いに思惑があったんです(笑)。その時期は僕もバンドのビジョンが徐々に見え始めてた頃で……。そう言えば、じゅんちゃいがドラムだった時期もあったよね。

じゅんちゃい DAIKIが入る前ね(笑)。ゆかりがドラムを辞めることになって、ギターは彦が弾くから、俺がドラムを叩く、みたいな。試行錯誤の時期だったよね。

じゅんちゃい(Cho, G, Syn)

じゅんちゃい(Cho, G, Syn)

──じゅんちゃいさんはHyperVideo2名義で作家としても活動していますよね。以前から音楽を仕事として成立させたいという気持ちがあったのでしょうか?

じゅんちゃい そうかもしれないですね。学生の頃からバンドをやってたんですけど、「これだけで食っていくのは超ムズい」ということだけはなんとなくわかって。そうは言っても音楽以外何もできる気がしなかったので音大に進学して、とりあえず音楽で食べていく方法を学ぼうと思ったんです。卒業後、バイトしながらがんばってる時期にエンジニアとしても活躍しているDAIKIと出会って「自分がやりたいことをやってる人がいた」と思って。DAIKIがやってることを参考にしながらここまで活動してきたところはあります。

 じゅんちゃいはDTMやトラックメイクが得意で、それがコドモメンタルとの契約につながったのですごく感謝しています(参照:Made in Me.がコドモメンタルに所属、9月に下北沢でサーキットイベント主催)。DAIKIもそうなんですけど、2人とも録り音がすごくいいし、コード進行やハーモナイズのこともちゃんとわかってる。僕は「こういう曲を作りたい」というイメージがあるんだけど、興味の方向が散らかるタイプだから、うまくまとめることができなくて。

──イメージやビジョンを具現化するために、メンバーが必要だったと。

 はい。だからバンドをやってます(笑)。

Made in Me.

Made in Me.

Made in Me.

Made in Me.

アコギと歌に落としこめないのは曲じゃない

──先ほど「2000年代前半に出てきたアーティスト」に影響を受けていると話していましたが、皆さんの音楽的なルーツは?

ゆかり 吹奏楽部だったので音楽には触れていたんですが、バンドのライブを初めて観たのは、じゅんちゃいさんが以前やってたバンドなんですよ。すごくカッコよくて、じゅんちゃいさんがやってたほかのバンドのライブも観に行ったらそれが彦さんとのバンドで、いつの間にかライブハウスに通うようになっていて。あとは日常的にJ-POPは聴いていました。「Mステ」に出ているようなアーティストとか。さっき話に出てきたORANGE RANGEも聴いてましたね。

 ORANGE RANGEは僕らみんなが共通して通ってきているアーティストですね。当時はバンドという認識じゃなかったけど。

DAIKI そうだよね。あれがJ-POPだった。

 「歌ってる前の3人、カッコいいな! 後ろの3人もカッコいいけど、何やってるんだろう?」みたいな(笑)。中学生くらいになって「あれはバンドだったんだ」と気付いて、そこからBUMP OF CHICKENとかほかのバンドにも触れるようになって、オルタナのほうに興味が出てきて。洋楽だとKornみたいなバンドが好きだったんですけど、一番のルーツは親が聴いていたフォークや歌謡曲かもしれないですね。DAIKIはハードロック?

DAIKI 母親がクラシックピアノの先生だったから、それが最初かな。自分で「いいな」と思った最初のバンドは、スターダスト☆レビューなんですよ。根本要(Vo, G)さんが弾いてるエレキギターがカッコよくて、そこからロックに興味を持って。The BeatlesやLed Zeppelinといったバンドの曲をロック史をたどりながら聴いたんですけど、一番ピンときたのがMötley CrüeやVan Halen、1980年代のLAメタルだったんです。「ロック、こんなに楽しそうなんや!?」と衝撃を受けて、中学生のときにライブハウスに通うようになりました。その後、仲間とバンドをやるためにX JAPANをコピーしたんですけど、そのときに受けたhideさんからの影響もデカイです。

DAIKI(Dr)

DAIKI(Dr)

じゅんちゃい 僕もいろいろ聴いてきたんですけど、物心つく前のことでいうと、THE BLUE HEARTSなんです。3歳くらいのとき「未来は僕らの手の中」を歌ってる姿がホームビデオに残ってて。

 ヤバイな(笑)。

じゅんちゃい 両親がTHE BLUE HEARTSの大ファンなんですよ。初めて自分で買ったCDはORANGE RANGEですね。それにBUMP OF CHICKENも聴いてたし、そこから広がって、the GazettEをはじめとするネオビジュアル系も好きになって。SUPERCARやNUMBER GIRLも聴いてましたね。

U sucg :): 僕もゆかりと同じでルーツはJ-POPだと思うんですが、家にはほぼCDがないような家庭で。幼少期は親がたまにかける松任谷由実、宇多田ヒカル、モーニング娘。が僕の音楽のすべてでした(笑)。バンドというものを認識したのは中学生のときで、RADWIMPSがきっかけだったかな。あとなぜか女性デュオが好きなんですよ。Kiroroとか、RYTHEMとか。

U sucg :):(Cho, B)

U sucg :):(Cho, B)

──共通している部分もあり、メンバーによって違う部分もありますが、楽曲の制作はどうやって進めているんですか?

DAIKI 彦の頭の中に音が鳴ってるんですよね。ぶっ飛んだアイデアだったりするんですけど、それをどうにかして音にしてやる!という感じで制作しています。その中で面白いやり方が見つかって「じゃあ次作はこうやってみようか」と育っていくこともある。

 いろんな曲を作ってはいますけど、基本的には弾き語りで歌えることも大事だと思っています。究極的には「アコギと歌だけに落としこめないと曲じゃなくない?」と思っているところがあって。

じゅんちゃい 彦のデモ音源はほぼ弾き語りですからね。なのでコード進行や歌詞、メロディでしか曲の善し悪しが判断できない。

 デモの段階でも曲のイメージは明確にあるんですよ。「Mステ」の「Young Guns」というコーナーがあるじゃないですか。

──ネクストブレイク候補を紹介するコーナーですね。

 「あのコーナーに登場するバンド」のイメージで曲を作ったりするんですよ。架空のバンドの架空のミュージックビデオを思い浮かべて。

じゅんちゃい 全部架空じゃん。

U sucg :): パラレルワールドにいるバンドの音を引っ張ってきているみたい(笑)。

DAIKI イメージとして映画の予告編を見せられることもありますね。

 自分のデモ音源と映画の予告編を合わせて「わかるでしょ?」って。曲で描こうとしているロケーションとか時刻とか天気とか、自分の中ではハッキリ決まってる。

DAIKI 彦の説明からギターのトーンを決めていくんですけど、これが楽しいんですよ。

Made in Me.

Made in Me.

じゅんちゃい 「俺はこの音じゃないとダメ」みたいなこだわりもないからね。彦はニュアンスをつかむのがすごく早いんですよ。例えば俺がオルタナの好きな曲を聴かせたら、5秒くらい聴いただけで「こんな感じ?」って曲を作れちゃう。

U sucg :): そのセンスは天才的だと思う。アナロジー(類推)がすごくうまい。

──彦さんの頭の中で複数の情報がいろんな方向に結びついて、それが曲になると。

 そうかもしれないです。それと曲作りにあたっては高校生くらいの子たちにカバーしてほしいという気持ちもありますね。演奏すれば血肉になるし、その人の体の中にちゃんと残るので。

じゅんちゃい こういう作り方なので、ジャンルは関係ないんですよね。彦が作った大量のデモ音源からピックアップして混ぜることもあるし、そのデモが膨大にあるので最近はもはや新曲という概念もなくなってきて。

──ゆかりさんはどうですか? かなり個性的な制作方法だと思うんですが、「この構成、演奏しづらい」とか「歌いにくい」みたいなことはない?

ゆかり 特にないですね。

 なんか要望があったりしないの?

ゆかり いい曲ばかりだからかなあ。歌う部分が多ければ多いほどうれしいから、最近の曲は出番が多くて喜んでます(笑)。