ナタリー PowerPush - Lyu:Lyu

リスナーを受け止め“すれ違いを愛する”

「この人は本当は何を考えてるんだろう?」

──あと、ジャケの写真、すごくいいですね。

有田清幸(Dr)

全員 ははははは(笑)。

──アーティスト写真でも自分の写真を切り裂いていて。そういうところにも、どこか整合性があるような感じがしました。これはメンバーの発案で?

コヤマ はい。そうですね。

──あと、この「GLORIA QUALIA」というタイトルはどこから付けたんでしょう?

コヤマ タイトルを付けたのは本当に最後だったんですけど、今回の曲たちを作っている最中に俺が思っていたことが出ているタイトルだと思うんですね。「QUALIA」っていう単語自体は哲学の言葉で、ちょっと説明すると長くなっちゃうんですけれど。

──どういう概念なんでしょう?

コヤマ 自分が見ているもの、五感で感じる世界がありますよね。同じように他人が感じている世界もある。で、自分は緑色だと思っているものが、もしかしたら他の人は真っ赤に見えているかもしれない。でもその人はその真っ赤のことを「緑」だと呼んでいるから、オレが「これは緑だよね」って言えば「緑だよ」って話は通じる。けど、果たして2人は本当に同じものを見ているのだろうか?っていう。「QUALIA」っていうのは簡単に言ってしまうとそういう問題なんですね。自分が目で見たり五感で感じている世界と、他人が感じている世界との違い。それって、あらゆるものに言えることだと思うんです。例えば、自分は楽しいと思っていて、周りも楽しいって言っているけれど、隣にいるこの人は本当に楽しいと思っているんだろうか?とか。犬がいて尻尾を振ってこっちに近付いてきて、俺はそれを見て「こいつはうれしいんだろう」って思うけれど、実際、本当にそうなんだろうか、とか。いろんなときに「この人は本当は何を考えてるんだろう?」みたいなことを思ったりするわけですよね。

愛すべきすれ違い

──それは「QUALIA」という言葉がどういう意味かというよりも、そもそもコヤマヒデカズ少年がずっと抱えてきた感覚でもある。

純市(B)

コヤマ そうですね。もともと自分が持ってる、人間関係に対する疑り深さは関係していると思います。自分がしたことで相手が喜んでくれてるのを見ても「本当かな」って心のどこかで思ったりしてしまう。きっと自分だけじゃないと思うんですよ。相手の心の中って本当はわからないことで、相手は「うれしい」「悲しい」って言ってるけれども、自分はそれを形で見ることはできないし、触ることもできない。結局は想像でしかないわけですよね。それがわからないからときに衝突したりとか相手を疑ったり、そこから争いが起こったりする。それはもう、避けられないと思うんです。

──そうですよね。

コヤマ 人と人は違うものだし、その違いが見えないからこそ傷つけあってしまう。だけど、その違いがあるからこそ、自分は誰とも違った自分自身でいられるっていうことでもあって。自分が好きな音楽を聴いて「この曲好きだなあ」と思ったその「好き」という感情も、結局それは根本的には分かち合うことのできないものだと思うんですよ。そういう自分だけのものがあるから、世界と自分を区別できるわけで。よい意味でも残酷な意味でも、両方の意味で……愛しい。「愛すべきすれ違い」というか。そういう意味で「GLORIA QUALIA」っていう言葉はどうだろう、みたいな話をして。「それはいいんじゃないか」ってなって、タイトルになったんです。

──「GLORIA」に「愛すべき」とか「愛しい」っていう意味が込められている。

コヤマ そうですね。尊重すべきとか、輝かしいものであったりとか。

仕方ないことを仕方ないままにしない

──なるほど。音楽の作り方も、言葉の選び方も、タイトルのつけ方もそうだけれど、「GLORIA QUALIA」はLyu:Lyuというバンドの必然について、伝えるべきことについて考え続けてきたことが結実した作品なんですね。

コヤマ そうですね。音楽的にもそうですし、普段の生活の中でもそうなんですけど、「仕方ないこと」ってたくさんあると思うんですよね。

──仕方ないこと?

コヤマ 普段暮らしていても「これはしょうがない」で流していたほうが楽なことっていうのが世の中にはたくさんあると思うんです。「まあ、そういうこともあるよね」とか。それで済ませちゃったほうがはるかに楽で、なんとなく生きていこうと思えば生きていけると思うんです。でも、いつまでも残っていくようなものを生み出そうとするなら、少なくとも自分は「しょうがない」で済ませてはいけないと思うところがあって。音楽的にもそうですけど、「まあそういうこともあるよね」とか「そういうもんだし、しょうがないよ」っていうところで考えを止めない。俺はその先にもっと考えを進めていかなければできないなって、去年1年ですごく思ったことがあって。

──それは正しいと思います。Lyu:Lyuの音楽って、よくも悪くもいろんなことを言われると思うんですよ。ぶっちゃけて言えば、「何メンヘラみたいなこと歌ってるんだ、このバンドは」みたいに揶揄されることだってあるかもしれない。

コヤマ ありますね、それはもう(笑)。

──でも、そこに臆して踏み止まるのを選ばなかった。それは、僕は正しかったと思いますね。

コヤマ ありがとうございます。俺もそれはけっこう自覚しているところはあります。人によっては「なんてこと書いてるんだ、こいつ」って思うことは絶対にあるだろうなっていう意識はあるんです。でも、そういうふうに思っている人たちにも、理解してもらうことを諦めてないというか。そこで……うん、仰るとおり踏み止まらなかったですね。「俺は伊達や酔狂でこんなことを書いてるわけじゃないんだ」っていう。そこはなんとかわかってほしいということは思います。

Lyu:Lyu
ミニアルバム「GLORIA QUALIA」/ 2014年4月30日発売 / SPACE SHOWER MUSIC / PECF-3087
[CD] 1700円 / PECF-3087
収録曲
  1. メシア
  2. Seeds
  3. 先生
  4. ランララ
  5. 初めまして
  6. ドッペルゲンガー
  7. 彗星
Lyu:Lyu(リュリュ)
Lyu:Lyu

ボーカロイドプロデューサー・ナノウとしても知られるコヤマヒデカズ(Vo, G)と、純市(B)、有田清幸(Dr)による3ピースロックバンド。2008年、コヤマが同窓生の純市、有田に声をかけて結成。2009年よりLyu:Lyu名義で活動を開始し、2010年、1stミニアルバム「32:43」をリリース。オリコンの「ネクストブレイクアーティスト」に選出されるなど、アグレッシブなサウンドと絶望的な言葉の中に希望を垣間見せる詞が話題を集める。2011年には2ndミニアルバム「太陽になろうとした鵺」を、2012年には3rdミニアルバム「プシュケの血の跡」を発表し、「SUMMER SONIC2012」の大阪公演にも出演。そして2013年3月、1stフルアルバム「君と僕と世界の心的ジスキネジア」をリリースした。同年には配信限定曲「Seeds」、シングル「潔癖不感症」を発表し、東京・渋谷club乙-kinoto-やLIQUIDROOM ebisuでワンマンライブを行うなどバンドとして精力的に活動する一方、コヤマが小説「ディストーテッド・アガペー」をWebで連載するなど、多方面で活躍。そして2014年5月、4thミニアルバム「GLORIA QUALIA」をリリースした。