長い歴史を誇る伝統文化を、自分たちのフィルターと現代の技術を通して表現する
──「It's a show time」に収録されている「Yatto-Sa!(阿波踊り)」は徳島民謡をLOWBORN流にアレンジした曲ですね。こういう日本的なものへ目を向けた理由は?
古澤 そこも先ほど語ったように、普遍的な音楽を追求していく中で、日本の民謡や盆踊りが自分たちの制作のヒントになったからですね。自分たちが好きな音と、自分たちなりのフィルターを通して日本の伝統文化に対するリスペクトを表現することの親和性の高さにある程度確信が持てたので、今回取り組みました。ライブでの反応や、周りの反響も含めて、それなりに手応えを感じつつあるので、各地の盆踊りや民謡をシリーズ化していく取り組みは、今後続けていこうと思っています。
──今はJ-POPで盆踊りをすることが増えてきているからそこに着目したみた、という単純な理由ではないと。
古澤 そうですね。そういうマーケティング要素というより、自分なりに音楽の普遍性を考える中で、何をすべきかを考えた結果ですね。私が教わった作曲の先生と話している際に、先生が「いろいろと実験的な音楽もやったけど、音楽の持つ本当の力を自分なりに表現したくなった」という話をされたんです。そのときに「結局なんでいまだに老若男女が年末にベートーヴェンの第九を聴いて喜ぶかっていう話だと思うんだよね」と言われて。それを聞いて腑に落ちたんです。普遍性のある音楽って、世代問わずみんなが聴いたら自然に踊りたくなるような曲ということなのかなって。それを自分たちなりのアプローチでどう形にするべきかを考えた結果、例えば盆踊りとか民謡とか日本で長い歴史を誇る伝統文化を、自分たちのフィルターを通して、現代的な技術を生かして表現する取り組みを実験的に始めたんです。
神無月 うちの母親が老人ホームに勤めてるんですけど、「Yatto-Sa!(阿波踊り)」のMVをおじいちゃんおばあちゃんに見せたらみんなで阿波踊りを踊り出したそうです。ボケ防止に、これええやんって(笑)。
椿 私もそうですね。友達とスナックに行って、そこでかけてみたら、周りのお客さんからも反応がよくて。その前のアルバムまでさかのぼって聴いてくださったり、すごく間口が広がりました。
──「Yatto-Sa!(阿波踊り)」は高円寺で撮影されたMVも印象的でした。
古澤 阿波踊りは徳島が発祥ですけど、高円寺も阿波踊りのメッカで。私自身も高円寺付近に20年ほど住んでいるので阿波踊りにいろんな思い出があって、その時々に一緒にいた人たちと共有してきたハッピーな気持ちを思い出すことが多いんですよね。いい思い出が多い楽曲だし、そういうふうに縁が深いロケーションでもあるので、高円寺のいろいろな名所で撮影してMVを作りました。
──男性メンバーが3人いるぞ、と思ってよく見たら、そのうちの1人はお笑い芸人のギブ↑大久保さんで(笑)。
古澤 はい、ギブ↑大久保さんが友情出演しています。「ギリギリシティ」の初回から20年間、出演し続けているレギュラー芸人なので。
椿 ほかのMVにも出てますもんね。
古澤 基本、ギブ↑大久保さんは、ほぼうちのMVにゲスト出演していますね。
ポストパンク以降の音楽を自分で咀嚼して再構築できるアーティストは意外といない
──最近LOWBORNはテレビ業界の人たちに注目されているそうですが。
古澤 そうですね。幸いなことに「たかが朝まで数時間」は関西テレビ「ロザンのクイズの神様・超」の4月度エンディング曲になりまして。それとNMB48がMCを務める関西テレビの「音いたち」という音楽番組で、今回の我々のMVをヘビーローテーションしてくれているそうです。今回、メインの曲だけではなく4曲とも自分たちの中で画が想起しやすい曲になったので、それぞれのMVを作ったんです。音楽的にはそれぞれ違うタイプの曲だし、それを全部違うバリエーションで映像を作っていたから、運よく気にしてくれる人がところどころでいて、うまくハマッてくれました。
──LOWBORNのそういう過剰なサービス精神が功を奏したと。過剰なサービス精神としてはほかに、LOWBORNの作品にはいつもリミックスバージョンがたくさん収録されていますよね。今回もDJ TASAKAさん、サワサキヨシヒロさん、MCあんにゅと本間本願寺さん、「ギリギリシティ」のレギュラーDJでもあるTakashi Furusawaさんによるリミックスが収録されていて。リミキサーの人選はどういう観点から?
古澤 今回の「It's a show time」に入ってるリミックスに関しては、「ギリギリシティ」とLOWBORNにゆかりが深い人にお願いしました。その人のフィルターを通してこの曲を料理してもらったらどんな感じになるんだろう、自分自身もリスナーとして聴いてみたいな、と考えながらオファーしています。それぞれの個性があったうえで私たちの曲を再構築してくれてたので、聴いているほうとしても面白かったですね。バリエーションもあって。
──お話を伺ってきて、LOWBORNの特性がいろいろと見えてきた気がします。サウンド的にはテクノやエレクトロ、ディスコを基調に、ポストパンク以降の雑食性と荒々しさをプラスした、普遍的強度を持ったダンスミュージックというのが土台にある。つまり一見、初期衝動でやっているように見えて、実は緻密に計算されたうえで作られているから、それがクオリティの高さにつながっている。そしてそういうしっかりした土台があるからこそ、その上で女性陣がボーカルやダンスで自由度高くパフォーマンスできる。その独自の構造が強みだと思います。では、皆さんがそんなLOWBORNをどう捉えてるのかを話していただけないでしょうか?
古澤 私は、自分がリスナー時代に影響を受けてきた音楽を素養としながら、それをさらに自分のフィルターを通したときにどう表現できるかということを考えています。その根底にあるのは90年代のクラブミュージックですが、ただそれをそのままやっても先駆者たちへのリスペクトにつながらないと思うので、アウトプットするときには、自分なりにどういうふうに表現するべきかを気を付けてますね。
神無月 最初にLOWBORNを聴かせていただいたのは15、6年前か、もっと前かもなんですけど、すごく楽しいなって。私、音楽のことあんまりよくわからないんですけど、楽しい楽曲ばっかりだなと思ったんです。で、メンバーに入れていただいて、相変わらず楽しいなって思う。ライブで同じ曲をやっていても飽きないんですよね。それが普遍的っていうことなのかもしれない。飽きないし、楽しいから、私はそれを一生懸命に盛り上げていきたいです。歌も練習するし、AIアニメに勝てるようなアニメも作りたい。そんな感じでがんばりたいです。
椿 私がLOWBORNで実は一番オリジナルだなと思ってるのが、古澤さんの書く歌詞なんです。社会に不満があるパンクの要素をすごく感じたので、歌詞も読んでいただきたいなと。あと、ひろちゃんの声ですね。トラックを作る方が刺激されるようなオリジナルの声を持ってるのはすごく強みだなと。これはもう誰にも真似できないことだなと私は思います。本間さんは、違うバンドで対バンしたときにすごくカッコいい曲をやっていて。終わったあとに「あれ、オリジナルですか?」と聞いたら「そうなんですよ」って。私はもうカッコいいとしか表現ができないんですけども、そういうものを作れる方と一緒にやっていけるというのはすごく強みで、私も楽しみであるところではあります。なので、これからも期待していてください。
本間 ポストパンク以降のカウンターカルチャー的な音楽を、1回自分の中で全部咀嚼して再構築した表現をできるアーティストって、意外といないんですよね。でも、LOWBORNは自分の中でポストパンク以降に聴いて培ったものが表現できる可能性がすごく広がっているので、そこは本当に好きなところですね。
大先輩方を見習って我々もグローバルに活躍できるよう目指していきたい
──今のアーティストには音作りから映像やジャケットの制作、プロモーション、販売、イベント運営に至るすべてを自分たちの手でできる環境が整っています。そういうDIYの方法論をLOWBORNは昔から実践してきました。その方法や歴史などを尚美学園大学の音楽応用学科で教える立場にいる古澤さんと本間さんから、若い子たちに何かアドバイスのようなものがありましたら、お願いします。
古澤 本間さんとよく話すんですけど、我々の時代は一部のマイナーな雑誌しか情報源がなかったんです。でも今は調べればいろいろ技術的なことも、どの機材がいいかという情報も簡単に手に入れられるし、作曲面でもAIの補助機能とかいろいろなものが開発されていて便利な時代なので、強みとなる自分なりの感性を培ってもらえればと。技術面はAIの発展により大衆化されて、これからますます均一化していくので、企画力や発想力が今後は大事になっていくのではと思いますね。
本間 今の若い人の知識はすごいし、リサーチ能力は問題ないので、自己主張で終わらせないで、アーティストとして自覚を持ってもらいたいということを、学生にいつも教えています。その知恵をどう自分の活動に生かすかを、若者に意識してほしいですね。
──「こんなすごいことを言ってる人たちはどんなことやってんだろう」と、もし興味を持った若い人がいたら、ぜひLOWBORNのライブに来てもらいたいですね。
古澤 聴いた人から「真面目に語っているわりには、本人たちの音は大したことない」という印象を持たれないように、私自身も精進していきたいと思います(笑)。日本でもプラスチックスや、我々の世代だとBuffalo Daughter、チボ・マットなどグローバルに評価が高い先輩方もいらっしゃるので。日本が誇る世界的な音楽家たちがバックアップしたGEISHA GIRLSの楽曲もクオリティが高かったですし(笑)。大先輩方を見習って我々もグローバルに活躍できるよう目指していきたいと思います!
プロフィール
LOWBORN SOUNDSYSTEM(ローボーンサウンドシステム)
会社経営者であり、日本リズム学会の理事を務め、大学でも准教授としてレコーディングや映像制作などを指導している古澤彰(Vo, G, Programming)、俳優の山田孝之の実姉であり女優・モデル・映像監督などマルチに活躍する椿かおり(Vo)、マンガ家でタレントとしても活動している神無月ひろ(Vo)、海外のテクノレーベルから無数にリリースを重ねる本間本願寺(G, Programming)からなるエレクトロディスコバンド。2008年に初のCD作品「卑しい生まれの音響装置」を発表した際に、大型CDショップにて「スターリン、プラスチックスの再来」と評されたPOPが並び、音楽誌では「21世紀版のZIN-SAY!」とレビューされた。2006年からは打ち込みを主体としたライブと、DJ、お笑いが渾然一体となったイベント「ギリギリシティ」を主催し、まもなく第150回の開催を迎える。2021年8月リリースの配信EP「LAST GAME」は並いるビッグネームを抑えてiTunesエレクトロニックチャート3位を記録。同作収録曲の「CHANGE」のユニークなミュージックビデオは海外を中心に視聴され30万回再生を突破。2025年3月に最新作であるデジタルEP「It's a show time」をリリース。収録曲の「たかが朝まで数時間」が関西テレビ「ロザンのクイズの神様・超」のエンディング曲に採用された。
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