ラブリーサマーちゃんは諦めない、えんぷてい奥中康一郎の支えで “押してみる”姿勢示した「風の歌」 (2/2)

たとえ戦争を止められなくても

──最近ラブサマちゃんは、SNSなどでも社会や政治に関する意見を発信していますよね。そうした問題意識も「ウインド・ソング」の歌詞には反映されていますか?

ラブサマちゃん 社会や政治からの影響もゼロではないけど、それ以上に「自分の人生を自分で生きなきゃいけないことの重さ」について書いた曲ですね。「風の歌を聴け」も「ゲームチェンジ」も、結局のところ「人生や世の中は、自分の力で押したり引いたりするには重すぎる」ということがテーマだと思っていて。あまりにも重いから、「もうお手上げですわ」とあきらめてしまう人も物語の中にはいる。でも村上春樹もドラマの主人公も、きっと「動くかどうかは別として、とりあえず押してみる」ということを選んだ人なんじゃないかと。

──だからラブサマちゃんも、「もがいている人に向けて歌いたい」と思ったわけですね。

ラブサマちゃん 「世界を変える」というと、すごく大きな話になるじゃないですか。戦争を止めるとか、社会を根本から変えるとか、子供を産むとか。全員がそんなことをできるわけじゃないけど、だからといって「自分は無力だから」と自分の人生を自分で運営することまで放棄してしまうのは、すごく悲しい。大きなことができなくても、あなたがあなたの目で見たことを、あなたの言葉で誰かに伝えるだけで、誰かの世界の形は変わるかもしれない。あなたが知らないところで、誰かにとっての「天使」にあなたはなっているかもしれない。だから、「そんなにあきらめないでくださいね」って。「風の歌を聴け」の中にも、そんなふうに訴えている人がいるんですよ。

ラブリーサマーちゃん

ラブリーサマーちゃん

──鼠ですよね?

ラブサマちゃん はい。象徴的な場面があって、「どうにもならないことってなんだよ?」みたいな話を鼠と主人公がするんです。主人公はままならない現実について、「僕らはこれから墜落する飛行機に乗せられている乗客なんだ」とたとえる。つまり「どうせ終わりは決まっている」「何もできない」という視点。でも鼠は違う。もし自分が遭難した船から海に投げ出されたら、ただ浮かんでいることもできるし、流れてきたビール瓶を割って飲むこともできると言うんです。見ている世界も、可能性の捉え方も違うんですよね。私は完全に鼠側なんですよ。「拙い悪あがき」でもいいから、とにかく押してみる。「全然あきらめてないよ」という姿勢を見せたい。それがこの曲の芯にあるものなんです。

──「悟って諦めて耐えられないまま急いで去った友達の後を / 今は追いたくない」のところは、今おっしゃった「諦める側」と「諦めない側」を描いた重要なフレーズだなと。

ラブサマちゃん ここは本当に、どう書けばいいのか悩みました。その後に続けて「居たい したたかに」と書いたけど、それだと去っていった友達が「したたかじゃなかった」みたいに聞こえてしまうかな、とか。自分の友達に相談したら、「『強か』って漢字で書くと確かに響きが強くなるけど、ひらがなにすれば印象は変わるよ」と言われて、それでひらがなにしたんです。

死なずに生きて、自分の言葉でしゃべって、誰かに伝える

──完全にあきらめるわけでもないし、世の中をひっくり返すと気負いすぎるわけでもない。その中間で、なんとか踏みとどまっている人に寄り添う歌でもあるなと。

ラブサマちゃん ありがとうございます。「どうせ私がやっても意味ない」「何をしても変わらない」みたいな空気を感じることが最近は多くて。それって賢さというより虚無に近いと思うんです。「暇潰しでもいいから悪あがきしてみたらいいじゃん」って思うんですよ。ちなみにこの「拙い悪あがき」というフレーズは、私の中では村上春樹がエルサレム賞を取ったときのスピーチ「壁と卵」とも重なっているんです。私はあのスピーチがとても好きで、初めて読んだときに自分の人生のベクトルが少し固定された感覚があったんです。「ああ、私は卵の側に立ちたいんだ」って。人の言葉の影響力って、みくびらないほうがいい。知らないところで、誰かの人生を動かしているかもしれないから。

奥中 そうだね。

ラブサマちゃん 無力感にさいなまれる気持ちはすごくわかります。戦争は起きるし、政治は思い通りにいかないし、自分1人では何も変えられないように感じる。でも、宝くじだって買わなきゃ当たらないじゃないですか(笑)。動くかどうかは別として、とりあえず押してみる。悪あがきでもいいから、やってみる。その姿勢自体が、どこかで誰かの追い風になるかもしれない。私は、そういう側でいたいんですよね。このドラマも、「風の歌を聴け」もそして「ウインド・ソング」も、一番言いたいことは「死なずに生きて、自分の言葉でしゃべって、誰かに伝える」ということなんだと思う。

奥中 めちゃくちゃ小さい一歩でもいい。でも、その一歩にこそ価値がある。それをあきらめないことが、「卵の側に立つ」ってことなんだよね。

ラブサマちゃん そうそう。結局、往生際が悪いんですけど(笑)、それでいいじゃんって思う。往生際が悪いから、こういう曲になるんだし。

奥中康一郎(えんぷてい)

奥中康一郎(えんぷてい)

純粋に「もう1回やりてえ!」

──今回、一緒に制作をしてみてどんな手応えを感じましたか?

奥中 今回の制作では、楽曲の根幹のイメージが彼女の中にはっきりあったので「自分にできることはなんだろう」とずっと考えていました。やっていく中で思ったのは、自分はラブサマちゃんにとっての「拡張機能」として存在することだなと。機械のように自我を消して腕として機能するわけではなく、人間にしかできない拡張機能になる感覚だなって。

ラブサマちゃん うんうん。

奥中 だから、あくまでもラブサマちゃんの曲だけど、「自分の体温を通した音」にはなった気がする。僕1人だったら、逆にこうはならない。根幹のエネルギーは彼女にあって、それに影響を受けた自分のフィルターを通して音が出てくる。ゼロイチではなく、中間地点に立っている感覚──それがすごく新鮮でした。とはいえ意外すぎる作品になったわけでもなくて、お互いに「あ、これだね」とうなずける瞬間があったのも楽しかったですね。

ラブサマちゃん おっくんはプロデュース業もいけるってことだよね。私は純粋に「もう1回やりてえ!」って思いました。めちゃくちゃ楽しかったし、何より楽だった。今までは全部自分でコントロールしなきゃいけないと思っていて、ずっと気を張って「48時間働きっぱなし」みたいな感覚だったんですよ。でも今回はおっくんに任せるところは任せられたから、普通にごはんを食べに行けたし「休憩多すぎて最高」ってなった(笑)。それって本当に信頼できる相手じゃないと難しい。今回は奇跡的にハマった感じですね。

──今度はぜひ、共同プロデュースでアルバムを作ってください。

ラブサマちゃん 作りたいよ!(笑) そうだ今作ってる曲も、えんぷていとやったらめっちゃよさそうなんだよね。今あるから聴こうよ。ほら、こういうの(と言ってスマホでデモ音源を流す)。めっちゃよくない?

奥中 いいね。アップライトピアノとか使おう。

ラブサマちゃん ウォーキングベースとかさ。(赤塚)舜くんコントラバス弾いてたよね?

奥中 彼は得意だよこういうの。今はエレキタイプのアップライト使ってるけど、やるってなったらたぶん本物のアップライト買うと思う(笑)。

ラブサマちゃん ヤバ(笑)。きっかけ与えちゃおうかな。

上から奥中康一郎(えんぷてい)、ラブリーサマーちゃん。

上から奥中康一郎(えんぷてい)、ラブリーサマーちゃん。

ラブリーサマーちゃん 公演情報

THE WANNADIES JAPAN TOUR 2026

  • 2026年4月3日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2026年4月7日(火)東京都 渋谷CLUB QUATTRO

<出演者>
The Wannadies
オープニングアクト:ラブリーサマーちゃん

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えんぷてい 公演情報

えんぷてい単独公演

2026年3月20日(金・祝)東京都 LIQUIDROOM

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プロフィール

ラブリーサマーちゃん

1995年生まれ、東京都在住のシンガーソングライター。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開する。2015年に1stアルバム「#ラブリーミュージック」、2016年11月にメジャーデビューアルバム「LSC」、2020年9月に3rdアルバム「THE THIRD SUMMER OF LOVE」をリリース。2024年8月公開の山田尚子監督・脚本のショートアニメーション「Garden of Remembrance」の音楽を担当する。2025年1月にミニアルバム「Music For Walking (Out Of The Woods)」、同年9月に配信シングル「君と暮らせても」をリリース。2026年2月にBS-TBSドラマ「ゲームチェンジ」エンディング曲として書き下ろした新曲「ウインド・ソング」を配信リリースした。

えんぷてい

2020年に奥中康一郎(Vo, G)、比志島國和(G)、石嶋一貴(Key)の3人が名古屋で結成したバンド。2023年12月に神谷幸宏(Dr)、赤塚舜(B)をメンバーに迎え、現在は東京を拠点に活動している。2022年11月に1stフルアルバム「QUIET FRIENDS」、2024年3月にアルバム「TIME」をリリース。2026年3月11日にニューシングル「バタフライエフェクト」をリリースし、3月20日に東京・LIQUIDROOMで単独公演を行う。